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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
24/32

No.23 謝罪

前回のあらすじ

①正刀は美雨(村雨)との死闘の末、なんとか美雨の洗脳を断ち切る事に成功したが、そのリスクとして重傷を負った。

②新たな百魔死団、No.26が現れて劣勢は続いたまま。

③薙刀が助太刀に来た事で19と26は退避。だが19が建物を爆破。

④限界だった正刀は気を失い……








 ……夢を見ていた。




 いや、これを夢と言って良いのかどうか疑問が沢山あり過ぎて色々突っ込みたくなるが、兎に角これは夢だ。夢ったら夢だ。




 目に映るのは、黒い空間。上も下も左も右も時間も季節も寒暖も何も無い。ただ暗くて視界が悪い。


 そこにポツンと、佇んでいるのが見えた。


 それは水色の髪を靡かせ少女だった。瞳を閉じて静かに眠っている様子が見受けられた。暗くても一糸纏わぬ姿は確認出来、発育の良い肢体がよく分かる。だが、その自由は無数の鉄鎖によって全身を封じられている。


 加えて、何か禍々しいオーラが流れ出ているのを感じた。


 鉄鎖からではない。少女からだ。


 極めて異質に思えた。しかしオーラは決して悪ではない。


 悪ではないが善でもない。何がしたいのか、何でそうしているのかも分からず、ただそこにいるだけみたいだ。


 なんとかして助けてあげたい。



 手を伸ばしてみた。けど届かない。近いと思ったらかなり遠いのか、どんなに伸ばしても鎖に掠りすらしない。



 どうしたら良いんだろう。どうしたら助けられる? どうしたら……


 ふと、少女の名前が頭の中に思い浮かんだ。


 ――――(・・)


 少女の名を呼んでみた。


 ――パキンッ!


 鉄鎖の一本が砕け散り、少女の拘束が少し緩んだ。


 もう一度呼んでみよう。


 ――――(・・)


 パキンッ!


 また一本砕けた。


 ――――(・・)――(・・)――(・・)


 パキンッ! パキンッ! パキンッ!


 名前を呼ぶ度に、鉄鎖がドンドン砕けていく。


 何回呼んだだろうか。次第に拘束が緩み始めていた。


 ――――(・・)


 もう呼ばなくても良いのに続ける。なんとなく、止めてはいけない気がしたから。


 拘束が緩むと同時に、少女から流れるオーラが静かに小さくなっていく。

 まるで、邪魔をしない様に外野に引っ込んでいる様に。


 少女の瞼が、半分だけゆっくりと開く。


 まだその瞳には光が灯されていなかった。


 ――――(・・)


 パキンッ!


 もう一度呼ぶと鉄鎖が砕けた。


 これで少女を拘束する鉄鎖は残る一本だけだ。


 ――――(・・)


 少女の名を呼んだ。だが鉄鎖は砕けない。


 ――――(・・)


 もう一度試す。だが結果は同じだった。鉄鎖は砕けるどころか皹も入らない。


 ――――(・・)


 それからは何度呼びかけても変化は無く、後になって無駄だったと気付いた。


 呼びかける時間すらも無駄だったのだ。


 虚ろだった瞳に、光が宿ろうとしていた。覆われていたオーラも、それに同調して少女を励ましている様に思えた。


 ――()()()


 少女が口を小さく開けて、たった三文字だけ告げた。それだけなのに、


 パキンッ!


