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ケーキ

終わります。

ちょっとしたオマケを後書きに乗せてあります。


いらっしゃいませ。

 電車に揺られて十分程度、宮沢は高校のある町にまで辿り着いた。

 今日は通学しに来た訳じゃない。今日はこの町で夏祭りが行われるのだ。

 だから今日の宮澤の服は浴衣。自分で綺麗に着付けたもの。顔には薄く化粧がされている。

 改札を出ると、そこには宮澤と同じように浴衣を着た近衛が立っていた。周りにはクラスメイトが集まっている。

 宮澤に気がついた近衛はクラスメイトの輪から離れて、宮澤に近付いた。

「早かったな」

「電車が混みそうだから早めに来たの。近衛君は人気者だね」

 嫌に毒が含まれた言葉に近衛は少したじろいだ。

「俺何か悪いことしたか」

「知らない」

 つんとしながらくるりと一回転して見せる宮澤。

 そこで近衛は、なんとなく分かった気がしたのだ。

「似合ってるぞ」

「それだけ」

 じとっとした目が近衛に向けられる。

 しばし迷い、頭の中で言うべき言葉を反芻し、それから最後に一回口の中で言ってみてから、

「可愛いぞ。とっても綺麗だ」

「ありがと」

 相変わらずつんとしているが、伸ばされた手だけは嘘はついていないようだ。

 近衛はその手を捕まえ、離さない。

「お手を、お姫様」

「ありがと」

「どこに回る」

「近衛君に任せる」

「任された」

 駅を離れて商店街へ。

 すると、商店街に立ち並ぶ屋台の中に一際人を集めるところがあった。

 その中心には、星野がいた。

「あ、志乃ちゃあん、大吾郎くうん」

「叫ばなくても聞こえる。何してるの?」

「射撃だよお。ふっ、私の後ろに立つなあ。……どおだったあ」

「隙だらけだ」

 星野が宮澤と話している間に後ろに回り込んだ近衛が、星野を両手で持ち上げる。

 無闇に高いので、自然、星野の足は地面を離れて宙空に行く。

 足をばたつかせたところで地面に下ろすと、近衛のスネを蹴って宮澤の後ろに行く。

「私に勝とうなんて百万年早いよお」

「流石、星野さん。おみごと」

「えへへ」

 嬉しそうに頭をかく星野に、やっぱり嫌悪感を抱けない宮澤。

 それから、星野が帰ってくるのを待つグループに目を向けた。

 その中にはいつだったか宮澤にビンタをしたやつもいるが、何故だか星野と一緒にいるだけで憎めなくなる。

 星野はこのままついてくる気なのか、離れようとしない。

「戻らなくていいの。みんな待ってるよ」

「ん、今日で最後だから」

 え、と宮澤と近衛が同時に言おうとした時、ふいに突風が吹いた。

 それから、ぐいと誰かが二人を引っ張る。

 風がやみ、二人が目を開けると、そこには白い薔薇の装飾が施された看板を持つ、いつもの店、CandyStoreがあった。

 二人は戸惑ったが、不思議と吸い寄せられるように星野を発見した。

 星野は二人に優しく一瞥した後、店内へと消える。

 二人は一度顔を見合わせ、店内に入る。

 と、そこには青年だけがいて、一枚の桃色の栞を持って立っていた。

「お待ちしていましたよ」

 青年は優しく出迎えて、ポケットから一冊の本を取り出す。

 そこには数十枚の栞が挟まっている。

 青年はそこからまた桃色の栞を抜き取った。

「ではこちらに」

 不思議にも、目の前に突如現れた扉に違和感はない。

 二人は扉を開け中に入る。

 そこは店の向こうではなく、大きなケーキが一つぽつんと置いてあるだけだった。

 そのケーキはどこかで一回は必ず見たことのあるもの。

 そう、ウェディングケーキだ。

 まっしろなウェディングケーキ。

 様々な形のお菓子達が散りばめられたウェディングケーキだ。

 飴で精巧に作られた竜、冷たいアイスには埋まるように人型のクッキーが入り、バイクを象られたチョコレートが乗り、二つのみたらし団子が赤い刀のようなもので寄り添うように固定され、プリンには甘い香りのさくらんぼが添えられて散りばめられている。

「凄い」

 宮澤はやっとそれだけ言った。

「俺もこんなのが作りたい」

 近衛は見惚れてそれだけが言えた。

「いつか、作れるようになれますよ」

 大きなナイフと一緒に、青年は言う。

 受け取ったナイフを二人で持ち、二人でウェディングケーキを上から切る。

 すると、ウェディングは切られたところから本のように広がっていく。

 中に書いてあるのは無数の文字、無数の羅列。

 パタン。

 青年は本を閉じた。

 宮澤と近衛の姿はもうどこにもない。



◆◆◆◆◆◆



 青年は閉じた本を棚にしまう。

 棚にはいくつもの本が所狭しと置かれていて、そのどれにもいくつもの栞が差し挟まれている。

「おっと、戻すのを忘れていました」

 青年は戻したばかりの本を抜き取り、桃色の栞を差し戻してからまたしまう。

 棚には二十三冊の本がある。

 よく見ると箱になっていて、中に七つの本が詰まっているのもあったり、中身が途中で途切れているものもある。

 青年は満足気に棚を眺め、それから棚にCLOSEDと掛けた。

 そしてようやく役目を終えたとばかりに、棚の前に置かれた椅子に座った青年はもう動かない。

 青年の前には扉がある。

 その向こう側には、老若男女、合わせて二十三人が立って、それぞれが青年に対して労いの言葉をかけていた。

 最後に、青年の容姿が似通った女性が、扉を閉める。

 扉には、大きく分かりやすい字で、CandyStoreと書かれている。

 それから二十三人は少しお茶でもしようかと、手頃な茶屋を目指して歩き出すのだった。

 カラン。

 世界は閉じる。

 そこに、TheEndの文字が美味しそうな色で浮かんでくるのだった。

ご来店まことにありがとうございます。


さて、桜庭さん主催のcandystore、一週間と余日を遅れて完走できたこと嬉しく思います。


ここでは、少しネタバレでもしようかと思います。

まず、みなさんおわかりかと思いますが、不思議なお店candystore、これは企画のcandystoreのさらに回覧板というスペースになっています。

次に空からの声、この声のある部分が企画のcandystoreそのもののスペース。

最後にそれすら包み込んだ場所としてTheEndが浮かんだ空間、これがなろうです。

まぁこれらは軽く意識しただけなので、置いといて。

本番はここから。

近衛、これは書き手としての回覧板です。

宮澤、逆に読み手としての回覧板です。

栞、これは感想を表しています。

星野さんはどうなったかを見れば、どこから登場したか分かるはず。

老若男女の人達、これは企画としてのcandystoreにしか出ていない、つまり参加者各位を意識しました。


ネタバレとしてはこの程度でしょうか。

とくに盛り込んだ要素もなく、近衛と宮澤のイチャイチャが楽しかった(笑)

また、どこかの企画や小説でお会いしましょう!



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