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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
23/32

No.22 26、草薙

さあ、今度は誰が出てくるのか、もうお分かりですね?

「が、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 これに悲鳴を出したのが19だった。さっきの美雨みたいに頭を押さえて足がフラつく。


 その一瞬だって、逃さない。


「村正!」

『まったくもう、正刀ったら』


 ――バキバキバキバキバキバキバキバキバキィィィィッ!


 村正は呆れながら俺を強化してくれた。もう斬られた傷からは大量出血を起こし、もう死んでいる筈なのに、それでも俺の筋肉はまだ死なない。


 強化した脚を蹴り、美雨を避けて目的の物に近づく。


 美雨と19を繋ぐ、洗脳回線に。


「死ねや百魔死団ナンバーズ!」

「なっ――」


 何の為に、村正に妖気を纏わせたと思ってんだよ。しかもさっきより纏う妖気の質が多い。その証拠に、普段は薄紫色な妖気も、刀身が黒く染まっていた。


 そうだな村雨。お前の言う通りだ。


 人とは、勝ったと思った時が一番死にやすい。


 そして、チャンス(奇跡)とは、ピンチ(死の寸前)と共にやって来る。


 漆黒の妖刃を洗脳回線目掛けて振り下ろした。


 ――ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチィィィィィィッッッッ――!


 一回目は数本しか切れなかったが、これだけ身体と刀に無茶させて切れない訳ないだろうがぁっ!


 村正によって切られた洗脳回線は、過剰に流していた洗脳操力が漏れ出す。だが、洗脳操力とは反対向きに流れる“何か”があった。


「ラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ――ッッ!」

「ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ―――ァァァッッッ!」


 俺と19の声が部屋全体に響き渡る。前者は気合から、後者は悲鳴。


「これで、どうだぁっ!」


 ――ブチブチブチブチィンッ!


 最後の一本を切り終えて、衝撃波が飛ぶ。


「が、あ、ぁぁぁぁぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 19はまだ痛みに悶えていた。俺の方も妖筋が徐々に弱まっていく。


 出来た。洗脳回路切断。なんとか身体は持ってくれた。


『正刀、美雨』


 村正に言われて、まだ立っていた美雨は全身を覆う瘴気が村雨に収まっていくのが見えた。


「……村雨」

『うむ。若造よ、我が主はこれにて終い也』


 完全に憑依が解けた美雨は糸が切れた人形みたいに倒れる。


「お、おい美雨」


 俺は美雨をがっしりと受け止めながらも、突如襲った激痛と疲労感で転んで尻餅をついた。


「はぁ、はぁ、はぁ、美雨……ゴポッ」


 美雨は身体を血糊で汚していたが、その顔は静かに眠る様だった。


「はぁぁ、クッソタレがこの野郎……!」


 19が頭を押さえながらこちらを睨みつけていた。顔からは汗が流れて体力が消耗している様子が窺えた。


「テメェ、よくも洗脳回路ブレイン・パスぶった切りやがったなぁ。しかもグチャグチャに切りやがった挙句に変なモン流しやがって。繋ぎ直せねぇじゃねぇかよっ!」

「繋ぎ直せないようにしたんだろうが」


 洗脳回線ブレイン・コードを切った時、19は脳内にダメージが及ぶ。あれだけの本数に大量の洗脳操力を流している時に切断されたらダメージは半端ないだろう。


 それに19の洗脳術の欠陥は女しか操れない、一度洗脳回路を断った相手は二度と操れない他にまだある。


 どんな生物も操る能力のデメリット、多分痛覚を自分が肩代わりしていた。戦闘中に何度か19が顔を顰めたり、明らかに痛みを感じている風なのがあった。平然を装っていても、死ぬ様な痛みを受ければどれだけ脳にダメージが来る事か。


 加えて、俺は村正の妖気を19に流し込んでみた。結果、予想通りダメージが追加された。ちゃんと立っている素振りを見せても分かる。足がガタガタ震えてるし、片腕がだらんと垂れている。かなり効いたみたいだな。


