省エネ男子 リサイクルスキルに目覚める。
今日も罵声が飛んできた。
「おい、貧乏人。邪魔なんだけど。」
グレイ・サルファスは視線だけ向けて、また前を向いた。反応するのが面倒くさい。怒鳴り返す気力もない。それよりも足が痛い。
昨日の石を投げられ、できた打撲の痛みがまだ続いている。
兄のライなら即座に言い返すだろう。顔がいいくせに口も立つから、逆に相手がたじろぐ。でも、俺は違う。頭の中はフル回転しているが周りからしてみると、ぼんやりしているように見える俺の方が、ずっと的になりやすいみたいだ。
わかってはいる。わかっていても、どうにもならないこともある。
暴言吐いて、去っていく猿山の大将。
嫌な天気だし、嫌な気分だと思いながら、
グレイは、フラフラといつもの場所に向かう。
街の外れ、石壁の裏に広がるゴミ集積場。
腐った生ゴミの匂いが鼻をつく。普通の人間なら近づきもしない場所。でもグレイにとってここは、一人になれる数少ない場所だった。
そして今日も"別の目的"がある。
食べられるものは、あるか?
しゃがみ込んで、慎重に手を伸ばす。皮だけになった何かの果物。かじられてカビが繁殖したパンの欠片。踏み潰された野菜の残骸。
どれも終わっている。どれも、もう食べられない。グレイは手を止めた。
今朝、ネネが言っていた。
干し肉以外が食べたい、と。冗談っぽく笑いながら言っていたけれど、目が笑っていなかった。
ティリーはそれを聞いて、何も言わずに台所に消えた。きっと泣くまいと、我慢していたんだろう。
胸の奥がじわりと熱くなる。
涙が出そうになって、俺は奥歯を噛んだ。
泣くな。泣いても、何も変わらない。
それでも、思わずにいられなかった。
────時が戻せたら。
せめてこの果物だけでも。食べ物だけでも、元に戻せたら。
その瞬間だった。頭の中に、声が響いた。
『────スキル【リサイクル】を獲得しました』
俺は顔を上げた。周りには誰も、いない。
声の出所もわからない。でも確かに聞こえた。
頭の中に直接、染み込むように。手のひらがほのかに光っている。恐る恐る、カビだらけの果物に触れた。光が広がる。柔らかく、静かに。
次の瞬間、手の中にあったのは
────鮮やかな赤と黄色の実だった。アズの実だ。
傷一つない、みずみずしい果実が二つ。
グレイはしばらく、それを見つめていた。
「……は、?」
思わず声が出る。間の抜けた、一音だけの声が。
家に帰るなり、グレイはアズの実をテーブルに置いた。家族全員の視線が集まる。
「拾った、のか?」とオリバーが怪訝な顔をして眉を上げる。
「違う。俺が、戻したんだ」
説明するのに、少し時間がかかった。
スキルが突然発現したこと。ゴミ集積場の果物に触れたら、元の状態に戻ったこと。俺が淡々と話す横でライが目を輝かせ、ティリーが口を半開きにし、ネネがアズの実をじっと見つめていた。
アメリアだけが静かに微笑んで、グレイの手を両手で包んだ。
「スキルが芽生えたことも嬉しいけれど、貴方が無事で、良かった」
それだけだった。
でも、その体温が今日一番グレイの胸に刺さった。
翌日、オリバーに連れられて商人ギルドへ向かった。スキル持ちは登録が必要だ。
それがこの王国のルールだった。
受付の職員は三十代くらいの女性で、グレイたちを見た瞬間に一度だけ眉をひそめた。
スラム街の匂いでわかるのだろう。
「スキルの登録ですね。お名前とスキル名を」
「グレイ・サルファス。スキルは【リサイクル】」
それを見た、商人ギルド職員の手が止まった。




