生徒会
小春とのデートから数日。
今日は朝から何の意味があるのか分からないランキング第83位の全校朝会という名のランダムイベントが発生していた。
「であるからして、今年の球ーー」
校長先生の睡眠ヴォイスを子守唄に眠りにつこうと考えていると
「皆さん、おはようございます。生徒会長の櫻木旬です」
いつの間にか中年ハゲが爽やかイケメンである旬先輩にフォルムチェンジしていた。
「なぁ颯人。多分違うと思うが、旬先輩は校長先生のアローラの姿とかだったりする?」
「逆に何故疑う余地があったのかが気になるんだが」
旬先輩が話し始めると、周りの女子達が喚き始める。
「やっぱり旬先輩ってカッコいいよね」
「それな。あの顔で性格もいいとか神じゃね!!」
「私、この前櫻木先輩に話しかけられちゃったんだよね」
「えー、ずる〜い」
ピーチクパーチクと騒ぐアホども(空の方が成績低いです)
「チッ、イケメンに靡く面食いどもが」
「お前も面食いのくせに何言ってんだよ」
「おいおいそんなわけーー」
好きになった傾国の美女達が頭をよぎる
「あまり人のことを悪く言うもんじゃないぜ!!親友」
「手のひら曲がってるけど大丈夫か?」
へへ。そんなとこまで心配してくれるなんてやっぱ良いy
「それとさ、同じクラスの颯人君って結構カッコよくない!!」
「分かる!!あんまり前に出ないけど、隠れイケメンって感じ」
「この前もプリント運ぶのとか手伝ってくれたし」
やはり相容れぬ存在だったか……
「まさかお前を手にかける日が来るとはな」
「俺は殺されるのか?」
結局、騒いでいる女子達と同じ声量で話していたが、ある一声に全ての雑音が消える。
「お静かに」
整然と前に立つは、身も毛もよだつ美女であった。
以前、美桜先輩を語った際にはスポーティーなイメージと話したが、今の彼女は髪を下ろし、その佇まいからは気品が感じられる。
「すげぇ美人」
普段からあまり感情を前に出さない颯人ですら、口から溢れ落ちる程である。
「それでは、会長に続きまして私からーー」
静寂で支配された空間が少しだけ動き出す。
だがそれは意図したものでなく、抑えきれない想いを、それぞれが口に出した結果であった。
「副会長のあんな姿初めてみた」
「私も。きれー」
「あの人が有名な美桜先輩か」
「あれだけ美人だと嫉妬すら湧かないよ」
賞賛。羨望。驚愕。様々な感情が渦巻くが、そこに負の感情は一つも無かった。
一人を除いては
「…………(ニチャア)」
「きっしょ(ドン引き)」
歴代でも類を見ないほどに冷ややかな目をする颯人。
「キモ」
「え?まだ言うの?さすがに傷つくよ?」
「顔もキモいが、理由を聞いて欲しそうなところも更にキショい」
「実はあれを手がけたのは他でもない、この僕なんだよ」
「勝手に喋り始めたし……」
それは、僕が目覚ましを早くかけすぎてしまい、学校に30分前出社してしまったことが原因である。
「早く着きすぎたけど、私一応生徒会に行ってくるから」
「どうして?」
「今日は朝会で生徒会からの連絡があるから、その内容の最終確認よ」
へー。相変わらず生徒会は大変そうだなー。
「暇だから僕も行っていい?」
「それは聞いてみないと分からn」
「じゃあ行こっか!!そー君」
突然、黒髪のスポーツ少女が乱入してきた。
「ここで美桜先輩を倒したら乱闘とハーレムに参戦してくれるかな?」
リ◯ルマックの横スマを再現する。
「スマ◯ラをするのはまた今度ね。ほらほら、二人とも行くよー」
僕と冷華は美桜先輩にズルズル引きづられていく。
「おや?空君。生徒会に何か用かい?」
生徒会室には、ぽつりと旬先輩がいた。
隠しキャラみたいだ。
「旬先輩早いですね。やっぱり旬先輩も朝早く、誰もいない学校で歌を熱唱しながら廊下を走りたいお年頃なんですか?」
「それをするのはあんただけよ」
旬先輩が苦笑いを浮かべる。
ことの経緯を知り、僕がこの世と生徒会室に存在してもいい許可を得る。
「ツッコムのだるいから、空はこれの整理しといて」
「ほいほ〜い」
しばらく時間が経ち、通いすぎてこの学校では珍しく僕に友好的な生徒会メンバーが揃い始める。
「天川君また来たの?ここは遊び場じゃないよ?」
「天川。お前が美桜や冷華が好きなのは分かるが、あまり生徒会に迷惑をかけるんじゃない」
ツンデレ達の戯言を聞き流す。
そして、僕を空気かの様に扱いながら会議が始まる。
「今日発表する内容としてはーー」
今までの感じから、美桜先輩が副会長であることなど皆が忘れていたと思うが、彼女は真剣な状況だと非常に出来る女感があり、言動だけは会長そのものである。
