第八十三話 雷帝の実力
ヒカル、ウンジュ、ウンシルの三人は、後ろで倒れるミャウに目を見張った。
恐らく彼らは、一体ミャウに何が起きたのか理解できなかったのだろう。
彼女はまるで風と一体化したかのような素早さで、しかも雷帝ラムゥールには決して近づかず、ある程度の距離を保って攻撃を繰り返していた。
だが、にも関わらず、ミャウの身は、彼らが認識した時には既に後方に吹き飛ばされていたのだ。
「一体、何が?」
「判らない見えなかった」「でも、とりあえずは無事みたいだね」
ヒカルの疑問に応えられるものはいなかった。
だが、ミャウの耳がピクリと動いたのは確認出来たようで。とりあえず命があることに安堵の表情を浮かべる三人。
そんな彼らの耳に、突如脅威の声が鳴り響く。
「仲間の心配の前に自分たちの心配をするんだな」
まるで瞬間移動でもしてきたかのように、三人の目の前に雷帝が現れたのだ。
思わずぎょっとした顔を見せる三人だが、しかし、その直後には一切の意識が刈り取られていた。
ラムゥ-ルの放った斬撃を、彼らは恐らく目にする事すら叶わなかったであろう。
そして、何とか意識を保っていた彼女は、その眼に映った光景に驚きを隠し切れないでいた。
「じょ、冗談でしょ、何なのよソレ」
ミャウが片目を閉じたまま苦しそうに立ち上がる。その視線の先には、大剣を持ちし雷帝と、彼の一閃で地面に伏した三人の姿。
そして倒れた仲間たちの身体からは、電撃がバチバチと音を奏でながら迸り続けていた。
「俺が何故雷帝と呼ばれているかをどうも勘違いしてるようだが……お前のいったあらゆる雷系等の魔法を詠唱なしで使いこなす、確かにそれも要因の一つではある。だがな、そんなものは俺の力のほんの一部分でしかないんだよ」
そう言ってラムゥールは大剣を肩に乗せた。その刃からは消えることなく紫電が走り続けている。
「人が俺を雷帝と呼んだのは、俺自身を雷と形容しての事だ。俺は自らを稲妻と一体化させ正しく雷槌の如き動きを体現できる」
「雷の動き、ですって?」
ミャウは両耳をピンと張り立たせ、疑問符を投げかける。額には今も汗が滲んでいた。
「そうだ。実際にお前は目にしただろう? まぁと言っても俺の動きを目に止めることもも出来なかっただろうがな」
悔しそうに歯噛みし、ミャウは自信に満ちたその黄金の瞳を睨めつけた。
「でも、だとしてもなんで電撃が――皆にしても、どうみても雷系等のダメージを受けた痕跡があるわ、なんで――」
得心がいかないといった表情を醸し出す。自分たちは雷の効果を無効化出来るはずだと。だが、雷帝の攻撃には雷の力が備わっていたにも関わらずダメージを受けた。
それはミャウ自身も斬撃を受けたことで身を持ってしったことである。
「それも俺の力の成せる技さ。魔法として以外にも俺は雷の力を発揮できる。そしてそれは直接相手の体内に流すことも可能だ。これであれば魔法による防御などは意味を成さないのさ」
ミャウはその回答でようやく納得できたようだが、不安の影はより強まることとなってしまった。
「その上、貴方の持ってるのは雷剣【カラドボルグ】相当希少なユニークよね……本当、少しでも勝てると思った私の甘さを呪いたいわ」
ラムゥールは含み笑いを見せ、そして言を返す。
「今更気づいたところで遅いがな」
「……でもだからって、こっちもこのまま黙ってやられるわけにはいかないのよ!」
声を尖らせ、鋒を古代の勇者に向ける。その眼には決意の色も伺えたが――。
「どこを見ている?」
ミャウの視界から雷帝の姿が消えたかと思えば、声は背後から響き、その細い両肩が掴まれた。
「この程度の動きも追えないで、よくそんな生意気な口を聞けたもんだな」
