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(5)どうやら森を抜けたみたいです。

「ぴぴぽぴぴぴぽぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぽぴぽぽぴぴぽぴぴぴぴぽぽぽ@*※∞ぽぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽ」


 紅い花が咲き乱れる森の広間を去り、フォレストグリーンの中を歩いていく。


「ぴぴぴぴぽぽぴぴぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぴぴぽぽぴぽぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぽぴぴぽぽぽぴぴぴぴぽぽぽぴぴぽぴぴぴぽぴぽぴぽぽぴぴぴぽぴぽぽぴぽぽぽぴぽぽぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぽぴぽぴぽぴぴぴぴぽぴ」

「はあ、なるほど」


 ダックスフントの耳をした女性は道を先導しながらも、ずっと話しかけてくる。

 内容はわからないものの、ゆめはとりあえずうなずいておいた。


「◆∮≡・♭。⇔ぴぽぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぽぽぴぽぴぽぴぽぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴ」

「へえ、たしかに」


 ゆめの適当な相槌を気にする様子もなく、女性は言葉を続ける。


「ぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽぽ、ぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぴぽぴぴぴ」

「ふーん、そうなんですね」


 女性の言葉にひとまず反応だけは示しながら、周りを見回す。

 フォレストグリーンの森の中は穏やかで、枝葉の隙間からはリーフグリーンの光が注ぐ。柔らかな日差しがちらちらとローアンバーの地面に影を差す。


 ふわりと風が吹き、さやさやと木々が揺れる。ささめくその中に、ふと、か、こ、か、こ、と蹄の音が聞こえてきた。


 不思議に思って、前を見る。緑が途切れた先に、白い光が差し込んでいる。

 そのまま進んでいくと、それまで続いていた森を抜け、ぱっと視界が開ける。


「わあ!」


 思わず歓声を上げ、たた、と女性を追い越して道に出る。

 目の前に広がるのは、左右に長く伸びる大きな街道。スレートグレイやサンドの小石を敷き詰めた道は、ローシェンナのモルタルで固められている。その道幅は、車三台が通れそうなほどに広い。そこにひっきりなしに馬車や人が行き交う。


「すごい!」


 馬車を引く人や通り過ぎる人たちは、さまざまな姿をしている。

 ゆめと同じような人もいれば、電車で会った車掌のような動物の姿をした者、犬耳の女性のように髪の間から動物の耳がのぞく者、背が低くがっしりとした体つきのドワーフに似た人など多くの人が道をゆく。


 中には、馬ではなく小型の恐竜みたいなドラゴンや、ダチョウにも似た大きな鳥に荷を引かせているものもある。


「ファンタジーだ!」


 街道をゆく人を見て、ゆめは興奮気味に声を出す。

 この、どこかもわからない場所に迷い込んでから、ガラスの羽のチョウや、虹色や鮮やかすぎる花など不思議なものには遭遇してきた。

 でも、目の前の光景が一番リアルでリアルじゃない。


 道の向こうには、イエローローカやバーントアンバーのレンガが積み重なった壁がそびえている。少し離れていてもその大きさがよくわかる。


「すごい……!」


 女性はゆめを手招くと、街道を左に進んでいく。


「わわ、待ってください!」


 歩き出した女性を慌てて追いかける。


「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぽぽぽぴぴぴぴぽぽぴぴぽぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぽぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽぴぽぽぴぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴ」


 歩きながら、女性はゆめに向かって話しかけてくる。


「わー、リアルに猫耳だ。あっちのお姉さんはエルフかな」


 でもきょろきょろと周りを見回すゆめの耳には届いていない。


「道路もすっごい、歩きやすい!」


 ローシェンナの地面を見下ろす。スニーカーで踏みしめる地面はしっかりしていて、ほどよい硬さもある。


「はー、それにしても高いなぁ」


 今度は街道と並走するように続く壁を見上げる。


「ぴぴぴぴぽぽぴぴぽぴぽぽぽぽぽぴぽぽぽぴぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぴぽぴぽぽぽぴぽぽぽぽぴぽぽぴぴぴぽぽぴぽぽぽぴぴぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぴ」


