第八十四話 聖姫ジャンヌ
ブルームはガッツの所為に寄って吹き飛ばされた後、その勢いが落ちてきたタイミングで左右に並走するように飛ばされていた二人の少女に腕を伸ばした。
「二人とも軽いのう。まぁしっかりつかまっときぃ」
少女たちを両脇に抱えるようにしながら、プルームは軽やかに大地に降り立つ。
そして二人を掴んでいたその腕を離した。
彼と一緒に飛ばされてきた少女の一人、プリキアは、
「気を使って頂いたみたいで、どうもありがとうございます」
とすぐに頭を下げプルームにお礼を述べた。
一方もう一人の少女ヨイは、あ、あ、あり、と何かを発しようとしてるが、妙に身体が震え顔も紅い。
その様子に気づいたプルームは、ローブの中の幼い顔を覗き込み言う。
「なんや? 具合でも悪いんかい?」
ヨイはキュッと両目を罪リ、首をブンブン左右に振りながら、
「ち、違います! そ、そういう、わ、わけじゃ」
と慌てたように言葉を返した。
「ほか? ならええんやけどな」
ニカッと覗かせたプルームの白い歯を、ヨイが上目で眺めた。少し頬が緩んでいる。
そして、そんな二人のやり取りを、プリキアは瞼を半分ほど閉じた冷めた顔でみていた。
「イチャイチャするなら別のところでやってくださいよ」
一人取り残された気分にでもなったのか、プリキアはプクッと頬を膨らまし不機嫌そうにそっぽを向く。
「何いうとんねん」
後頭部を掻きながらプルームが言った。
「全く意味がわからんわ」
言葉終わりに一つ息を重ねる。
しかし、彼のすぐ横に立つヨイは何故か妙にモジモジとしていた。
「しっかし結構飛ばされたんやなぁ。おまけにもときた場所ともち~とズレとるようやな」
ほうき頭を擦りながらブルームは周囲をみやる。
墓石の殆どが現存し、アンデットの成れの果ても見当たらない。
その事からプルームは位置のズレを認識したのだろう。もし元いた場所近くに落ちたなら、戦いの爪痕が色濃く残っているはずだからである。
「さてどうするかのう」
言ってブルームが顎に指を添えた。この次の展開を考えているのだろう。
だが、彼が考え始めたその直後。
プリキアが何かに気づいたように声を発す。
「聖姫――ジャンヌ……」
ブルームはプリキアのみやる方向に視線を巡らした。
そこに佇むは白と銀の織り交ざった美麗な乙女。
肌色は汚れを感じさせない白、その上から踝ぐらいまで丈のある白色の神官衣を纏い、更にその上からは、髪と虹彩に似た銀色のクイラスを装着している。
そしてその手には、彼女を主張するような長尺の槍が握られていた。
「わいらの相手は、あんさんちゅうことか。いや、これはラッキーやのう」
ブルームは、脚を崩し、両腕を後頭部に回しながら軽い口ぶりで言う。
「やっぱ相手するならムサイ男よりも、あんさんみたいなべっぴんさんがえぇからなぁ」
「プ、プルームさん、い、一体、な、何を! ふ、不謹慎です!」
困ったような不機嫌のような、そんな表情を覗かせヨイが叫んだ。
「主の命令、です。貴方達は、ここで倒し、ます」
だが、そんな彼らの会話など聞こえてないかのように、ジャンヌは戦いの意志を示した。それはまるで抑揚の感じられない声であった。
「あ、あの、ジャンヌさん、ど、どうして、貴方が。わ、私には、た、戦う理由が、あり、ありません!」
両拳を振り上げ力のかぎりヨイが叫ぶ。プリーストというジョブについている彼女である。
聖姫とさえ呼ばれた目の前の勇者と戦う事に、納得が出来ないのかもしれない。
そしてそれはもう一人の少女にとっても動揺であったようだ。
「私も同感です。その手に握られてるのは聖槍ロンギヌヌですよね? それを持っているということは、貴方はまだ聖なる心を失っていないのではないですか?」
だがヨイとプリキアの訴えは、ジャンヌの、私は主の命に従うだ、け、という無情な言葉によって打ち砕かれた。
「どうやら、見逃してくれる雰囲気でも一緒に茶飲みに行く雰囲気でもないようやな」
