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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
90/119

Act 19. 白馬に乗ったお兄様

 音が収まったからといって油断してはいけない。

 再び兄の悪魔のような笑い声が聞こえないか、五分少々お待ちください。


 大抵、『収まった!』とか思って駆け寄ったら『まだまだ前哨戦です』と言わんばかりに二次災害が起きて巻き込まれるから。


 が、待っている間に、兄が向かってきた。




 ユニコーンに乗って。




 あ、すごいねぇ兄、裸馬にも乗れるんだ。


 前にお友達?の家で馬に乗ったことがあるって聞いたけど、もしかして、それって裸馬だったのだろうか。手綱とか鞍とか鐙とかつけてたのか?って話だな。


 あ、お友達?の家って、自前の馬持ってるとかって、金持ちか?


 いやー羨ましいよ。馬とは言わないけど、気性の大人しい動物に身近に接することができるのっていいよねぇ。




「ミコ、気持ちはわかるけど、現実に戻ってきなさい」

「………やだ」




 まさか、なんでユニコーンの背中に乗っちゃってるの!とか、あれほど煩かった嘶きがまったくないじゃん!とか、白い馬肌が血に染まっているのに傷跡がないって魔法で証拠隠滅してるのかよ!!なんて、兄に突っ込むの面倒なんだよ!


 それから、なんで一緒に戻ってきた、巻き込まれてよれよれの騎士(目つき悪)の目が死んだ魚みたいに光がないのか!?とか、突っ込みどころ満載過ぎて、喉が枯れるわ。




「―――っと、すみません。ちょっと動揺しちゃって」




 ユニコーンが兄の降りる気配を悟って、自ら膝を折るとか、絶対おかしすぎるだろ。


 もうキラッキラの爽やかな笑顔に騙される奴はいねぇ!これがちょっとの動揺だったら、十数年前に我が家の半径二キロぐらい焦土とかしてるわい!


 そもそも、どうやって戻ってきた。


 絶対1キロぐらい離れていたと思ったから、眼鏡に搭載されている地図じゃ戻ってこれないような気がしたんだが。




「伊達に長年、迷子のお前を捜してないぞ」




 ちょいちょい、と兄が指差す地面を見れば、複数の人間の足跡が幾つもあるので、これを追ってきたのだろう。




「ちなみに、兄ちゃんは家族の靴跡が判別できる」




 ぐ、と親指を立てて、どや顔であるけれど、それはそれで軽く怖い上に、森の中でかくれんぼすると、98%の確立で見つかるのは、足跡か!


 後、つっこみ総スルーかいな。




「気持ち悪っ!」




 姉が腕をさすりながら、吐き捨てると兄が『え~?』と抗議している。


 目玉見開いていた周囲の人々が、ようやくフリーズから開放されたらしく、なんと言っていいかわからないといった雰囲気である。


 


「い、いったい何が……」




 金髪が、よろよろしている騎士(目つき悪)に問いかけるが、聞こえていない様子で兄から離れ、背を向けて膝を抱えると、なにやらブツブツと呟いている。


 その様子に、チャラ男が『大丈夫か』とあせった様子で、声をかけるが反応なし。




「化け物……悪魔が……」



 

 なんだか、遠くを見て、零しているのが聞こえた。


 ご愁傷様。

 安らかに騎士(目つき悪)よ。

 

 


「サミィ殿……な、なにが起きたのですか、あのハーンが……」

「あ、ちょっと近距離で剣振りすぎたんですかね?気がついたら、木の下敷きになっていたみたいで―――ミコ、返すぞ」




 気がついたらいうたよ。ってか、気がついただけでも進化か。

 

 眼鏡を受け取って、恐る恐るかけると――――メールは途中からぶっつりと切れている。


 ユニコーンと目が合って、身構える。


 白目がないから気のせいかもしれないが、若干焦点があっていないような。




 

 NEW 【はじめまして、こんにちは。わっちの名前はサムです。】





 いや、さっき会ったんだけど………本当に、こいつ大丈夫か?


 普通のタイトル?なので一応、メールを開く。



 



 【タイトル】 はじめまして、こんにちは。わっちの名前はサムです。

  

 わっちが生まれたのはユジルデートの森です。

 わっちには6人の家族がいます。 

 わっちの趣味は幼い女性を探すことと、幼い女性と愛を語り合うことです。 

 わっちの将来の夢は、幼い女性を周囲に侍らすことです。






 ………ロリコンは変わらないんだ。そこ一番矯正したほうがよかったようなきがするんですけども。っていうか、なんか、英語の教科書で翻訳された日本語みたいになっちゃってるんだけど、人格崩壊か。


 そもそも、自己紹介に趣味と将来の夢を入れると好感度ががた落ちだな。





 

 わっちは友達と共に森に、女性を探しに来ました。



 



 何で森!?幼い女性が森―――……あれ、もしかして、別に人間の幼い女性ではない、とかなのか?


 つーか、平たく言うとナンパだな。






 森の途中で、蜂に襲われました。

 友達は囮になってわっちを逃がしました。

 しかし、彼は蜂に刺され毒にかかりました。

 友達は魔法が使えます。

 友達は結界を張りましたが、いつまで持つかわかりません。

 どうぞ、わっちと一緒に友を助けてください。


 【パーティ申請がされました、受けますか?】 YES  NO 






 蜂って、ドンだけ弱いんだよ、ユニコーン。もしかして、あれか?スズメバチとか、そういう凶暴なやつなのか。


 でも………友達を助けるために、仲間を探していたということか。


 あんだけ一生懸命だったのは、友達のため、か。

 意外にまともなユニコーンだったんだな。




 だが断る!!