「だ、だが妖村正刀。お前も馬鹿な事したな。小娘を助けるつもりが、俺を倒す為にっちまうなんてよぉ」


 19はニヤついて俺の一番の突っ込み所を刺してきた。

 そうだ。俺は美雨を殺した。どんな相手でも私情は挟まず、殺すなら容赦なく殺せ。銃剣警とはいうものだって知ってる。犠牲が付き物なのがこの世界の常識だ。

 血塗れの美雨に目をやる。


「しゃあねぇだろ。美雨が殺してって言ったんだ。だからっただけだ」

「そうやって殺した自分を正当化する辺り、俺と大して変わんねぇぞ」

「うるせぇ。それにお前、何か勘違いしてるだろ?」

「はぁ? 何言って……」


 19が倒れる美雨をジッと見て、そこで言葉が止まった。


「なっ、!?」

「俺はな、可愛い女の子は傷付けたくないんだよ」


 俺が逆にニヤリと笑い、19が驚く。


「何で、何で小娘が死んでねぇんだよっ!?」


 俺の胸で倒れる美雨は全身血塗れだ。でもそれは美雨自身の血で汚れたんじゃない。俺の血で汚れているだけだ。

 美雨には、一切の傷が無い。衣服にも村正で斬られた痕が無かった。


 もし美雨が死んだとしても、顕現型の異刀である村雨がすぐに消失したりはしない。ある程度の時間が過ぎれば村雨は自然消滅してまた新たな使い手を捜す。だから村雨が残っていても美雨が死んだと思わされた。


