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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
EXNo.1 ある日、妹が出来ました。その前後
32/32

EXNo.3 Before 神を射殺す者

久しぶりの投稿。今回は本編から離れたお話となります。

 ふなさかいくさはある場所に向かっていた。


 時間は午後三時。日曜日である事もあって、道は擦れ違う通行人でごった返している。


「さーてと、アイツは元気かねぇ」


 舩坂は軽い足取りで目的地を目指す。


 程なくして舩坂は足を止めた。


 その場所には小学生から高校生といった子供や大の大人までもが出入りしている。

 目的地――東京某所にあるゲームショップに。


「何で態々ここなのかねぇ」


 舩坂は溜息を吐きつつも入店した。

 ゲームショップなだけあって、テレビゲーム機や携帯ゲーム機、そのゲームソフト、ボードゲームなどと言った様々なゲームが目に映る。ゲームをしない舩坂にとっては昔懐かしいゲーム機とかには目がいったりする。


 店内を見渡しがら歩き、舩坂はとある一角を見つけてそこへと向かった。

 そこはTCG――トレーディングカードゲームの売り場だった。昔流行ったものから今も人気が続いているものまで、数え切れないくらいのカードが販売されている。


(……おっ、あれ売ってる。まだ人気あるんだなぁ。えっ!? あのカード今あんなに高いの!? うわあっちも高っ!)


 当然舩坂も昔はカードゲームで遊んでいた時期があった。今となってはすっかり無縁になってしまったが、経験者である彼も内心懐かしがっている。


 売り場を通り過ぎ、客がカードゲームで遊べるフリースペースの所まで来た。ここではなにやら人だかりが出来ていた。どうやら誰かと誰かが対戦中で、周りはギャラリーの様だ。


 素人の舩坂にはよく分からないが、戦局はどうやら終盤にまで差し掛かっていた。


「……だぁぁぁっ! ちっくしょぉぉっ! また負けた!」


 決着が付き、負けた青年が悔しそうな声を上げる。勝った方は嬉しそうな表情を浮かべてカードを回収している。


「あぁぁぁっ! やっぱりこの時にコイツ出しときゃ良かった!」

「あぁ、それ出されてたらヤバかったわー。でも出されてもコレ使ってたから大丈夫だったけど」

「結局意味無ぇしっ!」


 青年と楽しげに勝負後の談笑をしながらデッキをシャッフルするのは、黒いスーツに身を固めた男だった。ジトーッとした目付きは悪いという事は無く、黒縁眼鏡を掛けていてもそれは変わらない。


(相変わらずだなぁ)


 舩坂はそんな男を微笑ましそうに見つめていた。カードの遊び場に場違いな格好をした男(本人もそうだが)が目立ってそれに気付いたのか、はたまた最初からそこにいるのが分かっていたのか、男は舩坂の方を目だけ動かして一瞥する。