軽い口調から若干の真剣さを滲ませ、銀色の聖姫に向かって言う。
すると彼女の瞳が、スッと三人の肢体を捉えた。
「倒しま、す」
「……それなら仕方ないですね!」
プリキアが地面に魔法陣の書かれた紙を起き、早口で召喚の詠唱を行う。
「――において、我が命共有を――その力を貸し給え――【大天使ウリエル】!」
詠唱を終えると、魔法陣が光輝き、偉大なる天使の姿がプリキュアの前に現出される。
その姿は、以前プリキアが召喚したエンジェルさんよりも、更に神々しさを感じさせるものであった。
羽の数も四枚と倍に増えている。
「てっ、天使かいな! 相手は聖姫いわれとるんやろ? 大丈夫かいな?」
プルームが心配になるのも良く分かる。
「大丈夫です! ウリエルは攻撃よりも回復能力にたけてます。それに――」
言ってプリキアが薄く笑みを浮かべ、同時にウリエルが両手を広げ始めた。
「【大天使の恩恵】」
ウリエルの両手から発せられた光玉が各々に身に重なり、そして淡い光がその身を包み込む。
「これで私達は大天使ウリエルと同じ属性に変化しました! これは本来は闇の魔法に対向する力ですが、もう一つ聖なる力による攻撃も激減できます!」
プリキアの自信をも感じさせるその言に、成る程のう、と納得を示すプルーム。だが――。
「ブ、ブルームさん!」
慌てたようなヨイの言葉にブルームも視線を動かす。その正面には槍を構えたジャンヌの姿。
「全くやる気満々やのう!」
叫び、空中に飛び上がると同時に、プルームはロープをその手に出し、ヨイとプリキアに絡ませ一緒に持ち上げた。
そしてジャンヌから離れた位置に着地し、そのロープを解く。
「お~い。あんさん、そんなあわてんで少しは会話を楽しまんか~?」
だがジャンヌは、無言で銀色の瞳を向けてくる。
「ヤレヤレや。けんもほろろって奴やな」
嘆息をつくプルームの背中に、プリキアの声が響く。
「プルームさん! この戦いはプルームさんにかかってます! とにかく頑張ってください!」
「はぁ? 何やそれは?」
冗談だろ? と言わんばかりの表情でブルームが振り向く。
「だって、私もヨイちゃんにも直接の戦闘には向いてませんし、ウリエルも――」
なんてこった、とブルームは正面を向き直り。一息吐き出しながら、
「全くしょうがないのう」
と発しプリキアの肩を軽く叩き、今度は彼からジャンヌへ仕掛けていった。
「じゃったらヨイちゃんサポート頼むで!:
「は、はい!」
背中にヨイの返事を受け、ブルームは右手に装着されたクロスボウの照準を静姫に合わせた。
「ほな、行くで!」
言うが早いか、ブルームが駆けながら、数発、矢弾をジャンヌに向けて射出する。と、同時に「ビッグ!」という声が言い放たれた。
ブルームの腕から放たれ、目標目掛け飛ぶソレは、ヨイの力によって瞬時に巨大化する。
だがジャンヌに慌てた様子はない。
冷静に軌道をよみ躱すことで、身体に直接矢が触れることは無かった。
しかし、何発かの矢弾は、躱したジャンヌの少し後方に突き刺さり、かと思えば次の瞬間には爆発した。
その音と衝撃で聖姫の顔が自然と後ろに向けられる。だが、そんな彼女の上空にほうき頭が飛来する。
「まだまだ行くでぇ!」
今度は、空中から両手に装着したクロスボウを使い、地上のジャンヌ目掛け矢を連射させる。
勿論その矢の雨も、ヨイの力で強大化し、聖姫の身に降り注ぐ。
「これも爆破のおまけ付きやでぇ」
地面に着地し、振り向きざまに彼が指を鳴らすと、轟音と共にジャンヌのいた周辺の大地が一気に吹き飛んだ。
だが彼の追撃は着地後も続いた。爆発によって巻き起こった土埃で視界が悪くなったせいか、ヨイの力は得られなかったが、それでもブルームは爆破の付与が付いた矢を打ち込み続けた。
そして更に連続的に続く爆発の影響でもうもうと立ち込める灰煙の中、ブルームは一人、
「これでケリが付いたらえぇんやけどな」
と呟いていた――。