 最後の一本が砕け散った。


 少女は自由となった。



 するとどうだろうか。黒い空間に眩しい光が差し込み、そして少女は……



「……ん……」


 瞼をゆっくりと開けた。最初に目に映ったのは、白い天井だった。


「……ここは……」

『正刀』


 目を覚ましてすぐに村正の声が聞こえた。

 声のした方に顔を向ける。村正は俺が寝ている脇に置かれていた。


「村正、ここは天国か? 地獄か?」

『馬鹿言わないの。ここは銃剣警病院よ』


 首だけ動かして村正に訊ねると、答えは予想通りのものだった。


 銃剣警病院。警察病院の様に、銃剣警やその家族の治療を目的とした病院である。中には銃剣警が逮捕した犯罪者も監視付きで治療・入院される。勿論一般にも利用出来る。


 多分、重症患者として運ばれたんだろう。意識を失う間際、薙刀さんが月読命と言っていた気がした。


 よくあれで生きてたな。奇跡なのかご都合主義なのか、命の危機は脱したみたいだ。


 俺がいるという事は、美雨みうもここにいるんだろうか。あずさ達も無事だよな。まあそれは後でゆっくり知れるか。


「で、村正。俺ってどれだけ寝てた?」

『そうねぇ、丸一日よ』

「そっか。丸一日か……は?」


 前言撤回。俺はまだ命の危機にあったようだ。

 耳が可笑しな事になっている。あんな大怪我を負っておいて、一日だけ寝て目が覚める訳が無い。一ヶ月か最悪半年以上は眠っていて当然のレベルだぞ。


「村正、冗談キツいぞ? 俺ってまだ死に掛けてるのか?」

『私は事実を言っただけよ。あなたは丸一日眠ってたの』

「いやいやいや、冗談も大概に……」

『正刀、自分の身体を見てみなさい』


 村正に言われて、病院着を少し捲って自分の身体を確認する。


「おい、おいおいおい」


 どうやら耳だけでなく目も可笑しくなっている。こりゃ重傷だな。


 村雨から受けた腹の傷が、綺麗さっぱり無くなっていた。戦闘中に開いてしまった一回目の傷も、二回目に斬られた傷もだ。しかも手術で縫われた痕も無い。両方の傷を受ける前の状態に戻っていた。


「村正、説明しイデデデデデッ!」


 上体を起こそうとしたら、急に激痛が奔った。


『あ、傷は問題ないけど、まだ痛む筈だから気を付けなさいよ?』

「先に言えよそういう事は!」


 どうやら、何らかの方法で身体は治ったが、痛みがまだ残っているみたいだ。それを後になって教えるとは意地悪な刀だなコイツは。


『とりあえず、詳しい事は後で話すから、今はゆっくりしなさい』

「あ、ああ」


 一旦身体の力を抜いて横になる。


「村正、もうちょっと寝るから、誰か来たら起こしてくれ」

『自分でナースコール鳴らしたら?』

「めんどい」


 腹がまだズキズキしてて痛いから、まだ寝ていよう。


『まったく正刀ったら。本当に似たもの親子なんだから』


 村正の呟きは、無視しよう。




 程なくして。


 浅い眠りに就いていた俺は、頼んだ通り、村正が起こしてくれた。


 だから様子を見た看護師さんが俺に気付いて医師を呼びに行った。


 それから暫く経ち、


 俺が目を覚ましたと聞いて、梓、はるなげきさん、姉さん、ふみちゃん、りんちゃんが見舞いに来てくれた。


 てつの付き添いで来ていない。八徹は村雨に斬られて重傷を負ったものの、なんとか命は助かった。まだ傷は完治し切っていなくて別の病室に入院中らしい。


 梓は目覚めた俺を見るや否や嬉しそうに抱きついてきた。おかげでまた腹が痛み出した俺が苦情を言うとすぐに止めてくれたが、大勢の前で同い年の男子に抱きついた事を指摘されて赤面、病室の隅で小さくなってしまったのを見て思わず笑ってしまった。


 姉さんが梓を宥めて話に入る。


「もう正刀君ったら~。無茶したら傷口開くってお姉さん言ったのに~、案の定死ぬ様な事しちゃって~」

「はい。すみません……」


 姉さんは小さい子供を窘める様に、めっ! と人差し指で人のデコを突いてきたがニッコリと笑ってくれた。口では怒っていても、安心してくれたみたいだ。前屈みになっているから、ご自慢の豊満なスイカの谷が見えているのは蛇足だが。


「まあ、正刀君が感情に任せて動いた挙句、死んでしまうのは半ば予想していましたが。こちらも葬儀の手続きをしてしまってとんだ無駄足ですね。キャンセル料も決してお安くはないというのに困りましたよ」

