異世界と月の国と不思議な子ども
サブタイトルは仮題。毎回いいのが思いつかない。(汗)
説明回的なのが続く。多分、おそらく、きっと。
館の中に入るとまず最初に約二十畳くらいの広さがある大部屋が目に入った。部屋の四隅と壁一面に本棚があり、棚はぎっしりと詰まっている。それどころか、その周りには、入りきらなかったと思われる本が散らばり、山積みにななっている。よぉく見ると、酒瓶が何故か本の山の陰に散らかっていた。誰が飲み干したのだろうか。部屋の正面から左を見ると床の間があった。掛け軸が掛かっていて、花が活けてある。その前に酒のつまった瓶の山が木刀などと一緒に置いてある。本当に誰が飲むのだろうか。
「あちゃ~、散らかってるね。奥に行こうか。」
子どもは部屋の中央に立って周りを見回して、困ったように頭を掻いた。そして俺を誘導し、部屋の向かって右側にある、館の奥へと続く扉へと向かう。
そうして案内された部屋は、最初の大部屋から西?に二つ廊下を渡った所にある、こじんまりした感じのいい和室だった。
床は畳張りで、部屋の西にはふすま(押入れかな?)と床の間がある。
床の間には何処かの山が描かれた掛け軸がかけられ、綺麗な花々が花器に活けられて置かれていた。 部屋の南側は縁側だ。青々と茂った森と滑車付きの石造りの井戸が見渡せ、所々に花が咲いている。 部屋の東側には少し小さい文机と棚があった。
子どもは押入れから折り畳み式のちゃぶ台を出して広げ、両端に座布団を敷いた。
「ちょっと座って待ってな。今、茶を入れてくっから。」
「あ、お構いなく」
「ん。じゃ、茶菓子はいらないな。」
子どもは一言呟いて部屋を出て行った。俺は部屋に一人、残される。
「……なにやってんだか俺は。」
部屋の中はそよ風が吹き込み、かすかな水音や自然の声が聞こえてきて、居心地がいい。縁側の外を見ると木々は新緑の緑だ。今の季節は夏なのだろうか。……わからない。
外をぼ~…っと眺めながら過ごしていると、子供が足で障子を開け、お茶をお盆に乗せて持って入ってきた。彼は二人分のお茶を俺と自分の両側に置き、自分も席に着いた。
お茶を口に含むと涼しげな甘い味がした。美味い。
「そういえお前の名は聞いたが、オレはまだ名乗ってなかったな。」
「あ、そういやそうだな。」
「オレの名は空。天津空。種族は月猫。趣味で武器や防具なんかを創って売ったりしている。ま、本業は別だがな。よろしく。」
子ども、天津空は嫌みのない笑みを浮かべて笑った。やっぱ猫みたいなヤツだ。なんとなくそう思う。あと、なんで部屋の中でも帽子を被ったままなのだろうか。
「よろしく。ところでお前みたいな子供でも鍛冶って出来るのか?」
「出来るぜ? あと、オレは子供じゃねーよ。この先外見で人を判断すると痛い目を見るだろう。ゼッタイな。この世界には外見だけで判断できない奴がごまんといるからな。」
空はそういってニヤリと笑う。
「いや、どう見ても子供…まあ、いいか。」
だが、今はそんなことどうでもいい。今は納得できない現状を把握することの方が、よっぽど大事なのである。
「で、何を聞きたい? オレが答えられる範囲のことなら、大抵のことは答えてやるよ。そういう気分だから客人のユウさんよ、オレの気が変わらない内にじゃんじゃん質問してくれ。」
気分なのかよ。いや、答えてくれるだけで有り難い。正直混乱寸前なのだ。
「まずその、まれびとってのは何だ? あと、この世界に日本が存在しないなら、俺が生まれた日本はどこにある?」
とりあえず、俺は帰りたいんだ。夢なら覚めて欲しい。
彼はじっとこちらを見た。まるでオレの心の中を探っているような眼差しだ。逸らさず見返すと彼はおもむろに答えてくれた。
「客人とは、なんらかの理由で、異界から“落ちて来た”もののことだ。俺たち月夜国人は、極稀に来るそいつ等をそう呼ぶ。そしてここはお前にとっての異世界だ。だから、日本という国はこの世界にはない。その国はオレたちから見た異世界の何処かに存在する。もう一度言う。ここはお前にとっての異世界だ。」
彼はニヤリと笑って、真剣な目で夢みたいなことを断言した。夢と言っても俺には悪夢に近いものだが。
「……異世界?」
異世界ってアレだろ? 相対性理論とか、タイムパラドックスとか、自分が住んでる世界の他にも世界があって、そこを外側から見た人々は異世界というとか、外国人を見た日本人が彼らのことを“外国人”と呼ぶ感覚で、異世界を“異世界”と呼ぶアレだろ? 最近ネット小説を主体に熱いテーマのアレだろ? 王道としては、ファンタジーもので魔王が現れて、勇者召喚で魔王を倒して世界を救う的な、ドラクエ的なアレだろ? もしくはトリップしたり、転生してなにかを為すとか、そういう系統。俺の場合は、状況から見て、異世界トリップ=異世界旅行的なアレなんだろう? 死亡フラグ満載の…異世界? 俺はトリップした、のか?
