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LEGEND OF SWORD‐10



 影移動の間、次に現れるまではおおよそ時間がある。アゼスとティートが教えてくれた話通りなら、地上で全速力で走られたら到底間に合わないくらいの速度。


 だから、レイラさんとノーマさんを助けるにはまだ間に合う。


「イース!」

「ヒールを撃つ準備して下さい! 再度出現した時、地面から体が完全に出るまではその場を動けません!」

「全力で叩くばい! 一斉攻撃、ええね!」


 レイラさんとノーマさんを両腕に抱えて退避した直後、地面が波打ってアンデッドドラゴンの角が現れた。やっぱり進行方向を見切っていると、影移動はそこまで脅威にはならないんだ。


「ひーむそーど……おぉう、ぼく、早すぎるしまた」

「大丈夫、まだ溜めていてくれ」


 アンデッドドラゴンの視界には誰もいない。全員がアンデッドドラゴンの背後に回ったから。


「今だ!」

「ブルクラッシュ!」

「双竜斬!」

「流星槍!」

「大木……断!」

「ヒールソード!」

「あっ、ひーむそど!」


 全員が周囲を巻き込まない局部破壊攻撃を仕掛ける。父さんとバルドルは得意のブルクラッシュだと、なんとなくみんな察していた。


「ヒール・オール!」

「アローレイン!」

「弾道砲でとどめだ!」


 アンデッドドラゴンが振り向くのと同時に、母さんとアルジュナが放った光の矢の雨が降り注いだ。

 レイラさんとノーマさんの治癒術で肉が腐って溶けていく中、2発の爆撃が翼と首の付け根を吹き飛ばす。


 命中率の悪い砲撃は、近くに寄らなければ当てる事が難しい。今この状況は確実に近づいて狙いを定めて撃てる絶好の機会だったわけだ。


「止まんなよ! うおらぁっ!」


 ジャビがアンデッドドラゴンの眼球を狙って殴打を繰り出す。噛みつきや引っ搔きを阻止するため、オレは反対側に回り込んで攻撃対象を迷わせる。


「燕返し!」

「ぬし! 気力もと溜めまさい!」

「おう!」


 ヒールを連打され、皆が攻撃の手を止めることなく切り刻んでいく。体が全て地面から出た時、アンデッドドラゴンはもう首をもたげる事も叶わない程の傷を負っていた。


『クッ……影移動ヲ見切ッテイタカ』

「もう1回やってくれてもいいんだけどな。これでトドメだ!」


 全員が武器に全力を込め、技も術も一斉に畳みかけていく。アンデッドドラゴンの血肉が吹き飛び、翼はもう2つともなくなった。

 脅威となっていた尻尾も根元からぶつ切りされ、角はとっくに見当たらなくなっていた。


 アンデッドドラゴンは、噛みつきと毒沼を生み出す以外の攻撃手段を失っている。


 どれだけアンデッドの扱いに長けていても、共鳴しアンデッドドラゴンそのものになっても、やっぱり魔王教徒は戦いに慣れていない。

 今までの脅威は、結局不意打ちと操るモンスターの強さに依存していただけ。


 オレ達には効かない。


「剣……閃! もういっちょ! オルター、狙えるか!」

「何度でも!」

「お前の頭ごと……刎ね飛ばしてやる!」

『ククク……』


 唸ったのか笑ったのかは分からない。そんな事を気にしている暇があるなら斬る、倒す。


「父さん達が相手したアークドラゴンは……空だって飛んだ! こんな地面を這うだけのデカいトカゲモドキなんか怖くない!」


 大きく振りかぶり、全力のブルクラッシュでアンデッドドラゴンの首を狙うと、その頭部はあっけない程すんなりと地面へと転がり落ちた。


「や、やった?」

「いくらアンデッドと言っても、頭部を刎ねたなら体だけで動く事はありません」

「この巨体を、教祖が上手く操れていなかったのが幸いでしたね」


 アゼスとティートがそう言うのなら間違いない。アンデッドドラゴンを倒せたという事だ。


 オレの体とおなじくらい大きい頭部は、数メルテ先に転がっている。ジャビが殴りつけたから、濁った眼はもう機能していないだろう。


「お前の負けだ」


 首だけでも動く、それがアンデッドだ。脳を構成するものが破壊されなければ、動けずとも一生そこであり続ける。

 噛みついたり眼球を動かしたり、だからこそアンデッドは厄介なんだ。


「イース、トドメはあなたが刺して」

「分かった」

『フフフ……セイゼイ勝ッタト自惚レテイレバイイ』

「負け惜しみを」


