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第三十三話 ヒカルの反応

 折角の転職も終えたというのに、ゼンカイの表情はどこか浮かない。

 それを不思議に思ったのか、ミャウが、どうしたの? と問いかける。

 

 するとゼンカイは、顔を擡げミャウの顔を見ながら、

「なんか予想してたのと違ったのじゃ!」

と語気を強め、両手を振った。


「一体何が不満なのよ」

 ゼンカイの反応にミャウが顔を顰める。


「魔法じゃ! もっとこう! 強力な魔法が使えそうなのが良かったのじゃ!」


 ゼンカイの訴えにミャウはため息を吐き出し言った。


「あのね。魔法系のジョブじゃないと魔法を行使出来ないのよ。だからお爺ちゃんだと……なんというか、その、条件がね」


 どこか口ごもった感じに伝えるミャウだがゼンカイはやはり納得していない様子で腕を組み、ぐむむ、と唸る。


「むぅ。これだったなら生涯操を貫き通すべきだったわい」


 ゼンカイの言葉に、操……ですか? とミルクが尋ねる。


「そうじゃ! わしのいた国では生涯童貞をつらぬけば魔法使いになれると言われてるのじゃ! あぁ口惜しや! 口惜しや!」


「童貞って……」

 ミャウが頬を赤らめながら呟いた。

 

 すると徐ろに巨漢がゼンカイの側まで近づき、そしてその肩を叩き、ふふん、とドヤ顔をみせる。


「な、何じゃ突然――」


「残念だったね爺さん。まぁやっぱり偉大な魔法使いになるにはそれなりの修煉が必要ってことさ」

 

 得意気に話して聞かせるヒカル。

 するとミルクが、

「そういえばあんた魔法系のジョブだったねぇ」

と冷めた目で述べる。


「むぅ! ということはお主もしや!」


「そう! そのとおりさ! 僕はこの地に来る前、88年の生涯を崇高で清らかな精神で終えたのだ! その間一度たりともリアルな3Dとは交わらなかった! そう3Dなんて2Dに比べたらカスなのさ! 2Dこそがジャパニメーションが生んだ最高で至高で究極の恋人! 絶対にリアルを裏切らない最高の天使なのさぁああああああ!」


「…………お前、キモいのう」


 ゼンカイの容赦の無い言葉にヒカル、胸を押さえ苦しみながら後ずさりする。


「ぐぅ! な、何を言う! だ、大体このような神殿にくる以上、清らかな身体で望むのは当然であろう! そこに神官殿だって僕と同じで――」


「あ、いえ私しっかり妻と契は結んでますし子供もいますので」


「がーーーーーーん!」


 ヒカル自分の口でがーんといい、両手を広げたまま動かなくなった。


「このような毒男よりもゼンカイ様の方が素敵です。男としては大勝利です!」


 ミルクの言葉にゼンカイは照れくさそうに頭を擦る。


「てか、魔法系の職業その、え、えと、だから経験とか関係ないから!」


 ミャウは件の漢字二文字をどうしても口にすることが出来ず言葉を置き換えた。


 するとヒカル、がっくりと腰を落とし項垂れた。本気で童貞だから魔法使いになれたと思ってたのかこいつは。


「ところで、もしかしてこやつもわしと一緒なのかのう?」

 ゼンカイはふと脳裏に浮かんだ疑問を口にする。


「あぁ、そうそう。確かにヒカルもトリッパーだったわね」


 ミャウの返しに、ほう、とゼンカイが一つ発し。打ちひしがれているヒカルに近づいた。


「のう、もしかしてお主も使い物にならなくなってるのかのう?」


「はぁ? 使い物?」


「むぅ。だから――」

とゼンカイは自分の状態をヒカルに告げる。


「ぷ、ぷぷぷぷ、何だい爺さんそれは? あっはっは。全く情けないな!」

 ヒカルは徐々に声音を大きくさせ、遂には勢い良く立ち上がった。


「全く。僕がそんな情けない状態になるわけないだろうが馬鹿が! どうせ爺さん年甲斐もなく色呆けして変な病気を移されたんだろ!」


 言って高笑いをきめるヒカル。どうやら性病か何かと勘違いしてるようだ。


「てことは貴方は、角の生えた女の子に会ってないの? 占い師の格好でトリッパーに声掛けてまわってるみたいなんだけど――」


 ミャウの発言にヒカルの動きがピタリと止まった。


「……どうしたんじゃ? 会ってないのかいのう?」


 続くゼンカイの言葉にヒカルが、コホン、と一つ咳払いをみせながら、

「……まぁ会ってないといえば会ってないかもしれないし、会ってるといえば会ってるかも知れないし、いやでもあれは――」

「会ってるんだね」

 冷めた瞳でミルクが言う。


「いや、だからあんな可愛らしい幼女が、君たちの言うような子であるはずないじゃないか!」


 必死に訴えるヒカル。信じたくないという気持ちが大きいようだ。てかリアルはカスじゃなかったのか。


「でも何か呪文受けたでしょ?」


「いや、だから確かに受けたけど、あのぐらいの年代のこどもは悪戯好きだから――」

「決まりじゃな」


 ゼンカイが断言した。


「だ、だいたい僕はこんな爺さんのような症状に悩んだりしてないからね! それが証明さ! 僕は正常!」


「それはただ気づいてないだけな気がするがのう」


 往生際の悪い男じゃのう、等と思いつつゼンカイは更に質問を加える。


「ところでお主猫耳は好きかのう?」


 その言葉に、

「え? ま、まぁそれはやぶさかでもなくて、あ、でもとくべつ好きというか、あればまぁ嫌いでもないというか――」

となんとも歯切れの悪い返しをするヒカルだが、ゼンカイ、それじゃあのう、と瞳を光らせ。


「これを――見るのじゃぁあああああ!」


 そう叫びあげ、同時にミャウのスカートの裾を掴み――思いっきり捲り上げた! ミャウ完全に虚をつかれ反応できず。


 柔らかい布地はふわりと空気の中に溶け込み、軽やかな舞を魅せた。それはまるで春の雪解けと共に蕾が芽吹き、花開くがごとく、そして隠れていた秘めたる果実がその姿を遂に露わにさせた。


 それは肉付きのよいぷりぷりとした果肉を有しており。そして白くて細長い紐――紐?


