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夜がふけ、幽霊屋敷は暗闇に包まれた。
一行は一階の一室に陣取り、普段なら眠る時間になっても怪しい気配に注意し続けた。
その部屋の窓だけ一時的に板を外し、月の光を中に入れている。
満月に近くて明るいから一本だけ点けているロウソクは役に立っていないが、何が起こるか分からないので、勿体ないが点け続けている。
「何も起こらないっスね」
思い付くままに幽霊屋敷の中をフラフラと歩き回っていたプリシゥアも、今は眠気に襲われて動かなくなっている。
「やっぱりタダの噂だったか」
グレイは窓際に寄り添って立っている。
退屈なので、油断すると眠ってしまうから立ちっ放しにしているらしい。
「今日はもう寝ようよ」
夕方頃からずっと怖がっていたカレンは、床であぐらをかいて溜息や生あくびをして眠気をごまかしている。
集中力が完全に切れているので、今はもう怖がっていない。
眠気に強いのか、壁際で座っているレイは平気そうだ。
「わたくしも賛成ですわ。何が起こるか分からないまま朝まで待つのは、さすがに不毛ですわ。それに、昨日も良く眠れませんでしたし、二日連続の無理は身体に悪いですわ」
「解決しないとお金にならないんですけど……諦めますか。ダメで元々のつもりで受けたクエストでしたので、もう眠ってしまいましょう」
テルラも眠気に負けると、グレイがあくびをしながら部屋を縦断した。
「このまま眠っても良いが、折角だから幽霊を見付ける努力をしてみないか?」
「と言いますと?」
「プリシゥアはテルラの護衛だ。基本的に一緒に居るが、ハンターを続けている内にそうも言っていられない時も有るだろう。実際、今朝もそんな状況になった。だから、ここは全員が別々の部屋で寝る訓練をしてみよう。1人になれば、俺達が油断していると勘違いして幽霊が出て来るかも知れない」
「テルラを1人にするんですの? それは良くありませんわ」
「そうっスよ。テルラに何か有ったら48の魔物を見付けられなくなるっスよ」
レイとプリシゥアは反対したが、テルラは頷いた。
「そうですね。宿では宿賃の関係で出来ない訓練ですし、良いアイデアだと思います。同じ建物内なら大声出せばすぐに分かりますし、試してみるのも良いかも知れないですね」
「幽霊を見付けないと今日の苦労が無意味になるから、1人になっても熟睡しない様にな。俺は練習したから出来るが、みんなもそれぞれの方法で熟睡しない寝方を試してみてくれ。交代の無い野営をする場合は必須スキルだからな」
「熟睡しない寝方って、どんなの?」
カレンが訊くと、グレイはドアの横で立ち止まって応えた。
「俺のやり方は、銃を抱いて座ったまま寝る。海賊の仲間達は立ったまま寝たり、横になって頬杖で寝たりしてたな。まぁ、リラックス出来ない恰好なら熟睡しないだろ」
「リラックス出来ない恰好かぁ。難しいけど、やってみるよ」
「じゃ、俺は2階で寝る。レイとプリシゥアは、なんだかんだ言ってテルラから離れないだろうしな。カレンも2階に行こう」
「え? 私も2階?」
「何か出た時に、近くに人が居た方が良い。お互いにな」
「そっか。そうよね。そうしよう」
リュックから取り出したランタンに火を点けたグレイとカレンは、その明かりを頼りにして部屋を出て行った。
「じゃ、プリシゥア。わたくし達も行きましょう。テルラはここで寝てください。暗い中で荷物を動かすのは危ないですし」
「そうっスね」
レイとプリシゥアもランタンに火を点け、部屋を出た。
いつの間に取ったのか、プリシゥアは1枚の毛布を抱えている。
「さて。どの部屋で眠りましょうか。テルラから離れ過ぎるのも良くないでしょうし」
「レイ。アンタは外で寝るっス」
真顔で言うプリシゥアを信じられないと言った顔で見るレイ。
「は? どうしてですの?」
「1人になったテルラを襲おうと思ってないっスか? 思ってなくても、私が信用できないっス。前例が有るっスから」
「ですから、アレは冗談だと言ったでしょう?」
「昼間、グレイが屋敷の周りを一周したっス。そうしたら彼女、この屋敷には人の出入りが有るって言うんスよ。なので、どっちにしろ誰かが外で気配を探る必要が有るっス。レイが信用出来るなら私が行っても良いっスが、出来ないんで、レイが外に行くっス」
「でも、準備も無しに外で寝るのは、ちょっと……」
「その為に毛布を持ってきたっス。はい、使うっス。今日は月が明るいからランタンは要らないっスね。まぁ、明かりが有ったら幽霊の原因かも知れない人が警戒するっスから、持たせる訳にも行かないっスが」
毛布を持たされるレイ。
「あの……わたくし、王女……」
「ハンターなら仕事をするっス。頑張れば、テルラもきっと褒めてくれるっスよ」
「……はい」
プリシゥアの圧に負けて渋々外に出るレイ。
しょうがないので、裏に行く途中の植木の陰で横になった。
ここなら万が一不審者が来ても気付かれないだろう。
「ああ、お星様が綺麗ですわ。――腹いせに熟睡してやろうかしら」
風邪を引かない様にすっぽりと毛布を被ると、足音が聞こえて来た。
「誰かしら。――もしや、わたくしが追い出された事に気付いたテルラが迎えに来てくださったのかしら?」
グフグフと含み笑いをしたレイは、寝たふりをして声を掛けられるのを待った。
「……! ……!」
小声で何かを言っている気配がする。
男の声だ。
テルラの様な可愛らしい声ではない。
「幽霊は、確か四つん這いの女だったはずですわ。気になりますわね」
毛布から出たレイは、いつでも剣を抜ける様にしつつ、静かに声がする方に進んだ。
「――のはずだろ?」
やはり知らない男の声だった。
続いて女の声。
こちらの声は随分小さいので、ここまで近付いてようやく聞こえる様になった。
声の主がどう動いても見付からない位置に移動する。
(2人居ますわ。怪しさマックスですわ)
鎧や剣が金属音を出さない様に気を付けながら匍匐の姿勢になり、聞き耳を立てる。
「ここのクエストを受けたのは、ウチの旦那が一緒に行ったって言う若いパーティらしいんだ。だから、普通のハンターなら受けない小遣い程度のクエストを受けたんだ。どうせ幽霊なんか居やしないんだから、1日2日で諦めるさ」
(ウチの旦那? 若いパーティはわたくし達の事? すると女の方は、プリシゥアが助けたと言う、あの勇者の奥様かしら)
「その1日2日の間、俺はどこに居れば良いんだ。俺と離れらないって言ってこんなところに閉じ込めたのはお前じゃないか。なんとかしろよ」
不審な2人の小声での言い争いは、その後しばらく続いた。




