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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「本人曰く、そうらしい」(クレア談)
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王の策略

 カチャカチャ、と周りを歩く騎士団が音をたてる。銀の装備を身を包み、俺の両脇で一糸乱れぬ行進を終えて、部屋の隅でまるで彫刻かのように固まる。

 正直、鬱陶しい。


 首都、アリジリーナ。通された場所はその王宮の王の間だった。この場所で待たされてから大分経つが、どうやらこの国王は時間に非常にルーズなようだ。

 勘弁して欲しい。


 母からの宣告の翌日、部屋の隅に並ぶ騎士団が迎えに来た。

 土地の最も端に位置するといっていい小さな町から、国王が直々に面会を願うとは何事だろうと思っていたのだが、アリジリーナについた時の町民の反応で粗方理解出来た。


「全員、敬礼!」


 突然騎士団の一人が大声を出した。

 そして、国王が顔を出す。真っ白な髭を生やした爺さんだった。


 爺さんが玉座に座ると、騎士団は敬礼を止めて、元の彫刻に戻る。

 いや、『元』ではないが。


「貴様がコナタとやらかね」

「はい」


 白い髭を自慢げにさすりながら、偉そうに尋ねてきた。


「我の名はベンディクト=アンフォンス。この国の国王だ」

「存じ上げております」

「君は、魔王を知っているかね?」

「勿論です」

「魔王とは――」


 『魔王』の言葉が出てきた時点で、この王の目的は明白だ。しかし、この俺が指名されるとはどうゆうことだ?


「――である」


 ……成る程。打ち首覚悟で仕掛けようか。


「そなたには勇者となりて、憎き魔王を討ち滅ぼし、世界を平和へと導いて貰いたい」


 さて。どう攻めようか。最終の中身は決まっているが、確証が足りないな。みすみす自殺一直線するほど、バカではないからな。


「申し訳ないのですが、私には将来養うべき両親がおります。それに、辺鄙な町に住む一介の私如きに、そのような事が出来る自信がないのですが」

「何、気にすることはない。両親の件は国を持って援助することにしよう。それに君は魔法学校での成績は目を見張ると聞いているぞ」


 問題ナシ。


「ありがとうございます。ですが、一つ私が旅立つにあたって、お願いがあります」

「ほぅ。金銭面か? よかろう。取り計らえ――」

「いえ。違います」

「ならば、武器か? それも――」

「違いますよ、国王様」


 ニッコリと笑う。さて、本命を言うか。


「私の故郷である友人に届け物をお願いしたいのです」

「ほぅ。その程度なら構わんが」

「[鳳凰の杖]をお願いします」


 その一言で空気が冷たくなる。

 まぁ、それもそのはずだ。俺が意図的に作り出したんだし。


「貴様! 国王陛下になんてことを! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」


 国王の隣にいた臣下の一人が怒りを露わに怒鳴る。周囲の騎士団の空気も殺気がこもっているのがビシビシ伝わる。

 国王に至っては口を開けて固まっている。

「[鳳凰の杖]が欲しい、と言ったつもりなんですが」

「いい加減にしろ! 国王様、即刻小奴の処刑を――」

「いいんですか?」


 俺の一言に、再び静まりかえる。


「私を処刑すれば、次はあなた方の誰かになりますよ?」


 周りの騎士団に視線を送ると、仮面の位置が少し動いた。逸らしているのだろう。


「うむ。構わん」


 国王が青筋を立てつつ、重々しく頷いた。国王様!と隣で臣下が叫ぶが、それを手で制した。


「小奴は気付いておるな」


 不愉快そうな顔の国王の言葉に、俺は悪意ある笑みで返した。









「勇者様バンザーイ!」「我らが勇者に光りあれ!」「魔王を倒して下さい!」


 城下町で町民の手厚い見送りに曖昧に手を振りながら、町を後にする。


 城下町から30分程歩くと、開けた平野に出た。近くにあった手頃な大きさの石に座る。

 さて、どうする――。


「勇者殿」

「うわ!?」


 突然の声に、石からひっくり返る。

 声のした方を見ると、赤い重装の装備を着た女性が、なんとも曖昧な表情でコチラを見ていた。


「えっと……?」

「私はアンフォンス国王陛下から勇者殿に遣わされた者と言えば、ご理解頂けるだろうか?」


 男勝りのキツい視線を送る女性――クレアに呆然とする。

 あのボケナス国王、何を考えているんだ!? まさか……。


「生まれはどこなんですか?」

「コリナールですが」


 コリナール。聞いたことがないところだな。つまり、逆説の証明か。


「私は幼少の頃より剣術を習い、そこらの貴族よりも武術の心得があります!」


 俺が難しい顔をしていたのを察したのか、クレアはフォローに入った。

 だが、それは俺の確信を強めてしまう事になったのだが。


「幼い頃からこの身を平和に捧げる覚悟で練習してきた。必ずや勇者殿のお役に立つでしょう!」


 めちゃくちゃ捨てないでアピールしてくるじゃないか。勇者様々だな。


「それよりも勇者殿。陛下に謝罪しなくていいのですか?」


 深く探られるのを嫌ったのか、話題を変えてきた。

 まぁ、粗方の裏事情は把握し終えたのだが。


「どうして謝る必要があるんです?」

「そもそも必要性の問題では無いだろう! [鳳凰の杖]だなんて、横暴にも程がある」

「いや、横暴っていってもね……」

「勇者と言う立場を利用して国に圧力をかけるなんて、最低な行為だと思わないのですか?」

「それは向こうがしている事の気がするんですんだけど……」


 ダメだ。聞いちゃいない。思いこみが激しい人なのかなぁ。


「路銀すら頂けなかったのだろう?」

「まぁね」

「まぁね、って……。私も豪華な旅は望んでいる訳ではない。が、せめて勇者殿の防具を揃えるぐらいのお金は――」

「いや。一切の援助を断つ代わりに、って事になってるんだし」


 クレアは自分の額に手をおいて呆れた表情を作る。


「それに勇者殿。武器はお持ちにならないのですか?」

「え。血とかグロいじゃん」




 ピタリとクレアが固まった。口をパクパクと何か言いたげだが、何がショックなのか分からないが、声が出ないみたいだ。



 俺、おかしな事言ったっけ?



2013/09/02 誤字を修正しました。

2013/9/8 題名を変更

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