だが
「やっぱりポニーテールがいけないと思うんだ」
隣に座る冷華に話しかける
「今は忙しいのだけど」
「いや、美桜先輩のポニーテールは最高だよ!!あの顔立ちにはまさにベストマッチだ。だけど、やっぱり会長っぽいイメージはないよね」
「保育園児でもまだ話は聞く方よ?」
冷華の呆れた声と同時に美桜先輩の話に区切りがつく。
「美桜先輩。ちょっとこっちに来て下さい」
歴戦の猛者の様な顔をした僕に、美桜先輩が心配そうに声を掛ける。
「ど、どうしたの?何かあった?」
「後ろを向いて下さい」
「え?う、うん」
実は、僕は彼女が出来た時に色んな髪型を試したいが故に、妹の髪を弄り、様々な髪型を再現することが可能となっている。その際に妹にも『触り方きっしょ』とお墨付きをもらっているほどだ。
そんな僕が、美桜先輩のポニーテールを造形するゴムを解く。
パサリ
枝毛一つない漆黒の髪が重力に従って落ちる。
「神は……生きていた……」
何ということでしょう。
先ほどまでは元気潑溂といったイメージだった美少女が、今では大和撫子と呼ぶに相応しい美人さんに早変わりしてしまったではないか。
「ふええ。そ、そー君、急に何するのさ!!もー」
『全く全く』と一人いつも通りの様子を見せる美桜先輩。
「あ、あれ?みんな黙ってどうしちゃったの?」
皆の様子がおかしいのに気づいてた様子だがもう遅い!!
僕は美桜先輩に向けて一歩を踏み出ーー
「何をしようとしてるのかしら?」
冷華に腕を掴まれ阻まれてしまう。
「離せ!!僕は……僕はヤル時はヤル男なんだ!!」
「カッコいい風に言わないでくれる?」
な、何だよぉ……ち、ちょっとお触りするだけじゃないか
僕達の周りは美形が多いため、ある程度耐性がついているが、他の生徒会メンバーは皆すべからず思考停止してしまっていた。
特に顕著なのは旬先輩だ。
顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている。
女の子がすると可愛い表現だけど、男がしてるとなんか滑稽だな。お可愛いこと。
「見ろよ冷華。あの完璧超人である旬先輩が機能停止してやがる」
「珍しいこともあるのね」
冷華に隙ができたため、僕はもう一度美桜先輩を襲いに行
「お遊びが過ぎますよ。天川君」
「ははっ!!」
な、なに!!
何者かの声により、僕はいつの間にか頭を垂れていた。
それはまるで、女王に従う騎士が如き姿であった。
「あなたはもう少し落ち着きを持ちなさい」
「申し訳ございません。美桜様」
彼女は見かけによらず非常に聡い人間であるため、どうやら周りの反応から自身が今どんな姿か察したようだ。
「言葉だけでは信用しかねます。態度で示すのが忠義ではないのですか?」
「承知致しました」
僕は美桜先輩の手を取り、その甲に口づけをーー
「美桜さん。おふざけがすぎますよ?」
さすがに冷華のストップが入る。
「にゃはは。いやー、多分だけど今の私って高貴感漂ってるんでしょ?そー君もノってきたし、やらなきゃ損かなー?って思ってさ」
美桜先輩は僕の知る中で真白の次にノリがいい女性である。
僕達の一芝居が終わる頃には、生徒会メンバーも復活の呪文を覚えていたようで生き返ることに成功していた。
「い、いやー、やっぱり副会長は何というか……すごいですね」
「髪を下ろすだけでここまで変わるとは」
口々に感想を述べていくアンデット達。
「美桜さん髪下ろすと雰囲気変わりますね。どうしていつも同じ髪型にしかされないのですか?」
冷華が疑問を口にする。
「う〜ん、別に大した理由があるわけじゃないよ。表現するには難しいけど、昔の思い出的な何かだと思ってくれれば」
へーーーー
僕的にはウ◯娘に憧れて、せめて尻尾だけでも頭につけようとしてるのかと思ってたんだけどな。
「普段の美桜さんも素敵なことには変わりありませんから、あまり私の言葉も気にしないで下さいね」
まぁ受け取り方によっては『そっちの方がいいじゃん!!普段の髪型クソダサじゃね』と思われるかもしれない。
「大丈夫だよ。冷華ちゃんとは長い付き合いだからね。そのくらいお見通しだよ」
そう言ってウィンクする美桜先輩。
「ふふ。そうですね。実は私もそう答えてくれると思って聞いていました」
意趣返しとばかりにやり返す冷華。
「ええ〜。意地悪だなー」
冷華と美桜先輩の間で温かな空気が流れる。
いい話だなぁ〜
「ところで空はいつまで美桜さんの手を握っているのかしら?」
がっちりと繋がった手。
一体いつから僕が手を離したと錯覚していた?