「うっせえぞ晴菜。勝手に殺すな」


 鉄扇をパチンッと鳴らしてうふふと笑う晴菜は相変わらずムカつく女だ。何で人が死ぬの前提で事進めんだよ。確かに死んだと思ったよし間違ってないけど。


 文ちゃんと凜ちゃんも俺を見ると目をウルウルさせて大喜びで抱き合っていた。この娘達は本当に仲良しで宜しいこって。おかげ様で二人が身体を近づける事で、柔らかな桃が四個もムンニュリと変形する様子を見れた。それを梓に勘付かれて睨まれたからすぐに視線を変える。


 視線を変えた先にいたのは嘆さん。腕には包帯が巻かれていた。村雨から受けた怪我はまだ治っていない。それでも仕事支障が出ない程度には回復したそうだ。


「嘆さんも無事みたいで良かったですよ」

「……いえ。ご心配お掛けしました。それと、お嬢様を救って頂き、まことにありがとうございます」

「ちょっ、ちょっと嘆さん!? そんな事言わないで頂戴よ! 恥ずかしいじゃない!」


 バシバシと嘆さんを叩く梓。顔が赤かくて恥ずかしげだったけど、何処か嬉しそうにも見えた。一方の嘆さんは相変わらずポーカーフェイスだが、微妙に口元が綻んでいたのを俺は見逃さなかった。


「で、色々聞きたいから、順を追って説明してくれ」


 晴菜から俺が気を失ってからの顛末を教えてくれた。


 救出された梓はすぐさま病院で検査を受けた。衣服を剥ぎ取られてただけで薬物を盛られたり暴行を受けてはおらず、体調は問題無くその日に退院出来た。


 19がアジトとしていた建物――あそこは19が大量の爆弾で木っ端微塵に吹き飛ばし、島自体は辛うじて残っているが、建物は瓦礫の山と化し、人の肉片すら見当たらなかった。

 あの無人島は空石島と呼ばれる島で、某大物政治家の所有物という事になっていたらしいが、その政治家は頃合いを見計らった様に体調を崩し、病気・・で急死した、らしい。


「晴菜……」

「私ではありませんし、私でもありません」

「でも処理したのはお前だろ」

「……否定は出来ません」


 申し訳なさそうにそっぽを向く晴菜は後ろめたい。結局変わらんだろ。


 晴菜でもなく、御門家の誰かでもないなら、百魔死団が口封じに始末したか。で、それを隠す為に御門家が病死として処理したと。


「まあ、今回急死した政治家先生も、目に付かない所で色々とお金を隠していたそうです。19に洗脳されていた可能性も高いですが、真相は闇の中。これはこれで手を出す手間が省けました」

「物騒な事をサラッと言うなお前は」


 それが実に晴菜らしい。付き合いが長いからそう思える。


 百魔死団に関してだが、どうやら出発前に薙刀さんが話していたのが的中し、別所でも百魔死団の構成員が騒ぎを起こした。その場には偶然居合わせた銃剣警高校の学生が交戦したが全く歯が立たず、加勢に来た公安零課の人間が追い返したとの事。


「薙刀さんのお話では、現れたのはNo.54。通称百剣の無限侍(ソードマスター)。恐るべき剣の使い手と聞いています」

「それって19が言ってた、殺し合い大好き野郎の一人か」

「はい。純粋な強さだけで言えば、百魔死団の中でも上位だそうです」


 聞けば54は大戦時、日本刀一本で高序列の銃剣警を百人近く斬殺し、自分も深手を負っても尚刀を振り続けたとか、三年たった今でも腕は劣らず増しているとか。


 俺と美雨を保護してからも警戒を強めているが、今の所は百魔死団が襲撃に来る兆候は見られない。


「19が美雨に繋げていた洗脳回路は俺が断ち切ったから、晴菜の言ってた事が正しいなら奴はもう二度と洗脳しに来たりはしないだろ。殺しに来るかどうか別としてな。暫くは大丈夫そうだが」

「だと良いんですが」


 また連中が動く可能性は捨て切れない。また梓や周りの人間を人質にして襲い掛かってくる事だって考えられる。尤も、それはまだ先だと思う。


 19の右腕と左足は義肢になっていた。俺との戦闘で支障を来たしてしまい、修理するまで大分時間が掛かる筈だ。だって19と26の会話を聞く限り、アイツ等仲間なのに仲悪そうだし、俺を殺す前に仲間内で絶対争いが起こりそうだし。


 あの訳分からんテロリスト共は放っておくとして、


「でだ晴菜。そろそろ聞きたい事があるんだが」

「残念ですが、私の今日の下着の色に関してはお答えしかねます」

「それも気になるけどそこじゃねぇっ!」


 頬をほんのり赤くして恥ずかしそうに言う(当然演技)晴菜は何処までもブレない。


 しかし何色なんだろう。大人っぽい黒とかか? 意外性を狙ってキャラ物?


