第9話 新人合同訓練
主人公・如月衣織の暮らす街、『聖城市』。
ゲームの主舞台であり、主人公が暮らすだけあって、多くのイベントはこの街で起きていた。
そして衣織の通う学校、『聖城高校』。
光聖姫という特別な存在である衣織も、普段は一般的な高校生として過ごしている。
現在も怪獣・怪人との闘いからは離れ、一学生として高校への通学中である。
そんな衣織へ、一人の女学生が声を掛ける。
「いーおりん、おっはー!」
「…………"いおりん"は止めてと言ってるでしょう。まあ、おはよう。『鹿乃』」
「にひひ。かわいくていいじゃん」
衣織の学友、『琴吹鹿乃』。
高校1年生としては小柄で、やや長身である衣織と並ぶとその差はより顕著となる。
片口で切り揃えた栗色のショートボブと、愛嬌のある可愛らしい八重歯が特徴的だ。
二人は高校からの付き合いだが、既に相当に親密な間柄となっていた。
「それにしても、通学中に鹿乃と会うなんて珍しいわね。いつもはもっと遅いでしょう?」
「まーね。ていうか、いおりんに会いたかったから、頑張って早起きしたんだよぅ」
「私に?なにか用でもあったの?」
疑問符を浮かべる衣織を見て、心外そうに頬を膨らませる鹿乃。
そうして、少し怒ったように告げる。
「あのねぇ心配したからに決まってるでしょ!」
「心配?………なんのこと?」
「あたし知ってるんだよ!いおりんがこの前、怪人とそうぐ…………わぷっ」
「馬鹿っ。こんな通りで何言ってるのっ」
慌てて鹿乃の口を押さえる衣織。
キョロキョロと辺りを見回し、付近に誰も居ないことを確認すると、ほっと息を吐く。
そうしてワタワタともがく鹿乃から、ようやく手を離してやった。
「…………ぷはっ。もぅ、いきなり何すんの!」
「鹿乃が怪人なんて口にするからでしょう。誰かに聞かれたらどうするのよ。一般の人には、決して知られてはならないって決まりでしょ?」
光聖協会が定める原則。
魔法、光聖姫、怪獣、怪人。
無用な混乱を避ける為、あらゆる超常の現象は秘密として厳守されている。
とはいえ怪獣は突発的に出現し、人々を襲う。
隠し立てることなど不可能に思えるが、そこはなんでもありのゲーム世界。
巻き込まれた民間人には、部分的な記憶の抹消処置がなされている。
衣織の注意を受け、鹿乃は「ふっふっふっ」と意味ありげに呟く。
そうして得意げに語る。
「にひひ。甘く見てもらっちゃ困るよ?新人とはいえ、あたしも光聖姫。一般人と比較すれば、とんでもない存在なんだから。周りに誰もいないことぐらい気配で分かるんだよ!」
自身で語った通り琴吹鹿乃は光聖姫である。
衣織と同じく高校進学と同時に光聖姫となり、それもあって二人は親しくなったと言える。
「そうかもしれないけれど、意識の問題よ」
「相変わらず、いおりんは堅いなぁ」
「全く………それで、先の話だけれど。私が怪人と遭遇したことを知っているの?」
「当たり前じゃん。未確認の怪人がいたんでしょ?協会から正式に通達があったよ」
「そう………まあ当然かしらね」
悠希人に敗北し、『帰還結晶』にて協会へ転移した後のこと。
衣織は悠希人という謎の怪人の存在を、協会へと報告していた。
11人目の未確認の怪人という要因もあったが。
何より、新人の光聖姫が怪人と遭遇したという衝撃が大きく、協会内ではそれなりに話題になっていた。
「ボロボロのいおりんが転移してきたって聞いて、あたし気が気じゃなかったんだよぅ」
「ボロボロって、怪我なんて無かったわよ?」
「でも、戦闘服がビリビリだったんでしょ?下着とか丸見えの、あられもない姿だったって噂になってたよ?」
「そんな噂になってるの!?そ、そこまでじゃないわよ!ちょっと見えてたくらいで…………」
噂の心外さに加え、当時のことを思い出し羞恥がぶり返す衣織。
なんとも屈辱的な体験だった。
「まあ、とにかく無事でよかったよ。でも『帰還結晶』があるとはいえ、怪人と出くわして逃げられるなんてすごいね」
「………別に凄くなんてないわ。向こうに私を仕留める気がなかっただけ。遊ばれてたのよ」
「そうなの?でも、変な怪人だね。光聖姫って怪人にとっては宿敵のはずなのにね」
「そう、ね。確かに変な奴だったわ………」
衣織も悠希人という怪人のことは、幾度も思い返して考えている。
当時は怪人を捕らえなければと躍起になっていたのと、悠希人が上手く煽っていたこと。
二つの要因によって、意識が散漫だった。
けれど落ち着いて考えれば、怪人の行動として流石に不審な点は目立つ。
(見逃してくれて、なんか助言もしていたし。それに服も貸してくれたし…………)
言動の随所に、気遣いや優しさを感じた気がしないでもない。
或いは、単純に舐められているのか。
(まあ普通にムカつくけれど。いちいち性格悪いこと言うし、それに私のあんな姿まで見て………!)
なんだかんだ、悠希人の煽りはしっかり効いていた。
特に衣織にとっては、恥ずかしい姿を見られたという部分で悠希人への恨みが大きい。
(そうよ、やっぱりムカつく奴だわ。絶対許さないんだから…………でも、そういえば。名前くらいは聞いておけばよかったかしら)
ふと、そんな風に思う衣織。
当時はそんな時機が無かったが、名前も知らないというのはなんだか気持ち悪い。
どうしてか、やけに気になった。
長いこと思案する衣織に鹿乃が声を掛ける。
「どったの?いおりん」
「いえ、何でもないわ。怪人は怪人、やっぱり気に入らない奴よ。今度こそ捕まえてやるわ」
「もぅ、いおりん無茶はやめてよ?あたし達、まだまだ新人なんだから。少しずつレベルアップしていかないと」
「……………」
鹿乃の言葉に悠希人の助言が想起される。
悠希人の助言に従うのは癪だったが、強くなる為と割り切る衣織。
「そうね。一歩ずつ強くなりましょう」
「うんうん。それがいいよ」
満足そうに頷く鹿乃。
すると、彼女がふいに声をあげる。
「あっ、そういえば!ちょうどいい話があったんだった。いおりんは聞いてる?」
「?…………なんの話?」
「にひひ、今のあたし達にうってつけだよぅ」
衣織の反応を楽しむように溜める鹿乃。
そしてビシッと指を突き立て、告げる。
「新人光聖姫のための合同訓練があるって!」
目を丸くする衣織。
そして、二人とやや離れた場所で。
(………新人合同訓練。衣織達のパワーアップを図る初期イベント。もう、そろそろか)
気配を殺し会話を聞く悠希人の姿があった。




