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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第六話
47/277

2

カレンはベッドに座って錬金術の本を読み込んでみた。

文字はちゃんと読めているはずなのに、何が書いて有るかサッパリ分からなかった。

単語のひとつも頭に入って来ない。


「別に難しい事が書いてある訳じゃないのになぁ。もっとこう、なんて言うか……。そう、解説書! そんな本が有れば良いのに」


最初のページに書いてある通り、これは研究書。

教科書ではないのだ。

だから基礎や基本は必要最小限しか書かれておらず、『分かっている人』じゃないと読み解けない。


「もしかしたら有るかも。研究を引き継いで欲しいなら、そう言うのもセットで置くはず」


そう思ったカレンは、再び壁の小さな空間を探ってみた。

開ける手間が結構面倒なので、ここは開けっ放しにしていたのだ。

だが、仕掛けらしき物は無い。

これ以上のスペース、少なくとも本を隠すスペースは無いと思われる。


「やっぱり無いか。もうここに用事は無いわね」


ガッカリしながら壁板を元に戻すと、ドアがノックされた。


「はい」


「テルラが呼んでいるから玄関まで来てくれ。今すぐ。客が来ているみたいだ」


グレイがドアの向こうでぶっきらぼうに言う。


「お客? 私が呼ばれるなんて、なんだろう」


ドアを開けると、屋内なのに黒コートを着ているグレイが立っていた。

海賊帽は被っておらず、赤い髪を揺らして顎をしゃくった。


「カレンだけじゃない。全員集合だ。行くぞ」


「全員が呼ばれるなんて、ますます不安だわ」


気怠く階段を下りて玄関に行くと、他の三人が立派な鎧を着た見知らぬ二人の対応をしていた。

その人達がお客さんか。


「来ましたね。全員揃ったところで自己紹介をしましょう。僕はテルラ。今はハンターなので、普段はこう名乗っています」


テルラに促され、パーティーメンバーは順番に名乗る。


「ハンターのわたくしはレイと名乗っています」


「プリシゥアっス」


「カレンです」


「グレイだ」


「ご丁寧にありがとう。――では、俺も名乗ろう」


黒い鎧を着た若い男性は、黒いマントを腕で払ってワザワザはためかせた。

内側は赤いビロードだった。


「我が名はヤミト・ワファ・サーレ。元々は王国騎士で、夜の闇に潜む悪党から王都民を護る王都警備隊の小隊長だ。しかしこの度、レインボー・オン・エルカノート様の護衛兼派遣勇者として国王様に選ばれた。以後、お見知りおきを」


続いて、薄い桃色の鎧を着た女性はクールに頭を下げた。


「同じく、副長、ベリリム・クラク・アブレイドです。宜しくお願い致します。国王様の命により着任します」


「全く。護衛なんていらないと伝えましたのに」


普段着のレイが腕を組んで不機嫌そうに頬を膨らませた。

それに頷きを返すベリリム。


「はい。ですから、私達は派遣勇者として参りました。この街の役所にも、王族の護衛ではなく、騎士でもなく、派遣勇者で登録されています。この街には勇者が居ないので、どちらにせよ騎士団がなんとかしなければなりませんでした。この街の若者が勇者として立ち上がるまでは、例えレインボー姫のご命令でも私達は帰れません。騎士にとって、王命は絶対ですから」


「そう言う理由で少数精鋭ですが、この俺が来たからにはもう安心です。街を脅かす魔物だろうが、悪だくみする錬金術師だろうが、この剣で闇に葬ってやりましょう」


ヤミトが無駄に格好付けて言うと、カレンが目を見開いて驚いた。

今まで聞いた事が無い言葉だったのに、隠された本を見付けた途端に他人からそれを聞かされるとは。


「錬金術師? どうしてそれも退治するの?」


「この街には錬金術師が潜んでいた過去が有り、今も残党が残っているとの疑念が有る。公に出来ない事なので、密命として錬金術の痕跡を探す任務も負っているのだ」


「えっと、残党とか密命とかじゃなくて、退治する理由を知りたいんですけど……」


ヤミトでは話が分かり難いので、カレンは疑問を込めた視線をテルラに送った。

察して説明する金髪の少年。


「錬金術とは、世界を理解し、人の手で神の技を再現する学問です。しかしそれは神をないがしろにする行為なので、大聖堂は錬金術師を異端視しています。悪人と学者を同列にするのはどうかと思いますが、教会としては排除すべき対象なのです」


「どうして排除するの? 神様をないがしろにするって、どう言う意味?」


苦笑するテルラ。


「禁忌とされているので僕も良く知りませんが、錬金術の理解に至るには女神様より上位の存在の技を使うとされています。この世界の人間がこの世界の神を素通りして更に上の存在に近付く。それがないがしろと思われる部分です」


「更に上の存在? 何それ、どういう事?」


「分からなくて当然です。錬金術を極めた人は居ないので、本当にそうなのかを知る人も居ませんし。

つまり、今まで通り気にしなくても良いと言う事です」


テルラの説明が終わるのを待っていたヤミトは、格好付けて首を縦に振った。


「と言う訳で、俺達は勇者が居ないこの街に国から派遣された臨時勇者だが、レインボー様を守る事を第一とする。このお屋敷の近くに住むので、暮らす家が決まったら改めて挨拶に伺う」


「次に伺う時は、私達は王女をどうお呼びしたらいたしましょうか。レイ、と呼び捨てにしても宜しいのでしょうか」


ベリリムのお伺いに笑顔で頷く銀髪美女。


「ええ、レイと。余程の事情が無い限り、ハンターを相手にする勇者として振る舞ってください」


「了解しました。では、私達は家探しに行って参ります」


ベリリムが閉めたので、この場はこれで解散となった。

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