「俺の傷が治っている理由と、美雨はどうしてる?」

「…………」


 晴菜は言い難そうに顔を逸らした。


「晴菜!」

「……美雨さんはご無事です。こことは別の病室で監視付きで入院中です。回復も順調に進んでいます。ただ……」

「ただ?」

「……正刀君が目覚めた事はお伝えしたのですが、お会いしたくないと言ってまして」

「は?」


 詳しく聞いてみる。


 気を失った美雨は病院に運び込まれて精密検査を受けた。19からの過剰洗脳を受けた後遺症が残っていないか調べる為だ。

 洗脳操力ブレイン・エネルギーを流され過ぎたショックで昏睡していたが、脳に目立った異常は無く外傷も無い。至って健康だ。


 今朝目を覚ましたばかりで、念の為にあと二、三日は入院するそうだ。


「ちなみに正刀君もあと二日程入院して下さい。傷が治ったとはいえ痛みはまだ残ってますので」

「俺の事はこの際良いんだが、何で美雨は俺と会いたがらないんだよ」

「それなんですが……」


 美雨は目を覚ましてすぐにつっかえつっかえの話し方で俺の居場所について訊ねてきたそうだ。

 駆けつけた晴菜が、俺が未だ寝ている事を伝えると、美雨の表情は段々暗くなっていった。で、俺が目覚めた事を伝えると若干明るくはなったが、俺に会いたいかどうか聞くと首を横に振るだけで、それ以上は何も言ずに顔を背けてしまったそうだ。


「晴菜、まさかとは思うが事の次第を美雨に話したのか?」

「いえ。美雨さんにお話する訳にはいきませんでしたし、聞かれなかったので何も。ですが、美雨さんはちゃんと覚えていたようでして……」

「マジかよ……」


 まさかの出来事に項垂れてしまう。


 実際、途中途中で自我が戻っていたし、俺と殺し合いを無理矢理やらされているのも分かっていた。でなけりゃ必死で抵抗しないし、殺してだなんて言わない。


 美雨は自分のせいで俺が傷付いたのを理解していた。最初に俺を斬った時の反応も自分を追い詰めようとしていた。そして自分が目覚めたのに俺がまだ眠っている事実を突きつけられ、後悔と罪悪感で自虐して追い込もうとしてるのか。俺と会いたがらないのも会わせる顔が無いからか。


「村雨が空気読まずに喋ったりとかは……」

「それはありえません。美雨さんにはAEBが装着されていますので、村雨氏は顕現する事は不可能です」


 そりゃ良かった。あの妖刀が出てきたら話が拗れる。


 しかし、美雨をこのまま放置すると危険だな。下手すれば自殺か精神崩壊を起こして社会復帰すら出来なくなってしまう。犯罪者から救ったとしても、アフターケアもちゃんとしてこそ助けたと言える。


「さてと、どうしたものか」

「正刀君、これは私の不手際です。ここはどうか私の処女でご勘弁頂けませんか? 物足りなければ私の家の娘達もおまけとして……」

「いらねぇよっ!」


 冗談じゃない。美雨に斬られて死に掛けて、百魔死団を相手にして死に掛けて、やっと治まったのに晴菜に手を出したら今度は御門家に殺される。何回人を殺す気だよ。あと侍女の女の子達は関係ないだろうがっ! ムカついて痛みが増しそうだよ。


