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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第四話
34/277

7

魔法でコピーされた地図に従って歩いた一行は、立派な門の前に辿り着いた。

手入れがされていない垣根の向こうに二階建てのお屋敷が建っている。


「高級住宅街のど真ん中みたいですけど、ここが幽霊屋敷ですの?」


屋敷を見上げているレイの前で、テルラが真鍮の鍵で門を開けた。

この鍵はクエストを受けた時に役所から借りた物で、持ち逃げされない様に1万クラゥ取られた。

用事を終えて役所に返せばお金は帰って来るので、お金にこだわりが有って文句を言いそうなグレイは何も言わなかった。


「鍵が開きましたから、ここが幽霊屋敷ですね。夜な夜な四つん這いで這い回る女の幽霊が現れるんだそうです」


「はー。怖いっスねぇ」


しんがりを務めているプリシゥアが他人事の様に言った。

その横に居るカレンの方が怯え、怖がっている。


「そんなところで一晩明かすの?」


「ちょっと怖いくらい我慢しようぜ。タダで雨風が凌げるし、上手くやれば金が貰えるんだから」


グレイは他のみんなとは違って、敷地内に視線を向けなかった。

しかし、通りや他の家に怪しい人影や気配は全くなかった。


「それなんですけど、ちょっとおかしいと思いませんか?」


テルラがそう言いながら敷地内に入ったので、レイとプリシゥアも続いた。


「何がですの?」


「この通り、門には鍵が掛かっていて入れない様になっています。まぁ、空き家なので塀を乗り越えれば入れますが、それでも幽霊の目撃者が居るのは不自然だと思いませんか?」


頷くレイ。


「確かに。となると、意図的に幽霊の噂を流している人が居らっしゃるのかも知れませんわね。もしもそうだった場合は、幽霊は出ないと言う事になりますわね」


「そんな噂を流して何の得が有るんスか?」


「不動産屋には得が有るでしょう。悪い噂が有る物件は価値が下がるので、安く買えますから。けれど、売る為のリフォームがされていない様ですので、そちらの線は薄いでしょう」


レイは庭の方を見る。

結構広い庭は手入れがされておらず、雑草が生えまくっている。

しかし完全に放置されている訳でも無い様で、裏へと続く道は綺麗な形を保っている。


「じゃ、幽霊は居ないの?」


カレンが恐る恐る門を潜る。

最後にグレイが関係無さそうな顔で入って来た。


「まだ調査していないので、半々ですね。何が有るのか分からないですし、夜まで大分時間が有りますので、事前の調査は全員纏まって動きましょうか。出来るだけ隊列の形を保ちましょう」


「はーい」


テルラの指示に従い、いつもの隊列に戻る一行。


「おっと、カレン、門を閉めるのを忘れずに」


「はーい。鍵は閉めないの?」


「夕食の買い物に行くでしょうし、手に負えない幽霊が出て来たら即時撤退も有り得ますから、問題が無い内は鍵は閉めないでおきましょう」


テルラが玄関の鍵を開け、今度は全員が連なって家の中に入った。


「思ったよりは埃っぽくないですわね。定期的に掃除されているんでしょうか」


窓には板が打ち付けられているので、昼間なのに暗い。

レイが窓に近付き、窓枠に指を這わせる。

埃が積もってはいるが、掃除されている跡は有る。


「カビの匂いはしないっスね。空気も澱んでいないっス」


プリシゥアは床板を踏み鳴らす。


「床も腐っていないっスから、雨漏りや地下水とかのトラブルも無いっスね」


「幽霊騒ぎが無かったら普通に暮らせそうだな」


グレイは近くに有るドアを開けた。

中は家具が無くてがらんどうなので声が良く響く。


「買い手が無いので一年くらい放置されているそうです。勿体ないですね」


テルラも部屋の中を確認し、そうしてから仲間に向き直った。


「屋敷の中を詳しく調べてみましょう。今回は目や耳だけでなく、肌で感じる気配にも注意しましょう。動物や魔物が噂の原因かも知れませんから。それが終わったら夕食の準備と寝床の準備をしましょう」


「はーい」


一行は一階から二階へと調査したが、特に異変は見付けられなかった。

それから再び一階に降り、キッチンやトイレの位置を確認した。


「クエストが発生してるんだから、何も無いって事はないだろう。俺は外から屋敷を見て怪しいところがないか見て来る」


壁や天井を見ながらそう言ったグレイは、返事を待たずに玄関から出て行った。


「何だかやる気ですわね。昨日はあまり乗り気ではありませんでしたのに」


レイがいぶかると、テルラは一階の廊下に荷物を下ろした。


「お金が欲しいからでしょうね。何にせよ、ハンターとして真面目に働いて貰えるのは嬉しいですね」


カレンも荷物を下ろしている横で、プリシゥアが首を捻っている。


「うーん。……これから夕飯まで休憩っスよね? グレイ一人に外を任せるのもアレなんで、私も外を見回って来るっス。良いっスか? テルラ」


「良いですよ。でも、余り根を詰めすぎない様に」


「分かってるっス。行って来るっス」


プリシゥアも玄関から出て、黒づくめの少女の姿を探した。

グレイは庭から屋敷を見上げていた。


「グレイ」


「プリシゥアか。どうした?」


「単刀直入に聞くっス。何か企んでいるっスか?」


「お前が気付いたか。あからさまな行動だったから、王女のレイ辺りが気付くかなと思ったんだが。まぁ、察しの通り、何か企んでるよ」


「何をっスか? 言わないならテルラに説教して貰うっスけど」


「言わないでいられるなら言わないが、そう言われたら言うしかないな。大した事じゃないし、ある種の博打みたいな物で期待はしていなかったし」


「博打っスか?」


グレイが歩き出したので、プリシゥアもそれに続いた。


「前の街で死体を見付けた時、幽霊船の話をしたろ? そう言う話が有るから幽霊の存在を疑っていないって」


部屋の位置や通風孔の向きを確認しながら続けるグレイ。


「んで、幽霊船にはお宝が積んであるって話は聞いた事は無いか? 作り話でも良い」


「有る様な、無い様な。テルラかレイなら本をいっぱい読んでいるから、良い返事が出来そうっスけど」


「まぁ、有るんだよ。何が言いたいかって言うと、そうやって幽霊話で人を遠ざけている場合、お宝が隠されている場合が有るって事なんだ。もっとも古い海賊の手だから、今じゃ幽霊船イコール宝の船かもって事になってるがな」


「ははぁ、つまり、幽霊で誤魔化されている隠されたお宝を探しているって訳っスか。ならそう言えば良いじゃないっスか」


「アホか。言う訳ないだろう」


「何でっスか?」


グレイは応えず、屋敷の裏手に周る。


「――あ、もしかして、お宝を独り占めするつもりだったんスか?」


「やっと気付いたか。まぁ、俺の目論見は外れたがな。ここはどうやら人の出入りが有る。宝が有ったとしても、とっくの昔に盗まれてるさ」


屋敷を一周して玄関まで戻って来たグレイは溜息を吐いてから屋敷を見上げた。


「今回は本当に一泊分の宿代にしかならなさそうだ。船が買える日は来るのかねぇ」


溜息交じりでぼやいたグレイは、肩を落として屋敷の中に戻って行った。

玄関先に残されたプリシゥアは、いつもの様にフラリとどこかに行こうとした。

しかし討伐クエストの野宿で疲れていたので、ここは大人しく幽霊屋敷内で休む事にした。

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