Act 21. こちら、蜂の巣前
「あのなぁ、ミコ。お前が目の届かないところで、色々するのは昔からだし、お兄ちゃんも容認しているところはあったけど、ちょっとやりすぎだと思わないか?俺のしてることの、ちょっぴり無駄になっちゃったぞー……今回の件は反省してほしいなんだが、どうだ?」
兄の話を要約すると、そんな感じだった。
付け加えていうなら、ステータス弄ることができるなんて、普通は教会のお偉いさんしかできないってのに、私ができちゃったら権力者からの非難轟々だろう。
しかも教会のお偉いさんは金とってるんだから、収入源なんだろうよ。
それをぽっとでてきた小娘に無料でやられちゃ、殺意抱かれてもしょうがないよね。
と、いうことらしい。
祝福をうけるのは特権階級――――つまりは貴族とか、王族ばっかりで、弟王子の話によると、一般市民が出せないような額らしい。
そりゃぁ、怒るな。
直接給料に響いちゃう可能性が高いんだろうし。
権力者ってのは、面子とかプライドとか色々ありそうだし。
黙っていたほうが無難である。
弟王子を引き連れて、ちょっと『マドレーヌ姫の滋養強壮のご飯の材料を狩り隊』から、離れて、手短にお説教された。
なので、黙っててね?と兄が弟王子に『お願い』すると、首が取れそうな勢いで頷いた。
幸い他の人は気がついていないってか、理解はしていないだろう。
異世界生活三日目の奴に、やられたらいい気分はしないであろう。
もし他の人にばれていたら………うん、考えまい。
なにかした、というのは、先ほどの弟王子の様子から、気がついているかもしれないが、そのあたりはどうしようもない。
さすがに、あれだけでボーナスポイントいれたな!とかわからないはず。
それから、入れてないボーナスポイントを大量に入れさせられた。
弟王子も体力にもっと入れられたようだ。
兄の曰く、本来は自分の意思で戦闘中に入って行くほうが、体に馴染みやすく違和感がないらしい。いくら力が強くなったところで、結局使いこなせるかどうかは別なのだ。
それには納得した。
私が自分のを最初に入れた時も、王子の時も、いきなり入れすぎて魔力不足や、戸惑いが強かったような気がする。
強くなったーって感じはするけどさ。
もしかして、教会のお偉いさんが、大量に入れない理由なのだろうか?
でも、結局全部を入れることはなかった。
どうやら技能を取得するのは、けっこう時間がかかるらしく―――もしくは、ボーナスポイントがないと取得が不可能に近いもの―――それこそ取得したほうがいいらしい。
技能は察しの通り、ボーナスポイントの消費量が多い。
「たぶん、お前の第六感は、敵を探すのに適してるしな」
「え?」
第六感?敵索じゃなくて?
「別にブラブラ先頭歩いてたんじゃないんだぞ……まぁ、気がついたのは森に入ってからだけどな」
わからないならそれでいい、と言われたけども、なんのことやら。
それ以外で敵を探した記憶なんてないぞ??
「しかし、これは盲点だったな。音声認識に、仲間システムかぁ。今回のお出かけの目的の三割くらい終わっちゃったなぁ」
そうなんだ。
それは、たぶんいいことだよね―――ってか、まだ残っているんだ。
十分に魔物を狩ったような気がするんで帰りたい………いえ、我慢しますんで、そろそろ、下ろしていただければ嬉しいのですが、兄よ。
「ぐ、はぁっ!!」
「あ?……なんか言ったか?」
目尻に涙を浮かべた弟王子が、ガクブルしてても仕方がないと思う。
横になった状態で、爽やかな笑顔を浮かべた兄の肩に担ぎ上げられ、白目を向きそうな人間マフラーな私の図である。
そりゃあ、戦闘ログも発生しちゃうよね。
=== 真実子は技を解除できない!
=== アルゼンチンバックブリーカーによる継続ダメージ32
プロレス技を食らったまま説教されていたので、そろそろ背骨とか色々な器官が悲鳴をあげてるんですけど!?もがけばもがくほど、痛みが増すってどうよ!!
ちょっ、折れる!マジ背骨折れる!
この森の中に入ってから、一番HPが減っていいるから!!
もうちょっとで、黄色になっちゃうから!!
