第五十八話 分かれ道とその先
プルームの言うところの集会所を後にし、先を進む一行。
隧道はやたらと曲がりくねった道が続き、要所要所に横穴が何箇所かに分かれていた。
だがプルームはそのたびに鼻をひくつかせて、こっちや、そっちや、と皆を誘導していく。
道の途中には相変わらず罠も設置されたりもしていたが、全てはプルームの手によって解除されていく。
「しかし本当にあってるのかい?」
しばらく歩みを続けたところで、ミルクが尋ねる。それなりの距離を進んだ感じだが、未だ賊の一人にも会っていない。
そのことが不安を誘ったのだろう。
「大丈夫や。わいはここにいる間にある程度、道は把握しとるし、それにここにも自信があるんや」
言ってプルームは自らの鼻を指さした。
「ま、どっちにしろ今は彼のいうとおりに進むしかないわね」
「そういうことやな」
そう言って更に先を進む一行。だが少し広めの空洞に出たところで選択を迫られることになる。
そこには横穴が左、正面、右と三つあり、ここで一旦プルームが脚を止めたのだ。
「ど、どうかしたのかい?」
ヒカルが不安そうに尋ねる。
するとプルームが皆を振り返り、軽く顎を擦った。
「あかん。これはどっちにいったらいいか判らん。こっからは三手に別れたほうがえぇな」
プルームの応えに、えぇえぇ! とヒカルが少々大げさなぐらいに驚く。
「判らないってどういう事?」
「うん? あぁまぁ判らない言うんはちょっと違うかもしれんが、恐らくこの三つの穴のどの先にも相手がいるんや。しかしヨイちゃんのこともあるしのう。一個一顧虱潰しってわけにもいかんじゃろ」
そう言った後、プルームが何やら細い棒の束を取り出した。
「わいらは九人おる。三人ずつ別れれば丁度良いじゃろう。これは組み合わせを決めるためのものじゃ。ほなさっさと引いてもらおうか」
勝手に話を進めるプルームにミャウもミルクも眉を顰めたが、とはいえ現状は確かにそれがいちばん良い手にも思える。
「仕方ないわね……」
「ゼンカイ様と一緒になれますように――」
まずミャウとミルクがプルームの手の棒を引いた。それの先端には色が塗ってあった。
そして更に皆が後に続いて棒を引いていく。
その結果――ミルクの願い虚しく。
左にはゼンカイ、プルーム、ラオンの三人が、正面にはミルク、ウンジュ、ウンシルの三人が、右にはミャウ、プリキア、ヒカルの三人が其々向かうこととなったのだった。
「ゼンカイ様とお別れすることになるなんて納得いきません!」
と抗議するミルク。
だが、まぁまぁ少しの辛抱じゃよ、とゼンカイがなだめる。
「というか、私は寧ろ、ラオン王子殿下に付くのがこの二人ってのが、そこはかとなく不安なんだけど……」
ミャウは本当に心の底から不安そうであった。
「我が言葉に心配の二文字なし!」
ラオンがそう叫ぶと、
「ほれ。王子様もこう言っとるからのう。ミャウちゃんも心配せんでも大丈夫じゃよ」
とゼンカイが笑ってみせる。
「いや、私はお爺ちゃんが何か失礼な事をしないかと心配なんだけどね」
ミャウは本人を目の前に隠すこと無く気持ちを告げる。
「まぁ大丈夫やろ。わいがみとるし」
「あんたも、大概心配なのよこっちは」
ミャウが言下に言い放つが、プルームは相変わらずのへらへらした態度であり、ミャウの不安は募るばかり。
とはいえ決まったものは仕方がないし、時間もそんなに余裕があるわけではないだろう。
結果ミャウも渋々ながら納得し、其々が決定した道へ進んでいくのだった――。
「全く小細工ばかりが好きなやっちゃのう」
ゼンカイとラオンを先導する形で、プルームは前を歩いていた。
その途中には相変わらずトラップが仕掛けられており、プルームはそれを解除しながらどんどんと前進していく。
「しかしのう。こんなにトラップがあってミャウちゃん達は大丈夫じゃろうか?」
ゼンカイが今更ながらであるが心配そうに呟く。
だがプルームが彼を振り返り、大丈夫やろ、といって、口の中のものを膨らませた。
「なんでそんな事が判るんじゃ?」
ゼンカイの問いに、膨らませていたそれをパンッと弾かせ、口に戻したあと咀嚼しながら応える。
「この道にトラップが仕掛けられているのは、ゲスイっちゅう馬鹿がこっちにおるからや。だからそれ以外のルートにトラップは仕掛けられてへんやろ。そこまでする時間があったとは思えんしのう」
