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デート回

 僕の朝は早い。


 基本的に休日は12時まで寝ると義務教育で習ってはいるが、今日は朝の7時に起きる。


 まず初めに歯を磨き、そしてお風呂に入り、他意はないが念入りに体を洗う。


 そして朝食を食べた後、歯を磨き一度仮眠を取る。


 そして10時頃に目を覚まし、歯を磨いて風呂に入る。


 そして、昨日の30時にようやく決まった服を着て、家を出る。


 そう。今日はまちに待ったデートの日である。


 待ち合わせ場所として駅の前としているが、正確な場所は決めていない。だが、目印があるため簡単に見つかった。


「お!!あそこか」


 大量の人混みをかき分け、中央で囲まれた彼女に会う。


「おまたせ、待った?」


「はい!!楽しみで30分ほど待っていました!!」


 おやおや。とんだお転婆ガールだぜ。


「それでは皆さま、このかわい子ちゃんは僕の連れなんで失礼するよ」


 集まっていた男どもの嫉妬を栄養素にし、小春の手を引く。


「それで?お昼はにんにくマシマシのラーメンでいいか?」


「わぁ!!私、ラーメンを食べるのは数年ぶりです!!」


「冗談だったんだが……ラーメンもいいけどさ、あそこのメチャンコオシャレなカフェにしようぜ」


「あ…あそこは……」




 カフェでコーヒー(中まで砂糖たっぷり)を(たしな)む。


「懐かしいですね。あれから二年ですか?」


「ああ。そうだね。僕がラップに挑戦して、ストリートファイトでボコボコにされたあの時から二年か」


「い、いえ、それではなく別の……」


「ああ!!すまない。僕がハッカー集団に憧れて、学校のパソコンのエンターキーだけを全て壊してしまったことだったね」


「それでも……ええ!?そんなことしてたんですか!?」


「そうだよ。僕が不良に絡まれてる女の子を助けた前日に起きた悲しき事件だった」


「私との出会いの前日にそんなことがあったんですね。空君の中学の思い出を一つ知れて嬉しいです」


 何この子?聖人の生まれ変わりか何か?


「これからの予定は小春が決めてるって言ったけど、何するの?」


「まずはショッピングに行きたいと思ってます」


 ほう?


「それまた王道だな」


「実はこの前恋愛小説を読みまして。それで、買い物している姿に少し、憧れてしまいまして。ダメ、でしょうか?」


 この子はまーたすぐに上目遣いして。確実にこいつは自分の武器を分かってる。前世は多分悪魔か何かだろう。


「もちろんオッケーだ。荷物持ちでも強盗でも何でも付き合うよ」


「ありがとうございます。最初はタピオカを飲みに行きたいです」


「意外とミーハーだな」







「どちらが似合いそうですか?」


 僕は今、人生で最大の選択に迫られている。


 僕の目には白の服と黒の服が我を選べと主張している。


 この質問はある意味初見殺しと言っても過言じゃない。


 女性の方は答えを気にしているのではなく、共感して欲しいだけ、と言ったデマ情報に惑わされてはいけない。


 この場合には結局、あらゆる選択が失敗になってしまう。ならば正解とは、全ての選択肢を淘汰(とうた)すればいいだけのこと。つまり


「両方とも小春に似合うから、どっちも僕が買うよ」


 This is 金の暴力。


 金は全てを解決する。


 これは絶対の真理で不変の(ことわり)である。


「いえ、お金は自分でお払いしますし、私が着たいのは空君が選んでくれたお洋服なので、決めてくれると嬉しいのですが」


「あ、じゃあ左の方で」


 お金なんかじゃ計れない大切なものがこの世には溢れている。これは絶対で不変である。


「空君はこういったものがお好きなんですか?」


「う〜ん、僕的には好きってわけじゃなくて、小春に似合う方が黒よりも白ってイメージだったからかな」


「そうでしょうか?でも、そう言ってもらえるのは嬉しいですね。それでは少し試着してきますね」


 しばらく待っていると試着室のカーテンが開く


「ど、どうでしょうか?」


 そこには女神がいた。


 僕の拙い語彙力で表現するにはこの言葉しか見つからないほど美しく、ついつい長い間無言で魅入ってしまう。


「あ、あのー。空君?」


 まずい!!(ほう)けてしまった。何かリアクションせねば!!