そんなこんなで、皆の所に戻った弟王子であったが、ユニコーンに目を向けて、意を決したように口を開いた。
「僕は――――」
森の静寂さに染み渡るような音。
王族なのだろうと思わせる、簡素ながらも堂々たる言であった。
「彼の友人を助けたい。どうか、イシュルスの騎士よ。力を貸してほしい」
弟王子の真摯さは、声色に醸し出されていた。
騎士(目つき悪)が、アルゼンチンバックブリーカーを食らっている私を見て、兄に向かって『王子を脅したのか!?』とか言っていたとか言ってないとか。
涙目だったからね、弟王子。
『いや~そんなはずないじゃないですか』と、兄の意識の矛先が変わって、ようやく地面に下ろされた。
兄、ユニコーンのお友達を助けに行きたい派だったからね。
そう思われてもしかたがないだろう。
うん、騎士(目つき悪)は、騎士(対兄用生贄)か、騎士(対兄用盾)ぐらいに昇格してもいいかもしれない。
全員が手放しで賛成というわけではないが、結局行くことになった。
大ハシャギのユニコーンがロデオ並に暴れて喜びを表現しつつ、尋常じゃないメールを送ってきたが、兄の微笑みにピタリと止まった。
そもそも………死んでいないといいね、ユニコーン友。
騎士(目つき悪)のお陰で、久しぶりに地面へと二本の足で立つ。
頭がぐわんぐわんするけど、事なきを得た。
兄の説教を終えて、ヘロヘロになる私であったが、心配そうなジークに無言で首を振り、姉に泣きつ――――
「え?普通に下ろしてもらえてよかったじゃない。前、あの状態から、地面に叩き落された人いたわよ?」
――――いたのだが、慰め方、可笑しくない?
+ + +
【ゼルスター=フォン=イシュルス(14)】 職業:王子(Lv17) サブ職業:聖騎士(Lv8)
HP:802/1093
MP:173/216
【筋力】 33
【俊敏】 74
【知性】 40
【直感】 30
【器用】 26
【意思】 21
【魅力】 41
【幸運】 39
【EXP:5421】【次のレベルアップまで78】
【ボーナスポイント】23P
【技能】[集中][剣技][王家の血筋]
【補正】 父の擁護 イシュタル神の加護 イシュルス男児の心意気 ???
秘宝【イシュ加護の純銀羽の一枚】(全+20%)
弟王子もHPをとりあえず千台に乗せたって感じだ。
やっぱり、姉が技の多彩さとキレから敬愛するプロレスラー曰く『一に体力、二に体力、三四がなくて五に体力!』という感じなのだろうか。
っつうか、確かに体力なきゃ、何にもできないけど。
弟王子と共に、回復薬を―――青汁みたいな味がするんですけど―――飲みながら、自分のステータスを眺める。
【岸田 真実子(18)】 職業:盗賊(Lv14) サブ職業:吟遊詩人(Lv5)
HP:756/1927
MP:271/468(+5)
【筋力】 56(+3)
【俊敏】 131(+5)
【知性】 34
【直感】 198(+3)
【器用】 78(+3)
【意思】 30
【魅力】 36
【幸運】 123(+11)
【EXP:7398】【次のレベルアップまで:428】
【ボーナスポイント】97P
【技能】[悪運][調査][一枚の壁]
[集中][第六感][敵索]
[五感強化][俊足]
[精霊ホイホイ][盗み][気配遮断][必中][鍵開け]
[風読み][音響拡大]
[細剣技][短剣技][加速]
【補正】 母の慈愛 父の加護 叔父の擁護 パティカ神の加護 イシュタル神の加護
闇属性15%耐性
………これだけ、HPがあれば早々に死なないだろう。
どれくらい高いレベルのゴブリンが出てくるかはわからないが、HPをチマチマ削るくらいの時間は稼げるはずだ。
つうか、ボスになったらクリティカルヒットで死ぬ可能性もないとは言い切れない。
それ以前にあたっても攻撃とならず、なぶり殺しの方が恐ろしいような気が。
兄はなにやら姉と話し合っているらしいので、物凄い強化しているようだが、すでに兄のHPが余裕で二千を超えているほうが気になる。
なんか盗賊は手先が器用じゃないと!と、器用さも30ほど入れさせられた。
そしたら、技能がいくつかNEWで現れた。
【罠作成】【罠解除】【加速】――――たぶん、前者二つって、ダンジョンに行かない限りは使わないんじゃ……つ、使えねぇ!
器用を入れる前に、いつのまにかあった【短剣技】【細剣技】やらを、腹いせに取得してみた。
というか、最初からガンガン、ボーナスポイント入れておけばよかった。
兄に合わせて入れようと思ったら、兄にしたら『え、今まで入れてなかったの?』とか、逆に言われちゃったし。
今度は私と王子に続き、若干ふらついている姉が体力回復薬を、顔をしかめながらがぶ飲みしだした。
その光景を不思議そうに周囲の人間が見ているという光景だった。
そりゃ、怪我もしていないのに、いきなり回復薬必要としたらそうだよね。
おかげで、ほとんど回復系のアイテムが数えるほどに。
でも不味かったので口直しに、弟王子と飴を一つずつ空けて食べた。
青汁味の後の飴玉は格別である―――って、姉よ、人のポケットに手突っ込んで飴玉取っていかなくてもいいじゃん。
「ん?そろそろか?」
兄の言葉に、私は冷や汗を流しながら頷く。
昆虫特有の羽音の大合唱が、聞こえてきているのである。
カチカチと合間に聞こえるのは、警戒音、だろうか?