「……成る程のう」
ゼンカイが納得したように頷く。
そして今度はプルームの口元に目をやり。
「ところでそれは何じゃ? ガムかのう?」
ゼンカイが興味を示したのは、三手に分かれ歩き始めた頃からプルームが噛みだしたソレである。
ゼンカイのいた世界ではガムと呼ばれていた物とよく似ているが。
「まぁそんなとこや」
プルームの返事を聞く限り、どうやらこの世界にもガムが存在しているらしい。
「美味しそうじゃのう。わしにも一つくれんか?」
「我が言葉に興味ありとあり!」
どうやら二人共プルームの口にしてるガムが欲しいようだが、彼は、悪いのう、と口にし。
「もうこれで終いなんや」
そう話を紡げた。
ゼンカイもラオンも非情に残念そうである。
「さてっと。もうそろそろかのう」
プルームが鼻をひくつかせながら呟き、更に数分ほど歩みを進めていくと、道が広がり、ちょっとした広間にたどり着いた。
その広間の奥には一つ横穴があり、その先にまだ細い道が続いているようである。
だが広間の真ん中には、皆を待ち受けていたかのように、フードをすっぽりと頭から被り、マントで体全体を包み込んだ男が直立していた。
「くくっ。よぉくもまぁ、俺のトラップを潜り抜けてきたなぁあ」
妙にねっとりとした物言いが鼻につく男である。
「ふん。あんな玩具をトラップ言うなんて頭わいてるんちゃうか? そんなんでよくギルドに迎い入れてくれたもんやのう」
プルームは顔を眇め、小馬鹿にした台詞を吐く。
だが相手は、ひひっ、と引き笑いをみせ、迫り出しギョロリとした瞳を大きく見開く。
「なんじゃこいつは。不気味な男じゃ。プルームの知り合いかのう?」
「まぁ知り合いっちゃあ知り合いやなぁ。こいつがゲスイって男やし」
プルームの言葉にゲスイは、ケヒヒッ、という気味の悪い笑いだけで返す。
「成る程のう。この男があのゲスイか! むぅなるほどのう! この男がゲスイなのじゃな! なるほどのう」
「爺さん、覚えてないなら無理して合わせんでえぇで」
プルームが呆れたように息を吐いた。
「我が言葉に相手に不足なしとあり!」
ラオンが大木のような腕を組み、声を張り上げる。
「そうじゃな。こっちは三人おるし協力していけば」
「いや。それはえぇわ。こいつわいに用事があるみたいやし。爺さんと王子様は先に進んでぇな」
プルームの言葉にゼンカイは目をぱちくりとさせ。
「何じゃ? お前をおいて二人で先にいけという事かのう?」
「まぁそういうこっちゃ」
するとゼンカイ、腕を組んで、うむむ、と唸り、
「なんかずるいのう」
と言い出した。
「何言うとんじゃ爺さん?」
「これはあれじゃろう? 漫画で言うところのアレじゃろ? 一人残ってかっこ良く敵を打ち倒すアレじゃ! そんな美味しい役を持ってかれるのは癪じゃい!」
そんな我儘を言われてもプルームだって困るだろう。
「……爺さん。それやったら寧ろこの先の方が美味しいでぇ。わいの勘じゃヨイちゃんはこの先で捕らえられとる。だから二人には先に行ってもらいたいんじゃ。山賊の頭というのも一緒じゃろうからのう。それに、そのシチュエーションで助ける方が絶対格好えぇでぇ」
プルームの言葉にゼンカイが、おお! と興奮する。
「確かにそのほうがいいのう! 格好いいのう!」
ゼンカイはすっかりその気になってしまった。プルームは中々に口の立つ男である。
「うぬが」
ふとラオンがプルームの横に立ち、プルームの細い瞳をじっとみやる。
「我が言葉に男の覚悟あり!」
「いやそういう暑苦しいのえぇから、さっさと行ってくれんかのう?」
プルームの率直な返しにラオンの両頬が紅く染まる。相当に恥ずかしかったのだろう。
「うむ。それじゃあ王子様を連れて行くとするかのう」
一人頷き、再度プルームを見やるゼンカイ。そして、プルームよ、と一言発し。
「……まぁわしはお主とこれといった良い思い出も無いのじゃが、死なないよう頑張るんじゃぞ」
「素直な爺さんやのう」
「よし! ヨイちゃん待っておれぇええぇえ! いまわしが助けにいくのじゃあぁあ!」
「うぬがぁあああぁあ!」
こうしてラオンとゼンカイは二人を残し奥の隧道を走り抜けていった――。




