仮説
ロミニカと別れた後、リベリルドにある宿屋の一部屋を借りる。本日、処刑される予定の人物が現れて、宿屋の亭主が戸惑っていたのが印象的だった。
「んっ……」
「あ、気が付きましたか」
「……コナタ。コナタ殿はどうなった!?」
まだ頭がはっきりしていないようで、しがみ付いている相手が誰か理解出来ていないらしい。
「大丈夫です。無事、間に合いました」
「そうか。よかった……」
安堵の笑みを浮かべる。
ありゃー? 目の前にいるのにな!
「クレア?」
「へ? あれ? どうしてコナタ殿がここに?」
とポカーンとした表情で俺を見た後、
「こ、コナタ殿ッ!!!?」
凄い勢いで抱きつかれた。
「い、生きていてくれてよかった」
「……」
今、圧死しそうなんですがねぇ。
いや、俺得展開ではありますが。むしろ、これで死ねるなら男として本望?
あ、ヤバ、ガチ目に意識が遠のいてきた。
「あ、すまん!」
パッと両腕の拘束を解く。
死ぬかと思ったぜ。加減を覚えろよ!
勿論、言わないがな。
「クレア。一体何があったんです? 眠っていたようですが」
「あ、あぁ! 私の不覚で……」
シュンと顔を下に向ける。
あ、落ち込み始めた。そう言えば、感情の落差が激しかったっけ?
「クレア。助けてくれてありがとう。一体何があったのかな?」
「いや、私は何も……」
「クレアがいなかったら、今の僕はいないよ。クレアのおかげで僕は生き長らえれた」
「そ、そうか」
落ち込まれたら、話が進まなくなるからな。少し立ち直ってもらわないと。
「何があったのか、教えてくれるよね?」
「い、いいぞ。私は、初めはがむしゃらに探し回っていたんだ。そして、青い装備の男に出会った。ほら、ホラム街で私と決闘をした男だ」
あのおっさん(青)ね。
「あの男が、盗賊団の情報を持ってると言われて、私はそれを真に受けてしまった」
「盗賊団の情報を持っていた、ですか?」
「あぁ。一騒動あったが、そこで私はあの男が嘘を付いてる事に気が付いた。誰かのおかげで」
何で今、俺をチラ見したんだ。
「それを看破したおかげで、商人を見つけることが出来たんだ」
「つまり、嘘を見破ったその先は真実だったと?」
「そうだ」
若干、誇らしげに言うクレア。
なんだよ、その俺への視線は。
「その後、その商人と話し合い襲撃の可能性を考慮してお供させてもらったんだ。森に入れば、コナタ殿の想像通り人影が集まってきた。私は戦うために、そして馬車を守るために商人に背を向けたんだ」
悔しかったのだろう。クレアの右手の拳が握り締められる。
「その隙をつかれて、商人に毒塗りのナイフで刺されてしまい戦闘不能に……」
「ちょっと待って下さい。では、ロミニカさんはどのタイミングで? 正義のヒーローよろしく、動けない瞬間に出てきたんですか?」
「違う。実はロミニカ殿達は、盗賊に成りすまし森の中で待機していたんだ」
おお。なんて超展開。
「つまり、堕悪烈怒凶狼のふりをして商人を油断させたって事?」
「その通り。あれには私も驚いた。もう駄目かと思ったよ」
ハハハ……、と軽く笑っているが、実際は相当焦っただろう。自分が死ねば、俺も死ぬことになる。
そんな重荷を背負わせて行動させていたのかと考えると、胸が痛くなる。
「そこから先はかなり曖昧なんだが、商人をあっさりと降伏させたロミニカ殿達に、私が事情をなんとか説明したんだ。ロミニカ殿の、任せて下さい、って言葉を覚えている。それ以降の記憶は無い」
成る程。
「なかなか面白い話でした」
「そうか。それはよかった」
「クレア。今までの言葉に一字一句間違いが無いと言い切れますか?」
「ん? なんでそんな事を聞くんだ?」
「いえ。とある仮説が浮かび上がりましたので、念のために確認をと」
「一字一句といわれると、絶対的な自信は無いが、ほとんどは間違っていないと思う」
「分かりました」
「その仮説とはなんだ?」
怪しい視線を送るクレア。
「そうですね。その仮説を唱えるのに重要なことが一つ」
「なんだ?」
「話が上手すぎるんですよ。あれらが全て偶然に引き起こされるはずがない」
驚きの表情を作るクレアに、ニヤリと笑ってやった。