第152話 七本の突入案
「この場面を挿絵で見たい!」と思った箇所がありましたら、挿絵希望度を★1〜5で評価し、場面と一緒に感想欄で教えてください!
例:『〇〇と△△が対峙する場面/★★★★★』
皆さまの声を、今後の挿絵制作の参考にさせていただきます!
七本の針が地図へ置かれてから十二日後、七騎士団が持ち寄ったのは七つの勝ち方ではなく、七つの失敗を塞ぐ突入案だった。
王国選抜局の七騎合同作戦議場。
長い作戦卓には、王都アウレリスの地図と、五百年前の地下環状遺構を描いた古い構造図が広げられている。
その上へ、七騎士団が提出した透明紙が一枚ずつ重ねられていた。
青い避難線。
黄褐色の支柱位置。
赤い突破候補。
紫の封印確認点。
緑の外周監視線。
白い拘束区画。
灰色の進入路。
七つの案は、まだ一枚の作戦図にはなっていない。
同じ通路を別々の目的で使おうとしている箇所もあれば、誰も通らない空白もある。
透明紙の端には、定規、木札、色糸、普通の金属針が置かれていた。
敵の位置を自動で示す地図ではない。
十二日間に集めた成人記録を、人の手で重ねていくための卓だった。
僕は制限情報照合者として末席に座っていた。
左腕には治療布と黒銀色の封魔具があり、二つの固定具も決められた位置から動いていない。
前腕の痛みは中央器成院突入直後より弱まった。
それでも指を曲げると、感覚は僅かに遅れて戻ってくる。椅子から急に立てば、右脚の膝下にも痺れが走る。
ローディンは僕の右斜め後ろに立っていた。
僕の前にあるのは指揮札ではなく、既出刻印との照合欄だけだ。
七騎士団へ意見を命じる立場ではない。
統括席では、オルフェンが最初の報告板を開いた。
「本部位置の再検証結果から確認しましょう」
光龍の成人記録官が立ち上がる。
「帰還票、輸送図、封印鍵、ローデン評議官の旧認証記録。四系統を再照合しました。いずれも同一地点を示しています」
王都中央。
星冠塔セントラルタワー直下。
地下環状遺構第五環。
十二日前に確定した位置から、誤差は出ていない。
「第五環が囮だった可能性は?」
ギルバート団長が尋ねた。
「現時点では低いと判断します。熱と魔力器材の実流入が、現在も第五環方向へ集中しています」
位置は間違っていない。
だからこそ、安心できなかった。
風鷹の成人記録官が、王都中央へ入る荷車の記録を並べる。
「十二日前と比較し、熱材輸送が増加。封印材と金属器材を積んだ荷車も、地方拠点から王都方向へ入っています」
シルフィ団長が細い指で日付欄を押さえた。
「行き先が登録倉庫で終わっておりませんわ。荷下ろし量より、入ってきた荷の方が多い」
「地下へ移した現場は確認できたか」
ガイ団長が問う。
「最終搬入口は未確認です。ただし、星冠塔周辺の三か所で、夜間の保守車両が増えています」
次に、土亀の成人構造官が旧保守路の図面を出した。
地上から第三環まで届く可能性がある六本の経路。そのうち二本に、黒い横線が引かれている。
「八日前の外部確認では、錆びた鉄格子のみでした。三日前の再確認時には、鉄格子の奥へ新しい石材と固定枠が追加されています」
ゴウセル団長が図面を見下ろす。
「内側から運ばなければ置けぬ向きだ」
「はい。ただし、誰が封鎖したかは確認できません」
さらに、光龍から星冠塔の保守予定表が提出された。
地上区画では、王国側の定期点検が三度変更されている。
理由は導管不調。
けれど、不調箇所を確認するための立ち入り申請だけが、地下に近い区画で拒まれていた。
「緊急中枢帰還票は?」
アーサー団長が尋ねる。
「九日前を最後に、新規使用が確認されていません」
成人記録官は断定できる範囲を崩さない。
「それ以前は増加傾向でした。帰還対象が既に中枢へ入ったのか、別の認証へ切り替えたのかは未確認です」
人員。
熱。
魔力器材。
封印材。
外に散らばっていたものが、本部へ向けて集められている。
その一方で、地上に残っていた監視役と見られる人影は減っていた。
本部を守るためか。
星冠塔と神界への門を巡る次の工程に進むためか。
そこまでは分からない。
オルフェンは全ての報告板へ目を通してから、七人の団長を見渡した。
「こちらが本部を特定した時点で、敵も隠し続ける段階を終えています」
穏やかな声が、議場の空気を引き締めた。