「おう。異世界トリップだ。ここはお前にとっての異世界だ。残念ながら、魔王なんていない。代わりに神と幻獣と妖精と精霊、ほぼ不老不死の人々、妖怪、幽霊、魔女、魔法使い、変人、奇人、獣人、モンスター、聖霊、冒険者ギルド、海賊、山賊、天使に悪魔、その他は……あ、居たわ。魔王も。まあでも、アイツは自分と家族が幸せなら、害はない奴だし、普通にしてたらまず会うことはない。つーわけで、ま、おおむね平和だから安心しやがれ。」
信じられない思いで確認すると、空は頷き、茶を含む。
「ちなみに俺は狂ってはいない。頭も正常。生まれてから風邪くらいしか引いたことがない健康体だ。何事も体が資本。お前は異世界に来てしまった。それは変えられない事実だ。」
「マジで?」
本当にこの世界が異世界なのか。俺が居た日本は何処にあるのか。月猫とか時兎とか、この今居る国のこととか、これは本当に現実なのか、いろいろ確かめなければならない。幸いにして目の前に情報提供者はいる。基本的な情報は教えてくれるらしい。というか、これは本当に夢じゃないのだろうか。目が覚めたら、目の前に家族が居て、不思議な夢を見たと首を捻って話すとか、そんな話じゃないのだろうか。信じられない話だ。だが、口に含んだお茶は美味い。目の前にはよくわからない子供が居て、笑っている。秘かに抓ってみた手の甲は痛かった。現実、なのだろうか。そして本当にここは日本じゃないのだろうか。
つか、魔王いないと云っといて、ほんとはいるのかよ。しかも家族持ちで幸せ者…。それになんだそのゴチャゴチャ具合は。この世界の創造主、いろいろと詰め込み過ぎじゃないのか。あ、でも、しっぶいドワーフのおっさんとかには会ってみてぇなァ…。探せばカッパとかも居たりして…。ははは、なんか笑えるな。………本当にこれ、夢じゃないのか。
「マジだ。さっきからそういってるだろう? オレもこの世界に客人が久々に表れて、しかも、しっかり生きてるのを見て、心底驚いている所だ。いや~、生きてて良かったね~。」
信じられないが、信じるしかないみたいだ。そしてやっぱ、俺は死ぬような目にも遭ってたみたいだ。空はほけほけと笑い、また茶を飲む。
今度は思いっきり手の甲を抓ってみたが、やはり痛い。開いた障子から入ってくる風が心地いい。
――…夢、じゃないな、これ。あまりに感覚がリアルすぎる。
「それで、ユウは自分の世界に帰る方法がわかっているのか?」
空は机に肘をつき、好奇心に満ちた目でこちらを見ていた。なにが彼の好奇心をそんなに揺さぶるのか。よくわからない少年だ。
「いや、全然まったくもってわからない。」
帰り方なんて、見当もつかない。いくつか候補を知ってはいるが、どれもこれも危険が伴うモノばかり。トリップした時と同じ状況に成ったら帰れるという話も聞いたことがあるが、そもそもどのような状況でこちらに来たのかが判らない。
ここが本当に夢じゃなく、現実…現実なのだろうな。諦めて受け入れた方が早い。
――…異世界、異世界か。彼が出会いがしらに精霊武器とか言っていたのも、少々無理があるかもしれないが、この世界がファンタジー世界に連なるものなら納得がいく。冒険とかそんなものはいらない。楽しそうだけれど、それよりも家族の笑った顔を見てる方が何倍も幸せ…なんだろうな、俺は。よく判らないがそんな気がする。
俺は、はやく帰りたい。冒険もいいが、平穏が一番だ。
「だよな~…。よしっ! いっちょこの世界について教えてやるよ! あと、オレらの王にお前の事連絡するがいいか?」
王? この国の王様か。よく考えたら不法入国に近いものな。そんな法律がこの世界の、この国にあるのかどうかも知らないが、この家と空の言動を見る限り、生活水準は日本と近いかもしれない。どっちにしろ、俺にはどうしようもないな。
「……好きにしてくれ。どうせ当分帰れなさそうだしな。心配なのは寝床をどうするか」
野宿…は出来るかどうかも怪しいし、この世界のお金が日本と同じとは思えない。本当に、どうするか。
「じゃ、ここに泊まれば? この家、オレの一人暮らしだし、部屋は余ってるから、この部屋でも使えよ。ここ、一応客間だし、一番綺麗だからさ。」
空はなんてことない様に提案する。
「いやいやいやいや、さすがにそこまでは…」
