サバになった少女
私は、人より骨格がしっかりしていた。
手首を握ったときに、骨の太さの違いが分かるという。
他の女の子たちは華奢な手首をしていた。
「や~い。オトコ女」
と近所の悪ガキたちに、からかわれた。
七歳のお祝いのとき、従姉のお姉さんのお下がりを着た。可愛いフリルのドレスだった。
私のがっちりした体格では、女装したような奇妙な装いになってしまった。
気の毒そうに目を逸らす大人と、容赦なく指を指して笑うオトコども。
「そんなことを言ったら可哀想」と口では言いながら、「自分はああじゃなくてよかった」と顔に書いてあるオンナども。
悔しい。許さない。
お前たちなんか、いつかぶちのめしてやる。
そう思って、剣術道場へ入門した。
ああ、この世界はいい。
鍛えても筋肉がつかない人もいる。そんな人は可哀想だけど、仕方ないよね。
剣術は圧倒的な男社会だけど、私はそこに溶け込んでいた。
たまに「女の子なのに……」と思うこともあったけど、悔しいからそんな気持ちは呑み込んだ。自分から飛び込んだ世界なんだもん。
師匠が、「紳士的にな」と悪ガキたちを指導してくれるのが、妙に嬉しかった。
ああ、私は自由を得た。
無理に女の子に合わせることもなく、男の子たちと気楽な関係を築けた。
心から、幸せだ。
家に帰ると、母が「お淑やかにしなさい」と言う。
「もし、剣で生きていきたいのなら、近衛騎士を目指しなさい」
近衛騎士。格好いいね。
それからは近衛騎士を目標に、最低限のマナーは身につけた。
といっても男爵家だから、そんなに貴族っぽくはないけれど。
その頃には、いい結婚相手を探すことしかできない淑女たちを、可哀想だと哀れむようになっていた。
それから数年経った。
ふと気がつくと、女の子たちが男の子たちを見学したり、差し入れに来たりするようになった。
もちろん、以前からそういう女の子たちはいたんだけど、自分が年下だったから気にならなかったんだ。
いや、彼女たちが「女の子なのに頑張っているのね」と私をダシに、「優しい女の子」を演出しようとしているのが嫌だった。
何度か、子どものふりをして、彼女たちの下心を暴露してやったこともある。
すぐ泣いて、見学に来なくなるから面白かった。
同世代の女の子たちを眺めていると、複雑な気持ちになる。
婚約者に気に入られようと必死だったり、いい男がいないか探している姿は滑稽だった。
自分の実力で高みを目指さないで、どうするの?
「ねえ。あそこにいるのって、あんたの婚約者?」
ちょっと肩に肘を置いたら、観客席がどよめいた。
日傘を差して、小さく手を振ったりしていた。侍女が持っているふわふわのタオルを、後で持ってくるつもりなんだろう。
「お、おお。俺が剣を振るう姿を見たいって言うからさぁ」
いつになくデレデレする男に、イラッとする。
「へえ。格好いいところ、見せられるとイイネ」
そう言いながら、背中をパンと叩いてやった。
外野で見ているしかない女の子の視線が痛い。
あははは。悔しかったら、剣を取ってここまで来ればいい。
「あなた。剣の腕を磨くのもいいけれど、女の子の友達も作らないと駄目よ」
夕食の時間に、母にそう言われた。
「女の子たちって、集団でないと何もできないし、陰口ばかりじゃないですか」
「そういう子もいるでしょうけど、そうじゃない子もいますよ」
母はきれい事ばかりを言う。「そうじゃない子」がいるなら、連れてきてほしい。
「まあまあ。食事時に喧嘩しなくても、いいじゃないか。
貴族学園に入学したら友達もたくさんできるだろう」
「さすが、お父様」
こうやって持ち上げてあげると、いいんだよね。
「何を言っているのですか。その前にある程度、親の派閥を通じて顔なじみを作っておくのが常識です」
「そういう束縛が嫌なんですよね」
剣術道場で聞いた、誰かの言葉を持ち出してみた。
「こういう、さっぱりした気性の女の子がいてもいいだろう。新しい時代の女性という感じがしないかい?」
父上は肉を一口大に切りながら、いいことを言った。
「僕は、女性らしい姉上が欲しかったです」
生意気な弟は、男のくせに剣術がまったく上達しない。
後で稽古をつけてやろう。
胸が膨らんでくると、仲間たちの態度が優しくなった。
「重い物なら持ってやるよ」
「なによ、運べるって」
「いいから貸せよ」
こんな些細な会話が、どれだけ自尊心を満たしてくれることか。
子どもの頃に、がっしりしていてドレスが似合わないと笑われた。あのとき笑った子たちが、遠くから悔しそうに私を睨みつける。
ああ、気持ちがいい。
所詮、飾るしか能のないお人形さんたち。
悔しい?
でも、真似できないでしょう。
騎士科の女生徒たちには、私よりもごつい人も、華奢な人もいた。
入学初日からすでに派閥ができていて、なんとなく居心地が悪い。男の子たちと一緒にいるからいいけどさ。
「お前、女子の方に行った方がいいんじゃないか」
剣術道場で仲がいい子に、そう言われた。
「なんでよ。冷たいこと言うんだね」
友達が、急に詰まらないことを言う奴になってしまった。
数日距離を置いて、頭を冷やしてもらおうと思った。
でも、その間に、学園で初めて会った男の子たちと一緒に行動するのも楽しいと知った。
子どもの頃からの知り合いよりも、女の子扱いしてくれる。
そんな彼らに、幼なじみと同じように接すると、ドギマギしてくれる。
ああ、楽しい。
そのうち、私は特別に格好いい男子に目をつけた。
婚約者は侯爵令嬢だって。
なるほど。
獲物は大きい方が、落とし甲斐があるよね。
いつも通りの私でいい。
素直に、ありのままの私で、気取った女の子たちに少しだけ思い知らせてあげる。
私は着飾ったりしない。
お化粧で誤魔化したりもしない。
実力だけで、勝負しているの。
私は欠陥品なんかじゃない。
特注品なのだから。
この子は骨格診断でいうと「ナチュラル」なので、ローウエストのワンピースなどが似合います。
天然素材の、ラフでカジュアルな格好がお勧め。




