99式自動貨車(ケース<義烈>2 〜彷徨〜)
お待たせしました(待ってない)
99式自動貨車(ケース<義烈>2 〜彷徨〜)をあげます。
実は「3」はプロットだけできていますが、どうなることやらww
三つある。
撤退・無視・攻撃だ。
撤退は論外。相手に見つかったわけではない。計画を翻す必要はまだない。
無視は安全策だ。次の日に攻撃する計画の変更も必要ない。一番妥当だろう。
そして、攻撃…
約7キロという距離をどう考えるかだな。
一番離れていた有田上等兵が来て全員がそろう。
「攻撃する」
口にしてすっきりした。今まで迷っていたことがうそのようだった。
「私が2台、前方から攻撃する」
「小松軍曹、2台で後ろからだ。任せる」
「有田上等兵、基地に3キロほど近づけ。逃れたトラックへの控えと…基地からの増援に
備えろ、敵が来たら、すぐに逃げてこい」
短い返答が続く中、細かい指示を手短に出して後、兵は散っていった。
すでに平井伍長らはガソリンを補給し、手元に弾倉を集めていた。
「手早いな」
「敵さんとにらめっこばかりじゃ、気が晴れませんからね」
「頼むよ、それ」
と助手席に固定されているものに目を向けた。
「これの初陣ですね」
これとは
97式自動砲
である。本来は装甲を持つ車両を攻撃するものであり、今で言うところの対物狙撃銃(砲)である。大隊砲小隊に配備されていたが、直射しかできず、対戦車の武器としては能力が低かったために、(重いし高い)使い道が限られており、大隊でも持て余されていた。倉庫に眠っていたものを昔なじみの城木軍曹が拾ってこちちらにも一丁くれたのである。
「もらってくれるならばうれしい」
などとあいさつに行った私に大隊砲中隊長が朗らかに言った。
「余りものだろ?使えるなら、使え使え」
お前ならばうまく使えるかもなと言外に、報告に行った大隊長も好意的であった。
一方、中隊長は辛辣であった。
「新しい玩具は気に入ったか?」
全くもってそのとおりなので、苦笑いするしかなかった。
初めてその20ミリの弾を持った時、そのずしりとした重さに驚いた。約300グラム、まさしく大砲じゃないか…56キロもあるその「砲」の重量感に圧倒された。そして試射。引き金を引くたびに槓桿を使うことなく一発の弾丸が銃口より飛び出る。自動砲だけのことはある。しかし7発入りの弾倉を一つ空にした後、的にした廃トラックを見てあきらめた。
私がどうこうできるものではない。
それでなくても射撃がうまいとは言えない自分がどうあがいてもうまく使える自信がなかった。
ならばと、射撃の上手い平井上等兵に任せた。
私の玩具はかくして平井上等兵とそのお仲間たちの玩具となった。
「まぁいいさ……」
そうつぶやきながら、私は弾倉の弾薬を確認しつつ後部座席へ乗り込んだ。
準備完了である。
すでに太陽は中天から西に、地平線の方が近くなっている。
運転を担う片岡一等兵に車を待ち伏せ地点へと移動させた。
この数ヶ月の悪路運転のために、その技量は間違いない。
襲撃自体はあっけなく終わった。
前方より、平井上等兵と私が3台のトラックを潰したと同時に、後方のグループが2台を潰す。このような車列襲撃のセオリーだ。
あとは蹂躙。片岡一等兵はアクセルを踏み込み、急発進させた。エンジン音と車体の軋みを響かせて、車は加速していく。
まだ、こちらには気づいていないようだ。
警戒のために1台を残し、車を回しトラックを一台ずつ潰していく。走りながら平井上等兵が撃ち漏らしたトラックの運転席を薙ぎ払う。トラックから飛び出る兵には余裕がない限り対応しない。ただ、一人、車の前方に飛び出た者は、車を止めることなく引き倒した。事前に知っていなければ自分が車体より投げ出されたかもしれない。鈍く重い衝撃が車体を襲った。無視だむし…やらなければならない。自分が生き延びるために。
あの兵は映画の主人公だったのだろう。少なくとも自分の中では…ただ誰もが主人公にはなれない。ほぼほぼ脇役だ。主人公を光らせるためにその傍らで沈む脇役に過ぎない。
いや、攻撃をしなければ、私の命は永らえることができるだろう。なのに自分は決断した。他者の命を奪うことを。
十数台のトラックを通り過ぎた後、カーキ色に塗られたスタッフカーを目にする。攻撃を決めたのはこの車の存在だ。反対側に逃れようとしたこの車を一弾倉を潰し、弾痕だらけにした。他はどうでもいい。乗っているはずの上級士官を潰すことこそがこの襲撃の狙いだった。
反対側の路肩に僚車がいったん止まる。
「あらかた潰しました」
怒鳴るように報告した。指示を待っているようだ。
「一往復してこい」
反対側から逃れる敵を追わせる。
「無理すんなよ」
そう声をかけることを忘れない。
