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鴉姫と遺跡島・下

海賊と泥棒少女




「うふふ、脱走成功! 鴉姫さまには申し訳ないけど、アタイはこの盗んだ発掘品を使って、【星の国】に行くんだ~! そんでもって、大金持ちになって、奴隷買って、世界を旅して、豪遊するのだ~!!」



幼児体型の少女泥棒シャムは、大きな栗色の眼を輝かせ、夢に思いをはせる。

彼女は今、海賊船に乗っていた。船が波で揺れる度、銀色を帯びた短い茶色の髪がふわふわと動く。そのミルクチョコレートの様に茶色く焦げた肌は、悩ましく健康的に輝き、背中丸出し、足丸出しのアブナイ服――まさかり背負った金太郎のような赤の前掛け、白の短パン――がよりいっそう少女を愛らしく、一種倒錯的な妖艶さを持たせている。

その証拠に、船の荒くれ水夫どもは彼女の姿に目が釘付けだ。涎を垂らし、下品な目で一心に見つめて船長に怒られている者もいるくらいである。


「楽しみだな~♪」


大きな風呂敷を背中に背負い、シャムは甲板の荷物箱の上に乗って、裸足の足を子供らしくぶらぶらと遊ばせる。


「なにが楽しみなんだ?」


ブーツが甲板を踏みしめる音と共に、深みのある落ち着いた声が問いかけてきた。


「あ! カイル船長! なんでもないよ~! これからの旅が楽しみなだけ! 船長はいいな~…、ず~っと旅してるんでしょ? シャムもそういうのに憧れる年ごろなの!」


シャムに声をかけたのはこの海賊船の船長カイルだった。

左目を黒い眼帯で覆い隠した長髪の少年(?)船長である。帽子は被っておらず、黒く長い髪と船長服が風を受けるたび翻る。その眼は夜の海を映す黒。


彼は薄く笑い、シャムの隣、船べりにもたれ掛る。


「そうか。若いっていいな。」


「なにいってるの!? カイル船長も十分若いって!! だって少年だもん!」


シャムは勢い込んでカイルに言う。


「シャムちゃん、若いって言ってくれるのは嬉しいが、俺ァこれでも500は超えてるんだぜ? いや、1000歳だったか…。いずれにしろ、見た目ほど若くはない。」


「若いよ!! 船長は若い!!」


「アハハハハ! というわけで、本日の教訓だ。いいか、シャムちゃん、“人を見かけで判断してはいけない”。そして、」


カイルが腕を上げ、合図を送る。シャムの周りに船員どもが、手に手に武器を持って集まり、少女を威嚇する。シャムは怯えた様子で大きな風呂敷包みを握りしめて船べりに寄った。


カイルの涼しげな声音だけが良く甲板に響く。


「“大事なことを大声で話しちゃいけない”。特に、盗みなどの犯罪ごとはな。」


「せ、船長…、お友達だったんじゃないの?」

シャムは目に涙をため、震えた声でカイルを見上げた。


彼の眼は悲しみと静けさに凪いでいた。


「友達、だよ。今でも、ね。俺はそうありたい。君のことは生まれた時から知ってたからな。だから、こんなことになって残念だ。盗みはいけない。【月夜国理ノ条】に反する。」


同時に彼の眼は、味方を切り捨てる冷徹さもはらんだ厳しいものだった。

シャムは訳が分からずしゃくりあげる。

つまり、彼女は【月の国】の法律を破ってお尋ね者となったのだ。


「だって、だって、船長は海賊でしょう? 海賊は奪うもので犯罪者集団でしょう? アタイのやったことなんてちっぽけなものだよ!?」


「確かに俺ァ職業海賊だ。だが、国公認の海賊だ! 頼まれれば罪人をしょっ引いたり、軍に協力することもあるが、大抵は見逃してやる。俺は海賊だからな。」


「だ、だったら!」


船長の言葉にシャムは勢い込んで噛みつく。そんなシャムの言葉を制し、カイルは静かに言葉を発した。


「でもな、お前は“誰から”、“何を”盗んだ?」


威圧感を含んだ声音。凍てつくような冷たく厳しい視線が、泥棒少女シャムを射抜く。


「せ、船長には関係な…」


周りを取り囲む荒くれた男達。隣には腕の立つ少年船長。後ろは海。まさに逃げ場無し。背水の陣である。


「答えは【鴉姫】さまの“発掘品”だ。」


シャムが後ずさるたび、男たちの輪が近づいてくる。カイルは平静と変わらない声音で、淡々と厳しくシャムを糾弾していく。


「あれはな、あの発掘品の山は、【鴉姫】だけに許された特権だ。我らが主と守護神さまが、レイブン・ハックルベリーという女の能力を認めて、特別に許可し、与えた特権なんだ。彼女は自ら勧み出て【鴉姫】となった特異な女だ。自ら不老不死に近い存在となることを願った考古学者だ。俺たちと“同類”の【月】を持つ者だ。わかるか? シャム。」


