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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第九話
75/277

4

リトンの街は荒野のど真ん中にある僻地の街だが、かなりの人口を誇る大都市である。

そこの大聖堂となると観光や巡礼に来る旅人もそれなりの人数になるので、近所に大きな宿屋が有った。

時刻はほとんど夜になっていたので、テルラ一行はその宿で一夜を過ごす事にした。


「うわ、凄い。エントランスに噴水が有るんですけど」


「マジか。飲めるのか?」


カレンとプリシゥアが水に吸い寄せられて行っている横で、テルラが共用の財布の中身を確認していた。


「宿代が高そうですけど、背に腹は代えられません。帰りの費用が無くなると困りますので、食事以外の雑費も各々の財布から出してください」


この宿は一階に客室が無く、ほとんどが食堂になっているタイプで、チェックインを受け付けるフロント前をそこそこの人数が素通りしている。

軽装ばかりなので、旅人だけではなく、近所の人達も利用している様だ。

水が有料だと、家で調理するより外食をした方が安いからだろう。


「仕方が無いですわね。酔っ払いが大勢居そうな賑やかさですので、部屋に持ち込める量だけの食事にしますわ」


レイくらいの美女になると、ただ居るだけで酔っ払いに絡まれるので、誰も反対しなかった。


「僕も初日は食費を削りましょう。それはともかく、いつもの様に二部屋取りますが、構いませんね?」


「値段次第っスね。最悪一部屋にスシ詰めにするっス。ベッドが足りなかったら、私が床に寝るっスよ」


プリシゥアの言葉に頷くテルラ。


「では、そんな感じで部屋を取りましょう」


テルラ一行は、噴水に張り付いている二人を残してカウンターに向かった。

普通の宿だと男性が受付をしているが、ここの様な立派な宿は女性が受付をしている場合が多い。

女性が受付をしている宿は、なぜだか防犯設備がしっかりしている確率が高い。


「すいません。五人でハンター部屋を二部屋取りたいんですが」


テルラ達のハンター許可証を見た受付のお姉さんは、手元の帳簿に目を落とした。


「いらっしゃいませ。ハンター様向けの部屋は、六人部屋がひとつ開いています。二部屋となると一般部屋となりますね」


「なら六人部屋で結構です。おいくらでしょうか」


「この様になっております」


示された料金表に目を落としたテルラは、料金に納得して頷いた。

食事と水がついていないせいか、他の街より安い。


「では、その部屋で」


「ありがとうございます。料金は前払いです」


「はい」


テルラが財布の中身を勘定していると、受付のお姉さんが声を潜めた。


「ハンター様、危ないところでしたね。ご存知でしたか? 今この街では、夜間の外出が禁止されているんですよ。かなり危険な魔物が出現しているとかで。夕方に到着していたら街に入れませんでしたよ」


「そうなんですか。どんな魔物なんですか?」


「目撃者によると、かなり背が高い女らしいです。この街特有の魔物が居るんですが、それとは違う、幽霊みたいな感じだそうです」


「と言うと、人間の見た目に近い?」


「噂ですから、正確には分かりませんけどね。でも、男の人、特にお客様みたいな若い男の子を攫って行くって話ですから、人間に近い女の魔物だと私は思いますね。行方不明者の親が懸賞金を上乗せしていますから、噂でも信憑性は高いかと」


レイは頬に手を当て、驚いた声を出した。

目が笑っていない。


「まぁ。男の子だけを狙って攫う魔物とは珍しいですわね。気を付けましょうね、テルラ」


「そうですね。――未だ解決していないと言う事は、この街の勇者様でも退治出来ないんでしょうね」


「大人の男性の前には現れないから子供の囮を使ったりしたみたいですが、良い結果は全然聞きませんね」


「囮ですか」


会話しながら代金をカウンターに置くテルラ。

それを確認した受付のお姉さんは「二階の8号室です」と言って部屋の鍵をテルラに手渡した。


「そんな訳ですから、夜は絶対に外に出ないでくださいね。お客様はハンターですから退治しようとするでしょうが、止めておいた方が良いですよ。今まで何組ものパーティが挑戦しましたが、全部返り討ちに遭っているみたいですから」


「貴重な情報ありがとうございました。今後どうするかは、仲間と相談して決めます」


一礼してから階段の方へと歩き出したテルラ達の前に一人の女性が立ち塞がった。

黒髪ボブの、切れ長の目の女だった。


「失礼。聖都からいらしたハンター様でしょうか」


「はい、そうです。貴女は?」


テルラが頷くと、女はテルラの耳元で小声になった。


「私は聖女様の使いです。ちょっと問題が有り、大聖堂内がゴタゴタしております。そのせいで門前払いの様になってしまい、本当に申し訳ございませんでした」


「問題とは?」


「それについてお話したいので、皆様の夕食が済みましたらお部屋に伺っても宜しいでしょうか。他人に聞かれたくない内容ですので」


「分かりました。もう日が暮れていますから、夕食を後回しにし、今すぐお話を伺いましょう」


「いえ。たった今魔物について聞かれていましたからご存知でしょうが、現在夜間の外出が禁止されています。ですので、私もこの宿に泊まります。時間はたっぷりございますので、ゆっくりと夕食をお取りになっても構いませんよ」


噴水は飲めるがコップ使用料を取られると知ったグレイが話に入って来る。


「なら、話は旅の埃を落としてからにしよう。風呂は無理だろうが、着替えくらいはしないと臭い。ずっと水浴びが出来なかったからな」


その言葉を聞いたレイとカレンが自分の臭いを気にし出した。

プリシゥアとテルラは無頓着。


「懸賞金が上乗せされてるってさっき言ってたから、失敗しない様に腰を落ち着けてゆっくりと聞こう。腹も減ってるしな」


「グレイの言う通りですね。では、一時間後を目途に二階の8号室に来てください」


「畏まりました」


軽く頭を下げた黒髪ボブの女は、自分の部屋を取りにカウンターの方に歩いて行った。

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