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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
11/32

No.10 村雨

 俺達はむらさめに話を聞くべく、痛みに耐えながらベッドから立ち上がった。

 に肩を借りつつの所へと向かうことにした。


まさ、大丈夫なの?」


 俺の隣を歩くあずさが心配そうな目で見つめてくる。


「一応な。こんなことで安静にしてたら身が持たねえよ」

「否。師匠はもっと自身を案ずるべきで御座る」

「あらあら、正刀君ったら~」


 梓の隣を歩く姉さんが呆れながらクスクスと笑う。


「それに、姉さんの腕なら歩く程度までなら支障をきたしたりしないでしょ?」

「勿論。正刀君のことだから意地でも歩くだろうし、そこら辺はちゃんとしたわよ。お姉さんに感謝しなさいね」

「はい。いつも感謝しております」


 片手で合掌して頭を下げる。姉さんには治療以外にも色々と世話になってるから、全く敵わない。


「あ、でもまだ傷口が完全に塞がった訳じゃないから、変に無茶とかしたら傷口開いて絶対死ぬから気をつけてね?」

「あー、はい。気をつけます」


 そっか。いくら姉さんでもそこまで完全には無理か。まあ傷口の方は時間を掛けて直せば良いか。それよりも、


「……あの、姉さん。一つ聞きたいことが」

「あら、なぁに?」

「俺が運ばれた後、姉さんが手術してくれましたけど、その後血塗れだった俺の体拭いてくれたり、服変えてくれり、誰がしてくれたんですか?」


 さっきからそれが気になっていた。昨日の俺は白シャツに灰色上着、黒ズボン(中に拳銃とマガジン数個)だった。今は入院中の為に病院着を着ている。というか下着まで変わっていた。一体誰がしてくれたのか大いに気になる。


「正刀君、お姉さんと梓ちゃんと夜千瑠ちゃんとふみちゃんとりんちゃんの中でそれができる人は誰だと思う?」

「え……そんなの消去法で考えたら姉さんしか考えられない気がするんですけど」


 ニッコリと笑って質問する姉さんにそう答えるしかない。

 というかその五人の中なら絶対に姉さんだ。初心な梓が俺にそんなことできる訳ないし、夜千瑠は俺の方がやらせたくないし、文ちゃんと凜ちゃんは思春期真っ只中の中学生だから絶対恥ずかしい筈。て事は……


「うん。そういうこと~」

「ぐああ……」


 またかよ……

 また姉さんに着替えさせられたのかよ。ハズイ。無茶苦茶ハズイ。


「安心して。ちゃんと脱がす前に梓ちゃん達を部屋から出したから」

「いやいやいやっ! ていうか何で姉さんなんですか!? 男の人とかは!? ここの医院には男の看護師いるでしょ!?」

「正刀君。昨日が休診日だってこと忘れたの?」

「あっ」


 そうだった。休診日には姉さんと文ちゃんと凜ちゃんしかいないんだ。

 たけさと医院には十数名の看護師や医師が働いている。皆が皆、姉さんが今まで築いてきた人脈によって雇われた人達。姉さんの人徳が素晴らしいのか、信頼は厚い。姉さんがエロいのを除けば。

 ちなみに男女比率は男1:女3程度と女性従業員の方が多い。しかも大半が銃剣医学校卒。そのせいなのかどうか、殆どの女性が巨乳である。

 理由は教えてくれないのだが、銃剣医学校を卒業した女性は巨乳になるというジンクスがあるらしい。一体どんなことやってんだよその学校は。

 そして昨日は宿直の看護師も医師も誰一人いない。だから姉さんがやってくれたのかよ……


「ふふふ、気にすることないわよ正刀君。お姉さん、何度も見てるんだから」

「何度も見られてるからハズイんですよ!」


 確かに俺が大怪我負って入院した時なんか、姉さんはいつも身体を丁寧に拭いてくれたし、着替えだって身体の自由が効かない時はやってもらった。けど爆乳美女医に見られるのは思春期の男子にとって非常に恥ずかしくて恥ずかしくて、恥ずかしさのあまり悶え死にたいと思ったぐらいだ。


「あぁ……、将来医者になるであろう文ちゃんや凜ちゃんにも同じ様なことをされる日が訪れるかと思うと、凄ぇハズイ……」

「大丈夫よ正刀君。ちゃんと慣らしてあげるから♪」

「止めて下さい! 一体あの二人に何する気ですか!?」


 姉さんが二人にどんな教育をしているのかは知らんが、できれば間違った方向に行かないことを祈りたい。尚、夜千瑠は平然としていたが、梓は俺と姉さんの話を黙って聞いている時に顔が無茶苦茶赤くなっていた。同情します。