「わがらな゛いよ~…ひっく…」


「お前が持つそれは、お前のようなタダの人間が持っていていいものではない。ましてや、【星の国】に売り払うなんてもってのほかだ。あいつ等は一部を除いて神までバカしかいないからな。いいか、お前の持ってるソレはこの世界の宝だ。この世界を揺るがしかねない危険な宝が入っているんだ。十五の娘が、【はぐれ者】のタダの娘がどうこうしていいものではないんだよ。」


「カイル船長のバカぁぁァ~…!! そんなの知らないよ゛!! アダシはただ、お金持ぢになっで、ひっく、旅をしで、ひっく、幸せになりたいだけなんだぁぁぁああああ!!!」


シャムは泣き叫び、男たちに向かっていく。


「やれやれ。だから、シャム、お前はただ方法を間違っているんだ。お前は盗んではいけない人から盗んでいけないものを盗った。だから、……お仕置きだ。野郎ども! シャムを捕まえて縛り上げろ!!」


カイルは嘆き、声を張り上げて命令する。


「「「「「イエッサー!!」」」」


男たちはシャムを縛り上げようとするが、彼女は素早く飛び移り、小さな拳をふるい、果敢に健闘する。


「チッ、やっぱ速ェな。しゃーねぇか…。」


カイルは腰からレイピアを抜き、戦闘に加わる。その眼は悲しみと厳しさに満ちていた。



「やァ! とぉ! はァ!」


シャムは甲板を自由自在に駆け回り、確実に男たちの体力を削って行く。そこにカイルが襲い掛かって来た。


「せ、船長!?」


「悪いな。手加減できない。大人しく捕まって懲役に服せ、シャム。今ならまだ間に合う」


カイルはレイピアを素早く操り、シャムを追い詰めていく。


「くっ、イヤです。はぐれと言っても、これでもアタシは【月猫】と【時兎】の端くれ。そうそう負けてなるかーーー!!」


シャムは飛び上がり、カイルに向かって蹴りを放ったが、いなされ、投げ飛ばされた。


「う、うさぁぁぁああああ…!!!」


飛ばされたシャムを追って、何人か手下の海賊が海を覗き込んで報告する。


「頭ぁぁあ!! あっちの方向は海ですぜ!」

「お宝が海に落ちちまう。」


部下の言葉にカイルは急いでシャムの行方を追った。


「まずいっ!! あの中には異世界に通じる宝具が入ってると本国から通達が!!」


正確には、盗まれたお宝の行方を。


「ええっ!? じゃ、水に反応して飛ばされるんじゃ…!!?」


この世界の水は、移動用の術にも使われる。なんともファンシーな水だ。もとは“水鏡”という技術を基にして、創造主が創ったそうだが…こうなると厄介な。


「いや、逆に誰かがこちらに来てしまう類のものだと…というか、はやく引き揚げろ!! 逃がすンじゃねェ…!!」


甲板にカイルの怒号が飛び、


「「「「へ、へい!! 合点でさァ!!」」」」


船員たちは声をそろえて再び動き始めるのだった。




昼から夕暮れ時になるころ、


「船長、」


船員の何人かが恐る恐るといった風体で、苛立ちを募らせていたカイルに声をかけた。


「なんだ。見つかったのか?」


カイルは暗い目に少しの明かりを灯して尋ねる。だが、部下の返答はやはり絶望的なものだった。


「………これを。」


差し出されたそれは、シャム少女が持っていた風呂敷包み一式。


「しゃ、シャムは? シャムは無事か?」


海の荒くれ海賊どもは顔を見合わせ、気まずそうに首を横に振る。――見つからなかったのだ。カイルは目の前が完全に真っ暗になり、呆然と甲板に座り込んだ。


「あ、はははははは…。そうか、みつからなかったか…。」


「お、お頭! おれ、もう一度探して…!」


海に飛び込んでいこうとする若い部下を、カイルは引き留めた。


「いや、いい。見つかった時、本当に死んでいたら立ち直れそうにない。娘、みたいだったんだよ、シャムは。」


カイルは呆然と暗くなった空を見上げた。――明日は雨だ。


「随分歳の離れた…あいてっ」

「黙れ。」