ミャウの両目が見開かれ、冷たい汗が背中を伝う。そして声にならない声で、唇を動かし続ける。
すると、雷帝はミャウの肩から両手を頭の猫耳に移動させた。
そして、キュウゥウっと強く握りしめる。
「フハァア!」
ミャウの背中がピンと張り、見開いた双眸が天を突いた。
「や、め、ろ、獣耳、触るのは、し、けい、で――」
しかしその指を止めることはない。寧ろその口角を吊り上げ、楽しそうに弄び始めた。
「死刑? 随分と厳しいな。だが、やはりお前達のような耳を持つ種族はここが弱いらしいな。昔から変わっていない。力が抜け、雌の場合は酷く感じるんだったか? 何だ? もう腰もくだけ始めてるじゃないか」
ラムゥ-ルの言うように、そこが弱点なのか、彼が手を甚振るように蠢かすと、ミャウの息はどんどん荒くなり苦しそうに呻き始める。
もはや立っているのもやっとという感じであった。
「い、やぁあ、みみは、もう、ひゃめ――」
「ふん。随分と気持ちよさそうだな。だが俺は別にお前を気持よくさせる為にこんなことをしているわけではないんでな。生意気な獣には、お仕置きも必要、だ!」
語気が強まり、同時に耳をつかむその手から電撃が発せられ、その猫耳から足先までを電流が走り抜ける。
「ヴァアアアァアイイイイィイイギヒィイイァアァ!」
「アハハハハハ! いいぞ! やはり獣はそうやって鳴かないとなぁあ! そらそら! もっと強烈なのをくれてやる!」
雷帝は耳を掴む力を強め、さらに協力な電撃を彼女の身に放出する。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ヴィイエェエエオォギィイイ!!」
ミャウの絶叫が天を貫き、その身が震え小刻みに跳ね回り、眼や鼻や口から液という液が絶え間なく流れ続ける。
そして――。
「チッ。漏らしやがったか。締りのないやつだな。所詮は獣と変わらない雌猫ってとこか」
言って彼は、まるでゴミでも捨てるかのようにミャウの身を放り投げる。
そして、地面を数度転がった後、全く動かなくなった彼女を、汚物でも見るかのような目付きでみやった。
すると、突如地面が大きく揺れ、大地に何本もの亀裂が走り抜ける。
「……この方向はガッツのいた方か。全く派手な事をしやがるな」
腕を組み、ガッツのいるであろう位置を、数秒眺め、雷帝は再度転がる四人の姿をみやった。
「まぁいい。こっちもこれで終わらせるか。もう死んでるかもしれないがな」
ニヤリと笑みを浮かべた後、雷帝は刃を下に向けた状態で大剣を振り上げる。
「【アースサンダー】!」
ラムゥ-ルが振り下ろした剣を大地に深々と突き刺し、スキルを発動させる。
その瞬間、地面から現出した巨大な雷の柱が四人を突き上げた。
雷帝ラムゥールは己が技によって空中を舞う冒険者達を眺めながら、口角を吊り上げる。
「気絶してるなら付与の効果も消えてるだろう……最後にこの技で逝けることを光栄に思うんだな」
彼の左手が真上に伸び上がる。すると何時の間にか出来上がっていた灰黒い雲が黄金色に輝き、そして――。
「【クロスライトニング】!」
吠え上げる声と共に巨大な雷が落下中の四人の身に降り注ぎ、同時に雷帝の刃が獲物の身体を駆け抜ける。
すると、落雷とラムゥールの斬撃が交差し、雷光による見事なまでの十文字が刻み込まれた。
「これは外側と内側に同時に電撃を叩き込む技だ。と、言っても聞こえちゃいないだろうがな」
黒焦げになった地面と、プスプスと煙を上げる四人の身体を眺めながらそう呟き、雷帝はヒラリと身を翻す。
「全く。つまらない相手だったぜ」
最後に一つ言い残し、雷帝は再び宙を舞った。目的を果たし、主の元へ戻るために――。