 そんなこんなで美雨が寝ている病室に到着した。

 病室には時が止まったかのように美雨が眠っていて、その脇には文ちゃんと凜ちゃんが……


「……んっ、ん…………」

「……あっ、ぁっ…………」


 ……お互いの胸を文字通り揉み合っていた。

 そう。巨乳JCが向かい合っておまん丸な相手のおっぱいを鷲掴みにして揉み揉みしているのだ。

 二人の胸はピッチリとしたナース服を着ているおかげでその大きさを強調していた。中学生にしては育ちすぎな双丘が女の子の手によってムニュンとしなやかな弾力を上げる。

 胸を揉み合う二人の顔は頬が赤く染まり、別の意味で気持ち良さそうだった。


「…………あの、文さん? 凜さん?」

「「ひゃあっ!?」」


 俺が呼びかけると、二人は同時に声を上げて互いの胸から手を放した。


「ま、ま、ま、正刀さん!? あ、梓さんに先生に夜千瑠さんも!?」


 二人は俺達がいたことにやっと気付き、驚愕と羞恥の表情を表に出す。


「い、いつからそこに、いたんですか?」

「たった今来たばかり。とりあえず二人共、聞きたいことが二つある。一つ。何やってたの?」


 最初の質問に二人は顔をカァァァ、とさっきよりも真っ赤に染める。


「えっと、その……」

「……胸を、揉み合っていました」


 凜ちゃんがモジモジとしながら恥ずかしそうに答え、すぐに文ちゃんの方を向く。


「ふ、文ちゃんがいけないんだよ。美雨さんが目覚めるまで暇だからって、胸を揉み合おうだなんて言うから!」

「り、凜ちゃんだって、高校生になってから正刀さんに揉んでもらうために慣れておかないとって言ってたじゃん!」

「そんなこと言ったら文ちゃんだって随分乗り気だったじゃん!」

「違うもん! 私よりも凜ちゃんが乗り気だったもん!」

「違うよ! 文ちゃんの方が乗り気だったよ!」


 どっちが悪いか、責任の擦り付け合いで取っ組み合いが始まりだした。取っ組み合いと言ってもお互いにポカポカ叩いているだけだが、このまま放っておくのは良くないから姉さんが二人の間に割って入って止める。


「二人共、とりあえず事情は分かった。それに関連した二つ目の質問なんだが……どうして俺を呼ばなかった」

「え?」

「へ?」


 いがみ合っていた二人が揃ってポカンとし、俺の方を向く。

 そう。俺は今だ嘗て無い憤りを感じていた。


「俺はな、巨乳美少女のおっぱいが揺れたり動いたり揉まれたりするのを見るのが好きなんだよ! 文ちゃんと凜ちゃんはまだ中学生だから直接触る事はできないけど、揉まれている所は見たかったんだよ!」


 何て事だ。まさか二人の仲良しっぷりを途中からしか見れなかったなんて。


 昔、父さんが言っていた。


 ――いいか正刀。女の子の胸の中にはな、脂肪だけが詰まっているんじゃない。男の夢と希望も詰まっているんだ。男なら、その夢と希望を決して失わせちゃいけない。命に代えても守らなきゃ駄目だ。


 と、連れていってもらったプールで目撃した、巨乳お姉さんの胸部の上下運動をバレないように観察しながら教えてくれた。

 俺はこの言葉を心の中に仕舞い込み、いつしか巨乳好きになった。まぁ、梓の胸を掴んだら父さんは容赦なく拳骨振り下ろしたが、相手が姉さんだったらオッケーだった。


「そ、そうだったんですか……ご、ごめんなさい!」

「別に怒ってはいないさ。その代わり、今度からはちゃんと俺を呼ぶように」

(ゴォンッッッ!)