「よしワッキーさんっ! もう一回勝負だ!」


 青年がデッキを入念にシャッフルしてドンッ! と置いた。


「……悪い。この後用事があんだ。だからそれは出来ない」


 だがワッキーと呼ばれた男は既にデッキをケースに仕舞い込み、足元に置いていたリュックを手に席を立っていた。


「はぁっ!? マジかよっ!」

「今度来たら相手するから」


 どうせ何度やっても勝てないだろー、なとど周囲が青年をイジッている間に、男はその場から立ち去っていた。

 その後ろを舩坂が後を追う。


 前を行く男はカード売り場の一角で足を止めると、ニコニコ顔で付いて来ていた舩坂も止まった。男がカードを物色し始めると、舩坂が口を開いた。


「いやぁ、いい年したおっさんがカードで遊ぶとは、中々新鮮だねぇ。ワッキーさん」

「……悪かったな。あとその呼び方止めろって」


 微笑ましく見つめてくる舩坂に男は悪態をつきながら選んだカードを手に取る。


「元気そうだね、藤脇ふじわき

「お前もな、舩坂」


 男の名は藤脇和弘(かずひろ)。年は舩坂と同じだが、美青年に見える舩坂と違い、藤脇の外見はやや老けている。


「聞いたぞ。お前、公安最上層部に入ったんだってな」

「まぁね。()()()からの推薦だったし、断ると殺されそうだったから潔く受けたよ。藤脇の方は相変わらずフリーなんだね」

「ああ、まあな」


 手に取ったカードをレジまで持っていき、会計を済ませる。


「藤脇さぁ、最近仕事とかどうなんだよ。ちゃんと稼いでんの?」

「いやぁ、それが全然仕事が来なくてさぁ。先月も二件依頼が入ったくらいでそろそろバイトしないとなって」


 あははは、と笑った藤脇は買ったカードをリュックに仕舞いこむ。その様子を見て舩坂は溜息を吐く。


「あのさぁ藤脇。そうやって仕事選んでたら生活出来ないよ? ていうかここで遊んでる暇あったら仕事見つけてきなよ。あとその二件の内の一件は僕が君に回してあげた仕事だよね?」

「うん。何も言い返せないな」


 分かってるならちゃんと働こうよ……と言いかけた舩坂だったが、この調子だとまた暫く無理そうだと判断して諦めることにした。

 藤脇は何処の銃剣警局にも所属していない、無所属の銃剣警である。

 銃剣警局所属と無所属の違いはいくつかある。

 銃剣警局に所属――就職し、勤務していれば基本仕事には困らない。日々の業務や突発的に飛び込んでくる任務をこなせば一般人が働くのと同様に給料が貰える。勿論個人で依頼を受ける事も認められている。但し仕事中の拘束時間が部署によっては長く、銃剣警局からの命令には従わなければいけない。たとえどんなに理不尽であってもだ。逆らっていいのは自分で自分の身を守れる強者だけだ。

 一方、無所属――銃剣警局には所属せず、個人で事務所を構えるフリーの場合はこういった長い拘束時間が無い。勤務時間も本人の自由に決められ、自分のペースで仕事に打ち込める。デメリットとしては個人事務所なので仕事の依頼を受けるには売り込みをしたり銃剣警局で依頼を探したり、それによって報酬も疎らな為安定した収入を得難い。フリーの銃剣警が高収入を得るには、自分の実力も当然の事ながら、実績、序列、信用性が高くないといけない。個人で事務所を構える銃剣警は日本全国にいるが、成功している者は一握り過ぎない。

 藤脇の場合、成功しているどころか寧ろ逆だった。仕事は月に一件か二件、多くて五件。酷い時には半年間一件も仕事が入らなかった時があった。その間藤脇は何事も無いようにカードゲームで遊んでいたという。それを聞いた舩坂は藤脇の元へ押し掛け、小一時間程説教した。流石の藤脇も多少は反省したようだが、仕事の無い時は短気のバイトで生活費を稼いでいると聞いた。まあ、少しは改善したかなと思い、舩坂は月に一件程仕事を持っていく事になったのだ。


「まあ、藤脇は腕が良いからすぐに依頼とか来るでしょう」


 舩坂はポケットからUSBメモリーを取り出して藤脇に放り投げた。藤脇はそれをキャッチすると自分のポケットに仕舞いこむ。


「おお、サンキュ」

「ていうか藤脇、いい加減ここで会おうとするの止めてくれない? 君に渡した仕事、一応機密レベルの高い案件だよ?」


 藤脇は仕事をしないだけでなく、舩坂から貰う仕事の受け渡し場所にこのゲームショップをいつも指定してくる。ここは周りの目も多く話をするには向いていない、機密性の欠片の無い所だ。舩坂にとってこういった所は決して嫌いではない。だが仕事上の話をするのだから、藤脇の事務所に行けば良いのに、態々ここを選ぶので面倒この上ないのだ。

 これまで何度も言っているが、当の藤脇は、


「その機密レベルの高い依頼をこんな所で受け渡すだなんて誰が思うんだ?」


 と、言い返す始末。

 確かに、普段の舩坂ならこんな事はしない。やるなら機密保持の為に細心の注意を払って場所を選ぶ。けど逆にそういった所に聞き耳を立てる輩はいる。そういう連中は人の多い場でそれが行われているだなんて普通は考えない。それだけ極秘裏に渡さねばならない程の案件なのだ。


