ミッション9—5 武器を持てばお化け屋敷も怖くない
ダンジョン攻略を開始してから1時間は経過しただろうか。
どこまで歩いても、宝がありそうな部屋は見つからない。
この1時間、3度も幽霊に襲われ、ただ永遠と、ファルたちは暗く狭い通路を歩いているだけだ。
「あれ? この棚、さっきもありましたよ!? 不思議です! これで4回目です!」
「どうしよう……私たち、道に迷っちゃったよ!?」
「道に迷ったっていうより、同じ場所をぐるぐる回ってるな、これ」
「ねえ、どうしよう!」
「出口を探す以外に、どうしようもないだろ」
「うう……こんな怖い場所で、迷子なんて……」
なんやかんやと、一番怖がっているのはヤサカだ。
一度恐怖を味わってからのヤサカは、体を震わせ常時涙目なのだ。
おかげでヤサカの距離が近くなったため、ファルにとっては喜ばしいことなのだが。
しかし、同じ場所をループしている現状はまずい。
これでは家に帰ることも難しいだろう。
「一旦落ち着こう。一旦止まって、少し考えよう」
「ファルくん……止まってても大丈夫? 幽霊に襲われたりしない?」
「大丈夫だ。いざとなったらティニーがなんとかしてくれる」
「ヤサカ、任せて」
「うん。ティニーのこと、頼りにしてるからね。絶対、幽霊を倒してね」
しゃがみ込み、なるべく視界を狭くしようと必死なヤサカ。
そんなヤサカに寄り添い、一緒に体を震わせるミードン。
ファルたちは話し合いをはじめた。
「それで、ループ脱出についてだ。俺が思うに、きっとどこかの分かれ道が同じ道に繋がってるはず。その分かれ道を特定しない限り、ここから出られないぞ」
「どこかの分かれ道と言っても、たくさんありますよ!? 道に迷った状態で探すのは、すごく大変だと思います!」
「はぁ……マッピングしなかったのは明らかに失敗だった」
「後悔している場合ではありません! 脱出方法を考えましょう! レッツ! ポジティブ!」
「だな。よしお前ら、なんか良い案はないか?」
「ありません! 思いつきません!」
「ポジティブで堂々としてることだけは評価してやろう。ティニーは?」
「壁に穴を開ける」
「……どうやってだ?」
「SMARL」
「なるほど、その手があったか」
大胆な方法ではあるが、やってみる価値はある。
そうファルが思っていた時であった。
ファルの足元でしゃがみ込んでいたヤサカが、ファルのシャツを引っ張り声を震わせる。
「あれ……あれ……」
ヤサカの怯えた視線の先。
そこには、前髪に顔が隠された人影が。
「また幽霊! 4度目だよ! もうイヤだよ! 幽霊はイヤだよ!」
怯えきったヤサカは、こんな場所でクイックモードを発動。
泣き叫びながら、幽霊を倒そうと必死だ。
「あっち行け~! あれ? あれ? なんで? 銃が撃てないよ! なんで!?」
「ヤサカ、それ食材のカツオだぞ」
「あ! ホントだ! じゃ、じゃあこれで!」
「それはニンジンだ」
「うわあぁぁ!」
いくらなんでも焦りすぎだろう。
普段の凜としたヤサカはどこへ行ってしまったのだろうか。
現在、ヤサカはニンジン片手にティニーの背中に隠れている。
さて、ティニーの出番だ。
ティニーは特に人影に反応することもなくSMARLを発射、一瞬で除霊を済ませた。
「ヤサカ、除霊終わ――」
「ありがとうティニー! 本当にありがとう!」
「ヤ、ヤサカ、苦しい」
泣き顔のままティニーに抱きつくヤサカに、ティニーが困惑した様子。
こんな光景は、おそらく今しか見られないだろう。
ファルは目の前での出来事を、脳に焼き付けていた。
「除霊は終わったし、ここから離れようよ! 早く離れようよ!」
一刻も早くこの場所から逃れたいのか、ヤサカはそう言った。
これにはファルも同意だ。
ファルはすぐさまティニーに指示した。
「ヤサカの言う通りだ。このままだとヤサカが幼児退行する可能性もある。それはそれで見てみたいが、ヤサカのために先を急ごう。ティニー、手当たり次第だ。この壁をSMARLでぶっ壊せ」
「分かった」
指示に従い、壁にSMARLを向け、引き金を引くティニー。
狭い通路をロケット弾が飛び抜け、壁が爆破される。
しかし、土の壁は削れたものの、どこかへと繋がることはなかった。
まだ諦めるには早すぎる。
ファルは別の箇所を指差し指示を続けた。
「あっちの壁を撃て」
「分かった」
「ダメか……次はこっちだ」
「分かった」
「ここもダメなのかよ……じゃあ次はそこ」
「分かった」
手当たり次第に壁を爆破していくファルとティニー。