 グレイプニールとの共鳴を解き、全気力を剣先に集めていく。


『貫ケルトオモウカ』

「いけるさ!」


 全力を込めた突きをこめかみへと喰らわせる。だが、想定外な事に他のどの部位よりも硬い。オレの全力とグレイプニールの性能で貫けないなんて。


「表面が駄目なら、肉を突けばいい。内臓までは鍛えられないものだからね」


 バルドルの言う通り、今度は首を失い黒く腐りきった頭の付け根を狙い、肉の中から脳を狙う。


「これで魔王教は……終わり」

「みんな、その場を離れろ!」


 トドメを刺そうとしたその瞬間、オルターの叫びが轟いた。何事かと顔を上げると、オルターが続けて海の方を指さす。


「な、なんだ」

「波が、うねうねと……違う、波じゃない!」


 海の様子がおかしい。明らかに波が上がって来ない場所まで到達し、なおも内陸へと進んできている。

 海鳥が一斉に飛び立ち、ギャーギャーと騒ぎながらエインダー島の方へと飛んでいく。


「つ、津波か!?」

「違う!」

「これ……まさか!」


 その動きには見覚えがあった。


 エインダー島で見た、あの蟲毒が生んだモンスターだ。

 まさか、あいつがこの島まで……海を渡ってきたっていうのか!?


「まずい! 早く船に戻らないと!」

「間に合わない!」

「まさか、こいつが操って……」

「イース! トドメを刺せ!」

「早く逃げないと!」


 この頭を引きずってでも退避して、船の上で仕留めてもいいんだ。迷っていれば逃げる機会を失ってしまう。


『フフフ……ハハハッ!』

「もう逃げられない!」

「島全体を囲まれている! 四方から襲ってきているぞ!」


 ドロドロした蟲毒モンスターが島全体を飲み込むように覆っていく。俺達を囲むようにして這いよるそれをすり抜けて逃げるのは無理だ。


「まずい、みんなやられてしまう」

『フフフ……ドウシタ、勝ッタノダロウ? 勘違イダッタカ?』


 なんで頭だけになってんのにそんな余裕なんだ!


「早くそいつにトドメを! 操っているならそいつを殺せば止まる!」

「クッソ! こいつ、硬すぎる!」

「死霊術を使っているんだ! ドラゴンとの共鳴で、再生能力まで……」

「まずい! 見て、首が生えて来てる!」


 うそだろ、アンデッドは再生なんかしないんじゃないのか!?


「イース! アークドラゴンの時もそうだった、ドラゴンは再生する!」

「わたしの予想だが、ドラゴンは死んでいるが、共鳴した教祖は生きているという扱いなのではないか」

「さっきまで切り刻めたじゃねえか! どうなってやがんだコイツ……!」


 ジャビが殴り、オレもグレイプニールで肉を抉るように刺している。だけど肉片の1gだって削り取れないんだ。


『ドウシタ、ナニモデキナイ頭部ダケノドラゴンヲ、始末デキナイホドノ無能ナノカ』

「うるっさい!」


「そうじゃなくてもどのみち今の状況から抜け出す手段はねえんだ、出来る事からやれ!」

「行くよ、バルドル」

「行ってらっしゃいと言う権利があるのか、伺っても?」

「ないよ」


 父さんがバルドルと共鳴し、向かってくる蟲毒モンスターを斬り刻んで食い止め始める。それに続き、ノーマさんとレイラさんも治癒術を掛け始めた。


「回復薬、3本目! あと30本あるから、吐いてでも掛け続けるわ!」

「大丈夫、私があと40本持ってるから。治癒術士は、仲間を守るために存在しているの。私達が……守る!」

「わたしも加勢する! アルジュナにヒールとケアを込めて!」


 皆が傍まで近寄ってきたモンスターを斬り、癒して腐らせ、オレ達が飲み込まれるのを防ごうとしてくれている。

 とびかかってきたものをオルターとクレスタさんが撃ち、イヴァンさんがアレスで壁を作ってレイラさんを守ってくれている。


「イース! もう一度共鳴して、全力でやってくれ! みんなイースが共鳴するために空間の確保を!」

「ジャビ! そいつの頭、押さえつけといてくれ! このドロドロに持っていかれたら終わりだ!」

「まかせとけ! もう影移動できる広さもねえ、大丈夫だ!」


 皆と数メルテ離れ、円状に残された僅かな戦場の真ん中でグレイプニールと気力、鼓動を全て統一させる。


「……グレイプニール、オレの気力と魔力、全て引き出して使ってくれ」

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