「そりゃそうだけど気を付けてよね。中身結構ヤバい奴だから」


 もし仕事の情報が流出してしまえば大事になってしまう。具体的には伏せるが、それだけはなんとしても阻止しなくてはいけない。

 最悪、藤脇を始末してでもだ。


「うん、大丈夫。ちゃんと気を付けるから」


 藤脇もそこだけは心得ているようだが、正直安心しきれない。出来れば全部心得てほしい。


 二人がゲームショップを出る。


「じゃっ、俺行くわ」

「うん。そうだ、やる時連絡してね。僕も見に行くから」

「おお、了解」


 普段の仕事の数は少ない彼でも、やる時はちゃんとやってくれる。寧ろ舩坂は藤脇のそういう所だけを信用して今回も頼んだのだ。


 藤脇と別れた舩坂は銃剣警局へと戻る事にした。


(……まあ、藤脇なら良いか)


 所詮無駄な心配に終わるだろう。


 藤脇和弘。稼ぎは同世代の銃剣警の半分以下。


 依頼達成率――九割以上。


 仕事中の藤脇をよく知る銃剣警達は、彼の事をこう呼ぶ。


 ――『神を射殺す者(ゴッド・シューター)』、と



 ――東京都内某所。


「あぁ~、今日も良い汗かいたのぉ~」


 豚の様に肥え太った大男がバスローブ姿でワインを飲んでいた。後ろにはスーツ姿の男が控えている。


だく様、本日もお疲れ様で御座いました」 

「はっはっは。あの娘は中々良かったぞ。また相手をしてもらいたいな」


 この大男、けいこういん諾坐――本名・杉本洋一すぎもとよういちは景光教団と呼ばれる新興宗教の教祖だった。スーツ姿の男は補佐の荒牧あらまきじゅん


 景光教団は身寄りのない者や独り身の者達を甘い言葉で誘い、入信させている。財産を蓄えている信者からは搾り取れるだけ搾り取り、幻覚剤などで薬漬けにして従順にし、若い女性の信者には神聖な儀式と称して性行為を強要していた。ここ最近では信者を使った違法薬物の取引や強盗などの犯罪行為も行っている。