 俺の顔面に梓の金鎚が炸裂した。


「……何すんだよ梓」

「ウルサァァァァァイッ!」


 梓の怒号が部屋の中に響き渡る。梓は顔を文ちゃんと凜ちゃんよりも赤くして金鎚を振り回しながら叫びだす。


「何で正刀はいつもそうなのよ!? 私だけに飽き足らず文ちゃんと凜ちゃんにまでそうやってエッチなことばっかり言って! いい加減にしてよね!」

「梓よ。俺が懲りない性格であることはお前が一番知っていることじゃないのか?」

「知ってるからこそ言ってんのよ! 銃剣警法違反で訴えられたいの!?」

「大変申し訳御座いませんでした梓様ァァァッ!」


 俺は痛みに堪えつつ即座に決死の土下座をする。昨日死にかけたのにまた死んだら元も子もない。


「え、えっと、正刀さん」


 そんな中で文ちゃんが俺を訊ねる。


「怪我の方は大丈夫なんですか? 先生からはかなり危険な状態だって聞きましたけど」

「ん? ああ、平気平気。これぐらいは日常茶飯事だから」

「日常茶飯事って……」


 しれっと答える俺に、二人共顔が引き攣る。まあ、引き攣るのは無理も無いか。


「それで文ちゃん、凜ちゃん。美雨ちゃんの様子はどう?」

「あ、はい。美雨さんは昨日から眠ったままです。起きる気配は全くありません。ただ……」

「ただ?」

「えーっと、その……」


 歯切れの悪い文ちゃんを凜ちゃんが引き継ぐ。


「えっとですね、数分おきぐらいに日本刀が出てきたりいなくなったりを繰り返しているんです。多分村正さんみたいな日本刀なのかなぁって思って話しかけてみたんですけど反応が無くて。どうしましょう?」


 数分おきに日本刀って、そりゃ絶対村雨だな。大方俺が来るのも待っているのか、はたまた違う理由なのか。


「ふーん、そうなの。で、どうするの正刀君?」


 こういうことに慣れているから大して驚かない姉さんが俺に尋ねる。


「どうするもなにも、元々その日本刀に用があるんですし、出てこれるなら都合が良いですよ」


 そう言って俺はベッドの傍にある丸椅子にゆっくりと座り、美雨の様子を見る。

 美雨は静かだった。呼吸はしているのに、その音が全然聞こえない。脈はあるのに心臓の鼓動もそんなに伝わらない。まるで生きている死体みたいだった。寝顔も可愛いには可愛いが、何処か空虚で孤独な雰囲気を感じる。

