新たな仲間 前編
「セリア、もうすぐ卒業だな」
セリアたちが士官学校を卒業するキルス歴一〇九五年八月末まで残すところあと少しとなっていた。
「ああ、これで実力で上がれるようになる。最前線で直接タスタニア軍と戦い戦果を上げるのが一番なんだが、まずは実績を積んで昇進していかないといけない」
「どこに配属されるか誰に付くかで昇進の速度も違ってこよう、無能な上司の下だけには付きたくないものだ。。」
セリアとソレーヌがそんな話をしているとエミリアとジュディがやってきた。
「よ!もうすぐ卒業だな」
「ああ、お前たちともお別れか」
「お別れ?何言ってんだよ。ボクたちは卒業後もセリアについて行くよ」
「本当か?」
「ああ。誰かと主従関係を結ばなきゃならないならセリアと組むのが一番だからな」
「私はまだ半人前だし経験も実績もないけど、お前たちとこれからも一緒に仕事が出来るのなら喜んで迎えるよ」
「どこに配属されるかはまだわからないのか?」
「おそらくフェルデンあたりじゃないかと予想はしているが。。」
「フェルデンなら隣はルンベルク要塞都市だし、案外早く我々の出陣が来そうな感じもするな。そうなればいいけどな」
「卒業までにひとつ片付けなきゃいけないことがあるから野暮用は早めに済ましておくかな」
「何かあるのか?」
「例のユリアと決着をつけるつもりだ」
「前にも聞いたけど、そいつは賞金稼ぎだろ?私たち学生とは無縁だし無視していいんじゃないのか?」
「いや、ボクたちにちょっと考えがあるんだ、ケリが着いたらまた知らせるよ」
そういうと二人はセリアたちと別れて街へ向かって行った
「なあ、ソレーヌ!そんなに決着ってつけなきゃならないものかな?」
「私たちにはわからない彼女たちの中でのケジメみたいなものだろうよ。口出しは無用だよ」
「それもそうだな。とにかくジュディとエミリアがこれからも仲間でいてくれるのは何より嬉しいな」
その夜街の剣術大会にはユリアも参加していた。
「ジュディにエミリア。今日は試合に出るの?」
「ユリア、我々は学校を卒業したあと主となる人物について帝国軍の一員として派兵されることになる。今夜が最後の大会参加だ、ここで決着をつけよう」
エミリアの言葉にユリアが少し寂しそうに返答した。
「そうか。二人とも軍の一員として行ってしまうんだ。。こちらこそ望むところ、今夜決着を付けよう」
ユリアは剣術使いなのでエミリアが対戦することになりジュディは試合を見守った。
二人の順番が回ってきてユリアが先に競技場に上がりエミリアが後から上がってきた。
二人はお互い上段に剣を構えるとしばらく見合ったが先に仕掛けたのはエミリアだった。
エミリアの剣が三回四回と振り下ろされユリアはそれを受けては跳ね返す。
力の勝負では身長の高いエミリアに分がありそうだど判断したユリアはエミリアの力を受け流すように剣をさばいていき両者は激しく剣を交差させた。
撃ち合いは二十数合続くがこれは時間が長引くと体格に劣る自分が不利だと感じたユリアは受けから一転して攻勢に転じた。
するどい斬撃がエミリアを襲うがエミリアはそれをかろうじて弾き返す。
そしてユリアが上段から振り下ろした剣をエミリアが受け止めると二人は中段で剣を交差させた状態になった。
こうなると長身で力に勝るエミリアが有利で、ユリアはこの状況に(しまった)と内心焦りを感じていた。
なんとか離れて距離を置こうとしたが、エミリアはそうはさせじと強引に力でユリアを押し込みそのまま頭部への一撃が決まった。
「そこまで。勝者エミリア」
「負けた。。」
がっくり膝を落とすユリアにエミリアが手を差し伸べた。
「ユリア、これは体格に勝る私が有利だったに過ぎない。あなたの実力は誰もが認めてるよ」
エミリアはそう言うとユリアは立ち上がり二人は握手を交わした。
「エミリア見事だったな」
突然後ろから声をかけられて振り向くとセリアとソレーヌが立っていた。
「セリアにソレーヌ。どうしてここへ?」
ジュディが驚いて聞くと「競技場の試合がどんなものか見にきたかったのさ」と答えた。
「丁度よかった。ユリア、ここにいるセリアは私たちのリーダーなんだ。私たちは宮廷士官学校をもうすぐ卒業し、正式に軍として派兵されるんけど、このセリアの元でユリアも一緒に戦わない?セリアはリーダーの素質がある人物だし、それは私とジュディが保証する。ユリアもいつまでも賞金稼ぎで生活というわけにもいかないでしょ」
「それはそうだけど。。いきなり言われても」
いきなりの紹介と仲間への誘いにユリアだけでなくセリアも困惑していた。
「エミリア、ユリア殿の言う通りだ。いきなり言われても困るだろう」
「そうか。。じゃあ今日のところはセリアの紹介に留めるよ。セリアに付くか付かないかはユリアが自身で決める方がいいだろう」
エミリアはあえて無理強いしない事にした。
「ボクたちは一週間後に卒業を迎える、それまでに決めてくれればいいよ。ユリア、ボクたちと一緒に仕事をしたいと思ったら一週間後のこの時間この場所に来てくれ」
ジュディはそう言ってこの場を収めた。
「セリア、ボクたちはユリアを仲間に加えようと前から計画してたんだ。ボクたちはこの国最強の部隊でありたいし、そのために実力のある騎士は一人でも多く仲間に加えたくてね」
「お前たちそんな事を考えていたのか」
ジュディにそう言われてセリアはまさかそんな事を考えていたとは知らず驚いた。
「二人がそんな事を考えていたなどと知らずに、決着ってそんな大事なものなのだろうかと興味本位で見物しにきた私は自分を恥じなければいけないな」
「いいよ。ボクたちが勝手にやってる事なんだから。それに決着をつけたかったのも確かだし」
ジュディがそう言うとセリアあまり人にお礼を言う事がないため不慣れでぎこちなかったが「ありがとう」と二人にお礼を言い、ソレーヌはその姿を見てクスっと笑った。
「ユリア来るかな?」
エミリアの問いにジュディは五分五分だなと答えた。
「あの武力は捨てがたい。だが無理強いする事も出来ないからな、あとは彼女次第だ。このまま賞金稼ぎを続けるか、その武力を活かせる軍に所属するか。まあ期待半分ってとこで一週間待つとしよう」
「エミリアにジュディ二人ともお疲れ様だった。ソレーヌも含めて三人に今夜は私がご馳走しよう」
「本当か?ありがたい、お腹空いてたとこだったんだよ」
ジュディがそう言うと思わずみんな笑いだした。
「なんだよ。エミリアだってソレーヌだってお腹空いたろ?」
「確かに。ここはセリアにありがたくご馳走になろうか」
「ソレーヌさすが」
四人は派兵前最後の晩餐と称してひとときの楽しい夜を過ごした。




