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【完結】兄が異世界に行った弟の話  作者: 八月森


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~その頃の兄⑫~ 小さな焚き火

 オレたちは魔物の国に侵入した先で、敵軍の守備隊と交戦していた。


 守備隊を率いる男性魔族は骨を操る魔術の使い手で、全身を骨の鎧で覆い、攻める際にはそれらを伸ばして攻撃してくる難敵だったが……


「《……攻の章、第七節。星の鉄鎚、ギガンティックハンマー!》」


 姫さんの法術で生み出された巨大な光の鉄鎚。それが、頭上から勢いよく振り下ろされ、魔族――と、その部下も何匹か巻き添えにし――を強烈に打ち据える。


 ドゴォ――!


「グ、オ……!?」


 バキボキと音を立てて、文字通り骨が折れていく。魔族の身を護る骨の鎧が失われ、その下の肉体が露わとなる。

 オレはそこに――晒された肉体の心臓部分に、すかさず聖剣を突き立てた。


「ガっ……!?」


 魔族は苦悶の声を上げ、ゴボリと血を吐く。確実に致命傷だ。長くは保たないはず。が――


「……ただでは、死なぬ……!」


 その身を覆う折れたはずの骨が徐々に再生し、牙のように先を尖らせ、矛先を求めてカタカタと(うごめ)く。加えて――


(――抜けない!?)


 聖剣を何かに掴まれたような感触。引っ張ってもビクともしない。不意に気づいた。おそらくは体内の骨を操り、剣を引き抜けぬよう固定しているのだと。


 最期の執念でオレを道連れにしようというのだろう。このままでは骨の刃に貫かれ、無残な串刺しにされてしまう。こんな芸当を無詠唱で行えるのだから、魔族というのは厄介極まりない。が。


(落ち着け……)


 オレは努めて平静を保ち、握った聖剣に意識を集中させた。


(魔術を……封じる!)


 聖剣の刀身が白い炎を帯びる。それと共に、魔族が身体に纏う無数の骨が砕け、崩壊していく。聖剣の拘束も解けていた。


「な……!?」


 魔術を封じられ、効力を失ったのだ。それは先日の検証で判明した使い方の一つ。術者の肉体に直接触れていれば、封印の炎は〝相手の魔術の行使そのもの〟を封じることができる。


 驚愕に目を見開くそいつの顔を見ながら、オレは聖剣を引き抜き――


「チェストオオォォ!」


 薩摩隼人ばりの蜻蛉の構えから、袈裟懸けに剣を振るう。


 骨の鎧を失った魔族の身体はバターのように刃が入っていき……そして、一瞬で通り抜ける。獲物を失った刃先が地面を抉った。わずかに、土が舞う。


「グ、ブ……!? ガフ……おの、れ……! おのれ、人間……が……」


 怨嗟の声を漏らしながら、二つに両断された魔族の身体が倒れていく。聖剣の炎に焼かれているためか、断面から血は流れなかった。


「……」


 魔族が息絶えたことを確認したオレは、この手に握る聖剣に目を向けていた。


 触れた物の事象を封じる力を持つ聖剣〈オラシオン〉。

 共に旅を乗り越え、日々の鍛錬でも振るい続けてきたこの相棒は、今ではこうして実戦で使いこなせるまでに手に馴染んできた。

 それは喜ぶべきことだ。命を預ける相棒への理解が深まったのだから。

 ただ……深まったからこそ、胸に湧いた疑問もある。


(なんか、思ったより能力が控えめな気がするんだよな……)


 封印の炎は、使い方次第では実際強力な力だ。今やったように相手の魔術を封じることもできるし、先日の検証でエレナに試した時は、彼女の動き自体を封じることさえできた(ただし一度に封じられる対象は一つの物事だけのようだが)。


 しかし、初めてこの聖剣と対面した際に感じた、あの圧倒的な威圧感。

 あの時触れた燃え盛る炎のような魔力と比べると、実際に使ってみた聖剣の力は小さな焚き火くらいの印象なのだ。


(オレが未熟だからこの程度なのか? それとも、もっと隠された使い方でもあるのか?)


解眼(かいがん)〉に映してみても解答は得られない。今の状況では解を導く必要がないからだろうか。そもそも隠された解答などなく、これが聖剣の力の全てなのかもしれない。その場合……


(……この力で本当に、〈邪王〉なんて呼ばれてる相手に通じるのか……?)


 それが、順調に見える旅路に一抹の不安を残していた。


「アキト様!」


 背後から掛けられた姫さんの声で、我に返る。


「どうかなさいましたか? お怪我でも……?」


「あ、いや、大丈夫だ。なんともない。それより、みんな無事か?」


「はい、問題ありません。魔物も全て掃討できたようです」


「そりゃよかった」


 ほんとによかった。ホっと息をつく。

 が、すぐに気を引き締め直す。


「……いよいよだな、姫さん」


「……はい」


 この森を抜ければ、いよいよ目指す標的、この戦の元凶である〈邪王〉ザッハークが待ち構えている。

 オレは胸に残った不安を押し殺し、合流した仲間たちと共に森の出口へ歩み出した。

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