Epilogue-01
* * * * * * * * *
「おぉう、ごめまさい、ぬし、ごめまさい……」
「いーや、許さない! 自分を犠牲にしてトドメを刺すだなんて!」
「そーだそーだ。イース、もっと言っておくれ。僕がアークドラゴン戦でシークから投げ捨てられた時の悲しみが分かるだろう? 僕はまだあの時のシークを許していない」
「おいバルドル、あれだけ償いに色々買わせておいて、まだ許していないだって?」
島を出て5日。テレスト港に着いたオレ達は、バスター協会に連絡を入れた。
アゼスとティートは功績を認められ、王様から魔具の装着を免除されることだろう。
島で何が起こっていたのかを知る人は少ない。
大勢が駆け付けるも、珍しい伝説のご一行を一目見ようとしているだけだ。
でも、いいんだ。凄いだろう、オレ達がやったんだと自慢するつもりはない。
褒め称えるしかない、お礼を言うしかない、そんな状況に持ち込みたくはないんだ。恩を売るつもりで戦った訳じゃないからね。
「ぬしぃ……」
グレイプニールの事は、まだ許せていない。だから扱いを変えるなんてつもりはないけどね。救ってくれたのは確かだから。
悔しかったんだ。そんな選択をさせてしまった自分の情けなさに向き合えなかった。
アンデッドドラゴンを突き刺したあの時、グレイプニールはアークドラゴンと共鳴し、消滅する覚悟だったという。
共鳴は一番近くにいる人と一心同体になる術だ。通常はオレ達も周囲の人やモンスターを巻き込まないよう、皆から出来るだけ離れて共鳴を実施する。
グレイプニールはそれを利用した。アークドラゴンの方と共鳴したんだ。
バルドルも、元々は違う人が喋れる術を施している。今は父さんが術を掛け直しているけど、当初は魔法の祖であるアダム・マジックが作ったそのままで共鳴出来ていたんだって。
「武器の鳴き声って、あるんだなー」
「ジャビ、そんな変な関心してないで荷物置きに行くぞ」
「その荷物の中に、僕達が含まれるかをお伺いしても? オルター」
「伝説の武器は含まない。置いていったら戻ってきた時に何を言われるか」
「それを聞いて安心していいのか分からないけれど、どうもね」
共鳴をしてアークドラゴンの体を乗っ取っても、元々の剣にはオレが発動させた術式があり、発動したままだ。
共鳴した相手が死ぬのではなく、あくまでも術式を彫り、血で術を発動させた人が死んだらグレイプニールの自我が消滅する。
と言われても、あの状況下で冷静にそんな事考えられるわけない。
武器達だって、そのあたりの事は言われてそう言えばと気付いたくらいなんだから。
「イース、そろそろ許してやれよ。グレイプニールはイースのために捨て身の作戦に出たんだぜ?」
「ひゅうん……ぬしぃ……」
「あたしはイースの気持ちも分かるけどなあ。やっぱり信頼している相手が捨て身なんて、申し訳ないと思うし自分の無力さを一生責めたくなる」
「ぷ、ぷぇぇ~、ぷぇぇ~……」
「でも……あたし達を助けるためにはそれしかなかったんだよね。そんなあなたの優しい所は好きよ、助けてくれて有難う」
有難う、そう思う気持ちはある。
結果が良ければいい、のかな。
「イース、お前は色々気にしすぎだよ。グレイプニールを手にして、思い切る事を知ったんじゃないのかい」
「持ち物や環境が変わったって、自分に変わる気がないなら意味はないぞ」
「親の育て方のせいだ! って言ってやれ。偉そうに振舞うどころか、注目しないでくれ、恥ずかしい、そっとしておいてって逃げ回ってばかりで」
「あら? じゃああたしの気が強くて、彼氏の1人も出来ないのもお父さんのせいでいいのね?」
「そ、それは……お前の育ち方が悪い」
バスターとして旅に出て、何かを成せば自分は変われる。なんて、自分が変わろうと動かなきゃ確かに意味がなかった。
変なところまで親譲り。自信ならいくらでも付けてきたはずなのに。それを自分のものにしなかったのは、オレなんだよな。
「さーて、年長者は退散しようかな。私達は明日の船でカインズまで行くわ。肝心のうちの子を実家に預けっぱなしだし」
「レイラちゃん、あいつも来年バスターになるから、よろしく頼むね」
「はい。皆さん、有難うございました!」
「私もご一緒させて下さい。あーあ、本部に帰ったら人事を含め色々大変そう
だわ」
伝説組とノーマさんは、明日の船で旅立つという。父さんと母さんはアスタ村に挨拶に行って、それからレンベリンガに戻る。
その背中は何をやったと一切主張していないのに大きくて、頼もしい。
「なあ、イース。強いのは見せつけたと思うけどよ、結局覇気がぜんぜんねえのな」
「えっ、俺は熱血なイースとか今更想像出来ないんだけど……あー待って下さいクレスタさん! こっちの銃にもサインお願いします!」
そうか、クレスタさんもギリングまで一緒に帰っちゃうんだな。
オレ達も一緒に帰ってもいいんだけど、正直、ちょっと気が抜けたというか、2,3日はゆっくりしたいな。
ってか、最初から最後まで保護者と一緒みたいな旅じゃ、駄目だと思って。一応そういう決意はしているつもりだし、そんなにオレって覇気ないかな。
「イースは熱意みたいのないよね。どうせ自分には出来ない! みたいな調子はなくなったけど」
「楽しい事をすりゃあいいんだよ。オルターを見てみろよ、銃術士は弱いとか言われても好きな事を貫いて、結果こんな所まで来たんだぜ」
「イース、実力は十分ついたでしょ。バスターは楽しくない?」
楽しいか楽しくないか、なんて考えて来なかった。
なんていうか、この歳になってもまだ、自分が何をしたいのか……分からないんだよね。
「じゃあ、質問の仕方を変えるね。楽しい事をする時、1人でするの? 一緒に楽しんで欲しい相手は?」
「それは、グレイプニール……」
「ほーら。答えは最初からあるじゃない」
「んで? グレイプニールはこんなに泣いてるんだけど」
「イースさあ、変な所で意地になるよなあ。落ち込まねえと死ぬのかお前」
……それがオレの性格だって、自分でも分かってる。
でも、そのせいで他人と他剣に迷惑が掛かったら最悪だよな。
「ごめん、グレイプニール。オレが頼りないせいで……オレが許すなんて資格ない。こんなオレを許してくれるかい」
「ぷえぇ~……ぬしぃ、許してくまさい……」
「ほらイース。グレイプニールは許して欲しいの!」
「ご、ごめん、許す、勿論許すよ!」
あー、もう。オレってなんでこうなんだ? 勝手に落ち込んで、勝手に卑下して。
「おいグレ坊。お前がちゃんとイースの面倒を見てやれよ。コイツ、落ち込む事だけは誰より得意だからな」
「ぴゅい」
「オレって、そんなに酷い?」
「酷い」
「酷いわね」
「えっと酷い自覚、なかったのか?」
ここまで言われたらいっそ清々しい。
アンデッドドラゴンを倒し終わった時より清々しいよ。
「……アンデッドドラゴンに致命傷を与えたの、オレなのに」
「そう思うなら胸張って堂々と歩け! 新しい英雄さんよ」
「痛った!」
「イースらしい。っていうか、あたし達も……英雄って言われちゃう!?」
「レイラさんもっすか。ほんとしっかりして下さいよ英雄の子達」
凄い人達を見て過ごしていたせいで、感覚がマヒしていたんだな。
そっか、オレ凄いのか?