 では一体何が起こったのか。俺は19と美雨と村雨の目の前で、確かに美雨を斬った。否、そう思わされただけだ。


 幻影一刀・どく。村正の刀身に強い妖気と殺気を纏わせて対象を斬る。

 この技の面白い所は、幻影一刀と名が付く通り、本当に損傷は受けない。これは実際に斬られた時の幻を周囲に見せているだけで、出血もしないし刀傷も無い。

 但し斬る動作と痛みは本物で、斬られた時の痛みは美雨本人が受ける筈だったのに、痛覚を肩代わりしていた19が受けた事で美雨には完全無傷。


 尤も美雨は19の洗脳術が解けて気を失ってしまった。俺ももう気を失いそうだぞ。なんとか気力で持ってるが。


 ――パキパキパキッ


 腹部から何かが固まる音が聞こえた。

 見てみると、X字の傷から流れ出る血の量が減りつつあった。というか筋肉が少し変化している。弱めの妖筋だ。


「……村正」

『まったく正刀は。本当に手の掛かる子ね。私の領分はあくまでも『身体強化』だから傷の再生は無理だけど、出血を遅らせるぐらい余裕のヨッチャンよ』

「お前、それ古いぞ」


 何百年も生きてるとそういう死語も知ってるか。てか今使うな。でも妖筋はマジ感謝ですよ村正さん。


 いかんいかん。今はテロリストと交戦中だった。


 俺は美雨を静かに床に寝かせてボロボロになった上着を美雨に被せる。血だらけだけど無いよりマシだろう。


 ヨロヨロと村正を杖代わりにして立ち上がる。


「それで19、どうする? 俺はまだ一試合出来るぐらいの体力は残ってんぞ」

「この野郎、痩せ我慢も大概にしやがれ……」


 お前が言うな。もう頭の中滅茶苦茶にされてまともに立ってんのもやっとだろ。俺も傷口が深くて今にもぶっ倒れそうで人の事言えんが。


 まあ、女の子一人守れないで死ぬのは嫌だし、最悪道連れにでもするかなんて考えが頭に思い浮かんだ。


「――そうだよー。そんな身体でよく立てるよねー」

「っ!?」


 知らない殺気と聞き覚えの無い声が背後から聞こえなければ。

 反射的に村正を後ろに振っていた。


「おっと」


 声の主は村正が当たる前に、煙の様に姿が掻き消えた。


「いやー、危ない危ない。いきなり人に刃物向けるだなんて物騒な若者だねー」


 声の主が何処に行ったか見渡すと、19の隣にいきなり現れ、面白可笑しそうにケラケラ笑っている。


 それは異質だった。なにがなんだか分からない。でも兎に角異質なのは確かで、それだけしか分からない。


 性別は男のようだ。年は二十代前半か? 中肉中背で19と背丈は同じぐらい。黒いステージ衣装の様な格好に、それを覆い隠す黒いマントを羽織っている。


 顔は……駄目だ。若いのは分かるがはっきり確認できない。物理的な意味で。


 青年の顔。あれは一言で例えるなら、オペラ座の怪人ファントムが付けている様な顔の右半分を隠す白い仮面。あれにデザインがよく似た黒い仮面が装着されていた。


「あーっと、自己紹介がまだだったね。僕は百魔死団第26番手。人によっては幻影の霊怪人シャドー・ファントムって呼ばれてるよ。宜しくね、妖村正刀君」


 ニッコリと挨拶してきた26は、なんか清楚な好青年みたいな……ってちょっと待て!


 今サラッと百魔死団26番手って言いやがった! 要はNo.26かよ! また訳分からん奴が出てきやがった! つうかどっから来た!?


「テメェ、26。何の用だゴラァッ」


 19はまだ頭を押さえながら今度は26を睨みつける。26は慣れたようにニッコリと19の肩をポンポン叩く。


「何の用も何も、19が遅いから何してるかなーって様子見に来たんだよー? まぁ、大体予想つくけど」

「黙れ。邪魔すんなら失せろ。テメェから殺すぞ」

「いやいやいや、そんな状態で戦えるの? そんな事よりもさ、洗脳は失敗したみたいだけど、奪うくらいは出来るんじゃない? 彼も相当弱ってるし、二人掛かりでやっちゃう?」


 ニコーと笑顔を崩さない26に19は苛立ちを隠せないでいる。殺気が俺に対してより増し増しになっている。この二人、仲悪いのか。


 って、そんな場合じゃない。今二人掛かりで来られたら……


「村正、一応聞くが俺って……」

『妖筋強く使えば十秒も持たないわよ。ていうかいっそ死になさい』


 マジかぁぁぁっ!? とうとう刀にまで死ぬと言われたかぁっ!

 いや、最悪使えないのならまだ良い。問題はあの26がどんな能力を持っていて、どれだけ強いかだ。戦闘タイプには見えないし、19が上げた戦闘大好き人間の中にも26の数字は無かった。だからと言ってあれが弱いと決まってない。19みたいに弱いのに強いとかだったら危険だ。


「ねえねえ妖村正刀君」


 26が俺に話しかけてきた。


 ――背後から


「何っ!?」


 まただ。また26が気が付いたら俺の後ろにいた。でも26は攻撃する素振りを見せず、話しかけてきただけみたいだ。もし今のが攻撃だったら……


「なーんか凄い怖い顔してるけどさぁ、大丈夫?」

「大丈夫な訳ないだろ。また中二病野郎が増えやがって頭が混乱してるんだよ!」

「まあまあ落ち着きなよ。特別に僕の能力教えてあげるからさー」


 ニッコリと26の姿が消えた。捜してみると、また19の隣に現れた。


「まぁー、あれかな。僕は瞬間移動テレポートの使い手なんだよ。どんな所にでも非合法に簡単に入り込んだり抜けたり出来る。流石に対超能力者用特殊銀に覆われた場所は出入り出来ないけどさー」


 26の姿が煙の様に掻き消えて、


「……こんな風に君を暗殺したりとかー」


 首元に冷たい感触が伝わった。

 バッと振り返ると26が人差し指を突き出したままニコニコとしていた。


「あとは総理大臣とか天皇陛下とか大統領とかの偉い人の寝込みを襲ったりー、君の身近にいる人を狙ったりー、色々と出来るんだよねー」

「くっ……!」


 俺はギリリ、と歯軋りする。瞬間移動使いテレポーターとか反則だろ。何処から攻撃してくるのか、何処に移動するのか、何処へ回避するのかまるで見当が付かない。いや、俺だってこの手の空間転移を使う超能力者とは戦った事は数回ある。でもそれは決まって能力に限界がある奴ばかりだ。この26の瞬間移動がどれだけのものか分からない以上、経験は役に立たない。

