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そして、ゆっくりと時は過ぎていく。
ミーアは九歳になった。
織りの腕も草摘みの腕も上がり、蜜蜂の世話も任されるようになった。
キーヤは、戦士見習いとして大兄の従者となり、お山にやって来るのも稀だ。
そして、今日は。
泥色の液体の中で、纏めた糸束をゆっくりと回す。
ムラにならないように、ゆっくりと、慎重に魔力を通しながら。
そして・・・
「今だ!」
魔力を使って、定着。色止め。
引き上げると、空気に触れた糸束は、一気に色を変えていく。
『水浅黄』・・・と言う言葉が一瞬頭をかすめたが・・・
「出来た。綺麗な、お空の色!」
だれにも頼らず、魔力を使って初めて染めた、ミーアの最初の糸の束。
水で洗って、乾かすために広げて干すが。
「うーん、まだまだ薄いなぁ」
乾くともっと薄い水色になるから、まだまだ空の色には届かない。
村のみんながやっている普通の草木染めとは違い、「染め師」の染めは魔力を使う。
触媒もなく色味を変え、定着液もなく色止めする。
魔力のこもった糸は、色の濁りがなく、変色することも少ないが。
大きな魔力と、タイミングを見極める目と、繊細な操作が必要だった。
少ない魔力を細く均一に入れていく織物、編み物とは全く違った魔力の使い方をするので、両方を同時に覚えようとするのはそれは難しい事だったのだ。
だがミーアは、ばばさまが初めに見せてくれた、あの青い糸が忘れられない。
光沢を持った絹のひと綛。
深い深い、夏の空の青。
どんな素材を使って染め液を作り、どれほど魔力を極めたら、あの澄んだ深い青が出せるのか。
薄い水色に染まった自分の糸を眺めながら、あの色が出せるようになるのはいつになるのか、と、一人ため息をつくのだった。




