泉と館に住まう不思議な子ども
前回よりは短いよ。
夢を見ていた。
寒くて暗くて痛いんだ。
体が消えていく気がした。
透明になって、永遠にどこかわからない処を彷徨うコワい夢。
透明感のある男とも女とも言い切れない声が響いて、その夢は終わった。
次の夢は家族や友達と過ごした誕生日の夢。過去の記憶。
遠くに引っ越してどこかに行ってしまった昔の親友や、亡くなってしまった親戚も集まって祝ってくれた俺の誕生日。だけど、親戚の顔もその親友の顔もはっきりしなくて、思い出せない。名前も、声も、どんなヤツだったのかも思い出せない。
ただ、本当に嬉しかったのは覚えている。
この夢は、少年のような男の声に遮られて終わった。
いい夢だったのに…。
その次は覚えている筈の自分の事。まるで全部忘れていたみたいに思い出した感じの夢だった。だが、やっぱりところどころ抜けている。
俺の名前は夢旅 優。仲間やみんなからはユウと呼ばれていた、不思議なことが多い家の当主の長男。趣味は読書と散歩と夏の避暑さがし。友と呼べる人物も何人か居た。だが、そいつらの顔も名前も思い出せない。そして、親戚に強烈な個性を持つ人物が数人…だがこちらは思い出したくない気がする。思い出したいような、本能が思い出すのを避けろと言っているような、不思議な感覚だ。
なんだか周りが明るくなってきた。甲高い子どもの声が聞こえる気がする。子供同士で遊んで、はしゃいでいるような声。楽しそうだ。
水音が聞こえた。空気が美味しい。
あり? ………空気が美味しい?
俺が住んでたのは田舎だったが、田舎の中でも都会な方の田舎だった筈だ。田舎のばあちゃん家の地域よりも、俺の町は空気が美味しくない街だった。それはなんとなく覚えている。
じゃあ、ここは何処なんだ?
ユウは不信感に目を開けた。見上げた空は霧に包まれ、木々の緑が目立ち、まだ少し暗い。明け方なのだろう。やはり空気は美味い。近くに水の匂いもする。
「……ここは、何処だ?」
ユウは寝ていたらしい足の低い草原から身を起こす。しゃらん――手に何かが当たった。首がかすかに引っ張られる感覚。ユウはそれを手に取った。
「なにこれ? 石? 水晶みてェ…。俺、こんなの持ってたっけ?」
手に転がる六角形の水晶が欠けたような不完全な石。六角形が三つ重なって一つに成ったようなものが、勝手に欠けさせられたみたいな不完全さだ。石は上の方に穴をあけられて、そこに紐が通され、ユウの首に掛けられているらしい。もともと持っていた気もするし、まったく知らないモノのようにも思えるが捨てる気にはならない。どうにも不思議な石だ。
「………思い出せない。」
ユウはとりあえず石の事は置いておくことにして、顔を上げた。
「おお…!? なにこれスッゲー!! ありえない程に綺麗な光景! つか、なんかこえーよ。」
ユウはぐるりを森に囲まれた水場の草原に座っていた。
目の前には木造の建物の端が見える。
「日本、ではあるのか?」
どうみても建物は和風建築だ。ユウは困惑しながら周りを見回す。
するとそこには摩訶不思議で、奇妙で、何とも言えない複雑な雰囲気を持つモノが存在していた。それはとても澄んでいた。この世のものとは思えないほど綺麗で、不思議な光彩を放ち、なみなみと綺麗な水をたたえた大きな泉。見る者に恐怖と畏怖を起こさせ、生と死を連想させるのにどこか暖かく、それでいて近寄りがたい雰囲気を持つ神秘的な泉である。それを囲むようにして、これまた不思議な雰囲気の木造らしき建物があった。見る限り神社やお寺の建物のようだが、なんとなく違うものだと思わせる建物であり、どこか人の住んでいる雰囲気とでもいうものか、そういうのがあって、泉よりも何故か親しみやすい。いくつもの建物が平安時代の寝殿造りの如く、橋でつながっているようだ。そうやって泉の周りに小さな建物と大きな建物が点在し、大きな一つの屋敷を形作っている。なんとも幻想的な光景だ。泉がある反対側を見ると遠くに森の入口が見える。どうやらここは森の中の拓けた場所らしい。
ユウは立ち上がり、体に着いた草を払う。とりあえず木造づくりの建物を覗いてみようと思ったのだ。