「(ご、ごめん。あんまりにも小春が綺麗でついつい見惚れてしまっていたよ)ーーは?マジ可愛すぎなんだけど?意味が分からん。イライラしてきた」


「え?あの?ありがとうございます?」


 褒められたのか怒られたのか分からず困惑する小春。


「冗談はさておき、すごく似合ってるよ。だけど本当にそれでいいの?もう少し選んでもいいんじゃないか?」


「大丈夫です。空君が選んでくれた物を着たいので」


「そっか。嬉しいよ」


「ふふ。こちらこそ」










「すごく……甘酸っぱいわね」


「糖分過多ですよ。色々先輩が照れ隠しで誤魔化してますけど、あれはただのラブラブカップルですよ」


「う〜ん。やっぱり妬いちゃうなー」


「このジェラシーを糧に、真白はヤンデレにグレードアップしてもいいですか?いいですよね?」


「それは明日からにしなさい。今日までは我慢よ」


「移動したね。次はどこに行くのかな?」


「あの方向は……おそらく映画を観に行くと思います」


「これまたベタですね。さすがに映画は場所が重なればバレちゃいますよ?」


「そうだねー。せっかく変装してきたけど、さすがにバレちゃうもんね」


「なら三人でこのまま違う映画でも観に行きます?」


「それいいですね!!真白、この前出たゴジ◯VS◯ャッキーチェンがいいです」


「ああ!それ私も気になってたんだ。冷華ちゃんもそれでいいかな?」


「はい。大丈夫です。空も『真に核反応を使いこなした方が勝つ勝負だ』と話していたので、私も気になってたんです」


「ほらほら先輩方。速く行かないと間に合いませんよ」








「やっぱり恋愛映画か?」


「どうして分かったんですか?」


「さっき自分で恋愛小説を読んだって言ってたじゃないか」


「すっかり忘れてました。最初はゴ◯ラの方にしてたんですが、やはり感情は移ろいやすいですから。どちらがよかったですか?」


「僕もそっちは気になってはいたけど、やっぱり今日は恋愛映画を観たい気分かな」


「それならよかったです」


「まぁ、小春と一緒なら何を観たって楽しいんだけどね」


「もう!!それはこちらの台詞ですよ」








「すみませーん、ポップコーンのコーン盛りってありますか?」


「申し訳ありません。当店ではそのような商品は取り扱っておりません」


「コラ小春ちゃん。店員さんに迷惑かけたらダメでしょ」


「すみません。もしかしたら裏メニューの合言葉がヒットするかもと思いまして」


「そんなのあるわけないでしょ」


「そうですよね。すみませーん、ポップコーンのガーリックにんにくマシマシ一つお願いします」


「承知致しました」


「それにしても先輩、どんどんボケなくなってきてませんか?」


「あれは何もかも忘れて全力で楽しんでるんでしょうね」


「いつもは常にニヤけ面しか浮かべてないのに、今は旬君みたいな爽やかな笑顔でしかないよ」


「いやもうそれ落ちてますよね?誰ですか?小春さんをチョロ雑魚即落ちちゃんなんて言ってたの。先輩の方がクソ雑魚ナメクジじゃないですか」


「それを言ったのは昨日あなたが小春に愛してるゲームで圧勝したエピソードを話した時よ」


「真白はマジレス受け取り不可なんです。全く、こんな気持ちじゃ映画なんて楽しめませんよ」







「感動した」


「私もです。二人が結ばれてよかったです」


「やっぱりどんな困難があっても乗り越える二人の姿には魅力を感じるなー」


「闇の中にいた彼女からしたら、彼はまさしくヒーローそのものだったんでしょうね」


「やっぱり小春もああいうの憧れるの?」


「う〜ん……そうですね。私もある意味そうかもですね」


 なんか曖昧だな?