トミーガンを手に下車し、スタッフカーへと近づく。
警戒のために平井上等兵は後部席の軽機関銃へと移動する。
四人乗っていた。いや、全員の服から血が滲んでいた。うめき声一つしない。
後部席のドアを開け、一人を引きずり出す。
かなり重い。襟章を見ると、少将らしい。かなりの高官だ。ポケットをあさり、書類らしき紙切れを見つける。地図に様々な書き込みがある。検証するのは後だ。内ポケットまで探る。
次の一人を引きずり出す。黒い鞄を腹に抱えている。そして助手席の下士官。運転手。幸いなことに四人はすでに絶命していた。もしもこと切れてなかったら、トミーガンを人に初めて向けなければならなかったろう。
足元・ダッシュボード、トランクなどをあさる。まるで山賊だ、と苦笑いしていると
「小隊長殿」
後方を警戒してた軍曹が交代してこちらへと近づく。
「何人か逃れたようですが」
「被害は?」
「数名が撃たれました。重傷者はいません」
「ならば、もういい。」
追撃を止める。トラックは潰した。狙いのスタッフカーからは情報らしきものを手に入れた。
「次に備えよう」
「で、よろしいでありますか?」
軍曹は生真面目な口調で、長年の軍隊生活の中で培われた、見事な敬礼を見せてくれた。
ねらいは分かっている。山賊の子分だ。
「一車、三箱まで。大きなものはあきらめろ。ガソリンがあったら一缶ずつ」
「はっ」
私は下手くそな敬礼で返す。
警戒の兵を除き、家探しが始まった。
菓子・酒類・タバコ、嗜好品が中心だ。戦場では常に不足していて、基地内やその周辺の現地人とは貨幣代わりになる。
また機関拳銃は使い勝手の良い武器として結構人気だ。
ピストルはいけない。イギリス軍のピストルと言ったら…
15分後、すべての車両に火を放つ。残りのガソリンを振りかけたトラックは勢いよく炎に包まれる。その立ち上る黒煙は敵陣からも遠目で見えるだろう。
しばらくすると前方警戒の車が近づく。他者が用意していた嗜好品入りの箱、ガソリンを手早く積み込む。
既に他の車は敵の道路を基地とは反対方向へと離れていった。
「ついてこい。万一の場合は、自力で戻れ」
詳細を伝える時間がもったいない。
道路の路肩をさかのぼる。その周辺は様々な轍が草むらや木々の間を走っている。敵基地から現れるはずの援軍を惑わせるために先行した車に無茶苦茶な軌道の跡をつけさせた。
そして最後尾の破壊されたトラックを過ぎて1キロあたりで道路を大きくそれる。
先行者を走らせつつ、車がいける場所を探させてゆっくり目に走らせる。雨季上がりの草むらといえどあちこちに水たまりがあり、またとても走らせることができない場所もある。これまでと一緒だ。
先行者を交代させつつ、敵陣の右後方1キロほどについた時には熱帯特有のじりじりとした日の光も弱くなり、太陽は地平線すれすれにとなっていた。
敵陣のざわめきが聞こえはしないが、多数の兵がうろうろとしている様が観察できた。たぶんトラック襲撃を受けて、慌ただしく何かしらの対応をしているのだろう。ただ、外部への控えは薄いものであった。
30分ほど観察しても、こちらからの襲撃を受ける可能性をあまり考えていないようだ。立哨の数も増えてない。中には煙草を吹かす見張りもいる。
「平井、全部使え」
「了解」
車をじわじわと近づける。
襲撃が終わった時には、西日のほてりが消えかかっていた。
後方を囲む形で、偵察隊の他車も攻撃を加えていた。弾丸を撃ち込めるだけ撃ち込んで逃げる計画。それも次第になくなり、聞こえるのは敵の射撃音ばかりであった。よく聞けばこちらの機関銃と敵の機関銃の音の違いが判る。
「もうみんな逃げたかな?」
ところどころ火災も発生して、大混乱の状態である敵基地より離脱し、車を走らせた。何かが弾けた音が時々耳を打つ。
明るさが残っている間になるべく距離をとらないといけない。
敵陣のどこを狙っているか分からない乱射の嵐が次第に遠ざかっていく。
小隊の屯所に集合したのは、2日後の夕方であった。それからぽつぽつと前方観察の兵が返ってきた。
「小隊長殿、話が違うじゃありませんか」
と少なくとも12時間後の襲撃予定を前倒しにしたために帰着の挨拶もそこそこに憤慨する兵もいた。
まあまあと、戦利品のタバコひと箱と全員分としてウィスキー二本を渡すと、それでもぶつぶつしていた兵たちもとりあえず矛を収めてくれた。
ただ前倒ししても、偵察隊は敵陣が慌ただしく動き始めたことをきっかけとして、夕闇迫る中、敵陣の直前まで偵察線を伸ばして敵基地の詳細を観
察してくれていた。
簡単な連絡は昨日すでに終わっており、次に偵察隊の報告、個々の報告書をまとめようとしたところ、連隊本部から
「至急、帰隊せよ」
の連絡が来た。