 俺が口を開こうとする前に先に口を開いたのは姉さんだった。


「文ちゃん、凜ちゃん」


 その相手は横にいる文ちゃんと凜ちゃんだった。その言葉は普段の姉さんではない、真面目な時の雰囲気が混じっている。


「悪いんだけど、少しの間だけ外してくれない?」

「あ、は、はい」

「わ、分かりました」


 文ちゃんと凜ちゃんはペコリと一礼して病室から出る。それを確認した俺は再び美雨の方へと向き直る。



「……村雨、出てこれるならサッサと出て来い」

『…………ふむ』


 突然、眠る美雨のすぐ脇に妖気が細長く集まり、やがて形状が具現化された日本刀が現れた。

 妖刀『村雨』。村正と同じ、異刀コトナリガタナの一本。


『さて、とりあえず久しぶりと言おうかしら、村雨君?』

『うむ。改めて村正よ、久しいな。最後に主と会ったのは丁度二十年も前か?』

『そうね。確かそれぐらい経ってたかしらね』


 村正が最初に村雨と会話を始める。二人はまるで久々に会う学校の同級生の如く挨拶しているが、村正はまだご立腹みたいだ。


『んで村雨君。再会して早々私の使い手を容赦なく殺そうとしてくれた件についてはなんの謝罪も無いのかしら?』

『うむ。無い』


 村雨は当たり前の様に答えた。

 無いのかよ。こっちはコイツに斬り殺されかけて大変だったのに。とんだ迷惑だ。


『……でしょうね。あったらあったで私が逆に怒るわ』


 対する村正は、村雨の返答を予想していた様な反応を見せた。

 無くても良いのかよ。ていうかあったら何で逆に怒るんだよ。


『しかし村正、このように主と再会するのは運命なのか、或いは単なる偶然なのか、いつになく分からぬな』

『確かにそうね。これが普通の運命ならまだしも、不運だったら最悪よ』

『村正よ。もしかすれば幸運という選択肢もあるのかもしれぬぞ? 現に我は運良く新たな主と顔合わせが適ったのだからな』

『少なくとも幸運だと思っているのは村雨君だけよ。それはそうと正刀』


 村雨と喋っていた村正が俺に話しかける。


『……村雨君に話を聞きたいんでしょ? 村雨君、勿論話してくれるわよね? 拒否したら今眠っている美雨が正刀にあんなことやこんなことをされるわよ?』

『ふむ。まあ、それは致し方あるまい。それに我が主がふしだらな真似を受けるのは刀として感化できん』


 おいお前ら。人を勝手に変質者扱いするな。扱われても仕方ないって分かりきってるけど。

 一つ咳払いをし、村雨に顔を向ける。


「んじゃあ村雨、単刀直入に聞くぞ。何で俺を殺そうとした?」

『……分からぬ』


 村雨はふざけている訳でもないらしく、真面目に答えているみたいだが、この場合の分からないという回答の何処に真面目さがあるのかが分からない。


「惚けるなよ。じゃあ何で美雨は俺を殺そうとした? 村正が言うには、お前が使うつきっていう憑依技で美雨に憑依してたそうじゃねぇか」

『如何にも。我は虚楚憑を発動して我が主に憑依した。だがな若造よ。虚楚憑は憑依した使い手の自我までは操ることはできぬ。つまり使い手が待ったを掛ければそれで虚楚憑は途切れる』

「じゃあ美雨は、本気で俺を殺すつもりだったって言いたいのか?」

『……その答えはこう言おう。当たらずといえど遠からず、だ。あの場で我が開眼し、我が主は我の虚楚憑を発動してものの見事そなたを殺めようとした。だが若造、不思議には思わぬか? 何故開眼したばかりで、しかも我の存在どころかの異刀の存在すら知らぬ我が主が虚楚憑を使えたと思う? 我は我が主に虚楚憑を教えてはおらぬし、教える時も無かったというのに』


 あ、と俺は声を漏らした。

 言われてみればそうだ。俺も村正の使い手になった時、あやすじあやまなこなどの技をすぐに使えた訳じゃない。村正に何度も教えを乞い、体がボロボロになるまで何度も発動を練習してやっと使えるようになった。一朝一夕で極められるものじゃないということぐらいはよく分かっている。

 それなのに、美雨は初めて持つ異刀に対して、一度も使ったことも無い技をいきなり使った。普通に考えればそれはほぼ不可能だ。ゲームで言えばレベル1のプレイヤーが高レベルの装備や魔法を使えないのと同じだ。


「……つまり、村雨は何が言いたいんだよ」

『率直に言おう。虚楚憑を扱ったのは我が主、しかし虚楚憑の発動を許可したのは我が主とは異なる者の意思だと我は思う』


 村雨のその言葉に、なにやら不満と怒りが混ざっている気がした。


「……つまり、美雨はお前以外の誰かに意識を操られていて、虚楚憑の発動も、俺を殺そうとしたのも全部ソイツの仕業だって言いたいのか?」

『如何にも。でなければ説明がつかぬ』


 俺は村雨をジッと見る。虚楚憑は使い手本人の自我までを操ることはできないというのは村正からも聞いていた。だから村雨の言っていることは大方真実だ。だとしたら、誰かが美雨を操り、村雨を使って俺を殺そうとしたという考えも間違ってはいないのかもしれない。けどそれには問題がある。


「村雨、お前は自分が開眼する前の出来事は知っているのか?」

『いや。我に外の記憶が宿るのは開眼したとほぼ同時。故に我が主が何処で何をして過ごしていたのかも知らぬ』


 それだったら、美雨が何処で監禁されていたのかは分からずじまいか。けど今知りたいのはそれじゃないからスルーだ。


「そうか。でもお前が開眼した時がどんな状況だったのかぐらいは流石に分かるよな」

『如何にも。それくらい察せず何百年も刀をやっていない。状況判断など至極必然だ』

「じゃあ聞くぞ。あの状況で、一体誰が美雨を操って、お前を使って俺を殺せる? 少なくともあの周辺には他に人が隠れている気配は無かったぞ」


 問題というのは、美雨を操った張本人が分からないということだ。

 まずあの黒尽くめの男達である可能性はまず無い。もしあの中にいたとしたら、全員を殺す必要は無い。それに操ったのが何故俺じゃなくて美雨だったのか気になる。仮に俺を操ればその時点で美雨を生け捕りにして、梓と夜千瑠も始末できる。なのに、俺は操られていない。しかも途中で美雨が大人しくなった。それは多分美雨が正気に戻ったからだと思うけど、何故途中で戻ったのかすら不明だ。


『……若造の言葉には一理ある。だが我の言葉にも一切の嘘偽りは無い。我が主は何者かに操られ、我を使った。根拠の一つに、我が虚楚憑を発動させる際、我が主に“波”のような何かが伝わったことを感じ取ったのだ』