爆破の衝撃と炎で、ファルたちのHPは徐々に減っているが、今は仕方がない。
「この辺は全部ダメそうだな」
「エヘヘ、楽しい」
「ティニー、次はその棚がある場所に撃て」
「分かった」
指示の直後には、ティニーによって棚ごと土壁が爆破される。
どうせここもダメだろうと予想していたファルだが、今度は当たりだったようだ。
土壁はバラバラと崩れはじめ、大きな穴の向こうに別の通路が見えている。
ただし、別の通路からは叫び声が聞こえてきた。
「キャアアア!」
「なんだ! 何が起きた!」
「ついに幽霊が爆破魔法を仕掛けてきたな!?」
「ゴール手前で爆弾魔の幽霊!? ラスボスか!?」
完全に怯えきっている、または警戒しているような叫び声。
だが聞いたことのある声だ。
「もしかして、他のプレイヤーの皆さんですか?!」
「あん? その声は兄ちゃんか!?」
「そうです! 俺です!」
相手を怖がらせないよう、ゆっくりと壁に空いた穴を通るファル。
穴で繋がった別の通路には、おっさんたち3人と女性2人のプレイヤーがいた。
おっさんプレイヤーの1人は、ファルの顔を見るなりファルに近寄る。
そしてファルの肩を叩き、言った。
「大丈夫か、おい。爆発に巻き込まれてねえか?」
「大丈夫です。というかこの爆発、俺たちが起こしたものです」
「なんだと!? 脅かすんじゃねえよ!」
「すみませんでした」
いきなり壁が爆発すれば、誰でも驚くだろう。
これは素直に謝るしかない。
そう思い、頭を下げるファル。
同時に、ラムダが前に出る。
彼女は5人のプレイヤーを一瞥してから、口を開いた。
「みんなと会えて嬉しいです! みんな、いつ合流したんですか?」
「ついさっきです。私たちとおじさんたちの通路が、偶然繋がっていたみたいで」
「そうだったんですか! これでディーラーさんたち以外、みんな合流しましたね! 賑やかです!」
「みてえだな。まさかこんな形で兄ちゃんお嬢さんたちと合流するとは思わなかったが」
苦笑いを浮かべたおっさん。
彼はティニーに抱きつく涙目のヤサカを見て、苦笑いが顔にこびりつく。
「そのお嬢さん、大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫です。ちょっと幽霊を怖がってるだけなので」
「幽霊? お前らも幽霊を見たのか?」
「見ました。おっちゃんたちも見たんですか?」
「見たっつうか襲われた」
「私たちも、ひどい目に遭いました……」
「全員、幽霊に襲われてたのか……」
地下にモンスターはいないはずだ。
ディーラーは幽霊を倒すという設定を作っていたが、あれは設定ではなく事実だったのだろうか。
「ここマズイですよ。もう、帰りませんか?」
「いや、その必要はない。見ろよ、ゴールはもう目前だ」
「え?」
ニタリと笑ったおっさんの視線の先には、大きな扉が。
そのいかにもな扉に、ファルのゲーム感覚が反応している。
きっとこの先に、ゴールがあると。
しかし喜ぶのも束の間、ヤサカが叫んだ。
「また来たよ! 幽霊! ほら!」
ヤサカが叫んだ通り、扉がある空間の天井から、人影が落ちてきた。
人影は例のごとく地を這い、ファルたちの恐怖心をかき立たせる。ティニーを除いて。
「悪霊退散」
幽霊を見たらSMARLを発射する癖でもできたのか。
ティニーは即座に幽霊を除霊した。
「やるなお嬢ちゃん!」
「すごい……」
プレイヤーたちがティニーに感心する中、ティニーは首をかしげている。
彼女にはひとつだけ、気になることがあったのだ。
「これ幽霊じゃない。今までの幽霊も、みんな」
「幽霊じゃない? ティニーよ、どういうことですか!?」
「霊感が反応してないのに、現れた」
「え? お前の霊感、反応してなかったのか? 一度も?」
「うん。地下に来てから、ずっと」
「そりゃ、確かにおかしいな。幽霊じゃなかったとしたら、あの人影はなんだったんだ?」
ティニーの言葉が正しいとすれば、謎が深まる。
幽霊でないのなら、あの人影はモンスターか、それともNPCか。
その時であった。
ファルたちの背後、暗闇の通路から乾いた笑い声が近づいてくる。
ヤサカは恐怖に身を縮めるが、ファルはこの笑い声を聞いて、ある男を思い浮かべた。
「いやあ~君たちは〝最高〟だ! 数多の〝幽霊〟の〝恐怖〟を乗り越え、ここまで来たのだから! 君たち、〝ゲーム〟は楽しかったかい?」
暗闇の中に浮かぶ能面。
その恐ろしい姿に背筋を凍らせる一同。
ファルが思い浮かべた通り、笑い声の正体はディーラーであったのだ。