 仕方ない。困っている人を助けるのが銃剣警の仕事だしな。


「晴菜、美雨に会う事は可能か?」

「え……?」


 晴菜だけでなく、梓達もえっ、となる。

 会いたくないといわれた直後にこの質問だ。当然だろう。


「……原則面会謝絶となっていますが、少しお時間頂けるのならば。ですがお体は大丈夫なんですか?」

「傷、塞がってるんだろ?」


 ニッと笑って聞き返す。


 皆が来るまでの間に少し身体を動かしてみたが、痛みはあるが歩けなくもない。最悪車椅子に乗れば移動は可能だ。


 晴菜も理解してくれたか諦めたか、鉄扇をパチンッと鳴らし、


「分かりました。交渉してきますので少々お待ち下さい」


 いつも通りの笑顔で病室を出て行った。


 それから数分後。


 美雨との面会の許可を(脅して)取り繕った晴菜に案内されて病院内を歩いていた。


 俺は村正を杖代わりにしてゆっくりと、両隣には一応当事者というか被害者でもあった梓、何かあった時の為に姉さんがいる。文ちゃん、凜ちゃん、嘆さんは、俺に客が来た時の為に病室に残ってもらった。嘆さんは兎も角、美雨とは中学生の女の子に聞かせる代物では無い話をしないとも限らないし、二人もそれを分かって快く了承してくれた。


「しかし晴菜、よく許可が下りたな。いくらお前でも無理じゃないかと一瞬思ったぞ」

「正刀君、私を誰だと思っているんですか? 私の手に掛かればこれくらいは造作もありません」


 ニッコリと振り返る晴菜はドヤッ! と自慢げにアピールしている。流石は晴菜。イラッとしたが許可を頼んだのは俺だ。何も言わないでおこう。


「ちなみに、どんな方法を使ったんだ?」

「簡単ですよ。あの妖村刃あやむらじんのご子息である正刀君が、美雨さんとの面会を望んでおりますと伝えた所、相手の方は何かを諦めたかの様な溜息を吐いて快く承諾してくれました」

「おい」


 感謝しようとしたらすぐにこれだ。


「お前、何勝手に人の名前出してんだよ。しかも俺は兎も角父さんまで」

「申し訳ありません。こちらの方が手っ取り早くいけると判断しまして。本当にあなたのお父様は凄いですね。私は交渉した相手は、銃剣警病院でもそれなりの権限を持つ方でしたのにこうもあっさりと上手くいくとは思いませんでした」

『仕方ないわよ。刃だもの』

「父さんだったら何なんだよ……」


 妖村刃。死しても尚、銃剣警の世界に強い影響を及ぼす謎多き男。それは銃剣警病院にまで轟いている。俺にとっちゃ単なる親馬鹿だが。


「正刀君、着きましたよ」


 美雨のいる病室の前に到着した。扉の前には二組の男女が立っていた。スーツ姿で武装している様には見えないが一目見ただけで分かる。この二人は銃剣警局警備部、それも対超能力者戦闘経験豊富な精鋭だ。目つきは普通だが、なんというか雰囲気がヤバい。