 俺の思考を読み取ったのか、26がクスクスと笑い、


「安心しなよ。そんな事しないからさー。僕ってそういうタイプじゃないし」

「は?」


 可笑しな事を言い出して俺は素っ頓狂な声を上げる。


「僕ってさ、基本的には泥棒専門なんだよねー。難攻不落の要塞と言われた銀行やら貸し金庫やらに色々と忍び込んでさー、金品を盗んでるんだよねー。

 人の物を盗むってさ、面白いよねー。盗まれた人がどんな悲しむ顔をするか想像したらそりゃもうやる気MAXなんだー。まあー、どうしてもって時はちゃんと殺すけど」


 満面な笑みを浮かべる26は、小さな子供みたいに楽しそうな雰囲気を出している。


 やっぱりコイツもアホな頭の持ち主かよ。結局やる事19と大差ねぇし。


「お前等、イカれてんのか? 病院で検査した方が良いぞ」

「え? 今の今まで、僕等がまともだったと思う?」


 だよな。まともだったらあんな大戦なんかはなっから起きない。

 てか、19がほったらかしだけど良いのか。19の方を見ると、かなりイラついているご様子で。


「どけ26! ソイツは俺がる。テメェは引込んでろ」

「えー? そうなのー? 別に良いけどね。僕って戦うの好きじゃないしー」


 19の隣に戻った26はニコニコしたまま半歩下がる。


「まあ、僕の強さなんて19と似たり寄ったりだしねー、いてもいなくても変わんないかー」

「うるせぇ。黙ってろ」


 19は全身を殺気をピリピリさせて戦闘モードに入る。

 マズい。19の義肢は俺を攻撃した事で調子が狂ったらしいが、それでも普通に歩いている。多分殴殺ぐらいは可能だろう。


 もし19を倒せたとしても、26が残っている。奴は19と同格の強さを持っていると言っていた。おまけに俺はこの通り瀕死の状態。立っているのもやっとだ。どうする。瞬間移動が使える26相手に逃走なんて絶対無理だ。


 こりゃ、詰んだか。将棋で言えば龍と馬で同時に丸裸の王に詰めろを掛けられている。こちらは持ち駒無し。場外から駒持って来ないと勝ち目なんて……


「ぐっ……」


 腹の傷が限界に達する。村正を突き刺して片膝を着いた。こ、これ以上は俺も立ってられ……


「まっ、殺すのは良いけど、せめて彼の死体だけでも無事に残してねー。色々調べたいって94が言ってたよー。あとそっちの女の子は無傷にしてねー」

「安心しろ。全身潰してやるし、小娘は手足へし折る」

「全然安心出来ない……」


 26の言葉が急に止まり、


「19!」


 慌てた様子で19の服を掴んだ。


「テメェ何を……」


 19が文句言い終える前に26と共に姿を消した。次の瞬間、


 ――ジャリンッ! ジャリンッ! ジャリンッ!


 二人がいた場所に何かが飛来した。

 薄っすら残る意識を起こし、妖眼でそれを追う。


 それは巨大な烏だった。烏が落ちた床は大きな鳥の形に抉られていた。


 他に特徴があるとすれば、その烏は三本足の珍しい烏だ。


「うひょーっ! 危ない危ない!」

「なっ、なっんだよ、一体!」

八咫烏やたがらす!」


 ――ジャリンッ! ジャリンッ! ジャリンッ! ジャリンッ! ジャリンッ!


 瞬間移動し終えた26と19に間髪いれず巨大な烏が五羽飛来して、二人の姿がまた消える。

 飛んだのは、烏だけではなかった。飛ぶ烏が落とす羽、それが床に落ちると羽の形を模して床が抉られた。


 何故だろう。昔、誘拐された俺と梓を父さんが助けに来てくれた時の事を今思い出した。

 あの時は梓が俺の傍で泣きじゃくり、とても怯えていたのを覚えている。誘拐犯(内外共に豚みたいな四十代無職)は典型的なロリコンで、『梓ちゃんは俺の嫁!』とありがちな台詞を大声で叫んでいた。

 邪魔だった俺は殺されそうになり、縛られていた身体をゴロゴロ転がしてかわすのが精一杯だった。業を煮やした誘拐犯は俺の首を押さえつけて絞め殺そうとした。梓は大泣きして叫び、誘拐犯は下種な笑みを浮かべ、正に絶体絶命だった。

