ミッション4—2 現実じゃないからこそ
ダンジョン出発を決めて4日。
ファルとヤサカ、ティニー、ラムダ、クーノ、レオパルト、サルベーション本隊からデスグロー、それにフリーターチームを含む30人のプレイヤーが、富岳島のとある炭鉱前に集まった。
この、閉鎖された古い炭鉱こそ、イミリアのダンジョンのひとつである。
「ここがダンジョンか。稼げそうな雰囲気だな。ついでにプレイヤー救出の条件も揃えてやる」
「ファルくん、プレイヤー救出がついでになってるよ……」
「きっと妖もいる。私のSMARLで除霊する」
「おいティニー、ロケランで同士討ちだけはやめてくれよ」
「分かった。できる限り同士討ちしない」
「できる限りじゃなく、絶対に同士討ちしないでくれ」
「あの! なんでダンジョン攻略がプレイヤー救出につながるんです?」
「出発前に説明しなかったか?」
「たぶん説明してたと思いますけど、聞いてませんでした!」
「お前……!」
なんとも世話の焼けることだ。
このまま無視しても良かったのだが、ファルはラムダに説明する。
「ストロボさんはログアウトできたのに、アマモリさんはログアウトできなかった。ということは、ストロボさんは満たしていてアマモリさんは満たしていなかった条件があったってことだ。じゃあ、2人の違いがなんだったか、分かるか?」
「ストロボさんは常識人で、アマモリさんはヤバイ人でした!」
「ま、まあ間違ってないが……違う」
「ええ!? じゃあ、何が違うんですか?」
「このゲームを楽しんでいたかどうかだ。アマモリさんはゲームに対して怒りをぶちまけるだけ、ストロボさんは純粋にゲームを楽しんでいた」
「なるほど! そういえばそうだった気がします!」
「きっと、ログアウト条件に『ゲームを楽しむ』ってのがあるんだと思う。開発者の瀬良は、プレイヤーたちにイミリアを現実だと思い込ませたい節がある。だから、イミリアをゲームとして楽しむプレイヤーは邪魔なんだ」
「つまり、ダンジョン攻略でプレイヤーのみんなにゲームを楽しませれば、ログアウト条件がひとつ揃うんですね!」
「exactly」
「Amazing!! Fal, you are a genius!」
納得してくれた様子のラムダ。
ついでに言えば、ダンジョン攻略のための武器はティニーが用意する。
集まった30人のプレイヤーは、これで確実にチート使用者だ。
プレイヤー救出に関してラムダに説明したファル。
それを聞いていたレオパルトは、今回も乗り気な様子
「ゲームを楽しむ、か。ゲームを楽しませる、か。今日も面白そうだな」
「レオパルト、ダンジョン攻略は効率じゃなく楽しさ優先で頼むぞ」
「善処する」
ニタリと笑うレオパルト。
どうにもファルは、金銀財宝がレオパルトに横取りされそうな気がしている。
それほど今日のレオパルトはやる気に満ちているのだ。
やる気に満ちている人物はもう1人いる。
ファルを睨みつけ、大声を出すデスグローだ。
「おい! てめえ! 俺様がいるからには、手柄を独り占めさせねえからな!」
「分かった分かった。なんでも良いけど、邪魔だけはするなよ」
「てめえ! 偉そうだぞ!」
「これは失礼しましたスグロー様」
「デスグローだ!」
「俺たちの手柄は全て、サルベーションあってのものです。感謝してもしきれません」
「フン、分かってるなら良いんだよ」
「……面倒くさい」
「ああ? なんか言ったか?」
「何も言ってない」
サルベーション本隊は、コトミからダンジョン攻略の予定を聞いて、おそらく焦ったのだろう。またファルたちに先を越されるのではないかと。
だからこそ、救出作戦をファルたちの手柄にしないためにも、デスグローを送り込んできたのだろう。
ご苦労なことだ。
幸い、デスグローはダンジョン攻略に対しやる気があるので問題ない。
問題は30人のプレイヤーたちである。
彼らは坑道の暗闇の先に、不安と恐怖心をかき立てられていた。
「モンスター出てくるって噂だけど」