「晴菜、これはちとやり過ぎじゃねぇのか?」

「これくらいは普通ですよ。仮にも美雨さんは妖刀『村雨』を宿していますから、万が一暴れられても用心に越した事はありません」


 にしては少々過剰だと思うが。美雨は村雨が無ければ普通の女の子。暴れたって大人一人でも止められるだろうに。


 晴菜が警備二人の前に来て、一言二言囁いて男の方が会釈した。


「皆さん、早速中に入りましょう」

「つうか、今更だが美雨は会ってくれるかね?」

「恐らく無理でしょうね。先程も美雨さんに、正刀君がお会いしたいと仰いましたが、首を横に振るだけでしたから」

「そっか……」


 やっぱり一旦出直そうかななんて考えていると、


「まあ、何かあっても全て正刀君の責任という事で話は進めますのでご安心下さい」

「おい」


 この女、なんと薄情な事を。


 あれか。美雨に俺を無理矢理会わせて俺を困らせようとかそんな魂胆か。そうなんだな。


「晴菜テメェ、後で覚えとけよ」

「はい。すぐに忘れますから」


 何事も無くニッコリと笑う晴菜。

 よし。戻ったら村正で殴ろう。


「美雨さん、失礼します」


 まずは晴菜が病室に入る。次に梓、姉さん、最後に俺の順番だ。


 病室にはベッドに起き上がった美雨が暗い表情で俯いていた。傍には監視役の女性銃剣警が控えている。この人も多分警備部の人間だな。


「……ぁ」


 美雨がゆっくりと晴菜達に顔を向けると、俺を見て小さな声を漏らし、暗い表情のまますぐに視線を逸らしてしまう。そんなに俺と会いたくなかったか。ちょっと落ち込むぞ。


 女性銃剣警と晴菜が敬礼し合う。


「少しお話します。席を外して頂けませんか?」

「……分かりました。終わり次第お呼び下さい」


 女性銃剣警は一礼して病室を出て行く。


 これでここには身内だけが揃った。


「さて美雨さん」


 横に置いてあった丸椅子に腰掛けた晴菜が鉄扇をパチンッと鳴らした話に入る。


「正刀君にお会いしたくないと返答したにも関わらず、彼を連れて来てしまった事についてはお詫びします。ですが連れて来なければ、正刀君があなたの純潔な肉体を本能のままに貪ってやると脅しましたので……」

「ありもしない事実を捏造するなアホ陰陽師! イダダダダダッ!」


 この野郎、やっぱり俺を困らせせて楽しむ気か。つうか見張りがいる中で出来るか。


 怒鳴ってしまって痛みが出した腹部を押さえる俺を姉さんが後ろから支えてくれた。


「す、すいません姉さん」

「ううん、これの為にお姉さんがいるんだから~」

「ま、正刀。これに座ったら?」


 梓が近くの丸椅子を持ってきてくれた。俺はお言葉に甘えて座る事にする。


「サンキュ梓」

「べ、別に、正刀が痛そうだったから仕方なく……あ」


 しまった、と言わんばかりに口を手で押さえる梓だが、もう遅いぞ。


 美雨は暗いまま、申し訳無さそうな目をしていた。梓の余計な一言で暗さが増し、俺と目が合うとすぐに目を逸らした。


「……美雨」


 ヤバい。会いに来たのになんて話して掛けたら良いか分からなくなってきた。


「晴菜、村雨と話って……」

「申し訳ありません。美雨のAEBは病院側が管理している特別製ですので」

「だよな」


 今、美雨の首には黒い首輪が嵌められている。それはまごうことなきAEBの首輪である。これがある限り、美雨の内に宿る村雨は顕現しない。AEBを外して出てきてもらおうと思ってもそれは出来ない。銃剣警病院の患者に装着されるAEBの鍵は量産品よりも精巧に作られており、夜千瑠のピッキングでもほぼ不可能だという。しかも正しい鍵以外で開けるとそのAEBから大音量の警報が鳴り響くようにもなっている。


「…………ま、さ、と」


 美雨が小さくつっかえつっかえで俺を呼んだ。


「何だ?」

「…………ま、さ、と、わたし、のせいで、いた、い?」

「……」


 この娘はまた、人が言い難い質問を答えにくい表情で聞いてきやがって。


「……まあ、四分の一ぐらいは美雨のせいかもな」

「ちょっ、正刀」

「事実だろ? 今更違うなんて言っても逆効果だ。それに全部じゃない。一部だけだ」

「じゃあ、残りの四分の三は何なのよ」

「百魔死団、村雨、あとは……俺だな」


 百魔死団が手駒として使い、開眼した村雨が憑依して美雨が俺と殺し合った。


 あの訳分からんテロリストが強くて死に掛けた。


 村雨が本気で殺しに来てたから死に掛けた。


 美雨はその両方から支配されて俺と殺し合ったから死に掛けた。


 そして、美雨を殺すのを躊躇った俺に心の迷いがあったから死に掛けた。


 よく生きてましたよハイ。


 また今度、奴等と遭遇する事は絶対ある。悪役が負けた時に吐くお決まりの捨て台詞は無かったけど、次は死ぬ。19は直接戦闘には関わらなかったからまだ良い。でもこれが54や69と言った戦闘狂だったら、もし薙刀さんが助けに来てくれなかったら、来てくれたとしてもし遅れて来たら……