 そんな時に、丁度タイミングを見計らったかの様に、監禁場所の壁をブチ破って登場してきたのが父さんだった。誘拐犯はいきなり父さんが登場してビビリまくっていたが、意味不明な奇声を上げた次の瞬間、吹っ飛ばされた。


『……テメェ、世界で一番超超超可愛い俺の息子と過ごす時間を俺から奪った挙句、その息子を大事な友達共共攫って、あまつさえ殺そうとしやがるんだぁ? ア゛ァ゛ッ!?』

『な、何だお前はっ! ぼ、僕は梓ちゃんとけっこ……』

『うるせぇぇぇんだよっ! このロリコン野郎ォォォォォォォォォォッ!』


 と、キレた父さんは俺と梓が見ている前で、誘拐犯を全治半年の大怪我……もう半殺しの状態までぶちのめした。それが終わった後は、梓が泣き止むまで優しく頭を撫でてあげたり、不思議と泣かなかった俺の頭をポンポン叩いて、『さっすが正刀。それでこそ男だな。うんうん』と笑顔を向けてくれた。まるで、誘拐なんて無かったかの様に清々しく、カッコよかった。


 何で事を今思い出したかって? それの登場が、なんとなく父さんに似ていた気がしたからかな。


「……やっぱり、26は自分以外にも、自分に触れているものなら一緒に転移可能みたいだね」

『そのようですね』


 声が頭上から聞こえ、声の主が落ちてきた。煌びやかな大刀を携え、巨大な烏を飛ばし、俺達をこの島まで送り届け、嘗て父さんに散々扱かれたらしいあの人が。


「……な、なぎ、さん」

「ごめん正刀君! 遅くなった!」


 巨大な烏を縦横無尽に飛ばしながら薙刀さんと叢雲がやって来た。

 薙刀さんが放つ巨大な烏――あれは日本神話に登場する三本足が特徴的な八咫烏を模した斬撃技だ。飛ばすのが烏だけでなく、烏が落とす羽も斬撃と化し、触れればスパッと斬られる。


『村正さん、正刀さん達の救助に参りました』

『叢雲さん、ご足労かけるわね』

『いえいえ。これもお仕事ですので』

『……叢雲、久しいな』

『はい村雨さん。お久しぶりです。しかし、事情が事情なので挨拶はこの辺りで省かせてもらいます』

『うむ。主は何も変わらんな。幾多の時が過ぎたというのに』

『まあ、それが叢雲さんだしね? 良いんじゃない?』

『あらあら、それはどうもありがとうございます』


 おいそこの刀共。人が死に掛けてるのに勝手に昔話しようとするな。前にもあったぞこんなの。

 薙刀さんは俺に駆け寄って容態を確認してくれた。のだが、


「……正刀君、一つ聞いて良い?」

「なん、でしょう?」

「何で、そんなシド目で僕を見るの?」


 薙刀さんが困った様子で訊ねてきた通り、俺は今、ジト目で薙刀さんを見ていた。

 何でかって? そんなの聞かなくも分かるでしょう。


「……いえ、あたかも見計らった登場だったんで、待ってたんですかねぇとか、何で態々空中からやって来るんだとか、もうちょっと早く来てほしかったなぁとか、そんなの全然思ってませんよ?」

「うん、ゴメン。本当にゴメン。色々あって遅れたんだ。ゴメン」


 申し訳無さそうに何度も謝罪する薙刀さんは落ち込んで重々しい。


『薙刀さん。落ち込む暇も、説明する暇もありませんよ?』

「おっと、そうだったね」


 叢雲の言葉で切り替えた薙刀さんは19と26に向き直り、叢雲を突きつける。


「うひょー! こりゃ厄介だー! 序列一位の草神薙刀だー!」

「おいおい、何でここに公安零課の野郎がいやがる。アイツ等何してんだ……」

「他の構成員なら、別の公安零課の人間が相手にしてるよ。僕もやっと許可を貰ってね、正刀君達を救出しに来たんだ。

 従ってNo.19、並びにNo.26、逃げたいなら逃がしてやる。僕の最低限の役目は、正刀君達の保護。お前達を始末する義務は課せられていないが、これ以上彼らを害するというのなら」


