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かま×なべ  作者: 涼御ヤミ
かま×なべ 2
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第二章『ラプソ×始まり』③

 ブラックアウトした画面中央に『それではラプソディ・オンラインをごゆるりとお過ごしください』と書かれたポップが踊り、俺達を電脳世界へと(いざな)った。

 ごゆるりできたらいいんだけどな。俺達はギルドランキング一位を目指しているんだ。今は一分一秒も惜しい。


 ……と言いたいところだが、一朝一夕でなれるような簡単なものでもないだろうし、楽しみながらやる心を忘れちゃダメだよな。その心すらも損なわれたらそれこそただの作業ゲーでしかない。仲間と協力して勝ち得るからこそ意味がある。


 五秒ほど暗黒が続き、次に俺が瞬きをした時には、画面上に新たな世界が構築されていた。


 果てしなく続く緑。か細い雲が浮かぶ秋晴れのような空。


 相変わらず細部にまでこだわったこの世界には舌を巻く。精彩を放っているというか凛之助じゃないが見事という他ない。

 その大地にほとんど同時に俺達は降り立った。ある意味で産み落とされたという表現が適切かもしれない。


「わっ。華都、あんた男じゃない」


 脈絡のない月の謎めく言葉に、思わず何当たり前のこと言ってやがんだという至極真っ当な所感を抱いたが、なるほど、そういうことか。


「お前だって女じゃねーか」

「ふふ、そうね」


 ディスプレイを見たままそんなことを口にする俺達は傍目に変な奴に見えるかもしれないが、それならそれでいい。分かる奴にさえ分かればな。


「華都くん華都くん、これどうすればいいの?」


 濃野の呼び掛けに顔をそちらに向けると、画面にはチュートリアルをしますか? の表示。よく見ればそれは俺と月の画面にも映し出されていた。そういやこんなのもあったな。


「いや、いいえのボタンを押しゃあいい。俺の記憶だと十五分くらいかけて懇切丁寧に操作方法を聞いたあと支給品が回復薬五個と中々にしょっぱいからな。昔の仕様と変わってるかもだが、完全に初心者用だ」

「わたし、その右も左も分からない初心者なんだけど」と、自分自身を指差すが俺は笑みを湛えて言った。

「安心しろ。俺がチュートリアル以上のことを教えてやる。百聞は一見にしかずだからな。やりながら覚えたほうが早い」


 言うが早いか、俺は席を立ち濃野の背後に立った。例外なくいい香りが鼻腔をくすぐるが何とか平常心を保つ。


「まずマウスを持って動かしてみ。初めは左右、次は上下に」

「う、うん」


 俺の指示に従いマウスを握った濃野が左右にマウスを動かした。それに伴いディスプレイ上の視界が左に、右に動く。そして上下も同様に視界が上へ、下へと向く。


「これが簡単な視点移動だ。ラプソはMMORPGにしては珍しくFPS視点を採用してるからな。俺らは慣れてるからいいが、最初はあまりぐるんぐるん動かなさないほうがいいぞ。酔うから」

「あ、それなら大丈夫だと思う。わたし三半規管には自信あるんだ」


 えっへんと自信満々に胸を張る濃野を見て取り次の説明へ。


「普通の移動はキーボードを使って行う。Wが上でSが下、Aが左でDが右、それからスペースがジャンプだな。他のアルファベットにも用途はあるがまぁそれは追々、今は操作して慣らすのを心掛けたほうがいい」

「あ、えっと……」


 濃野から鈍い反応が返ってくる。

 一体どうし――――ア。


 現状を把握する。

 密着、とまではいかないが、俺が濃野と触れ合う距離にあり、濃野が恥ずかしそうにこちらを見上げていた。その破壊力抜群の上目遣いに思わずキュン死しそうになるが、月がジトッとした目付きで見ているのに気が付いたため、惜しむらくは身体を離し咳払いしてから自席へと舞い戻る。