「NPCのAIは優秀だし、凶暴だし……モンスターも同じだとしたら……」
「俺、金ケチって保険とか入ってないんだよ。ヤバイかな」
「というかそもそも、モンスターにやられて保険がおりるか?」
「それ以前に、坑道に不法侵入で警察に捕まったりして」
「モンスターいるなら武器が必要だろうけど、武器所持でも逮捕されるかも」
「……帰る?」
ダンジョンを前にしてなお、現実思考のプレイヤーたち。
2年間もイミリア内で過ごせば、ここが現実だと錯覚してしまうのも仕方がないだろう。
しかし、イミリアはあくまでゲーム世界だ。現実世界ではないのだ。
プレイヤーたちの現実での体は、ヘッドギアを着けたままベッドに横たわっている。
点滴のみで生きながらえ、生理現象すらも他人の世話になり、一部の人々からは『税金を食う虫』と蔑まれてさえいる。
本来は人を楽しませるはずのゲームが、プレイヤーのログアウトを待つ家族たちを悲しませている。
こんな状況は、早く終わらせるべきだ。
ファルはその思いから、30人のプレイヤーたちを前に声を張り上げた。
「みなさん、今日はダンジョン攻略です。そう、ダンジョン。不安な人もいるでしょうけど、ここゲーム世界ですし、大丈夫。というかみなさん、初日からイミリアにログインするような人たちなんですから、ダンジョン攻略がどんなものなのか、知ってますよね」
そう切り出したファルに、プレイヤーたちが注目する。
「湧き出るモンスター、仕掛けられた罠、崩れる床! 危険なことばかり! だけど、俺たちはそれを求めてダンジョンを攻略する。なぜなら、ダンジョン攻略には現実では楽しめないことが沢山ある! ゲームでしか楽しめないことが沢山ある!」
拳を握り力説するファル。
プレイヤーたちも体を乗り出す。
「暗闇を抜けるワクワク感! 苦難を乗り越える爽快感! モンスターを倒す俺TUEEEE! そして最後に待つボスと、ボスを倒した時の達成感! こんなこと、ゲームでしか楽しめない! ゲームだからこそ楽しめる!」
ファルはいよいよヒートアップ。
「ここは、イミリアは、それが体験できるゲーム世界だ! じゃあ、現実ではありえないような体験をしなきゃ損じゃないか! 今、目の前にダンジョンがあるじゃないか! 突撃するしかないじゃないか!」
「そうだそうだ! その通りだ!」
「RPGといえばダンジョン! やるっきゃねえ!」
「みんな行くぞ! ダンジョン攻略だ!」
一斉に沸き立つプレイヤーたち。
先ほどまでの現実思考的不安など、どこかへ消え去ったようだ。
ファルの思いは、きちんとプレイヤーに届いたようである。
このわずかな時間で、プレイヤーたちのダンジョン攻略へのやる気を沸き立たせたファル。
そんな彼について、ヤサカとティニーが言葉を交わしていた。
「ああ見えて、ファルくんってすごいよね。勘が良いし、意外と頭の回転も速いし。カリスマステータスがあんまり高くないのが不思議なくらいだよ。ティニーがいつも言う、ファルくんの特別な力って、それのことなのかな?」
「分からない。でもトウヤが特別な力を持つのは確か」
「ティニーの霊感、当たってるかもしれないね。ファルくんなら、私との約束を絶対に守ってくれる。そう思える」
「トウヤを信頼してるの?」
「うん。ファルくんは優しい一面もあるから、信頼してる。ただし、道徳ステータスが低いのは困るけどね」
「……ヤサカ、トウヤのこと好き?」
「え……ええ!? な、なんでそうなるの!? い、いい、いきなりそんなこと――」
「ヤサカ、トウヤと約束してから、トウヤをじっと見ること、増えた」
「べ、別にそんなことないよ! 見てないよ! たぶん……見てない……はず……」
「トウヤのこと、好き? 嫌い?」
「……まだ分からない、かな」
「ふ~ん」
胸に手を当て、正直なことを口にするヤサカ。
ティニーはそれ以上は何も聞かない。
2人の会話は、盛り上がるプレイヤーたちの熱気に溶けて消えてしまい、ファルの耳には届かなかった。