「すさまじい爆弾を投げてくれたものだ」
と、連隊長どころか師団の参謀長が私に投げつけるように言った。
例のカバンとメモ10数枚は、帰隊したとたん師団の参謀連中が待ち構え、奪うように持って行った。それが昨日のこと、参謀長は寝不足の目頭を指で揉む。
「いや手柄は間違いない。大手柄だ。一階級特進ものだ。」
連隊長は、秘密にしておけと言いつつ
「敵の反抗計画だ。それも詳細がわかるものだ。貴官が襲った基地は現在は大隊規模だが、最終的には1個師団の前方補給基地となるはずのものだった」
「こちらの動きがつかまれている。少なくとも一個軍が反抗計画に載っている。最低でもだ。へたをすればこちらの三倍だ。このまま計画を進めていたら…」
参謀長が口をはさむ。
「インドに入ってから全滅しただろう」
一万単位、へたすると十万を超える死傷者が出るはずだ、とつぶやくように声にする。
「無理だ。どう考えても無理に無理を重ねていた計画が、我々が反対していた計画が初っ端から破綻する」
中尉風情が聞いていいものではない。どう反応せよと?直立不動のまま、黙ったまま聞くしか方法がなかった。
「なぜ私に?と聞きたいのだろう?」
図星であるが、うなずくことさえできない。
「すでに他の師団の師団長や参謀連中には情報を回した。貴官がもたらしたものはすべて翻訳してる。現在は根回し中、まずは計画停止の具申だ。その後、中止、永久に。」
「敵の計画を得ているのだから、それに対抗できると言う馬鹿もでるだろうが、すでに計画の第一段階が進んでいる。計画の練り直しには最低一か月はかかるだろう、そして連絡・配置換え…全体に計画修正を伝えようとしても二か月はかかる。下手すれば三か月だ。その間にどのくらい備蓄が消えるか、考えたくもない。作戦の途中でまた雨季にはいる。にっちもさっちもいかなくなる」
「そして、計画が中止になれば恨まれる。分かるだろ?」
と、話を受けた連隊長が右腕を軽く上げ、ひとさし指を上の方に伸ばす。自分のメンツが部下の多数の命より大切な人がいる。そんな人物なのだろう。
「多分だが、師団長クラスと参謀の半数は飛ばされる。大隊長辺りは大丈夫だろうが、連隊長クラスも…」
「計画を破綻させたきっかけを作った貴官も間違いなく恨まれる。いや分かっている。どう見ても逆恨みでしかない。」
「しかし、飛ばされる理由を知っていた方が気が楽だろう?」
参謀長は仲間内だけで見せるような朗らかな顔で笑った。
思わず顔をしかめた。同類である。
せっかくツーカーの仲になっている小隊から干されるのか…
「大陸の方か、どっかの小島の駐留基地か。おい、どっちを選ぶ?あ、本土は無理だぞ。山下中将殿はシンガポール後に大陸に飛ばされた。本土へ一度も帰れないまま…」
どっかの馬鹿のせいだと、参謀長はその顔をゆがめた。
まあ、「死刑」になることはないだろうなどと暢気に構えて、帰還した小隊のこざこざを片付けていたら、私にも『爆弾』が降ってきた。あれから数日しか過ぎていないのに、上も上の存在である軍のお偉方が面会しに来た。大佐の襟章をつけているが、我が連隊長よりも立場的にはかなり上らしい。
「わが方面軍の誉れだ」
思ってもいないことを口にすると真面目な顔になるらしい。冷たい甲高い声が耳に触る。
「我が軍の英雄にふさわしい戦場を用意する」
顔の変化はないくせに、まるで鬼の首を取ったかのように嬉しそうな声へと変化した。
間違いなく作戦計画は停止されたようだ。だからその原因である私に死ねと…
「内容は言えないが、大本営の秘密計画がある。そこで自動車での戦闘に詳しい人物が必要だと聞いた」
なるほどそれが私か。
「貴官には、ぜひこの作戦に参加してほしい。計画に涙して、我が軍から少しでも援助できないかという軍団長のお心、どうか分かってほしい。それだけの価値があるものであり、貴官にはその力があると信じている」
台本を読むかのように抑揚をつける。自らの演技に酔っているかのような…
私はずっと冷めたままだ。
悪魔が自己の力を示すような響きで、
「義烈」
お偉いさんは、言葉を力強く切る。自分の舞台を終わらせるかのようだった。
「それが部隊の名だ」
いかがでしたか?
なんとか、インド進行を防ぐことこそできた?かな…と思いますが、ちょっと無理があったかな…
まあ、主人公を『義烈』に参加させる下地にすぎないのですがね。
ちなみにガダルカナル島はどう見ても防げませんでした。
ニューギニア島は99式の活躍や、兵站軽視が少なくなっているために史実よりはかなりマシになっている世界線です。
インパールを防ぐのはなんとか…
今回、故 松本零士先生のオマージュを入れてます。分かる人は分かるはず(苦笑)
「3」はちょっと遅くなるかも?
では。。。