「わ、わ、これ操作するの難しい」


 画面を見ると、濃野の扱うキャラクターが酔っ払いのような動きを披露していた。思いの外苦戦しているようだ。初心者は慣れるまでに時間が掛かるかもしれない。


「それじゃあ、いつまでもこんなとこにいないで、次のマップに移動しましょ」

「次のマップ?」と濃野。

「ああ、マップ移動のことな。ここから真っ直ぐ進むと青白い光を放つ箇所があるだろ。あれをポータルといってあそこを潜ると次のマップへと切り替わるんだ。因みにそこに行ったらW、つまりは上のボタンをプッシュ」


 まずは手本とばかりに俺が光の中へと飛び込み、画面を暗転させた。俺に倣い、月、そして濃野と続く。


 明転し、次に視界に飛び込んできたのは、緑と赤褐色が連なった高低差だった。さっきのだだっ広い場所とは異なり、こっちには果てがある。そしてそれだけにとどまらず、草の生え揃ったところを中心に浮かび上がるシルエット――モンスターがいた。

 俺達の膝丈ほどの大きさしかない音符型モンスターで名前は『ラプソン』。このネトゲのマスコットキャラクターといえる。音符と幽霊を足して二で割ったような愛くるしい容姿をしている。


「わっ、かわいい」

「うわ、なっつ」


 と俺の横で同時に反応を示す二人。これが新参と古参の違いか。俺もどっちかってーと後者だが。


「見ての通りあれがモンスターと呼ばれるやつだ。あいつらを狩りつくしこの初心者島でレベルを十にするのが初めの目標だな。当面じゃないぞ。今日中に上げる」


 そう口にしてから、俺は元々掛けてあった壁時計に目を遣り時間を確認。完全下校時間となる十八時までにはあと一時間弱しかない。今からレベル十にするためには正直言って一時間じゃ足りない。最低でももう一時間はほしい。そのため俺は宍戸教諭にこのように提案した。


「宍戸教諭、残業してください」

「嫌に決まってるだろう」


 いきなり断られた。


「どうしてですか!?」

「俺の給料には関係しない完全サビ残だからだ。つうか藪から棒になんだ。理由があるなら聞いてやる」

「時間がもったいないので単刀直入に言うと、転職できるレベルにするまでにあと一時間じゃ足りないので、遅延のお願いをしたいわけです」


 生徒だけではダメだが、教員が居残ってくれれば限界はあれど引き伸ばすことは可能だからな。

俺の言いたいことを確かに理解した宍戸教諭があーと後頭部を掻いてみせると、


「……まぁいいだろう。どうせ家に帰ってもすることはもっぱらラプソだからな。但し十九時までだからな。それ以上は俺がお咎めを食らう」


 仕事をしたとばかりにふんぞり返ってひらひらと手を閃かせる。

 なかなかどうして上出来だ。だが俺の一存で勝手に決めてしまってよかっただろうか。そう思い遅まきながら月と濃野に目を向けると、


「まぁいいわよ。どうせこうなるだろうと思ってお婆ちゃんには声掛けておいたから」

「わたしもそのくらいなら大丈夫。もともと漫研の名目で居残ってたことだしね」


 話はとんとん拍子に進み、俺の望む形となった。

 今度は濃野に狩りについて教えようとした矢先、先人の姿を認め、好都合だとそちらを見るように促した。

俺が指差した先には、短剣を手に敵に向かって斬りかかる男がいた。俺達と同じ始めたばかりのプレイヤーの一人だろう。そのぎこちない動作から見るにラプソ初心者だと悟る。三回くらい斬りつけたところで敵が消滅し、プレイヤーを青白い淡い光が包み込んだ。レベルアップ時に出るエフェクトの一つだ。


「ああやって、俺達もガンガンレベルアップしていくぞ」

「それは分かったけど、武器はどうするの? わたし達、まだ空手のままだけど」

「武器なら始まったと同時に俺達の武器欄に入ってるぜ。まずアイテム欄を開くためにキーボードのIを押す。そしたらアイテム欄が表示されるからマウスを使って武器欄を選択。開いたら一番上のところに武器が入ってるから、ダブルクリックするか左クリックして武器を選べばいい。まぁ素手で殴ることもできるがいかんせん威力が低いからな。武道家ならともかく」


