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第五十七話 洞窟内部

「おいおい。本当にやってきたぜ」

「全くノコノコとよく来れたものだ」

「へへっ。あの方々の言ったとおり、ありゃラオン王子様だぜ。あれを捕まえりゃ俺達の株も上がるってもんだ」


 トラップの続く隧道を抜け、一行は広めの空洞に辿り着く。

 

 そんな彼等を待ち受けていたのは多数の山賊たちであった。ざっと見てもその数は二十以上だろう。


「ここがまぁ中間地点ってとこや。普段は山賊たちの集会所みたいになっとるんやが……本日は随分と手厚い歓迎が待ってたようじゃのう」


「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょう。全く」


 ミャウがため息混じりの言を放つ。


「この中にそのレベル40超えの奴等がいるのかい?」


「いや。こりゃおらへんな。どうも奥に引っ込んでるようじゃけ」


 ミルクの問いにプルームが辺りを見回し、鼻を小刻みに動かしながら応えた。


「そ、それは良かったけど……この皆さんもなんか強そうだね。顔とか怖いし――」


 ヒカルが情けない事を言いながら隠れるようにミルクの背中側に移動する。が、太い身体はとても隠しきれるものではない。


「我が言葉に逃げは無し!」


「あ、でもヒカルさん。ブックマンの話だとレベルは13~15程度みたいです」


「表の護衛よりは」「少しは」「強い」「みたいだね」


 双子の兄弟が交互に話すが、表情には余裕が満ちている。


「わしも今度こそいいところ見せてやるぞい!」


「流石ですわゼンカイ様」


 そんな一行のやりとりに、顔つきをかえる山賊達。額に青筋を立て、眼つきを尖らせる。


「随分と余裕だな」

「なめやがって……」

「野郎ども! こんな奴等さっさと片付けるぞ! 女と王子以外は皆殺しだ!」


 最後に吠えたのは岩の上にのったごつい男だ。


「あ、あの人だけレベル18――」

とプリキアが告げた瞬間、山賊たちは鬨の声を上げ、一斉に襲いかかる。


「我が魔力を一〇〇本の矢と換え目の前の敵を射たん! 【マジックハンドレッドアロー】!」

 

 ヒカルが魔力をその両腕に集中させ、魔法による先制攻撃を繰り出す。


 向かい来る敵の集団は、その手から放たれた一〇〇本の青白い光の矢によって次々と倒れていった。


「やるじゃないヒカル!」

 ミャウの褒めの言葉に照れくさそうに頭を掻くヒカル。


 そして彼女はその素早い動きで瞬時に山賊達の懐に潜り込みヴァルーンソードを縦に横にと振り、一気に三人を打ち倒す。


「さ~て次はどんな魔法を披露しようかなぁ」

 最初の攻撃が成功した事で、随分と調子にのったヒカルは、無防備に直立しながら何にしようかと考える。


「なめやがって! お返しだ!」

 憎しみの念を指に込め、山賊の一人が仕返しとばかりにヒカル向けて矢を放った。


「ひっ!」

 思わずヒカルは、頭を抱えて屈みこむ。


「【アースシールド】」


 だが、近くで発せられた守りの呪文によって、身を屈めたヒカルの前に土の壁が出来上がった。

 これにより、山賊の放った矢はヒカルに当たることなく、壁に突き刺さる。


「た、助かったぁあ」

 ほっと胸を撫で下ろすヒカル。すると壁の向こう側から漢の悲鳴が聞こえた。


 それは弓を引いた漢の声であった。プリキアの召喚していたブルーウルフ二匹が彼の喉に食い付き、その肉を引き裂いたのである。


「ヒカルさん。防御はノームに任せて下さい!」


 眉を引き締め、そう言い放つプリキアは、正直ヒカルよりも逞しく感じられる。


「おらぁ! 【フルスイング】!」

 ミルクがスキルを発動させ、両手の武器を振りながら、竜巻のごとく勢いで回転した。

 周囲にいた山賊が数人、その回転に巻き込まれ斧と鎚によりグチャグチャにされた。

 