 村雨は断固として自分の考えを曲げようとはしない。

 それに“波”ねえ。

 気の次は波かよ。気の正体が村雨なのが判明したから良いけど、今度の波ってのは恐らく美雨を操った何かだ。しかもその波を俺等に気付かれずに放ち、美雨を操って俺を殺そうとした人物。もしそんな奴が実在するのなら厄介だ。


「……分かったよ村雨。お前の主張は正しいってことにしておく。今はそんなことを議論している場合じゃないしな」

『ふむ。そうか』

「さてと、ちょっと電話してくる。夜千瑠、肩貸せ」

「う、うむ」


 俺はゆっくりと立ち上がり、夜千瑠の肩を借りて病室を出る。その間際、


『……若造』


 村雨が俺を呼び止めた。


「何だよ」

『……もし、次に我が主がそなたを殺めようとした時、そなたはどうする?』


 その質問はつまり、また美雨が操られて俺を殺そうとした時、俺は美雨を殺すのか、美雨に殺されるのかのどっちだと問い掛けている訳か。


「……分からん。その時に考える」


 俺は曖昧な返答をして病室を出た。

 実の所、美雨を殺したくない。家族になれるかもしれない人間を殺すのは、家族を殺すのと同等に酷なことだからだ。だからといって美雨に殺されたくもない。いくら死ぬ覚悟ができてるからといって、家族に殺されるのも正直嫌だ。

 殺すか殺されるか。異刀の使い手同士が相対した時、選択肢はその二択しかない。村正にいつもそう言われて、俺はそれを適当に聞き流して時間が過ぎた。それがこんな所で俺自身を苦しめる形になるとは思いもよらなかった。


 医院の外に出た俺はある人物に電話を掛けていた。


『……はい、もしもし。山崎です』

「もしもし。妖村です」


 掛けた相手は学校の担任、山崎教諭だった。


『妖村か。どうした?』

「あの先生、また仕事が入ってしまいまして、暫くの間休みたいんです」

『どれぐらい休むんだって聞いても、教えてはくれないよな?』

「ええ勿論。期間も秘匿なので」

『……分かった。来れるようになったらまた電話くれ』

「はい。分かりました」


 山崎教諭はそれ以上なにも聞かずに欠席を了承してくれた。

 俺は仕事の関係上、学校を休むことが多い。これは中学の頃からだった。

 中学校では携帯電話の持ち込みは禁止されていたが、銃剣警である俺は特例として持ち込みが許可されていた。流石に授業中は電源を切っていたが、休み時間になると呼び出しの電話が掛かってきて途中で抜けることも、学校そのものを休むことも多々あった。

 高校に入ってからもそれは続き、俺としては学業に支障が出ない程度に収めているつもりだが、欠席日数が多くなっているのは否めなかった。

 まあそれは兎も角として、これで暫くの間は療養&捜査ができるようになった。あとは……


「……外にいないで中に入ったら良かったじゃねえかよ。てつ

「……いやぁ、流石は正刀様。気付いてしまいましたか」


 目の前に黒い小さな影が姿を現した。

 身長は150より少し低い。上は黒い着物と鎖帷子、黒の腰帯と黒いウエストバックと忍者刀、下は黒半ズボンとレギンス、両手に黒い手袋と篭手、首にはマフラー代わりの黒いネックウォーマー、足は黒い足袋に黒い靴。

 この夜千瑠と同じ全身黒一色の少年はまがうね八徹。十二歳。夜千瑠の傍付き忍。

 八徹は先祖代々風魔一族に使える忍の一派、禍畝一族の一人息子で、現在は修行も兼ねて夜千瑠の傍に仕えていた。

 厳密に言えば八徹は銃剣警ではなく初等課程中は仮銃剣警待遇。つまり中学生になるまでは正式なライセンスを持てない。

 昔の制度では銃剣警になる条件に年齢制限は含まれていなかった。父さんでさえ村正に適合したのが十歳だし、その次の年の十一歳で銃剣警になれたぐらいだからだ。けど近年では年齢無制限で銃剣警になれるというこの制度に異議を唱える人達が増えてきた。例えば教育委員会とか、小さい子供を持つ親とか。

