アザレル
もう戻れない。
血の味を知ってしまう前には。
だから、出来れば会いたくなかった。
血濡れる前の友人に。
「ふうり、なんだよな……?」
私が好きだった人。
風間健太郎に、私は出会ってしまった。
散歩していただけなのに、どうしてこうなるんだ。
「貴方、誰?」
絶対零度の声音で、私は白を切る。
「俺だよ。風間健太郎」
彼は律儀に答えてくれた。
何故、人違いではないかと疑わないのか。
「人違い……じゃない?」
少し焦りながらも、問いかける。
「その真っ赤な瞳は、風梨。お前くらいだ」
「こ、これは……その、か、カラコンよっ!!」
声が裏返る。
もう自分が風梨ですって言ってるようなもの。
「警察が、お前を探してる。でも、俺は突き出すようなマネはしない。捕まえられるんじゃないかって、怖いんだろ?」
私は答えない。
「だから、隠れてるんだろ?」
確信を持っているような声。
「でも、お前は何もしてない。怖くなったんだろ?」
私は、何もしてない訳じゃない。
怖くない。
ただ、私は狂っているから隠れてるだけ。
私は血を欲するモスキート。
だから、戻れないんだ。
「友達皆、お前を心配してる。せめて、一目会ってあげたら?」
健太郎の優しさが、辛い。
「私は、戻れない」
「え……?」
辛いから、突き放して優しさを拒否する。
「私、狂ってるんだぁ。血を、求めてる。殺し屋になったんだよ?」
目を丸くしている。
そりゃそうだろう。
「もう、既に人を殺してる。私は、血を飲み生きる、モスキート。戻れないんだ」
健太郎は、驚くことに微笑んだ。
「なんだ。風梨も殺し屋になったんだ」
何故、こいつは笑ってる?
「実は、俺も殺し屋なんだ」
嘘だ。嘘。嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!
私の大好きな優しい彼が、殺し屋?
そんなわけない!
「通り名は、アザレル。死の天使って意味」
それならこの前、ラルフに聞いた。
ラルフはウルフマンという殺し屋最強と呼ばれる男。
アザレルは、ウルフマンの次につよいとされる殺し屋。
それが、彼?
これはきっと、悪い夢だ……!




