第1話 「謎の青年」
冷たい雨が、アスファルトを叩いていた。
アメリカのスラム街。
ネオンは半分壊れ、路地にはゴミ袋が積み上がり、サイレンの音が遠くで響いている。
青年は全力で走っていた。
名前は――W。
「止まれ!!」
背後から警察官の怒号。
Wは振り返らない。
肺が焼けるように痛い。
だが止まれば終わりだった。
路地を曲がり、フェンスを飛び越え、さらに走る。
しかし足がもつれた。
「くそっ…!」
その時だった。
近くの古びたアパートのドアが少し開く。
中から白髪混じりの中年男が顔を出した。
「坊主、こっちだ。」
Wは一瞬迷う。
だが選択肢はない。
アパートに駆け上り
部屋へ飛び込んだ。
男はすぐにドアを閉める。
「どこ行った!!!」
「まだ近くにいるはずだ!探せ!」
警察官たちが声を上げながら建物の前を走り抜けていった。
静寂。
Wは壁にもたれ込む。
「....なんで助けた?」
男は徐にポケットから煙草を取り出した。
男は煙草に火をつけながら笑った。
「さぁな、お前の顔が昔の俺に似てたからかなぁ..」
少しの静寂の後、Wは口を開いた
「意味わかんねぇ。」
「腹減ってるだろ。」
男は缶詰を投げて寄越した。
Wは警戒しながら受け取る。
警戒しつつも恐る恐る缶詰を開けて食すW
「うまい...」
⸻
男の名前はローズ。
元々このスラム街を仕切っていたチンピラの集まりの長だったらしい。
今は細々と暮らしている。
Wはしばらく彼の家に居候することになった。
警察から逃げていた理由は単純だった。
強盗、暴行、詐欺、恐喝、傷害、住居侵入など多数の犯罪を犯していたから
だがスラムでは、その程度でも人生が終わることがある。
数週間後。
Wはお金に困っていた。
仕方なくまた窃盗でもしに行こうと企んでいたところ
「仕事を紹介してやる。」
ローズの声が聞こえた
「仕事?」
反射的に返していた。ローズは煙草を吸いながら、ゆっくりと口を開けた
「荷物運びだ。」
⸻
倉庫街。
夜。
Wは初めてその仕事を見た。
黒いSUV。
武装した男たち。
妙に高価なスーツ。
その瞬間気付いた。
これは普通の仕事ではないことに。
自分はおそらく、もう後戻りできないところまで来てしまっていることに
男たちはそんなWの様子を見て察したのか笑いながら言った。
「賢いガキだ。」
その後、仕事が終わり、ローズと車で帰路に向かっている途中、Wは口を開いた
「あんた、マフィアの一員だったんですか」
一瞬、車内は静まり返ったが、ローズは徐に煙草を取り出し、一服してから語った。
「、、、この街ではな、何も知らないように装って淡々と仕事するやつの方が賢いんだぜ」
もはや答えそのものの返答であった。
スラムで生きていたWでさえも聞いたことのある名前だった。
-----『WMC』
街の大部分を支配するマフィア組織だった。
自分はそんな世界に足を踏み込んでしまっていたのだ。
Wは逃げようと思った。
だが金が必要だった。
生きるために。
しかし、そんな単純な理由で体が動いていたわけじゃない。
これはきっとおそらく
初めて誰かに必要とされた気がしたからだろう。




