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『属性適性なしの学院最下位、迷宮で見捨てられた僕は七罪の魔神と契約する ~最強英雄になった幼なじみに追いつくまで~  作者: ドキツトム


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第154話 全身換装

「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!


例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』


皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!



真実の道に罠があると確かめた直後、オルフェンは七人の団長の前へ、黒い封蝋で閉じた極秘戦闘規定を置いた。


帰還票も、輸送図も、封印鍵も、ローデン評議官の旧記録も本物だった。


星冠教団本部へ続く正規帰還路も実在する。


その確認を終えた僕たちは、封印証拠室から王国選抜局のさらに地下へ移っていた。


外側から施錠された二重扉の向こうは、窓のない石造りの部屋だった。


中央には長い机があり、その左右に七人分の団長席が並んでいる。壁際には成人記録官の机と、書類を保管する鉄箱。正面の掲示板には、赤い縁取りを施された停止札が三枚掛けられていた。


医療停止。


構造停止。


指揮停止。


いずれも、発動者本人の意思より優先されると記されている。


僕の席は団長たちと同じ机にはなかった。


比較記録の確認者として、ローディンの隣に置かれた小さな席へ座っている。


左腕には治療布。その上から黒銀色の封魔具が二重に固定されていた。


長く座っているだけでも、左手の指先が細かく震える。感覚もわずかに遅れていて、膝へ置いた指が布へ触れた感触は、一拍遅れて腕へ返ってきた。


「開封します」


成人記録官が告げ、黒い封蝋の番号を読み上げた。


成人封印責任者が保全記録と照合する。


「番号一致。封蝋の破損なし。前回の閲覧以降、開封記録なし」


「確認しました」


オルフェンが短く承認した。


封蝋が専用の刃で切られ、厚い規定書が開かれる。


古い紙だった。


けれど、内容が古いまま放置されているわけではないらしい。項目ごとに改訂年月と承認者の記録が添えられ、何枚もの停止規定が追加されていた。


その最初の頁に、僕も知っている二文字があった。


換装。


ただし、その前に付いている言葉は違う。


《全身換装》。


「本日の開示理由は二つです」


オルフェンは七人の団長を見渡したあと、僕へ視線を向けた。


「一つは、地下第五環で団長級戦力を運用する場合の制限を、突入規定へ加えるため。もう一つは、同じ『換装』という呼称によって、アルト君の現象が誤認されることを防ぐためです」