こんな12歳くらいの――どう多く見積もっても15歳くらいの――少年の世話になるわけにはいかない。俺に残った常識というものが遠慮しろと脳内で五月蠅く叫ぶ。だからって、他に行くところはないのだが。それでも何とかしようと思えばできなくもない気がする。
「遠慮するなって。じゃ、この世界のお金持ってるのか? 言っとくけど円じゃないぞ? 野宿なんてこの森ではできないぞ? してもいいが、コワ~い目に遭うからな。この森は国の軍の訓練にも使われている“迷いの森”とひと続きだし、いろいろ出るからな。」
空は目くじらをたてて、俺に忠告してくる。その眼には好奇心と俺に対する心配が同居していた。やっぱり好奇心の方が強いって、どういうことだ。
「やっぱ金の単位が違うのか。」
金の単位が違うのは予想通り。異世界で円が使えたら逆に俺が驚く。
「おう。この国のお金の単位は、円ではなくルアだ。古代語で“月”を表す。1ルア=1円。100ルア=100円。1000ルア=千円だ。札束とか、コインとか、その他日本によく似ているから、覚えやすいと思うぞ? ほれ、これがこの国のお金だ。」
そう言って空は机の上に、懐から出したお金を一種類ずつ並べる。どうやら右から昇順に並べられているらしい。右から辿ると数字が大きくなっていた。
一番小さく、燃える炎のように朱いコインが一ルア硬貨。炎の狼と不死鳥が小さく精密に描かれている。裏には小さな密林の島が海に浮かんでいる絵だ。
二番目に小さく、真ん中に穴が開いた黒茶のコインが5ルア硬貨。小さい穴の開いた丸の中に、黒い鴉が羽を広げた絵が表。裏にはジャングルの中にそびえ立つ遺跡が描かれている。
その隣にクリーム色っぽい薄茶のコイン。10ルア硬貨と描かれている。可愛らしい花に妖精がそっと寄り添う意匠の表。裏は先の二枚と違い、可愛らしい花束だ。
お次が銀色の百ルア硬貨。多分、これは銀製だ。表に細長く優美な龍、裏に絶壁島と竹林の意匠が描かれている。コインの中ではこれが一番綺麗かもしれない。
最後、硬貨のなかで一番価値が高い五百ルア硬貨。黒い。紫っぽい黒の地に、銀模様。狐と海の前の社が描かれていた。
コインを見て、思わぬところで異世界を実感した気がした。コインの材質であろう鉄が、鉄の色がありえない色をしている。
次は紙のお札。紙幣の大きさはどれもこれも均等だった。
千ルア紙幣は、月と猫に本と剣の意匠。
二千ルア紙幣は、時計を持った兎と武器、そして時計塔の意匠だ。
五千ルア紙幣は、なんか暗い絵柄だ。ハロウィンと秋祭りを足して二で割った感じといったらいいのだろうか、閻魔というよりは魔王という感じの男と……恐ろしいからノーコメントで。たぶん、これ、地獄が図案化されていると思われる。大金を持つとハメを外す奴が出るから、戒めも兼ねているのか、などと考えたが、みれば見る程なんとも言えず恐い絵だ。
一万ルア紙幣は、満月を背にした天使が羽を広げている意匠。表の天使は武器を構え持つ男性、裏の天使は書物を大事そうに抱え持って、優しく微笑む女性である。
「へぇ~…! よく出来てるな~。絵がかなり精密だ。」
偶然持っていた日本の円と比べてみると、ほぼ同じくらいの技術精度でお金が造られていた。どこかできいたけれど、日本の町工場の技術は世界一。その日本円とタメを張れるなど、この国の技術の高さが窺える(うかがえる)。
「あはははは。これはほぼ、時兎族と月龍族の職人の手によるものだ。この国の民族と国土である島のいくつかを表しているんだ。ちなみに時兎はまじめな仕事人がほとんどで、月龍は龍になる事が出来る空を飛ぶことが大好きな連中さ。俺もこの国の技術が褒められて鼻が高いよ。」
空は照れたように笑い、出したお金を蒼い巾着袋に仕舞った。
「ん? ちょっと待て。普通にスルーしたけど、一円=一ルアって紹介してたよな? なんかお前、日本に詳しくないか?」
異世界なら日本のことをこいつは知らないハズ。知る筈が無い。だって、本人がこの世界に“日本”という国がないと言い切っているのだから。
猫のような少年は口元に笑みを絶やさずにこう云った。
「それはな、俺が昔、日本に行った事があるからさ。」
「え?」
ユウは目を丸くして、目の前の少年を見つめるのだった。
長いので、分けてみました。
次、サブタイトルは「2」、「3」と分けましょうかね。
ゆったりいきます。




