血の味
狼の尻尾を自慢気に撫でながら、ラルフは言う。
「僕のお父さん、狼男だったんだっ!」
尻尾の毛並みは素人の私にも分かるくらい上質だ。
まじまじと尻尾を見つめる。
「触ってみる?」
私は少し躊躇いながらも触れる。
ずっとこうしていたくなる程気持ちいい感触。
暫く触れたままでいると、ファサッと尻尾が揺れて驚く。
「くすぐったいよ、ふーちゃん」
ふーちゃんって私?
まあ、いいけど。
「ふーちゃんは僕が狼って知っても化け物とか罵らないんだぁ」
「私だって、血を舐めるんだから化け物の分類に入るよ」
軽く笑い飛ばすと、ラルフは今までと違う優しい笑顔を見せた。
「血、今欲しい?」
私は首を横に振った。
「でも、あの味が癖になっちゃって。また欲しくなるんじゃないかな」
推測のように話したけど、これは絶対だ。
私はいつか、必ず血が恋しくなる。
「そーいやラルフ、殺しの後片付け依頼した?」
悠斗が言う。
沈黙が流れる。
ラルフがテレビをつけた。
丁度私の両親のニュースが。
[この殺害現場は不可解なことがいくつも見つかっており、この家に住む神崎風梨さんが行方不明になっていることから、警察は神崎風梨さんが犯人として捜査しています]
え、私犯人扱いされてるの?
「忘れてたっ!ごめん、ふーちゃん」
謝って済む問題か?
画面には私の家が大きく映し出されており、警察が沢山立っている。
「私、犯人じゃないのに…」
「あーあ。どうするんだよ、これ」
警察に私は犯人じゃないって殴り込む?
逆に捕まりそう。
「僕、こうなること想定して証拠残さないからなぁ。ふーちゃんが殺った証拠もないから大丈夫だとは思うけど」
警察に見つかれば、間違いなく事情を聞かれるだろう。
コソコソと生活しなきゃいけないのか?
耐えられない。
「どうする?海外逃げる?」
「それも一つの手だな」
「私、パスポート持ってないんだけど」
海外なんて行ったことない。
「偽造したらいいんじゃなぁい?」
それって犯罪じゃ…
顔を引きつらせる。
でも、この人達殺人鬼なんだし、やりかねない。
「私、犯罪犯したくない」
「何言ってるの?ふーちゃん殺し屋するんだよぉ?」
あれ、やるって言ったっけ。
でも血を飲めるなら構わない。
いやいや、構わなくないだろう。
でも血を飲みたいし…
ああ、もう。どうにでもなれ!!
「最近ラルフ、仕事やってないから金ないぞ」
仕事って、殺しだよね。
「あれ、でも私の両親を…」
「あれは摂取。僕、殺戮中毒だからだよっ!」
それは自慢ではない。
「殺しのお仕事、しよっか。ふーちゃん」
え、私が?
「そうだな。とりあえず練習ってことで簡単な仕事探してやる」
よろしく、とラルフが言う。
決定事項らしい。
悠斗が部屋から出て行ってしまう。
「来て!」
ラルフが手招きしている。
部屋を出て、隣の部屋に移動。
その部屋には大量の武器が。
「拳銃は威力で腕が外れちゃうから、ナイフ選んでねぇ」
ラルフは満面の笑顔で告げる。
ナイフの種類を教えてくれた。
ククリナイフにバタフライナイフ、ボウイナイフなどの中から私は二本えらぶ。
ダガーとハンティングナイフだ。
ダガーは投げるのに向いているらしい。
ハンティングナイフは鋭い切れ味と丈夫さを見込んで選んだ。
血が飛び散る光景を想像するだけで、わくわくする。
そんな私は狂っている。
ダガーを試しに投げたりしている間に、悠斗は仕事を見つけたらしく、パソコンを持ってラルフのところに来た。
私には教えてくれないのか。
画面を覗きこもうとしても、ことごとく避けられる。
私の仕事なのに。
「明日の夕方、仕事ねっ!」
ラルフに無邪気に言われる。
「内容、何故教えてくれないの?」
ふくれっ面をして聞いてみる。
「可愛いっ!!」
ラルフに抱きつかれた。
私の顔は急速に赤く染まる。
「照れたふーちゃん可愛い!」
悠斗にも抱きつかれる。
「っ離れて!」
持っていたナイフで引き剥がそうとしたが、その手を抑えられる。
「全身の血を吸いつくしてやる」
少しだけ腕の力が緩んだ途端逃走。
ナイフを向けて威嚇するが、ノーダメージ。
私はさっきいた部屋に戻って鍵をかける。
もう夜だ。
このベッドで寝よう。
でも、ラルフのだっけ。まあいいや。
眠気に負けて眠った。
翌日。
「きゃむぐっ!?」
悲鳴をあげようとすれば口を手で塞がれた。
何故悲鳴をあげようとしたかというと、朝起きたら悠斗が横で寝ていたからだ。
ジタバタしていると、ようやく口から手が外れる。
ぷはっと息を吐き出す。
「何で一緒に寝ていたの!?私部屋に鍵かけたよね?」
悠斗が欠伸しながら答えた。
「ふぁ…ピッキングした。さっきまでラルフも居たけど、ご飯作りに台所行った」
料理、できるんだ。
台所へ行くと、いい匂いがした。
「おっはよー!ちょーどご飯出来たよ」
エプロンをして笑うラルフに少しキュンとした。
美味しそうなご飯。
いただきます、と小さく呟いて食べ始めた。
「おいしい…」
悠斗とラルフは凄い勢いで食べていた。
「そういや、ふーちゃん料理できる?」
悠斗が食べる手を止めてきく。
「少しくらいは」
多分できる。レシピをみれば。
「たべたいな、ふーちゃんの手料理」
ラルフはまた無邪気に笑う。
いつかは作ろう。
ちょっと面倒だけど。
食べてからは暇だったので昼寝していた。
気付いたらもう夕方で、ラルフが起こしてくれたようだった。
昼ご飯食べ損ねた。
「仕事行くよー」
ああ、仕事あるんだ。忘れてた。
ぶかぶかのコートをラルフが貸してくれた。
コートの裏には大量のポケット。
ここにナイフを入れるのかな?
と思っていると、ラルフがにこにこしながら教えてくれた。
何がそんなに楽しいんだろう。
そんなこんなで仕事場として連れて来られたのは、お屋敷。
入りづらい。
「僕は裏からガードマン潰していくからターゲットよろしくー!」
ちなみにターゲットの顔は写真で見せてもらった。
私は頷き、屋敷に入る。
ここからはラルフと別行動。
注意しないと。
そっとターゲットの部屋に侵入する。
ここまで誰にも会わなかった。
ラルフが潰したんだろうな。
私はしっかり狙ってターゲットの心臓にダガーを投げる。
命中、ターゲットは即死。
溢れ出す血液を、我慢できずに飲む。
ん、不味い。うえ。
なんで、こんな不味いんだろう。
お陰で全然満たされた気持ちになれない。
口の周りはおそらく紅色に染まっている。
それを手の甲で拭った。
外に出ると、ラルフが返り血ひとつ浴びずに手を振っていた。