 説明しながら、俺は装備欄から短剣にカーソルを合わせダブルクリックし、手に短剣を出現させた。

 俺に倣い武器を装備する月に、濃野があっと短い声を上げた。


「なんかわたあしのだけみんなのと違う……」


 装備した武器を見ると、俺と月のよりも長く鋭利なフォルムが濃野の手に握られていた。


「それは剣だな。短剣よりもリーチが長い分有利で攻撃力が少し高い」

「確かランダム出現のやつでしょ。序盤だと重宝するわよね」

「へー、なんだか色々な要素があるんだね」

「こんなの、まだまだ序の口だぜ」


 そんな会話をしていると、敵の一匹がふらふらとこちらに近寄ってくるのが見えた。標的にされたのは一番近い位置にいた俺。


「ちょうどいい。今から倒すからよく見とけよ。まずは敵を十分に引き付ける。そして敵を攻撃の届く範囲にまで引き付けたらこうマウスを左クリックする」


 左クリックした直後、これといったタイムラグもなくモンスターを斬りつける。斬られた敵の頭上には与えたダメージを示す数値が表示されノックバック、一瞬動きが止まる。レベルが足りないからか一撃では沈まない。あと二発ほどだろうと斬りつけるや、敵は泣くモーションをとり霧散。経験値だけでなくドロップアイテムをその場に落とした。ラプソ内での通貨五リアとラプソンの三角巾。いわゆる素材。いつもなら自慢のペットが従順に拾いに行ってくれるが、現状メイン垢に封印されているため、俺がそそくさと拾う。


「初めは敵との距離感がうまく掴めないかもだが、やっていくうちにコツを掴んで自然と慣れてくる」


 俺に続き月も近くの敵を狩り始める。おそるおそるではあるが、濃野もぎこちない動きで敵に近付き攻撃していた。お世辞にも筋がいいとは言えないが、誰だって初めはこんなもんだ。いきなりうまいやつなんてそうはいない。


「あと画面左下の名前の横にある赤いのがHPゲージで、青いのがMPゲージな。MPは転職するまでは使わないからまた追々、さらに横に球体があるだろ? そこに黄色い液体が満たされるとレベルアップだ。マウスを上に乗せると次のレベルアップまでに必要な経験値量が分かる」


 そう簡単に説明してから、俺は一度ログアウトし、ログイン画面で現在本垢となっているIDを打ち込みカノンのキャラでログインした。そしてすぐにポイントショップに入り、秘密裏、というわけでもないが、個別に課金アイテムを贈る。


「あれ? あれれ? 華都くんはいずこに?」


 ゲーム内から俺が消えたことに気付いた濃野が手を止めるが、ちょうどいい。右下にショップのボタンがあることを教え押すように促す。それから月にも。


「なんか【カノン】って人からプレゼントが届いてるよ?」

「それは俺だな。開いたら分かると思うが、初心者応援パックが入ってる。その内容は値段の割には豪華で、一ヶ月間経験値二倍オーブに、ドロップ二倍オーブ。それから、本島で使える髪型、顔変更オーブが一つずつに十万リアの五点セットだ」

「昔じゃ考えられないすごい豪華な内容ねえ」

「しかもこれだけ入って一kなのが驚きだよな。ラプソもついに新規獲得に身を乗り出したのかって話だ」

「一kって確か千円って意味だっけ?」

「ああ、合ってるよ。一kが千で一mが百万、そしてさらに上の一gが十億だな」

「はえ~、十億かあ……ラプソ内とはいえなんだか途方もない数字だぁ」

「いや? そうでもないぞ」


 視線を隣の月に振ると、月は思い出すように目を瞑り腕組み、


「確か今のあたしの所持金は三gくらいね」

「三g!?」

「俺は五gあるな」

「五g!?」

「そんで俺は七gだな」と訊かれてもないのに対面の悠間が口を挟んだ。すると案に違わず宍戸先生が悠間に金をよこせとせびり出すが、あいにく俺が出航させた助け船は月と濃野の二人でいっぱいだ。