「王国側の突入日時や、全ての侵入候補まで知られている証拠はありません。しかし、器成派が壊滅し、王国が星冠塔周辺を調査している以上、突入が近いことは予測できるでしょう」
「向こうも待ってるってことだな!」
イグナシオ団長が腕を組む。
「可能性は高いと考えます」
「なら、場所が偽物だったわけじゃねえ」
ガイ団長が第五環を示す円へ目を落とした。
「本物の本部を見つけられたから、中へ入った奴を潰す準備に切り替えた」
本部の位置が罠なのではない。
そこに入るまでの道。
扉。
隔壁。
認証。
救助対象と敵を分ける区画。
本物の本部だからこそ、全てを敵に使われる可能性があった。
「開いている道は、安全な道ではなく、敵が開けている道かもしれません」
オルフェンが言った。
ゴウセル団長が最初の透明紙へ定規を置く。
「開いている道ほど先に疑え」
黄褐色の線が、旧保守路の柱と床を分けていく。
「地下第五環の構造は不明点が多い。侵入路、排水路、熱路を同じ通路として数えるな。人が通れても、戻る荷重に耐えるとは限らん」
構造図には、入口とは別に二本の退路候補が引かれていた。
片方が閉じても、全隊を同じ隔壁の内側へ残さないための線だ。
「土亀の選抜構造班は、第一環から第三環までの支柱確認を担当する。第五環へ入る班とは分ける」
「ゴウセル団長は地下へ?」
光龍の記録官が確認する。
「最終配置は未決定だ。構造指揮を地上へ置く案も残す」
七人の団長全員が、同じ地下室へ入る前提ではなかった。
レイシアが青い透明紙を黄褐色の図面へ重ねる。
水蝶の線は、星冠塔の外側から始まっていた。
「避難は一度に始めないよ」
王都中央の居住区、商業区、星冠塔の一般利用区画が三つに分けられている。
「全員へ教団本部の話をすれば、星門派にも突入時機を知らせることになる。水路点検、塔内保守、道路規制を分けて、住民と利用者を少しずつ外へ移す」
青線は、地上の避難だけでは終わらない。
地下出口の候補ごとに、小さな受領区画が置かれていた。
「本部内に収容者がいた場合、騎士と同じ搬送列へ入れない。民間人、拘束した信徒、救助対象、負傷した騎士を、最初の受領点で分ける」
「中央器成院の八人はどうする」
ガイ団長が尋ねた。
「治療継続。呼吸が安定していない人もいる。担当している成人治療隊は外さないよ」
レイシア本人の名は、選抜候補へ置かれている。
だからといって、水蝶騎士団の全治療戦力を連れていくわけではない。
中央器成院に残る副責任者と、八人それぞれを受け持つ成人騎士の札が、青い残留欄に並んでいた。
イグナシオ団長が赤い透明紙を広げる。
描かれているのは火の射線ではなく、鉄楔を入れられる可能性がある保守板と隔壁の継ぎ目だった。
「燃やして入る案はねえ!」
最初の言葉で、選択肢を一つ消す。
「塔の真下だ。熱路を割れば、地上の施設まで止まる。炎獅子は封印班と構造班が指定した継ぎ目だけを開く!」
赤い木札には、鉄楔、短い破砕梁、成人盾列が記されている。
一枚の隔壁を開くために、新人一人の魔法へ任せる案ではない。
破片をどちらへ落とすか。
閉鎖途中の弁を押し返してよいか。
開口後に誰が固定するか。
全て成人班の役割として分けられていた。
「閉じた扉の向こうに敵が見えても、追って壊すな」
イグナシオ団長が赤線の終端を太い指で押さえる。
「収容者がいるかもしれねえ。壁の向こうが見えねえうちは、開ける幅まで指定を待つ!」
アーサー団長は紫の透明紙を、その上へ重ねた。
長い金髪を高く束ね、青と白銀の甲冑をまとっている。エクスカリバーは鞘から抜かれていない。
紫の印は入口ではなく、停止点だった。
「封印鍵は本部へ続く認証鍵です。しかし、通過後の安全を保証してはいません」
第一認証板。
物理弁。
導管。
閉鎖隔壁。
一度立ち止まり、成人封印騎士が確認すべき場所へ札が置かれる。
「弁と導管は複数周期を確認します。最初の一度が正常でも、次に閉じる可能性があります」
紫の透明紙には、同じ区画へ入れてよい人数の上限も書かれていた。
先頭班が全員入るまで扉を開けておくのではない。
成人封印騎士が先行し、盾列、確認班、後続班を分ける。
一つの隔壁で全指揮と退路を失わないためだ。
アーサー団長の視線が、僕の左腕へ向いた。
「人間、精霊、装具を認証鍵として使用しません。未知の設備へ味方の魔力を接続することも禁止します」
成人封印担当が赤縁の規定札を作戦図へ置く。