「そー君、手汗すごいね」
僕は純情ちゃんなので、手を繋いだだけでも緊張するお年頃である。
そんな思春期真っ只中で、手汗すごいと言われ結構ダメージを食らう僕ではあるが
「絶対に離したくありません!!」
男は時としてプライドを投げ捨て、本当に大事なものを選択する時があるのだ!!
僕の真剣な目を見た冷華。
にっこりと笑った彼女におもっきし頭を叩かれ、渋々手を離す。
「俺は天川のあの胆力だけは見習うべきだと思ってる」
「いや確かに胆力は身につけておくといいと思いますが、あの胆力はダメだと思いますよ?」
僕の勇気ある行動を褒めちぎってくれる皆々。
アイドルが如く手を振りかえしていると
「空君。次そんなことしたら出禁だから」
「大変申し訳ございません」
旬先輩に怒られてしまった。
一度、バレンタインの日に旬先輩にカカオ100%のチョコを仕込んでも、次の日ニコニコで学校に来た人が怒るとは思いもしなかった。
「しゅ、旬先輩ってこんなことで怒るっけ?」
ヒソヒソと冷華に聞いてみる
「まぁ、人が人だし、ある程度は許せても目の前で見せつけられるのはさすがにキツイからじゃない?」
それってつまり……
僕にだけ厳しいってことかな?
「おふざけも大概にね、そー君」
「はい、姫様」
「うん。よろしい」
何だかんだで許してもらえた。
一つ落ち着いたところで、ある提案をしてみる
「ところで美桜先輩。今日の朝会は、その髪型のまま出てくれませんか?」
「え?別にいいけど……どうして?」
「あ、いえ、別に大した理由じゃないんですけど、他の生徒が今の美桜先輩を見て感動してる時に、心の中で『あの髪型を見出しのは僕なんだけどね』とマウントをとりたいからです」
「ホントに大した理由じゃないわね」
少し悩んだ様子を見せる彼女であったが
「まぁ、それでそー君が喜んでくれるならいいよー」
この人の前世はきっと仏陀か何かだろう。
そんな朝の出来事も通り過ぎ、全校朝会は終了した。
先ほどの美桜先輩の姿を思い出すと、一つの疑問が浮かぶ。
「なぁ颯人。一人の人間が相反する二つの属性を持つなんて……人として許されることなのか?」
「いや知らんがな」
体育館を出ようと颯人と話していると、ちょうど生徒会が集まってるのが見えた。
「とりあえず絡みに行ってくるわ」
「おう」
僕は昼ごはんである牛丼が入ったタッパを手に持つ。
「あ、あの、お疲れ様です、会長。これ、僕が作ったレモン漬け何ですけど、食べてくれませんか?」
部活終わりの先輩に差し入れする後輩ムーブを披露する。
旬先輩が『自分?』と指をさすが、冷華がわざわざ説明をしてくれる。
「旬君がいるのに会長って言ったら混乱しちゃうよ」
「ごめんなさい。だけど、今の美桜先輩は完全に会長に相応しいお姿ですよ。普段からそれでもいいのでは?」
そう聞いてみるが、ブンブンと首を振り否定する。
「やっぱりあの髪型が馴染んでるからいいよ。それに、ポニテの方が運動しやすいからね!」
きた!!
「いやー、そう返ってくると思って聞いたんですけどねー」
そんな僕の発言を訝しむように見据える美桜先輩。
「ふ〜ん。それはどっちの意味なのかな?」
「へ?どっちの意味?」
え?別に冷華とのやりとりがカップルっぽかったからしただけなんですけど……
「ま、どっちでもいいんだけどねー」
美桜先輩は笑っていたが、少し不機嫌そうに帰っていく。
「もしかして……あの髪型って……」
伏線か?