 これまで告発しようと動く者は何人もいたが、景光院は政治家や警察関係者などに顔が利き、全ての悪事を揉み消していた。当然告発に関わった者達は全員闇に葬っている。


「諾坐様、明日ですが、菊岡きくおか様から入信希望者の斡旋を依頼されております。無論どれもこれも上玉揃いです」

「ほっほっほっ、そうかそうか。それなら儂自ら出向くとしよう。荒牧、いつも通りにだぞ」

「心得ております」


 従順に返事をする荒牧に気分良く笑う諾坐は残っていたワインを一気に飲み干す。その顔はまさに醜悪に染まっていた。


「さぁて、美味い酒を飲んだらまた儀式をしたくなったぞ。次は……」


 諾坐がそれ以上言葉を発する事は無かった。


 突如、ガラスの割れる音が鳴った瞬間、彼の頭から鮮血が飛び散った。


「なっ⁉」


 向かい合って座っていた荒牧はその光景をたった一瞬だけ目撃した。何故ならその直後再びガラスの割れる音が鳴り、驚く荒牧の頭からも鮮血が飛び散ったのだから。



「えぇ~……嘘でしょう……」


 数㎞先のビルの屋上から一部始終を望遠鏡で見ていた舩坂は感心しつつも驚いた声を零した。


「ねえ、あれ本当に仕留めたんだよね? 冗談とかじゃなくて」

「……ああ」


 舩坂の問いに、()は短く答えた。

 昼間会った時は、ただカードゲームに熱中するだけの一般人同然だった。

 だが今はどうだ。掛けていた眼鏡は無く、無害なジト目は何の感情も宿っていない、ただ標的を見据えるだけの鋭いものとなっている。

 それに彼から出ている殺気は尋常ではない。仕事中だから抑えているが、僅かに滲み出ている。舩坂の様な人間でなければ分からない程だ。


「いやぁ、しっかし相変わらずの腕だねぇ。やっぱ君に頼んで良かったよ。あの生臭坊主、かなり迷惑してたからねぇ」

「……そうなのか?」

「うんうん。こっちで処理したかったけどさぁ、ブタな癖に守りだけは強固だったからねぇ」

「……そうか」


 舩坂の言うことに、彼は小さく返事をした。


「じゃあ後始末は僕の方でやっておくね。それとこれ、今回の報酬ね」


 舩坂はポケットから札束の入った分厚い封筒を取り出して彼に放り投げる。彼はそれを受け取ると中身を一瞥して自分の懐に仕舞い込んだ。


「……いつも悪いな」

「そう思うならちゃんとした仕事取ってきなよ。君ってさ腕は良いのに何でいつもいつも仕事選んでばっかで……」

「…………」

「……あー、ごめん。今の無し」


 鋭い目つきで睨んでくる彼に舩坂は口を噤んだ。


(……やっぱりまだ引き摺ってるのかぁ)


 舩坂は彼――昼間に会った藤脇がSVLK-14Sスナイパーライフルを片付ける姿を憐れむ様に見つめる。


 藤脇は銃剣警であり狙撃手スナイパーでもある。その腕は公安部にスカウトされる程のものであり、過去に何度かそういった話があったが彼はそれを断り続けている。


 何故なら、藤脇は限られた条件でしか仕事を受けないと決めているから。その為、旧知の仲である舩坂が世話を焼いて時々彼が引き受けてくれそうな仕事を持ってきている。


 藤脇が受ける仕事の条件とは――宗教関係者の抹殺、である。どんな好条件だろうと高額報酬だろうと、この一点だけは決して譲らない。そして受けた仕事に見合った働きを必ずしてくれる。どんな相手だろうと、彼は一切情け容赦無く無慈悲に標的を仕留めてきた。


「もうあれから随分経ってるけどさぁ、そっちはどんな感じ? 少しは落ち着いた?」

「……ああ。おかげさまでな」

「そっか……とてもそんな風には見えないけどなぁ」

「……」


 舩坂が何気なく切り出した世間話に藤脇は淡々と答える。けど後半はちゃんと話を聞いているのか分からない。その証拠にの目は相変わらず怒りを含んだものに染まっている。それも憎悪に満ちた。

 藤脇は宗教関係に対して強い怨恨を抱いている。元々あまり良い感情は持っていなかったが、今では狂った様に憎んで、憎んで、憎み切っている。暇さえあらば全国の宗教関係者全てを射殺しようとする勢いで仕事に臨む程に。

 こうなってしまったのには理由がある。藤脇の家庭は宗教によって壊されてしまったからだ。

 きっかけは藤脇が銃剣警になりたての頃、母親が妙なカルト教団から勧誘を受けて入信したのが始まりだった。最初は教団で教祖と信仰されている者からの演説を聞くだけで済んでいた。だが徐々にご利益がある壺だとか身に付けているだけで幸運を呼び込むネックレスだとかを法外な値段で買ってき始めた。次第にお布施と称して毎月数十万という大金を教団に支払っていた。

 藤脇も彼の父も何度か止めるよう説得したが母は聞く耳を持つどころかより一層、狂ったように教団に金を使うようになってしまい、挙句には怪しい消費者金融から多額の借金までしてしまっていた。

 決定的な出来事が起こったのは、母親が入信して約一年後の事だった。

 母親が父親と教団の事で口論になった末、突然発狂して台所にあった包丁で父親を襲い、メッタ刺しにして殺害してしまった。しかも近所からの通報を受けた警察官が駆け付けた時には、母親は包丁で自分の首を刺して自殺した後だった。その連絡を受けた藤脇は頭の中が真っ白になり、暫く呆然と立ち尽くしていた。

 更に詳しく捜査してみると、どうやら母親が入信していた教団の信者の中に似たような事件を起こした人が多発しているらしい。藤脇は身内という事で事件には直接関われなかったが、母親の件で藤脇は近所から白い目で見られ、連日自宅にはマスコミが訪れ、更には銃剣警である藤脇へのバッシング、次第に彼も精神が病んでいき、その矛先は教団だけに至らず全ての宗教関係に向いた。