 落ち着きのないゆめをにこにこと見守っていた女性が何か言う。


「ぴぴぴぴぽぽぴぴぴぽぽぴぽぽぴぽぽぽぴぴぴぽぽぽぴぽぴぴぴぽぴぽぽぽぴぴぴぴぽぽぴぽぽぴぽぽぽぴぴぽぴぽぽぽぴぴ」


 女性は高い壁をちらりと見上げると、今度はゆめに向かって、にか、と笑う。


「ぽぽぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴぽぽぽぴぴぽぴぴぴぽぴぽぽぽぽぽぽぽぴぴぴぽぴぴぴぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぽぽぽぴぽぴぽぴぽぴぴぴぴぴぽぽぴぽぴぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽ」

「へー、すごいですね」


 言葉はわからないものの、女性の様子からなんとなく自慢に思っているような気配は感じる。ゆめは適当ながらも言葉を選んであいづちを打つ。


 それから道なりに歩いていくと、スチールグレイの門扉が見えた。開け放たれた門の隙間から小さく街並みがのぞく。その入り口まで、長い列が続いている。


「ぽぴぴぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴぴぽぴぴぴぴぽぽぴぽぴぽぽぽぴぴぴぴぽぴぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽぴぴぽぴぴぽぴ」


 女性はそう言うとため息をつく。列の最後尾につく女性にならって、ゆめも列に並ぶ。


「ぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぴぽぽぽぽぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぴぽぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴ」


 女性はそこまで言うとゆめを見る。


「ぴぽぽぴぴぴぽぴぴ、ぴぽぴぽぽぽぽぴぴぽぽぽぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぽぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴぴぽぽぴぽぽぽぽぽぴぴぽぴ」

「えーと……すみません?」


 ひとまず謝ったゆめに女性は一瞬、きょとんとする。しかしすぐに豪快に笑うとゆめの背中をばんばんと叩く。


「ぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぴぽぽぽぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぴ」

「わわっ」


 思いがけない力強さに、思わずよろけかけたゆめを誰かの手が支えてくれる。


「ぽぴぴぴぴぽぴぴ、@*※∞」


 上から聞こえた若い男性の声に顔をあげる。


「ぽぴぴぴぴぽぴぴ、ぴぴぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぽぴぽぴぽぽぽ」


 思いがけない至近距離に、ハリウッドスターも顔負けの堀の深いイケメンがいた。

 メタルプレートの簡素な鎧をつけている男性はすらりと背が高く、顔が小さい。

 ゆめは反射的にばっと女性の後ろに隠れる。


「ぴぴぽぴぴぴぴぽぴぴ、ぽぽぴぽぽぽぴぽぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽ。ぴぴぽぴぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぽぴぽぽぴぴぽぽぽぴぴぽぴぽぽぽぴ」


 女性は男性を見上げて、そう声をかける。


「ぽぽぴぽぽぽぴぽぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴぽぽぴぽ? ぴぴぴぽぽぽぴぽぴぴぽぴぴぴぴぽぽぽぽぽぴぴぴぽぽぽぴぴぴぴぴぴぴぽぽぽぴぽぽぽぴぴぴぴぽぽぽぽぴ?」


 女性の言葉に男性は首を傾げる。あらためて女性の後ろに隠れるゆめをのぞきこんでくる。

 それまで女性の影からちらちらと男性を見ていたゆめと目が合う。


 シルバーグレイのマッシュウルフの髪をした男性は、アメシストの目を細め、にこやかに笑いかけてくる。赤くなったゆめは、女性の後ろにさらに引っ込んだ。


「ぴぴぽぴぴぴぴぴ?」

「すみません、リアルなイケメンには慣れてなくて……!」


 ゆめの言葉を聞いて何か察したのか、男性は女性を見る。


「ぴぴぽぴぴぴぴぽぴぴ、ぴぴぴぽぽぽぴぽぽぴぽぴぴぽぽぴぴぽぽぽぴぴ」

「ぽぴぽぴぽぴぴぽぴぽぽぽぽぴぽぽぽぽぴぴぽぴ」


 男性はうなずくと、ゆめと視線を合わせて笑顔を見せる。


「ぴぴぽぽぴぴぴぴぴぴぴぴぽ◆∮≡・♭。⇔ぽ、★∮§#★∮≧⁂→ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽ」


 そう言うと、手を差し出した。

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