 子供に銃器や刃物を持たせるのは野蛮だとか危険だとか、子供は戦争の道具では無いとか言い出す人が増えているのも現状だ。しかもそれに関して否定のしようがないから余計に始末が悪い。最近では法改正が成され、初等課程を終えていない者には正式ライセンスよりも厳しい制限が掛かった仮のライセンスしか与えられない決まりになった。俺がライセンスを取得したのは中学に上がる前。法改正が行われる少し前だったから銃剣警になれたけど、実質初等課程修了後に受け取ったようなものだ。

 そんな訳で普段の八徹はちゃんと小学生をやっている。勉強は出来るし、運動は苦手だと偽忍者になるから勿論出来るし、仲の良い友達も沢山いるらしい(但し女の子が多い)。目上の人に限らず同級生や下級生にも礼儀正しく優しい。素行が良いから教師からも信用もされてる。こういう奴ほど裏の顔が黒いと言うが、悪さすれば夜千瑠に折檻されるからそんな事も無い。

 聞いた話では近所の女子中高生や女子大生達間で小動物の如く人気者でもあるらしい。まあ八徹の愛らしい顔を見れば無理もないか。

 一方の俺はというと、勉強は一応出来るし運動はいうことなし。普段からクラスでも学校でも浮いて昼飯を一人で食べる毎日。話す相手といえば何故か臆することなく話しかけてくるぬまじょういん先輩、ごう先輩、あとその他数人ぐらい。最近までは知らなかったが人気はかなりあるという、八徹と真逆な気がしてならない。

 ちなみに夜千瑠も普段は銃剣警高校付属中学に通っている。クラス内では忍者の格好(普段は制服の中に着込んでいる)が男子に大ウケらしくてひそかに人気があるらしい。正式ライセンスも持っている訳だから信頼も厚い。俺とは雲泥の差だ。

 無論八徹の忍の技術スキルも高い。十二歳ながら犯罪検挙数はヘタな銃剣警よりも高い。忍だから諜報活動もお手の物。小柄な体型を生かしてどんな所にでも潜入できるし、見つかっても子供だから大抵は誤魔化せる。

 酷い話にもなるが、時には夜千瑠と共に暗殺の仕事もこなしている。仮のライセンス持ちでは殺人が厳禁とされているが、銃剣警局からの認可が下りれば仮のライセンスでも殺人罪には問われない。そんな感じで、命令として八徹が今まで殺してきた人数は三十八人。どれもこれも裏で犯罪に手を染めていた政治家や実業家達ばかりだ。

 そこまで実績のある八徹。充分一人前な筈なのに、夜千瑠は彼はまだ未熟者だと頑なに言っている。詳しい理由は教えてはくれなかったが、曰く八徹には致命的な欠点が一つあるとか。


「もしかして、医院に怪しい奴がやって来ないか見張ってくれてたのか?」

「はい! 負傷中の正刀様やお側に付いておりました皆様、そして夜千瑠お嬢様に危険が及ばないように監視しておりました! 尚不審人物の気配等は今の所ありません!」


 ビシッと敬礼し、元気良く答える八徹。

 今は誰かに見張られているということは無いか。けど油断できないな。万が一に備えておかないと色々とマズいな。


「それとお嬢様。先程お館様からご連絡が御座いました。お嬢様にお話したいことがあるらしく、一度ご帰宅してくれとのことです」

「父上がか?」

「はい。医院の中におりましたし、お嬢様の携帯に直接掛けることはできなかったので僕経由でそうお伝えするようにと」


 どうやら、夜千瑠は親父さんから呼び出しを喰らった様だ。良いか悪いかは知らんが。


「……ふむ、そうか。ご苦労八徹。しかし、拙者には師匠を近衛するという任務が……」


 夜千瑠は俺を見ながら言いにくそうに答えた。確かに夜千瑠がここを離れるというのは正直厳しい。今の俺が戦えば即死は目に見えてるしな。あと、俺の護衛するの、任務じゃなくて自主的にだよな。


「良い夜千瑠。防衛は八徹に任せる」

「しかし師匠、八徹はまだ未熟で……」

「構わない。もしもの時は俺がなんとかする」


 渋る夜千瑠をキツい口調で黙らせる。だが夜千瑠、そこは忍らしく耐え忍んで八徹の方に顔を向ける。


「……八徹、師匠達を死守するのだぞ」

「はい! 禍畝八徹、承知致しました!」


 八徹が元気良く返事をしたのを確認した夜千瑠は俺に一礼して姿を消した。


「さてと八徹、肩貸してくれ」

「はい正刀様!」


 こうして俺達は再び医院の中へと戻った。



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