僕は左腕を見下ろした。


治療布と封魔具の下に、黒い紋章がある。


その先で起きた、三度の変化。


左手の指先から前腕までが黒銀色へ変わった現象は、僕たちの間で《部分換装》と呼ばれていた。


けれど、その名称は機構が判明したから付けられたものではない。


身体の一部分だけが変わった。


確認できた事実から、そう呼んでいるにすぎなかった。


「まず、王国が規定する《全身換装》の定義を確認します」


成人記録官が一枚目の図を掲示板へ留めた。


人間の輪郭と、その外側を隙間なく覆う鎧状の線。さらに外側には、別個の存在として召喚獣を示す枠が描かれていた。


二つの輪郭が重なる箇所はない。


「《全身換装》は、正式契約を結んだ召喚獣を力の供給源とする団長級奥義です。召喚獣を顕現可能な契約状態へ置き、そのエネルギーと魔力を肉体から分離します」


記録官の指が、召喚獣の枠から人型の外周へ伸びる線をなぞった。


「分離された力は、使用者の身体に沿う外装へ変形します。頭部、胴、両腕、両脚を覆うことから、《全身換装》と呼ばれます」


「召喚獣そのものを鎧にするわけではないんですか」


僕が尋ねると、成人封印責任者が頷いた。


「召喚獣の肉体を融合させるわけではない。切り分けることも、使用者の肉体と置き換えることもない。契約に基づいて供給された力だけを、人体の外側へ成形する」


「中にいる人は……」


「人間のままだ」


答えたのはレイシアだった。


淡い銀青の髪が、机の上の契約札へ流れている。その前には、深い青色の金属札が一枚置かれていた。


刻まれた名は、リヴァイアサン。


「私が纏う時も、私の身体は鎧の内側に残るよ」


レイシアは団長としての穏やかな声で続けた。


「身体が召喚獣へ変わるわけじゃない。私がリヴァイアサンになるわけでも、リヴァイアサンが私になるわけでもないの」


成人記録官が図の中央へ透明紙を重ねた。


透明紙には、人間の肉体を示す細い線がそのまま残されている。外側にだけ、召喚獣の力から作られた外装があった。


「外装型。それが正規分類です」


記録官は次の項目を示した。


「成立には、使用者と召喚獣の相互合意が必要です。契約したという事実だけでは発動条件を満たしません。召喚獣側が供給を拒否した場合、使用者の意思だけで成立させることはできません」


