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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第29話 清めの時間

 ルカはチオリと街へ出かけている。


 ボクは何をしていると言うと……、お留守番中である。カッコよく言えばこの屋敷を守るものとでも言うのだろうか。

 かといって立ち尽くして何もしないというのは落ち着かないので、ボクはつきあたりが見えないほどの長い廊下に居た。


 せっかくだから光を自由に使えるように練習していたのだが、霧の化け物に襲われた時の小さな光の玉を出すのが限界であった。

 やはり、ルカに捕まってもらうしか……。


 変なことを考えそうになったところで玄関から音がした。どうやら買い出しから帰ってきたようだ。


 何となく姿を見たいと思い二人のもとへと向かう。


「ただいまーっ! ミナト!」


「おかえり、ルカ」


 歩いて荷物も持っているのに元気よく手を挙げてこちらにあいさつを返してくれる。対してボクはそんな豊かな返しもできず目をそらしながら手を振った。


「疲れてしまいましたわ。こういう時は風呂に入りたいわね」


「そうだねーっ」


「準備はできております」


 一緒に出掛けていたはずなのに、ヤヒコはどこかから急に現れてチオリとルカの荷物を預かっていく。

 先ほどまで近くにもいなかったはず、少し離れたところで見ていたボクでも気付かなかったほどだ。


 あれ……、そもそも風呂の準備なんていつの間にしていたんだ。家の中にはボクしかいなかった気がするんだけど……。


「あら、じゃあいただこうかしら。ルカも一緒にどう?」


「一緒かぁ──、汗かいちゃったし入ろっかなっ」


「ミナトもせっかくですし、後に入ると良いわ」


 ボクがやっと二人の前に来たところでまさかの提案がきた。


 女の子からお風呂に誘われてしまうなんて──。

 いや、どう考えても一緒に入るわけではないのはわかっている。


 ……一瞬混浴の誘いかと思ってしまったのは秘密にしておこう。


「ありがとう、後でいただくよ」


「じゃああたくしたちは行きましょうか。時間がかかってしまってはミナトの時間が減ってしまいますからね」


 二人は楽しそうに会話を続けながら、そのまま風呂があると思われるドアへと向かっていった。


 ──ボクはどうしようか


 先ほどまでやっていた練習をする気分もなくなってしまったので、とりあえずこの屋敷を探索しようか。


 ……。


 別に深い意味は無い……。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 チャプン♪


「ふーっ、生き返る気分だよぉ──」


「気に入っていただけたようで良かったですわ」


 いつの間にかあの特徴的な巻き髪でなくなっているチオリが入ってくる。

 いつもと印象が違って貴婦人のような雰囲気を感じ取る。


 別に普段の姿でもお嬢様であることは間違いないけどさ。


「あれっ? ヤヒコも居るんだ。でも目隠ししてる──」


「ええ、常に傍にいてもらっていますもの。毎回体を洗ってもらっていますわ」


「め、目隠しした状態で!?」


「もちろんでございます。紳士たれ──、仕えるものとしての当然の務めを果たしているだけです」


 とはいえ、ありきたりな疑問だがその状態で入って危なくないのかな。

 身体能力が高いのは一緒に洞窟を冒険したので知っているけど、それは目が見えてこそじゃないの……?