 連打でNOを押しまくった。


 なんか本能的に危険そうなイベントのような気がする上に、兄―――はどうでもいいが、姉が怪我をしたらどうしてくれるんだ。


 その瞬間、拒否の意をユニコーンが嘶いて、腕に顔をこすり付けてくる。

 というか馬が号泣するの初めてみたわ。






 NEW 【わっ―――わっちだって、猿人に力借りるのは不本意だけど!あんだけ強い奴いるんだから、蜂の一匹や、二匹や、二十匹ぐらいやっつけてくれてもいいじゃん!おねげーしますだー!ちょっとあの危険な年寄り猿人、貸してくださいなー!!いまらな、もれなく、わっちの血も分けてあげ】





 そのメールも、途中で、兄の一瞥でぴたりと止まった。

 

 さっと、離れていくユニコーン。


 ………残念ながら、私のシャツは涙と鼻水と血でデロデロになっていた。





   +  +  +





 どうやら兄の説明も終わったようで、ユニコーンのお友達を助けに行くかのどうかの会議が勃発している。


 時間がないから、まさしく白熱しているようだ。


 どうやら蜂ではあるが、このイシュルス地方の蜂は恐ろしく凶暴なのだとか。


 姉はどうでも良さそうだが、兄と師匠一味は賛成派であり、金髪、妖精は否定派、金髪以外の騎士は、直接言ったわけではないが、弟王子の存在もあるせいか助けてやりたいけど、という感じである。


 ジーク、チャラ男と料理長は中立といったところだろうか。



 ………騎士(目つき悪)は心の傷が癒えてないようだ。



 弟王子を守らなくてはならないが、かといって、兄を好き勝手にさせとくわけにも行かないんだろう。

 

 一応、あれでも王様の甥ってことになっているし。


 隣にいた弟王子は何かを考え込んでいたが、口を開こうかどうしようか迷っているようだった。




「……どうした、の?」

「あ――――その、僕、ですよね」




 どうやら反対派の騎士の言外の感情を察したらしい。




「いや、私たち兄弟も……だと思うよ」




 自分が好き好んで与えられたものではないが、あるものはしょうがない、ないものもしょうがないし。


 国の王子と王様の甥姪を預かっている騎士たちの選択には、慎重にならざる得ないのだろう。いくら、その甥と姪の一人が、恐ろしい腕前の持ち主だったとしても。


 つか、いくら腕前があっても最年少だから、気を使って普通だ。




「それも、ありますが」




 騎士たちに背を向けると、弟王子は視線を落として、ぐっと拳を握り締めた。

 小さく私に聞こえるぐらいの音量で独白するように続けた。


 その表情は少し辛そうなものだった。




「……僕ではなく、兄だったら、きっと騎士達は迷わず進んだことでしょう」




 青い双眸を閉じて、歯がゆそうに王子は小さく息を吐き出した。


 たぶんだけど、弟王子が『行こう』といえば、騎士達は身分もあって逆らうことはないと思う。反面、彼らは弟王子を守るために、危険に身を晒すことになる。


 弟王子が意見しなかったのは、そのせいだろう。


 じりじりと、事の成り行きを傍観していた私の胸にも葛藤が生まれる。



 別にユニコーンの友達を助けに行こうと行くまいが―――いや、むしろ、世界の平和のため、幼い少女たちのためにはよいとすら思っているが―――どっちでもいい。



 でも弟王子は、助けたいのだろう。


 目の前で困っている者は見逃せない性格なのか?

 だけど、自分の言葉で騎士が左右されることも、ちゃんと理解している。

 

 相手、蜂だけど、何度も刺されればアナフィラキシーショックを起こしてしまう可能性だってあるのだ――――というか、もうユニコーンに時間を裂きすぎているので、いくらご友が魔法得意でも、もうボッコボコに刺されているような気がするんだけど。

 

 王としてならば、どうかと思うが、優しい子なのだろう。

 岸田の従兄弟としては、好感が持てる。  

 




 【ゼルスター=フォン=イシュルス(14)】 職業:王子(Lv17) サブ職業:聖騎士(Lv8)

 

 HP:551/593

 MP:16/16





 

 でも、14歳でこれだけのレベルと体力があるなら、素晴らしいだろう。

 盗賊で吟遊詩人な私に比べると、かなり実践に役立つとは思われるのだが、(おなご)と比べるのはあれか。


 え、姉?規格外仕様ですので気にしないでください。


 でも、まぁ……ユニコーンで気がついたが、手段がないわけではない、のだが。時間がかかるかもしれないし、すぐ上手い事いくかもしれない。


 ゲームのようで、リアルな世界では、どうなっているのかわからない。

 けれど、聞かないよりはいいだろうか。




「ゼルスター王子……」

「ぁ、ゼルでかまいませんよ」




 はっとしたように、顔を上げて、繕うように微笑む弟王子―――いや、ゼルでいいのか。

 少し迷いながらも、彼に問うた。

 

 




「…………私に、パーティ申請、してみない?」






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