「命令して無理に力を奪うものではない、ということですね」


「そのとおりです」


僕の言葉に、オルフェンが答えた。


それは、中央器成院で見たものとは正反対だった。


捕虜八人から力を奪い、本人の意思を無視して循環させた器成術。


正規の《全身換装》は、契約と合意から始まる。


ただし、合意があることと安全であることも、同じではなかった。


成人記録官が頁をめくる。


そこには、細かな停止条件が並んでいた。


「《全身換装》には、使用者ごとに定められた制限時間があります。正確な時間は個別の機密記録となりますが、無制限の維持は認められていません」


魔力消費。


心肺負担。


筋肉への圧力。


魔力経路の過熱。


解除後の感覚障害。


戦闘継続不能の可能性。


項目を追うほど、それが単に強い鎧を着る技ではないことが分かってきた。


「解除後に倒れる者もいる、ということか」


イグナシオ団長が太い腕を組む。


彼の前には、赤金色の札が置かれていた。


フェニックス。


「状態によっては、立位維持すら認められません」


成人医療記録を預かる記録官が答えた。


「使用者ごとに成人護衛を置き、解除後の退路と搬送手段を先に確保します。発動前にそれらが準備されていなければ、使用承認は出ません」


「本人がまだ戦えると言ってもか?」


「医療停止が出れば終了です」


「当然だな!」


イグナシオ団長は大きな声で答えたが、反論はしなかった。


フェニックスという名から僕が思い浮かべたのは炎と再生だった。


けれど、規定書には、不死や無制限の回復などとは書かれていない。


召喚獣の象徴と、使用者が何度でも蘇れるという話は別だった。


次に置かれたのは、重い黒緑色の札だ。


ゴウセル団長の契約召喚獣、玄武。


堅牢な防御と大地、水を象徴する召喚獣だと登録されている。


「構造停止について確認する」


ゴウセル団長が低い声で告げた。


「地下使用時、判断権は誰にある」


「現場の土亀成人構造責任者です」


「団長の承認より優先されるか」


「優先されます。天井、支柱、床、排水路、熱路、導管のいずれかへ許容外の負荷が予測された時点で、展開禁止です」


「それでよい」


ゴウセル団長は短く答えた。


玄武との《全身換装》があっても、地下全体を一人で支えられるわけではない。


むしろ強大な力であるほど、狭い場所では周囲へ及ぼす影響を考えなければならないのだろう。


「展開時には、魔力圧だけでなく物理的な風圧も発生します」


記録官が赤縁札を掲示板の図へ重ねた。


「壁面、金属導管、封印板へ干渉する可能性があります。捕虜や負傷者の近くでは、展開衝撃そのものが危険となります」


中央器成院の地下が脳裏をよぎった。


寝台へ横たわる八人の捕虜。


床を走る帰還線。


中央環へ集まる導管。


ひび割れた支柱と、崩落を防いでいた成人構造班。


あの場所で団長たちが全力を隠していたわけではない。


使えば敵だけを倒せる力ではなかったから、使わなかったのだ。


「中央器成院で《全身換装》が使用されなかった理由は、規定上も明確です」


オルフェンが静かに言った。


「捕虜八人が中央環へ接続され、導管と救護線が混在し、地下構造にも損傷がありました。高い出力で早く敵を倒すより、使わずに救助対象を守る方が正しい場面だったのです」


「本気を出さなかったんじゃねえ」


ガイ団長が椅子の背へ体重を預けた。


彼の前には、二つの顔を左右へ刻んだ鉄色の札がある。


両面宿儺。


王国の古い記録に残る、双面と複数の腕を持つ固有召喚獣だという。


そこから先の能力や武器は、今回の規定書にも開示されていなかった。


「使わねえのが、あの場での本気だった。それだけだ」


ガイ団長の言葉に、誰も異を唱えなかった。


強さは、出せる力を全部出すことだけではない。


誰を守り、何を壊さず、どこで止まるか。


中央器成院で成人騎士たちが見せたのは、そういう強さだった。


「なお、《全身換装》は長期訓練と成人認定を経た者にのみ登録されます」


成人記録官が六枚の札を並べ直した。


深い青のリヴァイアサン。


鉄色の両面宿儺。


赤金のフェニックス。


黒緑の玄武。


白銀のグリフォン。


暗い金色のファフニール。


シルフィ団長は、グリフォンの札へ細い指を添えた。


風と空域を象徴する召喚獣。


けれど、建物内部を見通す力や、無限の速度を保証する記載はない。


「風圧の危険範囲は、地上と地下で別に見積もるべきですわね」


尊大さを残した口調でも、確認は正確だった。


「第五環での展開は、地上より狭く、逃がす空間もありませんもの」


「そのため、地下第五環での使用は原則禁止とします」


