モスキート
この狂った私が出来たきっかけになったのは、十三歳になったばかりのときだった。
学校から帰ってくると、仕事に行った筈の両親が血濡れで倒れていた。
何者かに殺されたのだ。
「おかあ…さん?おとうさん…?」
とても慕っていた両親の死に、私は何も感じなかった。
座り込んで床に手をつくと、私の手はたちまち両親の血で真紅に染まった。
気付けば私は手に付着した血を舐めとっていた。
私の手がもとの肌色を取り戻すと、私はもう一度床に手をつき、舐めとった。
何回もそれを繰り返すと、血濡れだった辺りは綺麗になった。
「おい、しい。美味しいよ…お母さんとお父さんの血」
両親が死んだにも関わらず、私の顔は笑顔を作っていた。
「君、ぜぇったい才能ある!僕の家に来てよ、どうせもう独り、なんだし」
上から降り注ぐ声に顔をあげれば。
白銀の髪を血に染め、真っ赤な瞳で私をみる少年がいた。
「貴方が、私の両親を殺したの?」
分かり切ったことだ。
「もっちろん!!でもでも、君、僕を恨んでないでしょ?」
何故、この少年には分かるのだろうか。
「私が今したこと、全部見てたの?」
「あの、血をぺろぺろ舐めてたときのこと?見てたよ、ぜぇんぶ」
それよりさ、と少年は続ける。
「僕の家に来てよ!!面倒見てあげるからさ。ねぇ、いいでしょ?」
少年が手を差し伸べる。
私は、あの大っ嫌いな親戚に、預けられるのだろう。
それなら、と私は手を伸ばす。
少年の手を取るために。
「決まりだね。僕、ラルフ」
ラルフは私の手をぐいっと引っ張り、立たせる。
「君は?」
「ふうり。風に果物の梨で、風梨」
ラルフは何が楽しいのか、ニコニコ笑って私の顔を見ている。
「んじゃ、風梨。行こっか、僕の家に」
ラルフは軽々と私を背負う。
「しっかり掴まっててね」
そう言うとラルフは窓から屋根によじ登った。
そして、アクション映画みたいに屋根から屋根へ走って飛んで行く。
悲鳴をあげそうになるが、堪える。
結構本気でやめてほしい。
「ラルフは、私を気持ち悪いとか思わないの?血を舐めるような私を」
私だったら絶対遠ざける。
「べっつにぃ。好きなものは人それぞれでしょ?他人の好きを否定はしない」
確かにそれは正論かもしれない。
一軒家の屋根で、ラルフは立ち止まる。
そして私を降ろした。
何をするのかと思うと、いきなり屋根を壊す。
「入ってー」
屋根から!?
ラルフは屋根に空いた穴から飛び降りる。
手をしっかり握られているので、私も道連れに。
咄嗟に目を瞑る。
私が感じたのは、硬い床の感触ではなく、柔らかいものだった。
そっと目を開けると、私は大きなベッドに横たわっていた。
「だいじょぶ?」
ラルフは、ベッドに座って私に問う。
私も座って頷いた。
「よかったよかった」
にぱっと笑いかけられた。
それが可愛い笑顔だったので、少し照れてしまう。
「また屋根突き破ったのかー?修理するの誰だと思ってんだ!」
部屋のドアの向こうから声が聞こえる。
「開けんぞー」
ガチャリ
少年がドアを開けた。
私を見た途端、深海色の瞳を見開いていく。
「ラルフが拉致ったの?」
「違う。合意の上での拉致ー」
結局拉致だった。
「可愛いね。君、名前は?」
一瞬でこちらに詰め寄ってくる。
顔が近いのでうつむき気味に答える。
「風梨」
「ふーりちゃんか。俺、悠斗。よろしくね!」
よろしく、と返して悠斗が差し出した手を握る。
「可愛いーっ!!」
手を千切れそうなくらい振られる。
「か、可愛くない…ですよ」
真っ赤になって床をみる。
「……むぅ」
ラルフが膨れていた。
そして、悠斗と繋いでいる手を無理矢理引き離す。
「口説いちゃダメっ!」
ラルフ、妬いてくれたのかな?
なんてね。
大方、相手にされなくて膨れているのだろう。
私に妬くなんて、あり得ない。
「そういえば、私に才能あるって言ってたけど、何の才能?」
構ってあげよう。
「殺し屋っ!!」
にぱっと笑い、言うラルフ。
つまり私に殺し屋をさせるのか?
「なんでこんな可愛い子が!?」
すぐさま反応する悠斗。
ラルフは悠斗の耳に何か囁く。
「才能あるよ!」
悠斗が叫ぶ。
多分、私が血を舐めていたことを言われたんだろう。
「蚊少女?」
モスキートってやだな。
「二人は殺し屋?」
ラルフはそうだろう。
私の両親を殺した訳だし。
「ラルフはそーだけど俺は違うよ?俺は殺しもたまにするけど、本業は情報屋」
そういえば、と悠斗。
「アレ、話したの?ラルフ」
「ん、まっだだよ〜♪」
アレ?何だろう。気になる。
「アレって?」
ラルフが意地悪な笑みを浮かべる。
「知りたい?」
私は頷いた。
「どーしても?」
頷く前に悠斗が暴露した。
「ラルフは狼人間なんだ」
「なんで言っちゃうの?」
ラルフの頭から、ぴょこんと狼の耳が。
確認すれば後ろから尻尾まで出ていた。