部下のムカつくやり取りを聞き流し、気持ちを切り替えるように、カイルは快活に笑う。


「そうか、そうか。見つからなかったか。じゃ、逃げたと信じるか。 で、他にも見つからなかったものはあるかァ?」


その問いに、風呂敷包みを開いて物色していた薄汚れた少年海賊がボソリと応える。


「………お頭、多分ですけど、砂時計みたいな発掘品がないって…」


「…………………………それ、一大事だぞ。」


カイルの背中に冷汗が伝った。


「…終わったな。」


「終わりました、か?」


「ああ、詰んだ。近いうちに異世界から誰か召喚されるかもしれんぞ?」


カイルは諦め、部下に持ってこさせた酒をかっくらう。


「え、そういうものだったんですかい?」


「そううものだ。他にも、海を干上がらすもの、島をツクルモノ、世界を創る書物、なんとまぁ、豪華な発掘品だことでィ…。」


部下の問いにカイルは風呂敷包みの中身をあさり、品を確かめた。そして急に襲ってきた寒気を誤魔化すため、もう一度酒を飲む。部下はそのカイルの様子に、やっと事態の深刻さを理解した。


「……………売られなくて本当に良かったですね。」


「ああ。売ってたらアイツ、大量殺人犯だ。」


海賊たちはシャルが落ちて行った海を窺った。もう、何も浮かんでこない。


「これからどうしやす?」


「どうもこうもねーよ。いつもどおり、当てのない旅だ。偶に奪って、地図を作って、国の為に働いて、バカ騒ぎ。海賊暮らしだ。」


カイルはフっと笑い、空の酒瓶を海に投げ入れた。瓶は波に誘われ、海底に消えて行った…――。


シャム


性別:女

年齢:15

所属:【月の国】月夜国ゲツヤコク、遺跡島のはぐれモノ→無所属

種族:月猫族と時兎族ときうさぎぞくのハーフ

特徴:ロリ体系の露出系美少女、 

   赤い前掛けと白のショートパンツ

職業:無職。泥棒。

趣味:イタズラ、冒険、金儲け

備考:天涯孤独の泥棒少女

   鴉姫に妹のように可愛がられ、カイルに娘のように思われていた。

   だが、恩を仇で返すこととなる。

   兄貴のようなカイルに憧れて、冒険の日々を夢見ていた。



カイル


職業:海賊(国公認)、船長。

年齢:700(?)

所属:月夜国。海賊。海軍。様々な国の冒険者ギルド。

種族:月猫族つきねこぞく

趣味:冒険、宴会、酒のみ、騒ぐこと、料理


備考:シャムとは仲が良かった様子。

   海を自由に渡り、荒くれ海賊どもを纏める船長。

   見た目は少年。左目に眼帯。


・部族


【月猫族】


別名、月の猫族。月猫。憑き猫。


自由気ままで、気まぐれな遊び好き。猫耳と尻尾が生えているが、だいたいみんな引っ込めて隠して生活している。獣人系種族。生まれつき、猫に変身することができる。国内で一番数が多い部族。


能力は、全体的にオールマイティ。特に記憶力と想像力に優れる。

育ち方次第で変わるが、だいたい武闘派。

個体により、不思議な能力を多数持つ。


多種族国家で島国(多数の島の集まり)な月の国の本島、月ノ島に多く生息。



時兎族(ときうさぎぞく)


国内で二番目に大きい島、【兎時島(うさぎどきとう)】に住む武闘派集団。

名前の通り、頭から兎耳が生え、尻にはフサフサの丸い尻尾が生えた獣人系種族。耳と尻尾は引っ込めて隠すことも可能だが、彼らは大抵耳を出して生活しているようだ。『武芸十八般』というモノを部族全員、使えるかどうかは別として、子供の時に仕込まれる。


マジメで働き者な性格のものが多い。


月夜国の守護神、アルテミスと同様に時の神、クロノスを信奉する時空の管理者たち。だが、時空を操れる者は部族内でほんの一握り。


時空を操れない者は、『夜兎族』族とも呼ばれる。彼らは時空を操れない代わりに、特別武に秀で、『時兎』を守る役職に就くものが多い。

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