「見えなくても洗えるの? 転んじゃいそうだし、ヤヒコの心配をしちゃうよ」


「それが意外と上手いのですよ。せっかくですしルカも試してみますか?」


「いいよ、私は。気が気じゃなくなって、ゆっくりできなくなりそう」


 私が言い終わるや否やヤヒコがチオリの後ろへと立っていた。

 ヤヒコはチオリの頭にゆっくりと水を流して髪に浸透させていくように手で濯ぐ。

 シャンプーを手に取り、頭皮をきちんと汚れが落ちるように力を入れつつ、それでいて傷つけないように優しく泡立てて洗っていく。


 手際が良いと思いつつ、その間に私はサッと洗って早々にシャワーを終えてしまう。

 このまま待っていてもすることがないので、チオリより先に湯船の方へ向かって湯に浸かる。


 チオリはちょうどトリートメントらしきものをしてもらっているところで、ヤヒコの繊細な手さばきで金髪を包み込むように洗い上げられている。


「これは私の目から見てもプロ級ってことがわかるよっ。実は目隠ししてないんじゃ」


「お褒めにあずかり光栄です。これも慣れていますので」


 私の場所を正確に向いて頭を下げてくる。湯船の位置は何となく把握しているだろうけど、これは周りが見えているんじゃないのかなぁ──。


「それでは体もお願いしますわね」


 チオリは無防備に腕を広げヤヒコにすべてを預ける。恥ずかしげもなくチオリはただただリラックスした顔をしている。

 私じゃあんなに体を預けるなんて無理だ。チオリは長い間の関係性があるからできるのかもしれないが、私とはつい先日あったばかり。

 正直なところ、ヤヒコに目隠しがある今の状態でもめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。


 体の洗浄に移った後も迅速かつ丁寧にチオリの白い柔肌をヤヒコが洗い上げる。

 艶やかでいてきめ細やかな肌は私も憧れてしまう。旅をしてばかりでまともにケアなどできない生活をしている私の肌は少しざらつくのだ。


 美を求め可愛く見られるなら肌のお手入れも大事、そんなことはこの私が一番知っている。


 ──でもね、元が可愛いし多少は良いかなっ?


 どうやら全身洗い終わったようで、チオリがこちらに向かってきていた。

 髪が湯に入らないようにまとめてから私の隣にチオリが入ってくる。

 ヤヒコはどこにいるのだろうかと思ったけど少し離れたところで立っている。数歩でこちらまで寄ってこれる程度の距離だ。


「それにしてもミナトと一緒に過ごしているのは何か特別な関係なのでしょうか?」


「んー、光のつながりはあるんだけどね。信じられないかもだけど最近出会っただけなんだ。でも何って言ったら良いのかな、他人とは思えない不思議な感じがあるんだよ」


「あら、のろけでしょうか」


「そんなんじゃないよ! ──そりゃ友達として好きだけどさ。友達関係のまま、ずっと一緒に仲良くしていたいだけだよ」


 一緒に過ごしてきたミナトに何も想うところが無いはずない。

 それだけの信頼関係が無ければ二人で過ごすなんてしないだろう。


 でもそれが一緒に居て楽しい仲間であることは間違いない。

 うわさに聞く恋とか言うものは一緒にいてドキドキするとかいうらしい。

 ミナトに助けられたときにもカッコいいとは思ったが、心臓が高鳴ることなどなかった。


「意外ですわね、そうだったのですか」


「──まだ気づいていないだけなのでしょうか」


 最後の方はよく聞き取れなかったが、納得してくれたということで良いだろうか。


 この後も真面目な話も挟みつつ、尚も会話は続いていく──。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ミナトはすることがなく部屋の探検をしていたら、お風呂から上がってきたルカたちと偶然出くわす。


「──ミナトこんなところで何してたの?」


「広いから部屋を見て回ってたんだ」


「あら、てっきりあたくしたちの入浴に参戦しようかと思っていたのでは」


「えっ、そうなの! ミナトも男の子だねぇ~」


 ルカがにやりと半月みたいに目を細める。


「そんなことしないよ……」


「むーっ、それはそれでなんか私に魅力がないって言われてるみたいだよぉ!」


「そ、それは理不尽すぎるよ……」


 ミナトはどちらを選んでも不正解の二択を迫られてしまっていた。


「まあいいや。お風呂空いたから入ってきなよ。凄く広いんだから!」


「どうぞ入ってきてくださいまし」


 二人に促されるようにボクは風呂場へと向かう。

 場所は知らなかったが、目に見えない力が働いて自然と足が動き、風呂の扉の前に居た。


 扉を開けようとすると横に気配を感じた。恐る恐る振り向いてみると、ひとつの影がそこにはあった。

 どこから来たのかわからないがヤヒコが隣に立っている。チオリと一緒に居たのではないのか?


「お背中お流ししましょうか?」


「……さすがに遠慮しとく」


 風呂といえばひとりで入るものだし、一緒に入る文化があるとはいえ他の人と入るのは恥ずかしい。


 ボクの言葉を聞いてどこか行ってしまったヤヒコをよそに、風呂への扉をゆっくりと開けていく。


 ルカの言っていた通り広い浴室にボクもテンションが上がってしまう。

 特に走りたいとか思うわけでもないのにどうしてだろうか。大声で叫んでも誰にも気づかれないとかであろうか。


 高揚感に身を任せ体を洗い終えて湯船へと浸かる。


 とても温かい、それに先ほどまでルカとチオリが入っていたのか。


「……二人が入ったお湯」


 つい呟いてしまったが、その事実だけでドキドキしてしまう。普通に考えれば汚いだけなのだがなぜだろうか。

 よくわからない気持ちを感じる、やましい気持ちが一切ないとまでは言わない。不思議な感覚だ。

 だが、仲間という関係性でもある。変なことを考えていたら、この後の関係性も気まずくなってしまうだろう。


 雑念を振り払うように、ボクは無心になってゆっくりとお湯に浸かった。

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