 ちなみにこの教団だが、裏で政治家と繋がっているらしく、警察も銃剣警も下手に動く事が出来なかったが、ある一人の男の手によって壊滅してしまった。

 今の所藤脇が仕事に私情を挟んだ事はないが、そうならない様に舩坂は藤脇へのガス抜きも含めて仕事を回している。だが藤脇が受けるのは全て宗教関係者の狙撃のみで、そろそろ限界に近い所まで来ている。それでも依頼達成率は九割以上という実績を築いている為、一部の狙撃手スナイパー達からはその仕事内容と狙撃の腕から『神を射殺す者(ゴッド・シューター)』と呼ばれ一目置かれている。舩坂としてはそれを生かした仕事をもっと回したいが本人が嫌がっている。


「あのさぁ、藤脇」


 舩坂は色々考えた結果、意を決して藤脇に話しかけた。


「この際君に憎むな怨むなとは言わないけどさ、いい加減その仕事に対する姿勢改めないと怒るよ? 僕だって公安最上層部に入ってすぐに知った顔消すのは嫌なんだからさ」


 藤脇は舩坂を一瞥してすぐ視線を戻して片付けを続ける。

 これは駄目かなぁ、と思った船坂だが、意外な言葉が藤脇の口が出てきた。


「……あぁ。分かってる。これが終わったら他の仕事も引き受けようと思ってた」

「え? そうなの?」


 思いがけない事に舩坂は驚きの声を上げる。


「どうしたの? いつも僕が持ってきた他の仕事全部嫌がってたのに、どういう風の吹き回し?」

「いや、この前ネット限定のトレカセット予約したら貯金がヤバくな。下手すると水道光熱費が払えなくなりそうで」

「…………」


 そういうことに金を使ってるから生活に困るんだろ、と思ったが敢えて口には出さなかった。それに趣味が理由とは言え変わるきっかけが出来たのは良い事だからだ。

 何処か胸の痞えが取れた様な気になった舩坂はニコッと笑う。


「じゃあさ藤脇。そんな君に一つ情報提供してあげよう」

「……何のだ?」

「君の家庭を壊したカルト教団の事」


 そう言った瞬間、藤脇の目が冷たいものへと変わる。それでも舩坂は構わず続ける。


「あの教団が潰れた話、君は何処まで知ってる?」

「……確か()()()が潰したって聞いたが、それだけだ」

「うん、そう。じんさんが潰したんだよ」


 ――刃。本名は妖村あやむら刃。


 東京銃剣警局公安部、公安第零課所属。銃剣警序列日本部門一位、世界部門十六位。文字通り最強という言葉が似合う男。そして船坂の先輩であり、藤脇が変わる元凶となったカルト教団をたった一つの理由で壊滅した男。だがその経緯についてはごく一部の関係者しか知らない程徹底した情報規制がされていた。


「気にならない? 刃さんがあの教団潰した理由。そして何でその事が誰にも知られていないのか」

「……気にはなるし、あの人には多少なりとも感謝してる所はある。けどそれ言っていいのか?」

「別に口止めされてる訳じゃないよ。ただ……」

「ただ?」

「……聞けば聞く程呆れる内容だから誰も話したがらないだけ。それで周りに広まるのも嫌だから情報規制されてるだけ」

「……何があったんだ?」


 藤脇が訊ねると、舩坂は遠い目をしながら話し出した。


「なんでもあの教団さぁ、信者の一人が刃さんの奥さんに強引に勧誘を迫ったらしいんだ」

「え……」


 それを聞いた藤脇は冷や汗を垂らす。妖村刃が重度の愛妻家であり、それが彼にとって最大の逆鱗である事は銃剣警の間では常識と言っても過言ではない。妻に関係する事で奇行に走るという話を度々耳にするからだ。


「奥さんは嫌がったんだけど、あまりにもしつこかったらしくてさ、しかもその時に勧誘してた信者が奥さんに怪我を負わせたんだよ。それ聞いた刃さんがそりゃもう大激怒しちゃって」

「……そんなに酷い怪我だったのか? 入院する程とかか?」

「ううん。配ってたビラで指切っちゃっただけ」

「…………は?」


 その内容に藤脇はポカンと口を開けてただ呆然と立ち尽くした。


「消毒して絆創膏貼ってれば数日で治る様な傷だよ? 怪我の部類に入るのかどうか分からないほんの小さなのだよ? それなのに、それだというのに、刃さんが奥さん本人からその連絡受けた時大絶叫してさ。耳の鼓膜破れそうになるわ、窓ガラスにヒビ入るわ、他の部屋にまで響くわでさぁ」

