解放
背中には罵声? それとも歓声?
そんなくだらない事を階段を下りながら考えていた。
太った体を揺らしながら、不満げに地面を強く踏みながら前を歩く豚――じゃなくてラドル、の後を追いかける。
やがて俺がこの館に連れ込まれた時に一番初めに通された部屋にでる。
「お荷物です」
その部屋にいた俺を捕らえた衛兵が、申し訳なさそうに俺のドラゴンキラーやその他を返す。
「ありがとうございます」
「ここへ、おかけ下さい」
衛兵の指示に促されるままに、設置してある椅子に座る。
「ワシの手違いだったか。まぁ、傷が残らぬように回復させてやる」
部屋の扉から魔法使いが出て来て、一斉に詠唱を開始する。
俺の腕を見つめていると、赤い痣のような腫れが少しずつ薄くなり、やがて消えた。
無罪の者を拷問したとなれば、色々反感があるんだろうな。
「ゴホンッ。貴様がもっとはっきり違うと言っていれば、こんな事態にならなかったというのに」
この段階でそんな事を言えるこの豚は、相当頭がお花畑なのか?
「そうですね」
取り敢えず、愛想笑いで返す。
「それなのに、ワシを不愉快にさせた! 貴様、そのために――」
「レモンティー様、お一つだけお聞きしたいことが」
話を阻まれて不愉快さを隠そうともせずに顔に浮かべる豚。
「地下の青髪の女性はどうされました?」
「ん? あぁ。あの女か。ワシの邪魔をしおって。壊してやった」
「分かりました」
「それよりもだな――」
それから、しばらくどうでもいい会話が続くのだが、全て愛想笑いで誤魔化しておいた。
その後、別室にて待たされる。
先程俺がいた部屋では、ロミニカ=アレクサンドリーが今回の件の報告をしている。
今回の件はロミニカの報告によって形がついたが、まだまだすべき事がある。
クレアの捜索だ。間に合わなかったのは致し方が無いが、行方不明は困る。
そんな事を考えていると、ガチャリ……と扉が開いた。
入ってきたのは、金色の髪の青年だった。人受けの良さそうな顔からは、気品溢れる空気が醸し出されている。貴族の礼服が似合いそうな顔のため、今来ている野蛮な装備を見ているとなんともミスマッチに見えて仕方が無い。
「ロミニカさん。助けて頂き、ありがとうございます」
部屋に入って直ぐに、俺は頭を下げる。
「気にするな。俺達は盗賊団らしき集団を見掛けたから捕縛しただけだ。礼なら馬車の中の眠り姫に言いな」
ロミニカと合流後、衛兵が外へ案内する。
「眠り姫、ですか?」
門をくぐった先には、15人程度の一団が控えていた。3人程が馬車を見張っている。
ロミニカが指を刺した馬車を、近くの配下らしき人物に了承を取って覗き込む。
「く、クレアじゃないですか!」
馬車に横たわる女性は、真っ赤な装備を着たクレアその人だった。
良かった。ひとまず無事だったのか。
「やはり知り合いだったか。この女性――クレアだったか、に事の次第を聞いた」
「そうですか」
やはり俺の今があるのはクレアのおかげか。
「回収させてもらいま――ん?」
「ああ、その傷は商人に負わされた傷だ。背後からってな。俺達は何もしてないぜ?」
……そうか。商人も一味だったのか。可能性は低いと思っていたんだが。
「その女の精神力には驚かされたよ。常人なら、神経麻痺の毒だったら動けなくなる。それにポイズンラットの毒だったからな。10倍に薄めたと商人がほざいていたが、それでも普通の毒とは比べものにはならない」
背中に背負い、寝息をたててるクレアの顔を見る。
「その状態で俺たちに抵抗してきた。結構骨が折れたぜ。抑え込んで、事情を吐かせたら、安堵したのか寝入っちまったけどあ。まぁ、盗賊になりすまして近寄った俺たちにも不手際があったから、負傷した奴らの傷は大目に見てやる」
そうか、そんなにも必死に――、
「毒に耐性でもあったのか、その女は? それとも一ヶ月以内に毒系に対抗したとか」
……凄く、心あたりがあるんだが。
「そうそう。会話が前後したが、毒の治療もしておいてやった」
「重ね重ねお礼します」
「サービスだ、気にするな。こちらも用事があった」
ロミニカは、反転しながらそんな事を言って立ち去った。