「穂積くん達って、ラプソじゃすごい人達なんだね……」


 鳩豆顔浮かべる濃野が感嘆の声を漏らした。

 まぁ腐ってもランカーだからな。元と言うのが正しいかもしれないが。

 狩りを始めて一分も経たないうちに、俺達は仲良くレベル二になっていた。早速経験値二倍オーブの恩恵を受けたようだ。通常時とは雲泥の差があるからな。


「あ、右下が点滅してるよ? なんだろ」とクリックし、ステータス画面を開いた濃野を俺は急いで制止した。


 ポイントは……よし、どこにも振り分けされてないな。


「ど、どしたの穂積くん」


 驚いたと言わんばかりに目を丸くし胸に手を当てていた。


「いや後から教えようとしたのが悪かった。説明が後手に回ったな。こういうのは先に話しておいて然るべきだ」

「説明?」

「ああ、ステータス画面の下のほうに四と書かれた数字があるだろ? レベルが一上がるとこの数字が四ずつ加算され、攻撃や防御、回避とかに振って能力の底上げをはかることができるんだ」

「あ、わたしが前やった据え置きのゲームでもそんなのあったな」

「なんだ、経験あんのか。なら話は早い。見ての通りラプソのステータスは攻撃、防御、魔攻、魔防、命中、回避の六つをメインに構築されてる。そんでラプソやってるほとんどは上からATK、DEF、MAT、MDE、DEX、EVAの略称を使い、さらに短縮して頭文字のA、D、MA、MD、DE、Eで呼ばれたりすることがある。因みに能力を上昇させることで他の恩恵も受けることができて、AとDを上げるとHP、MAとMDだとMP、DはクリティカルでEは移動速度がアップする」


 ここまで大分駆け足で説明したが大丈夫か訊くと、あっさり全部記憶したからだいじょーぶぃと笑ってみせた。流石は濃野。特待生は伊達じゃない。


「お陰で色々分かったよ。でもこういうのって先に上げておいたほうがいいんじゃないの? ダメってことは後に上げることで発生するメリットがあるとか?」

「お、いい勘してるな。そうだ、ラプソは割りとよくある規定のレベルに達したら転職できるシステムを設けているが、他のネトゲとかと違って自分が就きたい職業を選ぶことのできないランダム制度を取り入れてるんだ」

「わ、わあ~。すごく斬新なんだね!」


 多少ひきつった顔で濃野が言うが、無理に褒めなくてもいいぞ。事実そのせいで他のネトゲよりも人口が少ないんだ。この場合人を選ぶというべきか。まぁそこさえ気にしなきゃ最高に面白いんだけどな。


「だから下手に割り振ったりしたら即リセマラコースってワケよ。あたしもはじめは驚かされたわ。初見殺しもいいとこよね」


 片手を上げ片目を閉じ、月が俺の言葉を継いでそう説明した。実を言うと、かくいう俺もその一人だったりする。初見殺しとは言い得て妙だ。そろそろ初見殺しの会を結成してもいいかもしれない。


 そんな話をしながら狩りを進め四レベルに到達した俺達はより強いモンスターを求めて次のフィールドへと歩みを進めた。

 次のマップでは先ほどよりもプレイヤーが多く、それに伴い新規のモンスターが跋扈(ばっこ)していた。皆一様にちまちま剣で斬りつけているが――いや静かだ。

 今じゃ派手なスキルで敵を一掃してばかりいたからな。こういうのも悪くない。

 横もなく平和に狩りは続き、レベルが五に上がったところで、そろそろ町へ行こうと俺が提案した。誰も異論を唱える者はいない。


「RPGといえば町だもんね。てことは新しい武器とかこしらえるの?」

「まぁそんなとこだな。って、思ったよりゲーム脳なんだな濃野。変わってなければあと二つマップを抜けた先にあるはずだ。時間は有限だ、ずんずん行こう」


こちらを投稿するのはお久しぶりとなります。

不定期更新ながら見てくださったかたはありがとうございます。

誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ。

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