おまけ
テオドーロ視点です。
降り注ぐ穏やかな日差しは、前日までの雨で濡れた植物達の花びらや葉を眩しく輝かせていた。
その中を歩きながら、今日の調合に必要な分を摘み取っていく。
「テオドーロ」
名前を呼ばれて振り返ると、監視役兼指導役の薬師が立っていた。
「アドルナート伯爵がお見えだ」
「…わかりました。もう少しで摘み終わるのでその後で行きます」
「ああ、急いでくれ」
そう言い残すと薬師は戻っていった。
監視役とはいうけれど、実際は彼は僕を監視する事はない。
脱走したり不穏な行動をするような事はないと思われているのだろう。
———まあ、当分はそんな事をするつもりもないけれど。
この療養院での生活は気に入っている。
薬草の勉強が好きなだけ出来るし、僕を追いかけ回す女子がいないのは本当に快適だ。
…アレクシアに会えない事だけが不満だけれど。
「テオドーロ」
面会室へ行くと、養父が笑顔で出迎えた。
「変わらず元気そうだね」
「父上もお変わりなく」
養父は定期的に僕に会いに来る。
実子であるアレクシアに毒を盛った義子など捨ててしまえばいいと思うのだけれど、養子を解消するつもりはないという。
本当に優しいというか、お人好しだと思う。
「お前の薬師としての腕は確かだそうだね。今は新しい薬も作っているんだって?」
ここに入ってそろそろ一年が経つ。
元からの知識とここで得た知識や技術で様々な薬を作れるようになってきた。
これまで独学で学んでいた事もあり、従来の薬学とは異なる発想をもっているらしく、僕が作り出す薬にこの療養院の薬師達も興味を持っている。
「そんな事を王宮の医師が聞きつけてね。ここから出られたら王宮の薬師として働いてみないかと言われたんだ」
「…僕がですか」
———馬鹿なのか。
その医師も、養父も。
僕は姉に毒を盛った…犯罪者だ。
公表できないからといって、その事実が消える事はない。
それにあの王子が、この僕を王宮で働かせる事など認めるはずもないと思うが。
「確かに…お前のした事は犯罪だが。罪を反省して償いを済ませれば許されるべきだと私は思うよ。何よりお前はまだ若い。いくらでもやり直せるだろう」
「父上…」
ああ、そうか。
まだ子供だと思われているのか。
成人したとはいえ、親達からすればまだまだなのだろう。
子供の過ちとして、時間を掛ければ解決するだろうと。
反省?
罪を償う?
そんな事、するはずもない。
あれはアレクシアを手に入れるために仕方がなかった事だ。
失敗はしてしまったけれど…その点に関しては、確かに幼稚だった事は認める。
けれど。
僕はまだ———彼女を諦めてはいない。
初めて会った時の、天使のような愛らしいアレクシア。
僕に優しい言葉をかけてくれた、見た目だけでなく中身まで美しい、僕の唯一。
成長するにつれその美しさは増していき…他の者の目には触れさせなくない、僕だけの宝物にしたいとどれだけ願っただろう。
たとえ今は他の男のものになったとしても…それで忘れられるはずもない。
「ありがとうございます」
僕は養父に頭を下げた。
「お前が早く家に帰ってくるのを待っているよ」
「…はい」
アレクシアのいない家になど、帰りたいとは思わないけれど。
アレクシアは既にあの男の家にいて、半年後には結婚式を挙げるという。
———少なくともそれまで僕がここから出られる事はないだろう。
今はまだ大人しくしていよう。
アレクシアを諦めたと…そう思わせるために。
今度は失敗しないように、慎重に計画を立てないと。
そうだ、まだ僕は若い。
時間はある。
何年かかっても…最後は僕が手に入れられれば、それでいい。
君だけを愛しているよ…アレクシア。
おわり
ヤンデレは治らない。
(個人の意見です)
最後までお読みいただきありがとうございました。