 そう、それはゼンカイの予想とはかけ離れた淫靡で妖艶な白い狂気。極力布地を少なくし、質感のある肉肌を強調させる為にまとわれたアイデンティティー。


 その瞳に映るは正しく、H・I・M・O・P・A・N。


 それは薄い胸板を凌駕するほどの強烈な破壊力を秘めていた。

 もしゼンカイの息子が元気であったならそのまま飛びついていてもおかしくはなかっただろう。


 こうしてゆらりゆらりと果実を露わにさせていた花びら達は、まだ今は開くべきではなかった事に気づき、再び蕾へと戻っていった。


 この間、僅か数秒内の出来事である。


「ふぅ――」

 一つ息を吐き、ゼンカイは全てを記憶し、大切に胸の中にしまっておこうと決意を固める。

 その表情はまるで神々しい菩薩像でも拝見したがごとく、喜びに満たされていた。


「ゼ! ゼンカイ様ぁああ!」


 ミルク、眼に涙を浮かべながらゼンカイに駆け寄る。


「どうして! どうして! あたしにいっていただければそれぐらい」

 ミルクはそう頬を紅くさせ訴えた。

 

 だが、ゼンカイ、ふっ、と一言発し。


「申し訳ないのう。しかしこれはミャウちゃんじゃなきゃいけんかったのじゃ」


 どこか遠くを見るような瞳でそう答える。


 そして、なぜなら! と強い口調で発しそのままヒカルの元へと脚を進め。


「こやつが猫耳好きじゃから! ミャウちゃんしかおらんかったのじゃ!」


 改めてそう叫ぶゼンカイ。ちなみにミャウは未だ放心状態。ヒカルも目をこれでもかと丸く見開き、すっかり固まっていた。


「さてどうじゃ? 息子は反応したかのう?」


 ゼンカイはヒカルに対し問いかけるが、彼の返事はない。

 ただ鼻から溝を伝って赤い筋だけが伸びた。


「ふむ。ちょっと失礼するぞい! ほぁたぁ!」

 気合をいれるが如く咆哮を上げ、ゼンカイがなんとヒカルの股間を鷲掴む。


「ふぉおおおぉおおん!」

 その瞬間、奇妙な声を上げ、ヒカルの背筋と腰がピンと伸び上がる。が、ゼンカイは直様手を放し、汚れを落とすように手を振り口を開いた。


「やはり全く元気がないのう。お主もわしと同じ状態なのはこれではっきりしたわい」


 ヒカルは股間を両手で押さえ、身を捩らせながら、な、何をするんだあんたは! と声を尖らせた。

 しかし、その所作はどうにも気持ちが悪い。


「自分で判ってないようじゃから親切に教えてやったんじゃぞ。感謝してほしいぐらいじゃ」


「流石ゼンカイ様! そのような事情がお有りとは……少し悔しいけど……その御心! 感動です!」


 ミルクの賞賛に、まぁのう、と得意がるゼンカイ。だがヒカルは納得していないようであり。


「ぼ、僕はそんなことで反応したりは――」

「ほう。だったらその鼻血はなんじゃ。興奮したんじゃろ? ミャウちゃんの意外にもエロチックな紐パンに、例えお主の下半身は反応せんでも上はしっかり反応したというわけじゃ。身体は正直じゃのう」


 もしこの相手が女性であったなら、明らかなセクハラ発言であり、エロ爺ぃの烙印を押されるのは間違いないだろう。

 いや実際エロ爺ぃではあるが。


「ぐ、ぐぬぅ……ということは――つまり僕の息子はもう二度と返ってこないということなのかぁあああぁあ!」


 ヒカルはショックのあまり叫びあげ、頭を押さえ身悶える。

 その姿をゼンカイは憂いの瞳でみやるが、かける言葉は見つからない。


「お、爺ちゃ、ん」


 ふとそんなゼンカイの背後からミャウの声が発せられた。

 

「おおミャウちゃんや。ミャウちゃんのおかげでこの男も自分の状況を――」


「【アイテム:ヴァルーンソード】……」


 ミャウが静かに呟くとその手に小剣が現出し、ゆっくりとした足取りで彼女はゼンカイに近づいていった。


「の、のう……?」


 ゆらりゆらりと身体を揺らしながら、近づいてくるミャウにゼンカイはなにか不気味なものを感じ、狼狽する。


「ねぇ。お爺ちゃん?」


「な、なんじゃいミャウちゃん? も、もしかして怒っているのかのう?」


 それは当然だろう。


「……お爺ちゃん一つだけお願いがあるんだけど」


「な、何じゃろうか? わ、わしに出来ることならなんでもきくぞい。あ、息子があれじゃから夜の相手はまだ無理じゃが――」

 

 この状況でよくそんな事が言えたものだ。


「そう……ありがとう。じゃあ――」


 その瞬間、ミャウが一気にゼンカイとの間合いを詰め、その刃を振り下ろした――。



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