オルフェンが告げる。


「例外は、通常戦力では防げない危機が生じ、民間人、捕虜、味方との分離が確認され、構造、医療、指揮の三者が承認した場合のみです」


「団長本人が使うと言っても、足りないわけだ」


ギルバート団長が暗金色の札を見ながら確認した。


ファフニール。


竜系召喚獣として登録された名だけが記され、能力の詳細は伏せられている。


「はい。団長本人の希望だけでは使用できません」


「妥当だ。最高戦力の情報を明かすこと自体も、作戦上の損失になり得る」


ギルバート団長は規定書へ一項を加えた。


発動を目撃した者の身元記録。


使用後に回収すべき物証。


敵へ情報が渡った場合の再評価。


強力な技だからこそ、使用後まで任務は続く。


六枚の札が並ぶ中、アーサー団長の前だけには札がなかった。


彼女は長い金髪を高く束ね、青と白銀の甲冑のまま静かに座っている。


腰にはエクスカリバーがあるが、鞘から抜かれることはない。


成人記録官が七つ目の欄へ手を伸ばしかけた時、オルフェンが止めた。


「雷虎団長の契約情報は、本日の確認事項に含めません」


「承知しました」


記録官は空欄を黒い覆い紙で閉じた。


そこに契約があるのか。


召喚獣がいるのか。


アーサー団長が《全身換装》を使えるのか。


何一つ、確認されたことにはならない。


アーサー団長自身も、説明を加えなかった。


青い瞳が一瞬だけ覆い紙へ向いたけれど、その視線の意味を僕には読み取れなかった。


「六人の契約記録は、いずれも新規ではありません」


成人封印責任者が六枚の札を確認する。


「本日以前から王国登録され、契約の継続確認と訓練記録が保存されています。ただし、登録済みであることは、今回の突入における使用許可を意味しません」


「六人が使えるから、六人で使うって話でもねえぞ」


ガイ団長が僕の方を見た。


「一人が纏ったからって、残りが続く理由にもならねえ。場所と相手と、守るもんが違うからな」


「はい」


七騎士団全員が同じ地下へ入るわけではない。


誰かが《全身換装》を使った時、他の団長が必ず近くにいるとも限らない。


本部突入に備えて開示された規定は、切り札の使用を決めるためではなく、安易に使用しないための線引きだった。


成人記録官が六枚の契約札を保全箱へ戻した。


代わりに掲示板へ上げられたのは、左右に項目を分けた比較表だった。


左側には、正規《全身換装》。


右側には、僕の《部分換装》。


「ここからが、アルト・ロウェル君の限定出席理由です」


僕は背筋を伸ばした。


右脚に薄い痺れが走り、靴底の感覚がわずかに遠くなる。


ローディンは僕を支えようとはせず、立ち上がる必要がないことだけを手で示した。


僕は席に座ったまま、比較表を見上げた。


左側には、さっき確認された条件が並んでいる。


契約召喚獣が供給元。


正式な相互合意。


召喚工程。


人体の外側へ形成される鎧。


内側に残る人間の身体。


長期訓練。


成人認定。


制限時間と解除手順。


医療、構造、指揮による停止。


王国への登録。


右側は、空欄と未確認の文字ばかりだった。


供給元――ベルゼバスの主張のみ。


相互契約――未確認。


合意――未確認。


召喚工程――なし。


変化部位――左手指先から前腕。


外装形成――未確認。


肉体の内外――人体そのものが変化した可能性。


成人認定――なし。


一般実戦使用許可――なし。


任意解除――未確認。


長期影響――不明。


分類――未確定。


成人記録官が右側の最上段を指した。


「ベルゼバスは、自分の一部をアルト君へ貸したと主張しています。しかし、これはベルゼバス本人の発言です。客観的な機構確認は済んでいません」


僕の左手が、また小さく震えた。


三心拍。


一呼吸。


そして三呼吸。


いずれも変わったのは、左手指先から前腕までだった。


黒銀色へ変わった指は、外から鎧を被せられたようには見えなかった。


少なくとも、正規《全身換装》の図にあるような、人間の手と外装の二重構造は確認されていない。


「召喚獣を顕現可能な状態へ置く工程もありませんでした」


成人封印責任者が続ける。


「王国が確認した範囲では、ベルゼバスが独立して外部へ顕現し、その力を分離し、人体の外側へ鎧を作った事実はない。アルト君の部位そのものが変化したように観測されている」


「戻ったことは、解除手順がある証明にはならないんですか」


「ならない」


答えは明確だった。


「第148話では、終了宣言と変化の消失時機が一致した。だが、君の宣言によって解除されたのか、三呼吸という別の限界によって消失したのか、ベルゼバス側が供給を止めたのかは分かっていない」