「……電話越しの奥さんが一番の被害者だったんじゃないのか?」

「奥さんは刃さんの絶叫に慣れてるから平気なんだよ。それよりも問題はその後でさ、大絶叫した後刃さん亜音速で奥さんの所まで向かって、その衝撃波で周囲が巻き添え喰らって。僕達が方々にどれだけ謝罪しまくったか」

「…………」

「しかもさ」

「……まだあるのか?」


 もはや藤脇は最初の時とは打って変わって呆れながら聞くと舩坂はコクン、と頷く。


「戻ってきた刃さんが部署にいた僕達集めて、『という訳であの教団潰すぞ。仲間想いのお前らなら勿論手伝ってくれるよな? 拒否った奴殺す♪』って、誰もが安心する様な優しい笑顔で、恐ろしい殺気と一緒に言ったんだよ。誰が拒否出来るっていうのさ……」

「……それで、潰したのか?」


 コクン、と舩坂は再び頷く。


「あの人にとってあの教団は自分の愛する人を傷付けたから潰しても良い存在になったんだよ。目的が達成されるなら周りの迷惑も裏の繋がりもお構いなしに動くんだよ。最後は僕達以外に色んな人達巻き込んでカオス状態だったよ。全部終わった後に一言文句でも言ってやろうかと思ったら、事情を知った奥さんが僕達に何度も平謝りして回ってさぁ。謝られているこっちが申し訳なく思えてきてさぁ。……まぁ、いつもの事だけどね」

「……いつもの事、なのか?」

「だってあの人頭可笑しいよ。国家の存亡に関わる大事な任務の真っ最中って時に、『今日は嫁の誕生日だから後任せた』って言って即行で帰るわ、『今日は結婚記念日だから早めに帰らないといけないから』って超音速でいなくなるわ、どうしても助けが欲しい時に緊急連絡入れたら『今嫁とデート中なんだよっ! 邪魔すんなっ!』って言って着拒するわ、仕事と奥さんとどっちが大事なんですかって聞いたら言い切る前に嫁って答えるわ、あの人の全ての原動力奥さんになってるんだよっ⁉ これを頭が可笑しいと言わないで何て言えば良いのさっ⁉」

「……何であの人、クビにならないんだ?」


 悲壮感満載に語る舩坂がもう可哀想に見えてきた藤脇は誰もが疑問に思う事を訊いてみた。


「だってあの人がいなくなったらそれだけで大幅に戦力下がっちゃうんだよっ! それにあの人を職務怠慢でクビにしたらそれを管理出来ていない僕らも無能扱いされちゃうしっ! しかもあの人の事だからクビになったら奥さんと長く一緒にいられてラッキーとか絶対思うしっ!」

「……えっと、話を戻すが、刃さんがあの教団潰した理由って、要するに私怨って事か?」

「私怨っていうかほぼ私情だね。だから言ったでしょ。聞けば聞く程呆れる内容だって」

「……理解した」


 胸の痞えが取れた様な、逆に聞かなきゃ良かった様な複雑な気持ちになった藤脇はその場を去るべく立ち上がった。


「……じゃあ、俺は行く。色々ありがとうな」

「うん、気を付けて帰りなよ。あとさっき話した事だけど……」

「……分かってる。他言無用にする。というか言いたくない」

「だよね。じゃあおやすみ」

「……ああ」


 ヒラヒラ、と手を振る舩坂を背に藤脇は歩き出した。


「藤脇」


 が、それを舩坂が呼び止めてしまい、彼は立ち止まる。


「……何だ?」

「……君に頼みたい仕事、また明日持ってくるね」

「……助かる」


 それだけ言って、藤脇は静かに去って行った。彼の後姿を見送った舩坂は一息吐いた。


「さてと、じゃあこっちもチャッチャとやりますか」



 後日、舩坂は再びゲームショップに訪れた。

 カードゲームに明け暮れる狙撃手スナイパーに仕事を渡す為に。ついでにこの場所を指定するのをいい加減止めてほしいと苦情を入れる為に。


最後まで読んで頂きありがとうございます。このお話に登場した藤脇和弘、僕の友人をモデルに考えたキャラとなっております。本編でいつか再登場するかもしれません。

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