ブリ女の言い分
性被害の記述があります。
苦手な方はご注意ください。
爵位が低くて可愛い娘なんて、ろくな人生を歩めるわけがない。
貴族が通う学園で、子爵家の娘は立場が弱かった。
下位貴族同士で固まって、目をつけられないように大人しくしているのが、賢い生き方だ。
学園に通う前、父は「嫌な時代になったもんだ」と、こぼしていた。
上位貴族たちに無理難題をふっかけられるぞ、と。
入学早々に、公爵家の令息に花を散らされた。
空き教室に鍵をかけないなんて、学園側の不手際だろう。
嫁入り先を見つけるという目標は、早々に頓挫した。
母に相談したら、黙っていなさいと。
公爵家には逆らえない。
平民との縁組みを取り付けてやるから、少し待てと言われた。
なんなの?
なんなの?
ひどくない?
たまたま可愛く生まれてしまっただけで、踏みにじられても我慢しろというの?
犯罪者は地位が高いから、捕まらないの?
あんまりだ。
助けて。
でも、爵位が低い親たちは、盾になってくれない。頼りにならない。
だから、私は自分で庇護者を探すしかなかった。
見つけた。
侯爵家の令息で、正義感が強い人。
騎士科に所属しているのも、ちょうどいい。
ふわふわの金髪に、涼しげな青い目。柔らかな話し方に、爽やかな笑顔。
案の定、彼に憧れる女生徒が、たくさんいた。
私も彼の周りをうろちょろして、気軽におしゃべりできる関係になった。
もちろん、他の子みたいに群がったりしないわよ。
少し離れたところから見ていて、目があったら微笑むの。
あちらから話しかけてきたら、一本釣り成功ってところかな。
私は彼の取り巻きの一人として有名になった。
そうしたら、公爵家の令息は近づいてこなくなった。
よくわからないけれど、プライドとか沽券に関わるとか?
まあ、侯爵令息には、顔で勝てないと判断したのかしらね。
ああ、一度捨て台詞を吐かれたことがあった。
「お前にはもう価値がない」とか、なんとか。
どうでもいいけど。
あんな地位だけの乱暴者に構われたって、嬉しくない。せいせいした。
あれが貴族の最上位である公爵家って、世も末だと思う。
侯爵家の彼の婚約者は、跡取り娘だった。後継者としての自覚がある人だから、彼にも厳しかった。
そうなると、彼は癒しを求めたくなるのが自然というもの。
そこに、つけいる隙がある。
お行儀のいい令嬢たちの中で、私はさらに一歩先んじることができた。
大げさに感動して、あなたは頑張っていると肯定して、解決できそうな小さなお願い事をして……。
恥じらったら駄目よ。心からそう思っていると、全身でアピールするの。
気がつくと、彼と同じ騎士科の女が、対抗意識を燃やしてきていた。
ほほう。場合によって「男みたいなものだから」という言い訳を使い、オンナを武器にしているのか。
その緩急は見事だ。
腹黒くて、いやらしくて――いいね。
「まともな女」からはみ出しても、腐らずに前を向いている。
逞しく、強かに。
そして私たちが、「まともな女」たちに歯ぎしりをさせている。まったく痛快だ。
いいライバルができた。
つい張り合って、持てるテクニックを全開にしてしまった。
侯爵家の令息は、私たち二人を特別扱いするようになった。
まあ、学生時代限定のお遊びでしょ。
悔しいけれど、卒業したら私は平民に嫁ぐんだもの。
彼も、侯爵令嬢と婚約しているんだし。
婿入りなんだから、こちらの目がないところで、あちらのご機嫌も取っているでしょ。
そう考えていたのに。
パーティーで、侯爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。
え、嘘。うそでしょ。
侯爵令嬢に嫌われているみたいって、泣き真似したけどさ。
他の令嬢に虐められたときに泣きついて、「嫉妬されて怖い」って言ったけどさ。ちょっとだけ、侯爵令嬢にやられたかもって、誤解を誘導したけどさ。
高位貴族がそんなの信じるって思わないじゃん。
というか、侯爵令嬢と婚約破棄して、どうするつもりだったの?
私は跡取り娘じゃないし。
あっちの子と騎士として生きていくつもりだったのかな。
あれ、あいつ……馬鹿だった?
座学の成績は悪くなかったと思うけど。
そんなこんなで、私の将来はハニートラップ要員だって。
まともな結婚はもう無理だったから、いいけど。
でもさ、娼婦とどこが違うの?
圧倒的にやる回数は少ないだろうけど。
公爵令息にまともな未来を潰されて、自分の身を守るために明るく天真爛漫に振る舞った。
どうせ卒業したら平民だと思ったら、勉強にも身が入らないのも仕方ないでしょ。
やる気のない心に反して、にこやかな笑顔で生活する私。もう心身のバランスが崩れかけていたのかもしれない。
そこを、あの侯爵令息が優しく包んでくれたんだなぁ。
優柔不断で、女性からの頼みを断れない人。
だけど、不埒な男子生徒からは守ってくれた。彼にコテンパンにされて、態度を改めるようになった生徒もいたからね。
彼が清廉潔白に生きたいとか言い出したせいで、私は暗部に就職するはめになったけどさ。
あ、新しい目標が見つかった。
いつか、元凶の公爵令息を嵌めて、身ぐるみ剥いでやる。
仕事の合間に、奴の情報を集めよう。
個人的な趣味として……。
人生、最良の瞬間だと思ったときに、それを奪ってやろう。
将来、妻や娘ができたら、奴に乱暴された女性たちの一覧表をプレゼントするか。
被害者が私一人のはずがない。
くくく。
首を洗って待っているがいい。
絶対に、元凶のお前は許さない。「まとも」な人生を壊してやる。
確実に、地獄へ落としてやるから。