 二人に突きつけた叢雲の刀身から黄金色の瘴気が発せられ、次第に薙刀さんを覆う。あれは前に村正から聞いた、妖気と同格の神気というものだ。神気の出す威圧感は、村正や村雨の出す妖気とは違った箔が付いていた。


「十秒で殺す」


 尋常では無い殺気の篭った重たい言葉に、俺だけでなく、19と26も息を呑んだ。

 ここで父さんだったら、警告する前にサッサとってるよなぁ。あの人容赦ないから。あと十秒じゃなくて一秒も経たずに殺りそう。


「19~、ここは引いた方が良いよ~。いくら草神薙刀が妖村刃より、帆船と巨大戦艦ぐらいの差があってもさぁ、あればヤバいよ~。僕等非戦闘系だよ~?」

「言われんでもわぁってるっつうの」


 悔しそうに歯軋りする19。


 理解している。ここで薙刀さんと殺り合っても勝てる可能性は極めて低い、と。


 薙刀さんは父さんが死んだ事で序列一位に繰り上がったが、その強さは一位だと言われても可笑しくない程。一方、二人は戦闘が得意な構成員に比べて弱いらしいし、19は半分調子が狂っている。26の瞬間移動で薙刀さんの意表を突いても、叢雲の神力には何があるか分からない。


 仮に、俺が死ぬまでの時間だけ二人が戦う手もある。俺と美雨の治療と保護を妨害して、俺が死んだらとんずらする。だがそれも無理だ。俺が死ぬ前に二人が死ぬ。薙刀さんならそれぐらい出来る。てかやらないと父さんに殺されるだろう。


「しゃあねぇなぁ。おい26、ずらかるぞ」

「う、うん~。そだね~」


 渋々出した決断は、撤退。


 それが最善だ。俺も、そろそろ……


「おっと、忘れてた」


 何かを思い出した19がポケットを弄り、小さな金属の塊を取り出した。その金属の塊には赤いボタンが一つ付いているだけの無骨な作りだった。

 19がそのボタンをポチッと押した。途端、


 ――ドガァァァァァァァァァァンッ!


 四方八方から、爆発が起こった。


「なっ!?」

「うぐおぉっ!」


 爆風を受けただけで、爆破した残骸は当たらなかったが、それでも風圧が凄い。


「お、おい百魔死団!」

「いやぁ、どうせずらかるなら証拠隠滅はちゃんとしねぇとな。つう訳で、さっきはこの部屋だけだったが、あと一分したら建物ごと吹っ飛ぶぞ」

「じゃあそういう訳だから~バイナラ~」


 26が19の腕を掴んで煙の様に姿を消した。

 アイツ等、当たり前だがこの城塞を消してきやがった。ここは日本列島からかなり距離があるから本土に影響は無いだろう。でもこの島に残っている元手下達や俺達もまとめて海の藻屑にする気だ。


「あの中二病共、何処までフザけて……」

『正刀、上』


 村正が警告してきた。頭上から瓦礫が無数に降ってくる。さっきの爆発の残骸か。

 避けないと、と思ったが、身体が全身痛んで動かせない。


「くっそ、身体が……」


 ピキ、ピシ、パキ、と傷口から血が流れ出る。

 もう立つ事も出来ず、膝を突いてしまう。村正を杖代わりにすら出来ない。


「おい、村正」

『あらあら、これはもう無理ね。抑えきれないわ』


 ブシュ、ブチュ、


 村正の妖筋で遅れていた出血が再開された。俺の膝元に血が流れ出る。

 せめて、美雨だけでも守らないと、ボロボロな身体を引き摺ってでも美雨の盾にならないといけないのに、瓦礫がすぐそこまで……


「正刀君!」


 薙刀さんがふってくる瓦礫に八咫烏をぶつけて粉砕してくれた。

 良かっ……た……これ……で、美……雨は……


「しっかりして正刀君! 一先ず月……命……で……」


 途絶え途絶えだった俺の意識も許容範囲を超え、俺の視界が暗闇に染まった。






これの後に二、三話ぐらい書いて終わりしたいと思っています。

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