そこには、僕の封魔具に関する条件が書かれていた。
現場解除禁止。
敵設備への接続禁止。
未知の導管、認証台への左腕接触禁止。
解除を要求する経路は破棄。
「この条件に変更はありません」
ローディンが言った。
「アルトが参加候補に残る場合も、封魔具を外す案は審査対象にすら入れない」
「異議はありません」
僕は答えた。
本部へ入れるなら外してもいいとは思わない。
封魔具を外さなければ通れない道なら、その道を選ばない。それは十二日前に決めた帰還条件だった。
シルフィ団長が緑の糸を星冠塔の外周へ巡らせる。
「地下ばかり見て、外から蓋をされては愚かですわ」
屋根。
中央道路。
水路管理口。
物資搬入口。
旧保守路へ繋がる細い路地。
風鷹の監視点は、地上へ残されている。
「増援を入れない。同時に、民間人の避難路を敵の逃走路として塞がない。追跡班は作戦範囲外へ出ません」
「地下からの伝令も受けろ」
ゴウセル団長が言う。
「当然ですわ。通信が一つ切れた程度で、全班を消息不明扱いにはいたしません」
風鷹全隊を地下へ入れないからこそ、地上の変化を拾える。
ギルバート団長は白い木札を地図の周囲へ並べた。
王国職員。
一般利用者。
身元未確認者。
武装信徒。
投降者。
救助対象。
外見だけで敵味方を決めないための区分だった。
「星冠塔は星冠教団だけの建物ではない」
低く明瞭な声が議場へ届く。
「王国側の管理者と職員を先に名簿化する。投降した者は生存拘束。命令書、帰還票、封印鍵を発見しても、救助を止めて回収させることはしない」
光龍の残留欄には、ヴァレク移送の護衛と、中央器成院の物証保全担当が残されていた。
器成派首領を捕らえたからといって、監視を空にすることはできない。
「星門派首領を拘束した場合も、現場で尋問は始めない」
ギルバート団長が白い拘束札を置く。
「本人確認、所持品記録、負傷確認、封印。それぞれ成人担当を分ける」
最後に、ガイ団長が灰色の透明紙を持ち上げた。
灰鬼の案は、一番深くまで伸びている。
けれど、一本の太い矢印ではなかった。
進入。
核心護衛。
退路保持。
三本の灰色線が、同じ場所から始まらず、途中でも重なり切らない。
「先頭は成人盾列だ」
ガイ団長が言った。
「新人に扉を開けさせて、その後ろから入るような案は却下する。入る奴、奥を押さえる奴、帰る道を残す奴も分ける」
灰色の退路担当札は、核心部へ伸びていない。
前が苦しくなっても、全員を増援へ回さないという意味だった。
「場所が本物でも、道までこっちの味方とは限らねえ」
ガイ団長は第五環の周囲へ、隔壁を示す黒い棒を置いた。
「一枚閉じたら、首領を追うより生きてる奴と隊列を先に数える。見つけた奴が一人で追うのも禁止だ」
「アルト・ロウェルの扱いは」
成人記録官が尋ねる。
「鍵にしねえ。囮にもしねえ。そいつしか止められねえ作戦も出さねえ」
迷いのない返答だった。
僕に《暴食》があることも、《部分換装》が一度現れたことも、作戦の土台には置かれない。
使えるかもしれない未知の力より、使わなくても成立する成人側の手順を先に作る。
七枚の透明紙が揃った。
そこでオルフェンは、突入名簿を開かなかった。
代わりに作戦卓の端へ、残留名簿を広げた。
「投入人数を決める前に、残る人員を確認します」
王都防衛。
王国各地の通常防衛。
中央器成院の捕虜治療。
ヴァレクの生存移送。
物証保全。
器成派潜伏信徒への警戒。
星冠塔地上区画の管理。
作戦失敗時の第二封鎖線。
どれも本部突入より軽い任務ではなかった。
「全てを本部へ入れれば、本部の外で王国を守る者がいなくなります」
オルフェンは七人の団長へ、残留札を一枚ずつ返した。
「選抜するのは突入者だけではありません。残る者も任務部隊です」
水蝶は八人の治療へ成人隊を残す。
土亀は中央器成院の地下構造維持と王都水路へ残る。
炎獅子は王都防衛と武器庫警備を空にしない。
雷虎はヴァレク移送の封印を維持する。
風鷹は外周と王国各地の観測線を保つ。
光龍は物証、拘束者、地上秩序を管理する。
灰鬼も団内全員を第五環へ入れず、第二封鎖線へ成人隊を置く。
全軍を使わないのは、力を惜しむためではない。
本部の外側まで含めて王国を守るためだった。
残留人員が確認されてから、初めて成人選抜候補の札が並べられた。
その端に、五枚の黄色い札がある。