一度戻れた。


それだけで、次も戻れるとは限らない。


三呼吸で消えた。


それだけで、四呼吸目へ入らないと保証されたわけでもない。


「《部分換装》は《全身換装》の未完成形ではありません。名称が似ているだけで、機構も認可も別です」


成人記録官の声が、静かな規定室へはっきりと響いた。


比較表の中央へ、太い黒線が引かれる。


左と右を繋げるためではない。


混同しないための線だった。


「似た名前を同じ仕組みだと思う方が危ねえ」


ガイ団長が言った。


「片方が団長級の技だからって、もう片方まで安全な技になるわけじゃねえ。逆も同じだ」


レイシアも真剣な顔で比較表を見ていた。


彼女の《全身換装》は、リヴァイアサンとの正式契約と長期訓練の上にある。


僕の左腕の変化には、そのどちらも確認されていない。


同じ言葉が含まれていること以外、共通すると決められる根拠はなかった。


それでも、一つだけ確かめておかなければならない疑問があった。


「僕の《部分換装》を全身へ広げれば、同じものになるんですか」


ローディンの視線が僕へ向く。


止めるためではない。


答えを曖昧に受け取らないよう、僕の反応を監督する視線だった。


成人封印責任者は、間を置かず首を横へ振った。


「ならない」


低く、断定的な声だった。


「変化範囲が全身へ広がったとしても、正規の《全身換装》には分類しない。召喚工程も、外装形成も、相互契約も、解除手順も確認されていないからだ」


「全身になれば、完成するわけでは……」


「ない。安全な成長でも、上位形態でもない。未確認の部位変化が、全身へ拡大した状態だ」


背中に冷たいものが走った。


全身換装という言葉だけを聞いた時、僕の《部分換装》にも、その先があるのかもしれないと思った。


けれど、その先は団長たちの奥義へ繋がっていない。


ただ、未知の範囲が左腕から全身へ広がるだけだ。


「訓練の対象にも指定しない」


ローディンが記録欄を確認しながら言った。


「本日の開示を、《部分換装》の再現許可へ読み替えることは認められない。封魔具、治療布、二重固定は継続。一般実戦使用は禁止のままだ」


「分かりました」


僕は左手を握ろうとした。


指は動いたが、力の伝わり方が遅い。


治療布も封魔具も外れていない。黒い紋章も肩の手前で止まり、新しい線が増えた感覚はなかった。


今ここで確かめる必要もない。


確かめる許可もない。


成人記録官は比較表へ赤い確認印を押した。


正規《全身換装》と《部分換装》は別分類。


相互の規定を流用しない。


正規技術の認定を理由として、未分類現象へ許可を出さない。


「では、本部突入規定へ反映します」


オルフェンの前へ、新しい記録頁が置かれた。


「地下第五環における《全身換装》は原則禁止。通常戦力による突入を優先します」


民間人の避難完了前は使用禁止。


捕虜と味方の分離確認前も使用禁止。


土亀構造責任者が危険と判断した場合、使用禁止。


成人医療担当による停止判断は、展開一呼吸目であっても有効。


使用者本人の意思だけでは開始しない。


オルフェン、または指定された統括成人の承認を必要とする。


複数人の同時使用は禁止。


一人の換装開始を、他の団長が続く理由にしない。


使用者ごとに解除後の護衛と退路を確保する。


使用後の戦闘継続を前提に部隊を組まない。


「地下だけではありません」


レイシアが地上区画の図へ指を置いた。


「星冠塔周辺には王国職員も一般利用者もいる。地上で使う場合も、避難と範囲確認が終わるまでは禁止にしてください」


「追加します」


成人記録官が書き加えた。


「外周には風鷹の観測線があるわ」


シルフィ団長が続ける。


「けれど、観測できることと、安全な展開範囲を確保できることは別です。屋根や道路だけでなく、地下保守口から出る者も含めて確認が必要ですわ」


「炎獅子の突破班とも距離を分けるぞ!」


イグナシオ団長が言う。


「鉄楔や破砕梁を扱っている場所へ、いきなり展開圧をぶつけるわけにはいかん!」


ゴウセル団長は構造図へ赤い線を一本引いた。


「使用候補地点を事前に固定しない。現場の損傷によって、安全範囲は変わる」


「事前に許可地点を作れば、敵にも狙う場所を教えることになる」


ギルバート団長が補足する。


「使用判断は必要な情報だけを持つ成人指揮線で管理するべきだ」


一つずつ条件が増えていく。


それは奥義を使いにくくするための邪魔ではなかった。


本当に必要な瞬間まで、使える者と守るべき者を残すための規定だ。


最後にアーサー団長が、閉じたままの規定書へ手を置いた。


「《全身換装》を前提とした突入案にはしない。それでよろしいですね」


「はい」


オルフェンが頷く。


「これは成功に必須の手段ではありません。使用できる可能性があることと、使用すべきであることは分けます」


本部突入の日付は、まだ書かれていない。


最終侵入路も、新人候補の参加可否も決まっていない。


そして今日、六人の団長が持つ極秘奥義の存在を知っても、僕の札が審査中から投入へ移ることはなかった。


それでよかった。


強い力を知ることは、使う許可を得ることではない。


僕の左腕についても同じだった。


黒い封蝋が新しい規定書へ落とされる。


六枚の契約札は保全箱へ戻され、アーサー団長の欄は覆い紙に閉ざされたまま残った。


比較表だけが、僕の前で最後まで開かれていた。


団長たちが纏うのは契約した召喚獣の力で、僕の左腕に現れたものは、同じ『換装』の名で括ってはいけない未知だった。

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