「どちらにせよ、ラストの展開には胸を熱くさせられました」


「そうそう。特に最後のキスシーンなんて涙無しじゃ観られないよ」


「そ、そうですね。……やっぱり、キスをすると幸せな気持ちになるのでしょうか……」


 ボソリと吐いた小春の言葉に、ついつい唇へと視線が釘付けになってしまう。


「そ、そうかもね。したことないから分かんないけど……」


「あ…そ、そういうつもりじゃなかったんですけど……い、いつか、体験したいものですね」


 小春と目が合う


「そうだね!!」


 緊張して声が裏返ってしまう。


「「…………」」


 ぎこちない沈黙だが、何故か嫌ではなかった。







「感動しました!!」


「私もよ。二人がタッグを組んだ瞬間は何かくるものがあったわね」


「最後の戦闘シーンは涙無しじゃ観られなかったよ」


「そうですよね!!やっぱり◯ャッキーがゴジ◯から受け継いだ放射熱線を撃つシーンはすごい迫力でした!!」


「そうね。……だけど、もうあの二人が会うことはできないのかしら……」


「……」


「そう……かもしれないね」


「あ、ごめんなさい。そんなつもりで言ったわけではーー」


「会えますよ!!きっと……きっとあの二人ならもう一度!!」


「「…………」」


「ええ。そうね」


「うん!!そうに違いないよ!!」


 三人にはそれ以上の言葉は必要なかった。


「ところで先輩達どこに行きましたか?」


「あっちの方に行ったの見たよ」


「その方角は……確か公園がある場所ですね」


「な!!そんなのどう考えてもクライマックスじゃないですか!!こんな場所で無駄話してる暇ないですよ。速く行きましょう!!」


「それもそうね。少し駆け足で行きましょうか」


「お!!何でか知らないけど体が鈍ってたからちょうどいいね」


 映画に対する関心は、もう無くなっていたのだから。








「なんだか二人でベンチに腰掛けていると、まるで熟年夫婦みたいじゃないですか?」


「そうかな?でも、いくつになっても小春は可愛いままなんだろうな」


「ふふっ。そう言う空君は、年齢を重ねるたびにどんどんカッコよくなっていくんでしょうね」


「それって多分内面の話だってことは僕でも分かったよ……」


「もう!!空君はどこを見たってカッコいいですよ!!」


「あ、好き」


「私もですよ」


「「…………」」


 春の暖かい風が吹く


「やっぱり私じゃダメですか?」


 真剣な目をした小春と向き合う


「空君がみんなのこと大好きなのは分かっています。私だって三人のことを本当に、本当に大好きです」


 でも と彼女は続ける


「そんな彼女達と同じじゃ嫌なんです。私はわがままですから、私一人を愛して欲しいと願ってしまうんです。きっと、こんな私を空君は幻滅してしまうかもしれません」


「そんなことーー」


「それでも!!私を選んで欲しい。これからだって、少しぎこちないことだって起きるかもしれません。けれど、みんなはきっと、きっとまた、仲良しになるんです。そんな中で私を、私だけを少しだけ、特別な存在にしてくれませんか?」


 …………


 小春の頬を一粒の涙が伝る


「きっと僕は、小春と付き合えば、この世界で一番幸せな人間になれるんだ」


「それでは!!」


「でもね、小春。僕はそれ以上を求めてしまう。世界で一番幸せになっても、僕は、僕の大切な人が同じくらい幸せになってなきゃ満足できないんだ。そして、幸せにするのは自分の手でなきゃ嫌なんだよ」


「……」


 彼女と同じように、だけど僕らしく、笑いかけながら


「僕はわがままで最低な人間なんだよ。歪んだハッピーエンドしか望めない(みじ)めな男さ。どう?こんな僕に幻滅してしまったかい?」


 彼女は泣きながら、それでも笑って返してくれる


「そんなわけ……ないじゃないですか。私が好きになったあなたは、最低でわがままで歪んでいて、それでも笑って私を救ってくれる。そんなあなたを愛してしまったんです」


 そして、いつの間にか僕の胸の中にいた彼女は宣言する様に


「諦めませんから!!私は、私もわがままですから!!あなたの唯一になるために」


「ああ。僕だって諦めない。絶対にみんなを幸せにする」


「……負けませんから」


「僕だって」


 ほんの少しだけ強く、力を込めなおした。




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