アルト・ロウェル。
フィア。
ティアナ・テラフォード。
レグルス・ヴァルモント。
セルフィナ。
成人隊の白札や灰札とは別の欄だった。
「五名は参加者ではありません」
オルフェンが最初に線を引く。
「現時点では、役割適合と医療状態を確認する候補です」
僕の札には、限定情報照合と記されていた。
本部の認証鍵ではない。
未知の魔力処理担当でもない。
中央器成院で見た刻印や、ベルゼバスから過去に聞いた言葉との食い違いを確認する範囲だけだ。
札の横には、ローディンの成人監督線が繋がっている。
「参加が承認された場合も、直接監督は外さない」
ローディンが確認した。
「《暴食》《部分換装》は作戦の前提外。封魔具解除禁止。停止命令と撤退命令は成人側が持つ」
僕の札が投入欄にないのは、僕を捨てるためではない。
帰還できる条件を先に決めるためだ。
「異議はありません」
そう答えると、成人記録官が黄色い札の位置を動かさず記録した。
フィアの札には、術式線切断候補。
右腕の簡易固定具はまだ外れていない。腰に剣はあっても、本話で抜くことはなかった。
「切断対象は成人封印班が指定した線に限る」
アーサー団長が言う。
「医療審査で右腕の維持が認められなければ、候補から外します」
「従います」
フィアは短く答えた。
ティアナの札には、狭い範囲で人、構造、敵術式を分ける補助。
地下全体を一人で支える役割ではない。
「まだ長時間維持は認めん」
ゴウセル団長の言葉に、ティアナは緑金の瞳を逸らさなかった。
「分かってる。成人構造班の指定範囲だけだよ」
レグルスは限定開口と排気補助。
銀槍は壁際の武器置きへ預け、白金の髪を整えたまま作戦図を見ている。
「累積疲労の再確認が必要です」
セシリア側から提出された医療札を見て、彼は静かに頷いた。
「承認されない場合は残留します。僕一人の槍で道を開く計画ではありませんから」
セルフィナの札には外部観察候補とだけ書かれていた。
正式な騎士ではないため、成人責任者の札がなければ作戦線へ入れない。
「精霊を設備へ入れる想定はありません」
セルフィナは丁寧な口調で確認した。
「私は外側で確認できる変化だけを報告します。断定は成人記録と照合してください」
五枚の札は近くに置かれた。
けれど、一つの新しい班名で括られることはない。
所属も責任者も違う。
必要な役割が一致した場合だけ、成人指揮の下で同じ区画へ入る可能性があるというだけだった。
「では、重ねましょう」
オルフェンの合図で、成人記録官たちが七枚の透明紙を持ち上げた。
最初に地上避難線。
その外側へ、風鷹の外周封鎖線。
星冠塔南側から伸びる第一侵入候補線には、土亀の支柱確認点と雷虎の停止札が置かれる。
反対側の旧水路には、予備侵入候補線。
水蝶の救護線は、どちらか一方の入口へ依存せず、二つの受領点へ分けられた。
灰鬼の退路は、核心進入線と重ならない。
炎獅子の突破点も、封印確認前には赤く塗られなかった。
光龍の物証搬出線は、捕虜受領線と交差する前に分かれる。
一つの隔壁が閉じても、指揮、封印、救護、退路を全て失わない配置だった。
まだ空欄は多い。
最終侵入路。
突入日時。
部隊人数。
本部内部の構造。
収容者の有無。
星門派首領の正体と所在。
黄色い五枚の札をどこへ置くかも決まっていない。
それでも、十二日前の地図とは違っていた。
あの時に示されていたのは、次の戦場の場所だけだった。
今は、そこへ至るまでに誰を逃がし、誰を残し、誰が扉を調べ、誰が退路を守るかが記されている。
オルフェンは完成した統合図を見下ろした。
「これは突入命令ではありません。最終調査と医療審査を終えた後、日時と採用経路を決定します」
七人の団長が頷く。
誰も武器を抜かない。
誰も今日出発するとは言わない。
けれど、準備が最終段階へ入ったことだけは、地図に残る線の密度が示していた。
星門派は待っている。
だからこそ、待たれていることまで作戦から外さない。
七本の突入案が一枚へ重なった時、地図の第五環には、敵が待っていることまで含めた侵入線が初めて引かれた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークといただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