遠い筈なのに、結構よく聞こえる。
ユニコーンの案内で、ピンチな友人の所へ。
敵索の画面の端っこの方に、赤い点がやたらある。
二、三匹とか、そんな話ではない。
いや、蜂だから多いとは思っていたが、大きな青い点一つに対して、ごっちゃりと密集している。
むしろ、地図画面の一部分が、真っ赤かなのである。
き、気持ち悪っ!!
嫌いじゃないけど、集団の昆虫は得意でもないんだよね。
いや、所詮蜂だ。焦るなよ、自分と言い聞かせて、ちらっと五感強化されている目で眺めて、違和感を覚えないことに―――違和感を覚えた。
うーん、なんだろう。
木の上の方に、遠めで見ても大きめだろうな、という蜂の巣独特の球体。
周囲を紫と黒の毒々しい蜂がうようよ。
見た目からも明らかに『俺、毒もってんぜ!』ということを主張なさっている。
蜂に埋もれているらしく、ユニコーンの友人の安否はわからない。
つーか、ほとんど巣の前じゃねぇか!
そんなところにいたら、襲われて当然ジャン!
その近場には、蜂の餌食の末路というべく、原型がほとんど留めておらず、辛うじて犬っぽいとわかる死体が腐敗している。
「ま、まさか、イシュルス殺戮蜂かっ」
敵の方向を眺めていた妖精さんの呟きに、ざわり、と騎士団がざわめく。
てか、よく見えるな妖精さんよ。
私のように五感を強化しているのだろうか?
そういえば、大きな鹿っぽいやつも、イシュルス鹿とか言っていたような気がするが、ここの特産物なのかとか、ちょっと思ってしまった。
つうか、幻聴か?
殺人蜂とかならニュースで、夏とかよく聞くけども―――殺戮蜂とかって聞こえたような気がするんだけど。
「そ、それって、世界で五本の指に入る大きさの!!」
「しっ!静かにしろ!!」
説明的な弟子の叫びに、金髪が小声で嗜める。
その言葉で気がついた。
――――違和感がないことに、違和感がある。
だって、この『叫ぶイシュルスの森』は奥に進むにつれ、木が大きくなっていっているのである。私の腕が回らない木がデフォルトで、時々神木みたいな感じもあるし。
まるでこっちが小人みたいに感じるくらいに。
だから、あれが普通の蜂ならば、木に対して小さくないと可笑しいのだ。
だとしたら、あの蜂の大きさは――――この森サイズということになる。
あの蜂の巣は、どれほどの大きさだというのだ。
考えてみれば、一キロ先から一センチ程度の蜂が目視できる時点で可笑しいのだ。
「……マズイナ」
「はい。かなり、まずいです――――騎士が小隊三つ、いえ中隊か、専門の討伐隊と、神官部隊と万全の準備が必要な状況です。数が、多すぎる…私もこれほどの規模の巣は出会ったことがありません」
ラ・イオの呟きに、苦虫をかみ締めたようなジークが、重々しく口を開いた。
どうやらジークは対戦したことがあるようだった。
兄の催促に、小さく息を吐き出した。
「全長三十センチから五十センチ。蜂にしては動きは遅いですが、尾の針に毒を持ち、性質は極めて凶暴で、女王蜂は一回り大きく、殻も固くて難敵です」
「数でも負けているし、難しいと?」
「それも、あります。樹液や花の蜜も吸いますが―――」
妖精さんや、スキンヘッドも、恐れているようで顔を青ざめている。
どうやら一部の騎士は、対戦したことがある、のか?
「基本的雑食で……人も捕食するのです」
別名・人食い蜂と呼ばれています、とジークは余計な情報を付け足してくれた。
【惨劇のタライホの村!イシュルス殺戮蜂の驚愕の猛威!!】
近年、問題視されているイシュルス殺戮蜂の活発な動きに、悩まされるイシュルス王宮。
遂に今年、タライホの村で、表面化した。
人口100人前後の村であったが、近隣の『叫ぶイシュルスの森』に、女王蜂が確認された――――が、その時にはすでに完成間近であったようで、イシュルス王宮に知らせが入った時には、人口の約六割が失われていた。
知らせを受けて、第二王宮騎士団とローゼン神官隊がタライホについた時には、村民の多くが、蜂に食い荒らされた(・・・・・・・)という有様だ。
711年のデミオの村以来の悲劇であり、現在でもこの蜂の対処法はなく、専門家の話では刺激しないように逃げるように、もしくは死んだフリをという警告はだされているが、あの巨大な蜂を前に果たして―――――……
トリア・ニュースペーパー/イシュルス暦731年/記事オベル=ダンティア