Epilogue-02
「ふひひ、ボク、でんせちゅ?」
「……ああ、そうだな。グレイプニールも伝説の剣だな」
「ぴゃーっ! よいももぉ~めまおみぃ~、あさみま~ましえぇ~」
「ちょ、歌っ……」
「えしも~にもみみ~おいむが~おえむ~……」
気分が上がったグレイプニールが歌い始める。この単純さ、オレも見習わないとな。
「良い子の~寝顔にぃ~、朝陽が差して~、だろ?」
「ふひひ、ボクよごでぎますよ?」
「よく聞き取れるなあ。俺は何て歌ってんのか分かんなかった。音も外れまくってるし」
「まあ、もう1年以上一緒にいるからね」
オレはずっと英雄の子という身分が嫌いで、何とかしたいと思って生きてきた。
だけど本当は自分の考え方次第で、いつだってどうにでもなったんだ。
そんな自分のプラスの部分の化身がグレイプニールだったんだと思う。
これくらい単純で、喜怒哀楽を表現できるようになれよと。
まだ、親と同列になれたとは思わない。でもそろそろ七光りも照度が落ちた頃だろうか。
「頼りにしてるわ、伝説の事件屋さん」
「……よし! 伝説になれたかどうか、確認に行きましょう!」
「どこに?」
「あー……どこに行ったらいいんですかね」
4人で顔を見合わせ、そして4人で噴き出す。
「そういえばレイラさん。イースをやる気にさせる様子を女調教師って言われてるの知ってます?」
「えっ、何それ!? もう! イースが元気良くないとあたしに変な通り名がつくでしょ!」
「伝説の女調教師……」
「なあに、ジャビくん?」
オレが英雄の子だとか、この3人には関係ないんだよな。
1年ちょっと前は0人だった。とりあえず、今は3人、オレ自身を見てくれる人が出来た。これも進歩だよね。
「さあて、オレ達も宿に……あれ?」
「走って来るの、シャルナクさんじゃない?」
先に行ったはずの母さんが、普段見ないような全力疾走で戻ってきた。
雨の少ないテレストの通りに、土ぼこりが舞い上がる。
「た、大変だ! お、落ち着いて聞いてくれ!」
「母さん、どうしたの」
「管理所から話を聞いたらしくて、て、テレスト国王が、わ、わたし達にテレスト王国騎士の称号を与えるって」
「えっ」
「わ、わたしなんか、何をしたって訳でもないし、現役でもないでし……」
母さんは驚きすぎてオドオドしてる。3つ星バスターのくせに。
「イース、いつものあんたはこういう感じなの。分かる?」
「……よーく分かった。気を付けるよ。それと母さん。オレ達は去年王国騎士の称号を貰ってるよ」
「えっ!? みんな凄いじゃないか!」
父さん達、クレスタさん、ノーマさん、それにジャビとアゼスさんとティートさんも王国騎士として認められる。
オレ達は王国騎士としての功績を認められての出席。結局みんなゆっくりする暇もないらしい。
急いで宿に戻ってシャワーを浴び、ドレスやスーツを選びに行く事となった。
* * * * * * * * *
「ふひひ、ボクでんせちゅ剣」
「ああ、王様がはっきりと言ってたね。そなたも立派な伝説の剣として戦ってくれたって」
アゼスさんとティートさんが国王に報告に向かった際、すぐに一行を呼んで来いと言われたそうだ。
なるほど、国王はよく分かってる。
ゼスタさんやビアンカさんとイヴァンさんはともかく、うちの両親はコソコソと逃げるように立ち回るからね。呼ぼうと思ったらもういない、なんて事もあり得る。
「料理が美味しかった……悪には厳しいけど、それ以外にはとても寛容でいい町だよね」
「ぬし、楽しますか?」
「え? うん、そうだね、今は楽しいというか、ホッとしたって気持ち」
今日、初めて親より先に認められているものを知った。
まさか自分が父さん達より先に王国騎士の称号を貰っていたなんて。
それに、立場のある人から「伝説の英雄だ」と言って貰えたんだ。自分がどう思うかじゃなく、周りの人達はちゃんと認めてくれたんだ。
「ちょっと、自信が付いたかな」
「ぴゅい?」
「これからは伝説の名に恥じないように行動しなくちゃね。肩書を持つって、覚悟が必要なんだと思う。王様だってウジウジしてたらみんなが心配になる」
王宮の会場のテラスで風にあたりながら、憑き物が取れたような気分だ。
認められるって、こんなに大きな事なんだ。
いや、認められている事を、受け入れられるくらいには自分の気持ちが追いついた、って言った方が正しいか。
半人前だ、親の七光りだって思って煮え切らない奴に、王国騎士の称号を授けられないよな。
「グレイプニール、これからどうしようか」
「斬るます! つごいもしゅた、大きいもしゅた」
「んー。大きいって、大木みたいなトレント種とか? それともドラゴン種?」
「どっちもます」
グレイプニールのやりたい事は本当にブレないな。
ドラゴン種の目撃情報は随分と聞かないけど……ドラゴン種を探す旅、それもいいかもしれない。
「じゃあ、ドラゴンがどこにいるのか探さないとね。悪い事をせずおとなしいドラゴンだったら、馬みたいに手懐けてもいいかな」
「おっと、その旅、まさか1人と1本だけで行くわけじゃねえよな?」
「あなたは事件屋よ、そしてあたしがマスター! マスターを置いていくなんて、ねえ?」
「おれも付いてくぜ! ダメなんて言わねえよな?」
良かったな、グレイプニール。お前の夢に付き合ってくれる人がこんなにいるんだぞ。
オレも、この件が終わってはい解散! って言われるのがちょっと怖かったんだよね。
「解雇って言われても辞めませんよ。とりあえず……ギリングに帰ってベネスさんとシュベインに報告しないと」
「そうね。でもお父さん達と一緒なのはちょっと恥ずかしいから……1日ずらして帰りましょ」
「事件屋シンクロニシティ、デカい仕事しちゃったっすね」
「王国騎士の称号を得た! とか伝説の! とか掲げたら仕事増えそうだな」
笑いながら王宮の宴会場に戻ると、伝説の武器達の大合唱が聞こえてきた。
本当なら逃げ出したいんだけど……。
「ボクも歌う良いますか!」
「え、ええ?」
楽しい事をさせると言ったからには仕方がない。
走ってテラスに戻っていく3人に薄情者と言いつつ、オレはグレイプニールを連れて大合唱の中に置いてやった。
これが、オレ達が伝説になった日の事。
英雄の息子ではなく、英雄になれた事件屋のお話。
【Synchronicity】英雄の息子と、喋る剣~挫折から始まる事件屋パーティーの成り上がり冒険譚~
おわり。