「ん? そういや俺、生きてる? ……ぜってー死んだと思ったのに。」
手の甲を抓ってみると痛い。臭いも感じる。さっと吹いたそよ風が体に心地いい。
「…ってあれ? なんで俺そう思ったんだろう? 死ぬような目になんて遭ったっけ?」
わからない。わからないが、直感的にそう思った。なんだか今日はわからないことが多すぎる。考えても仕方ないか。放置で。放置の方向でいこう。
眼前の方の森から鳥の声がして、自然に目を上げた。子供が居た。
てか、めっさこっち見てる。じぃ~っと建物の縁側に座ってこっちを見ていらっしゃる。俺とそう年の変わらなそうな、黒髪蒼眼の猫みたいな子供だ。頭に白いキャスケット帽を被り、白の改造和服に黒のショートパンツ姿で、脚絆を巻いた足に肘をついている。ヒトの事は言えないが、なんとも中性的な少年(?)だ。彼は興味深そうに、不思議そうにじぃっとこちらを見続けている。正直この状態から動けない…。
沈黙が続くこと数秒、やっとその子が口を開いた。
「ねぇ、こんな所で何をしているの?」
何してるって言われてもな…。
『……わからない。気がついたらここにいた。』
ほんと、そうとしか言いようがない。
「あははっ、なにそれ? 変な奴だな、ハハハハハっ…!」
その子は口に手を当てて、心底可笑しそうに笑う。無邪気で嫌みのない笑みだ。だが俺は、何となくむっとした。
「笑わなくてもいいだろっっ」
「アハハハッッ、ゴメンゴメン。プっ、くくくっ。(変な顔ー、アッハハハ)」
ダメだこりゃ。もう一度こっち見て、腹抱えてまた笑い始めやがった。そんなに可笑しいか?
腹を抱えている見知らぬ子どもよ。俺は途方に暮れた気分だ。でもま、さっきの無言よりはこっちの方がまだマシか。
俺はむせ始めた子供に近寄り、背中をさすった。
朝靄が減って、陽が少し登って来た頃、子供はやっと笑い止んだ。
「落ち着いたか?」
「ああ、ありがとう。いや~、久しぶりに笑った笑った。で、お前誰? なんの用でこんな朝方にこの『蒼月之館』を訪ねてきた? 見たところ【月猫】と【時兎】のハーフっぽいが、見たことない顔だな。ここ数年で生まれたヤツか? 武器制作なら精霊武器を勧めるが、普通の武器なら三日は待て。少々立て込んでいた依頼を片付けたばかりだ。」
姿に似合わぬ老長けた雰囲気を醸し出して、子どもは真剣な目で問いかけてきた。
だが、俺には話の半分もさっぱりわからん。
武器? 依頼? 『蒼月之館』はこの建物のこととして、俺が【月猫】と【時兎】のハーフって何? そもそもその二つは種族名か何かなのか? 精霊武器ってなんぞや?
子どもは“どうする?”と言わんばかりにこちらの様子を窺っているようだ。
「俺の名前は夢旅 優。……とりあえず、ここ何処? 日本じゃないのか?」
質問に質問で返すと猫のような子供は眉根を寄せ、不審げな顔をした。
「日本? ここは【月の国】月夜国。紅の王が治める多種族国家の御膝下、【月の猫族】たちが多数暮らす島で王都のある『月ノ島』。その北東辺りにあるオレの家だ。日本じゃない。というか、日本という国はこの世界には存在しない。造るのに十日かかった新作の刀に賭けて、断言してやる。」
「え、マジで? ここ、日本じゃないの?」
月の国? 月夜国? 月猫は種族名だとしたら、時兎も種族名でOKで、ここはこの子供の家。月ノ島なんて俺は知らない。日本が存在しない? 子供って鍛冶が出来るのか?
「ああ、マジだ。此処が日本かそうじゃないかって尋ねたことから、お前、“客人”か?」
「まれびと? どういう意味だ?」
何故か会話がかみ合ってない。問いかけたら余計わからないものが増えた。
「………とりあえず中入れ。話はそれからだ。」
そういって子供は立ち上がり、俺を家の中に招いた。なんか不思議な子だな。姿は子どもなのに、中身が子供じゃないみたいだ。
俺は泉から続く飛び石を辿り、入口の階段下に靴を置いて、子供の後を追った。
空(子供)の口調を変えてみた。
もっと詳しく描写してみた。
次、説明回だと思います。
いろいろ増えてきた。
よろしくお願いします。そしてありがとう。
次回もお楽しみに~。(明日くらいに書き上がるといいな~…。)




