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自分の部屋に戻ったカレンは、ベッドの上に無造作に置かれている手製の本を見下ろした。
「錬金術ってダメなのかぁ。凄そうな雰囲気だったから、身に付けられたら将来安心かと思ったんだけど」
以前寄った街に、ハンターから勇者になった人が居た。
その人がハンターは若い内しか出来ない仕事だと言っていたから、
自分もこのパーティが解散した後の事も考えないといけないなぁと思っていたのだが。
「48の魔物を倒し切るにはまだまだ時間が掛かるだろうから、ゆっくり考えて行けば良いや。その内に良いジョブかスキルを見付けられるかもだし」
本は旅の荷物の中に入れた。
話を聞く限りでもヤバそうな本だから絶対に見付からない方が良いみたいだが、面倒な手順を取って壁の中に戻すのは錬金術の事を諦めてからで良い。
押し入れの中の巨大な鞄の中なら、例えばトキミが掃除の拍子に部屋に入ったとしても、そこまで深く探ったりはしないだろう。
カレンは錬金術の事は一旦忘れ、この街での日常に戻った。
翌日の朝、一行は普段着のままで役所の掲示板の前に立った。
パーティの目的は48の魔物の退治のみだと言っても、生活していたらお金が消えて行く。
だから仕事を求めて来たのだが、一行の顔色は良くなかった。
「ネズミ退治とハチの巣駆除と失せ物探しだけか。どうせパーティとしては受けないと思うが、受けたとしても俺の出番は無いから帰る。ネズミごときで弾を使ったら赤字だ」
グレイはさっさと帰ってしまった。
それを一瞥のみで見送るテルラ。
「思ったより魔物の被害が発生しませんね。あの不死の魔物の影響でしょうか」
テルラの言葉に頷くレイ。
「どんな理屈でそうなのかは分かりませんが、そうかも知れませんわね。普通ならすぐに魔物が湧いて出てしまうから、全ての国が困っている訳ですし」
魔物が突如発生したせいで、全世界から戦争が消えた。
魔物退治で忙しいから、戦力を人間同士の小競り合いに割くヒマが無いからだ。
まともな戦力がテルラ一行しか無いこの街が平和なのは、普通なら有り得ない現象なのだ。
「これなら派遣勇者の二人が居れば何とかなりそうですね。僕達が48の魔物退治に出かけたとしても、留守の心配は無いでしょう」
「そうですわね。しかし、魔物の被害がひとたび発生すれば甚大な被害になります。油断は出来ませんわ」
「先の事より、今日はどうするの?」
カレンが訊くと、テルラは仕方なさそうな表情になった。
「今日も各自自由行動ですね。また明日来ましょう」
テルラとレイ、そして護衛のプリシゥアが帰って行った。
誰も仕事を受ける気は無い様だ。
だから一人残されたカレンのやる気も出なかった。
「折角出て来たんだから、散歩して行くか」
カレンは市場の方へと繰り出した。
まだ朝市の商品が残っているだろう。
小腹が空いた時に間食出来る様なドライフルーツでも買っておこう。
「あれ? ヤミトさんとベリリムさんだ。何してるんだろ」
昨日挨拶した二人の派遣勇者が、市場が開かれている広場で子供と遊んでいた。
二人共帯剣してるし鎧も着込んでいるので目立つ。
「おはようございます。お住まいは決まったんですか?」
「貴女は――カレンさん。今手続き中だ。昨晩は宿に泊まったが、今日中に新居に移れる。改めての挨拶はその後で」
漆黒の鎧を着たヤミトは、右手を顔に当てながらそう言った。
おでこを出した黒髪少女の名前がすぐに出なかった様だ。
まぁ、王女と大聖堂の跡取りの二人の前では、その仲間でもその他大勢になってしまうのは仕方ない。
「そうですか。――ここへは食材の調達で? 私はおやつを買いに来ましたが」
市場は、料理人や料理に凝る主婦が調理前の食材を大量に買い込む場所だ。
店によってはパンや漬物、保存食等のすぐに食べられる物も売っているが、それは例外と言っても良いくらいの少数。
基本的には新鮮な野菜や肉が売っていて、今の時間ではほとんどが店仕舞いの準備を始めている。
「いや、情報収集だ。商人の子供は親に付いて街のあちこちを回っているから、面白い情報を持っているのだ」
ヤミトは黒いマントを風になびかせながら言う。
マントがなびくほどの風は吹いているので、魔法か何かでそうやっているみたいだ。
「色々な街に行く君達ハンターと違って、そして規律に従って動く騎士とも違い、勇者は街に密着した戦闘要員だ。だから、こうしたふれあいはとても大事なんだ。来たばかりの今はまだまだ手探りだがね」
思いっきりのけ反り、しかし表情は満足気にして言うヤミト。
動く度に鎧が金属音を立てるので子供受けは良いが、うるさくて会話の邪魔になっている。
「あの、何でいちいち格好付けるんですか?」
身振り手振りが目障りだから訊いてみると、ベリリムの方が応えた。
「こう言う人なの。気にしないでください」
「こう言う人、ですか? 昨日は普通でしたよね?」
「さすがにあのお方――レイさんの前では、彼も自粛します。しなかったら私が殴って自粛させます。それが副長である私の役目ですから」
「おいおい。ここでは勇者仲間だろ? キミは副長じゃないぜ」
ヤミトは、大袈裟な身振りでベリリムを指差した。
するとベリリムは真冬の吹雪よりも冷たい視線を仲間に向けた。
「――貴方は、上司に無礼講だと言われたら、本当に友達みたいな態度を取る人です。その変なポーズを取りながら。貴方の暴走を止めるのは私の仕事。そう言う事です」
「真面目だなぁ。折角規律から解放されたんだから、恥にならない程度に気を抜けば良いのに」
「細かい事はともかく、ヤミトさんの言う事も一理有ると思いますよ」
「私も分かってますよ、カレンさん。でも、だからと言って二人共気を抜いていたら平和は守れません。
これでバランスが取れているから良いんです」
「大変ですね。おっと、お忙しいところお邪魔してごめんなさい。じゃ、頑張ってくださいね」
二人と別れたカレンは、良いドライフルーツの店を見付けられた。
そこで数日分くらいの量を買って帰った。