 そして肉片が宙を舞い、壁に叩きつけられベチャっという音を残す。


「ふん! よわっちいねぇ」

 鼻を鳴らし、返り血で汚れた顔を腕で拭う。


「いくよ!」「剣の舞い!」


 双子の兄弟は、左右に分かれ、円を描くような足取りで舞いながら敵を次々と斬り殺していく。


「馬鹿がそんな貧弱な武器で俺がやれるものか!」

 双子の兄弟を相手にする賊達の中で尤も重装な漢が、自信ありげに言い放つ。光沢のある青い鎧は、プレートアーマー系のものだ。

 厚い鉄板で全身を覆われたようなその装備は、確かに下手な攻撃などは跳ね返しそうに思える。


「ウンジュ!」「ウンシル!」

 だが、二人は構うこと無く、鎧の漢を挟みこむように交差しながら、何度も何度もその鎧目掛け剣を振るった。


「ぐぇ! ぶぁ、ぶぁかな……」


 双子の剣撃によって、漢は立ったまま絶命した。この漢は防具に頼りすぎたのだ。しかし、刃の薄い双子の剣は、鎧の隙間にするりと入り込み、その身を斬り刻んだのである。


「く、くそ! だがせめてこんな爺さんぐらいは!」

 ゼンカイの前後に立つ二人の漢は、仲間たちが次々に倒されていくのを目にし焦っていた。


 だからこそ、目の前にいるのを大したことのない爺さんと軽んじ、無闇に突っ込んだのである。


 二人共手持ちの武器は小剣であった。そして先ず一人が大きく腕を振り上げ、ゼンカイに斬りかかる。が、甘いわ! の一言と共に刃を躱し、更に同時にゼンカイが相手の懐に飛び込んだ。


「【(善海)(入れ歯)(居合)】!」

 ゼンカイの入れ歯の抜き具合は相変わらず上々だ。その小さな身体と腕を撓らせ、打ち込んだ一撃で、ぐぇ! と漢は声と舌を外へ投げ出しそのまま傾倒する。


「こ、こんな爺ぃになめられてたまるか!」

 悔しそうに歯噛みする漢に、ゼンカイが振り返り、入れ歯を抜き、カスタネットみたいにカチカチと奏でる。


 その所為が癇に障ったのか、賊の漢が叫びあげ、ゼンカイに突っかかる。

 だが、漢が放った横薙ぎの刃をするりとくぐり抜け、一度腰を屈めた後、勢い良く飛び上がり、同時に入れ歯アッパーをその顎に決めた。


「ハバキッ!」


 大凡老人の一撃によるものとは思えない程に賊の漢が上空を舞った。ゼンカイのキラリと光る頭頂に、白い破片がパラパラと降り注いだ。


 それは漢の歯牙であった。頭に跳ね返り地面に落ちたソレを見ながら歯を口に戻しゼンカイが呟く。


「これでお主も入れ歯確定じゃな」





「し、信じられねぇ――こんな馬鹿な事が……」


 見張り長と思われる山賊の漢は狼狽の色を隠せないでいた。仲間たちが自分一人残して全員倒されてしまったこともそうだが、目の前の漢は王族という立場にありながら、臆すことなく敵の前にその身を晒し、更に彼の護衛にいた三人もあっさりと殴り倒してしまったのだ。


「だ、だがここまでだ! お、俺は他の奴等とは違う! こ、降参するなら今のうちだぞ!」

 ウォーハンマーを両手で強く握りしめながら、、見張り長が虚勢をはった。

 だが脚も声もどことなく震えていて、ラオン相手に恐れを抱いているのは明らかであった。


 確かに見張り長が言うように、彼のレベルはここにいた他の山賊よりは高い。

 だが、それであっても、ラオンという漢の豪傑ぶりに戦々恐々といった具合だ。

 

 勿論それを相手に気取られては長としての面目も立たないのだろう。必死に取り繕おうと、強気な台詞を吐きながら手持ちのウォーハンマーを振り上げてみたり、ドスの聞いた声で警告を発したりと色々試し、隙を窺おうとしている。


 だが、メッキの剥がれた賊相手に、彼が怯むはずもなく、威風堂々と漢に向かって一歩また一歩とその距離を詰めて行く。


 そしていよいよ見張り長の目と鼻の先までラオンが到達し、握った拳に反対の掌を重ね、パキポキという快音を鳴らした。


「我が言葉に覚悟を決めよとあり!」

「う、うぉおぉおおおおお!」


 ラオンの言を聞くなり、見張り長はウォーハンマーを振り上げた。

 だが、そのような武器を持っていながら、彼の接近をここまで許してしまったのは愚かという他ない。


 見張り長がその武器を振り上げたその瞬間には、うぬがっ! の響きと共に、ラオンの拳がその顔面を捉えていた。


「うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ! うぬがっ!」


 並みの男ならラオンのその一撃で派手に吹き飛びそうな物だが、なまじ中途半端にレベルが高かったのは彼にとって不幸でしかなかった。


 尤も、ラオンの容赦のない拳は相手が吹き飛ぶ前には次の拳が引き戻し、さらに続く拳がその身を捉えといった有り様であり、見張り長の漢は為す術もなく、血反吐を地べたにまき散らしながら、まるで振り子のように揺れ動くしかない。