 これは強くならないはマズい。今のままじゃ、偶然助かったじゃ済まされない。


「……退院したら、早速鍛錬だな」

「正刀君、それは良いんだけどぉ、無茶だけはしないでね♪」


 姉さんがニコニコと俺の頬っぺたをツンツン突く。


 俺には分かっていた。その顔は、見た目はおっとりしてても内心怒っている時の顔だ。


「は、はい……」


 これは言う事聞かないとなんかされるパターンだ。素直に聞こう。


「……ま、さ、と……」

「ん?」


 一文字ずつ俺の名前を美雨が呼んでくる。


「……わたし、の、せい?」

「ああ、全部ではないけどな」

「……わ、たし、の、せい……」


 否定しない俺の答えに、美雨はガタガタと手を震わせている。暗い表情は次第に絶望の歪みになろうとしていた。


 これは、放ってはおけない。


「美雨」


 それに待ったを掛ける様にハッキリとした声で呼ぶ。


「ちょっと話ズラすぞ。お前、俺に自分を殺してって言ったよな。それを聞いて、俺はお前を殺す気で掛かった。けどお前はこうして生きてる。何でか分かるか?」


 フルフル、と美雨は小さく首を横に振った。


「……誤解するなよ。俺はちゃんとお前を殺した」

「…………え?」

「異刀使い同士の戦いは必ず死闘となり、どちらかは死ぬ。村雨も俺も互いに殺しあってた。だから、百魔死団の傀儡として生まれた妖刀『村雨』使い、天崎あまさき美雨は、俺が斬り殺した」


 容赦ない言葉に美雨や梓は驚いて目を見開く。晴菜と姉さんはまだ平然を装っているが、内心では驚いているは分かる。


「今のお前は、苗字も戸籍も住む場所も財産も学力も何も無いひ弱な女の子、美雨だ。俺を傷付けた美雨はもう死んだ。だから」


 トン、と美雨の脳天に軽くチョップを入れてニッと笑う。


「自分のせい俺が傷付いたとか思い上がってんじゃねぇよ。怒るぞ」


 勿論今のは詭弁だ。俺が死に掛けたのは美雨のせいである事に変わらないし、その美雨は俺が殺してお前は違う美雨だなんて何処の漫画のネタだよってツッコミたくなる台詞だ。


 でも、理解力に欠けてる美雨にはこれくらいが良いだろう。こんなネタ知ってないし、これ以上自分を追い込ませるのは止めたい。


「……ぅ、ぁ……」


 美雨は震えていた手を膝の上に置いて俯く。


「……ま、さ、と」

「ん? 何だ」

「……ん、ね」


 ベットのシーツをギュッと掴む美雨から、一滴の雫が垂れた。


「……め、ん、ね」


 雫は一滴だけでなく、もっと零れる。


「……ご、め、ん、ね」


 ひっぐ、えっぐと嗚咽を漏らして美雨は続ける。


「ごめ、んね。ごめん、ね……」

「うん、うん、よしよし」


 ポタポタ雫を落とす美雨の頭を優しく撫でてあげた。


「美雨、泣きたかったらちゃんと泣け。でないといつか後悔するぞ」

「……う、ん……」


 大粒の雫が降り止むまで、俺は美雨の頭を撫で続ける。


 まだこの後、色々やらないといけない事もあるしな。





当初の予定と変更して、あと二、三話程書き、それで第一章終了です。


・予告

第一章終了後、幕間を挟む予定でいます。

それに伴い、第一章で登場した主要人物の紹介を書こうと思っています。

その中で、登場人物への質問コーナーみたいなのを考えています。質問内容はまだ考えていませんが、読者の皆さんが聞きたい事があれば出来る限りお応えしますので、正刀達に質問したい事を遠慮なくメッセージとして送って下さい。誰がどの質問しているのかは書きません。

好きな食べ物、趣味・娯楽、読んでいて気になった事などなど、ちょっとした事でも大歓迎です。


質問対象人物

妖村正刀

黒銅梓

妖村美雨

御門晴菜

風魔夜千瑠

禍畝八徹

嶽郷露莉

瀬川文

吉田凜

草神薙刀

妖村刃

沼田香澄

二条院要

郷田和雄



どうかお待ちしております。




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