 こうして元の顔がどんなだったかも思いだせないほど、ボコボコにされた漢は、ラオンの、うぬがっ! という声に乗せた気合の篭った一撃で端の壁に激突し、そのまま動かなくなった。


「お、王子というのも容赦がないものじゃのう」


 哀れな見張り長の有り様を見ながらゼンカイが述べた。


「ま、流石かつて武王と崇められた勇者ガッツの再来と言われるだけはあるわなぁ」


 プルームの言い方はかなり軽い感じではあるが、表情を見るに、感心してるようではある。


「ま。そもそもこいつらが大したことないけどな」


 ミルクは一旦両手の武器をアイテムボックスに戻し、余裕の表情で感想を述べる。


「確かに全く手応えのない奴等だったねぇ。ま、僕の魔法が強すぎたってのもあるのかもしれないけどね」

「てかあんたやられそうになってたじゃない」


 鼻を指でこすり得意がるヒカルに、ジト目でミャウが突っ込んだ。


「ノームさんがいなかったらどうなったか判らないですよねぇ」

 言ってプリキアが悪戯っ子のような笑みをみせる。


「あ、あれはわざとだよ! そうやって相手の油断を誘ったんだ!」

 

 ヒカルの言い分には無理がある。


「のうのう」


 ふとゼンカイが、ミャウの裾をひっぱりながら、呼びかける。


「何お爺ちゃん?」


「勇者ガッツってなんじゃ? 勇者はヒロシとかいう男じゃないのかのう?」


 ゼンカイの質問に、あぁ、とミャウが短く発すると、その応えをミルクが引き継いだ。


「ゼンカイ様。勇者ガッツというのはこの国でかつて活躍した勇者の一人であります」


「一人?」

とゼンカイが小首を傾げる。


「武王ガッツの鋼拳は」「大地を割り」「雷帝ラムゥルは」「雷を操り稲妻の如き速さを誇り」「魔神ロキはその膨大な魔力を持って」「あらゆる魔法を使いこなす」「聖姫ジャンヌは」「聖なる力と聖槍をもって邪なるものを討ち滅ぼさん」


「我が言葉にそれこそ古代の四勇者なりとあり!」


 ウンジュ、ウンシルによる、メロディーを奏でるような声音による説明と、ラオンの最後の叫びがゼンカイの質問に対する答えであった。


「成る程のう。勇者といっても一人ではないのじゃなぁ」


「えぇ。勿論時代によって勇者も違うからね。ちなみに四大勇者の遺体は姫様の目的地である聖堂に祀られてるって話よ」


「なんと! それはなんともご利益のありそうな事じゃのう!」


 ゼンカイがワクワクした様子で声を上げると、おいおい、とプルームが発し。


「あんさんら談笑はえぇけど目的を忘れてもらったらこまるで」


「うん? なんだい。山賊共はもう倒したんだからいいだろ? よし! さっさと帰ろう!」


「アホかいな。なに眠いこと言うとんのじゃ」


 ヒカルはとにかくこんなとこから早く出たいって思いが顔にあらわれているが、プルームがそれを認めなかった。


「寧ろここからがメインじゃろうが。頭もきっとこの奥におるしヨイちゃんも捕まったままや。あの闇ギルドの三人もおる」


「おお! 確かにそのとおりじゃ! ヨイちゃんを助けねばじゃ!」


「確かにね。大体こんな相手だけで終わるほど甘くはないわよ」


「そうだね。じゃあさっさと先を急ごうか」


「うぬがっ!」


「決まりやな。ほなまたわいが前を行くからしっかり付いてきぃやあ」


 プルームの言葉にヒカル以外の皆が同調し、洞窟の奥目掛け歩き出す。その姿にため息をつきながらも、不承不承とヒカルも後に続くのだった――。

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