LEGEND OF SWORD‐09
喋るという事は、こちらの考えも分かるという事。
剣を振り上げたら斬撃がくる、詠唱が始まれば術が飛ぶ。それらを把握しているという事。
オレ達バスターは、モンスター相手の戦闘しかした事がない。早い話、こちらの事は何も分からないし言葉も通じない、本能で動くだけの強い奴がいつもの相手なんだ。
「技名を叫ぶな、だが無言では戦うなよ! 自分の攻撃が誰かを巻き込んでしまうからね!」
「染みついた癖って、なかなか取れないんだよ……な!」
「右腕は貰ったああ! 大丈夫だ! おれ技の名前とか知らねえもん!」
「えーっとジャビさん、どこを狙うって宣言してますよさっきから」
「えっ!?」
イヴァンさんの言う通り、何か声を発しないと誰がどんな攻撃を仕掛けているか、連携取りづらくなるんだよな。
何より癖になってるんだ、ジャビもアレスに言われるまで自覚なかったみたいだし。
グレイプニールに魔力を込め、炎を纏った刃で振り切る。その直後、レイラさんがジャビにヒールを掛けながら、その効果を纏ったジャビが殴打を繰り出す。
「頭下げろー!」
背後からの声で全員反射的に頭を下げたら、破裂音と共にアンデッドドラゴンの肩付近の肉が飛び散った。
それはジャビが殴った場所に追い打ちをかけたのは、オルターとクレスタさんが放った銃弾だ。
『フハハ、オレニ、カナウト思ッテイルノカ』
アンデッドドラゴンの爪が襲い掛かり、その爪が触れた部分が黒く変色した。腐った肉や体液が飛び散ると、その部分が異臭を放ちながら蒸気を立ち上らせる。
「ジャビ、オレ達物理攻撃組は攻撃を避けるだけじゃなくて、奴の体に触れるのもまずい!」
「じゃあ殴れねえじゃねえか……おっと!」
「私が障壁を掛け続ける! みんな気にしないで攻撃して! 伝説のバスターには及ばずとも、私だって協会本部まで登り詰めたんだから意地くらいある!」
ノーマさんの援護を受け、オレ達は攻撃を再開した。アンデッドの巨体から繰り出されたとは思えない速さ、元々崩れているせいか、地面を擦ろうが障害物があろうが加減なしで襲い掛かる爪や尻尾。
「怪我しても疲れてもあたしが回復掛けるからね! 行けそうだったらヤツの傷口にヒールも飛ばす! 手の内がバレても、相手が対応出来なきゃいいのよ、全力でやって! オルター!」
「おう! 特製の弾丸を撃ち込ませてもらう! 銃術士が性能頼りと言われる時代は終わった!」
恐らく、煽りのつもりなんだろう。怒りを引き出せば攻撃は粗くなるけど、その分単調になったりする。言葉が通じるって事は、嘘や煽りで翻弄する事もできるって事か!
オルターがわざわざ叫んだ意図は、ちゃんとみんなも汲んでいたらしい。
「あーあ、ほんとうつきの正直剣の僕に、こんな汚れ仕事をさせるとはね」
「え? まさか君は綺麗なつもりでいたのかい、バルドル」
「愛剣の手入れが雑な持ち主のせいでどうもね、シーク」
「教祖サマがアンデッドに成り下がるとはな! 心が腐ってると、体まで腐っちまうってか!」
「冥剣に言われるってよっぽどだぜ、全く。レイラ! 俺達の面倒も宜しくな―」
「ちょ、おとうさ……あーん、もう!」
全員で一斉攻撃。少しずつ様子を見るなんて気はない。
ビアンカさんはもうグングニルと共鳴してるし、バルドルの斬撃はアンデッドドラゴンの肉をバッサリと切り取っていく。
「ぬし、ひーむ、もらいまさい!」
「えっ? ヒール?」
治癒術を貰えったって、まだそれらしい攻撃は受けていないんだけどな。
「ボク、まるどむ負けるしまい! まるどむ、ひーむ嫌ます。ボク、ひーむ我慢よごでぎます」
「ヒールソードで……斬るって事か」
「ぴゅい! ボク、でせちゅなりますか?」
「もしなれなかったとしても、一番頑張ったのはオレ達って自慢しよう」
「ふひひ! おち、ぬし気力、いぱい溜めまさい」
レイラさんは、ヒールくらい何度でも掛けてくれると言った。オレが倒れそうなら無理矢理でも回復させて、アンデッドのように起き上がらせるとまで言った。
だからオレ達は信じて戦う。
あの伝説の5人と、オレ達4人、それにクレスタさんとノーマさんもいる状況。アークドラゴンと戦った父さん達より、はるかに状況は良いんだ。
「レイラさん! ヒールを!」
「うん!」
回復を受けるつもりで、全てをグレイプニールに吸わせる。癒しの力はアンデッドが最も嫌うもの。アンデッドを消滅させるのに一番適したもの。
「行くぞグレイプニール!」
「ぶえぇぇ~、ひーむごめまさい、ボク嫌います……」
「我慢出来るって言ったよな! 全部アイツにぶっ放せ!」
オレ達が何をしようとしているか、アンデッドドラゴンも分かっただろう。まばゆく青白い光を放つグレイプニールを視界に入れたアンデッドドラゴンが、他の攻撃の回避を諦めて対峙する。
「ヒールソードォォ!」
「ぶぇぇそーどぉ」
ありったけの力を込め、アンデッドドラゴンの左翼の付け根へと振りかざす。翼で叩かれるのは覚悟の上。ノーマさんが障壁を掛けてくれるなら耐えられる!
『馬鹿ナ若造ダ……』
「危ない!」
「覚悟の上!」
足元に毒沼が出現した。残念だったな、毒に犯されるくらいでこの機を逃したりはしない!
強烈な臭いなど、戦い始めた頃にはもう慣れていた。こいつの肉がこびりついて体に黒い染みが出来ようと関係ない。
「斬る!」
腐肉にまみれた翼が目の前まで襲い掛かる。一瞬見えた視界には、グングニルの魔槍、アルジュナの矢が放った光の矢が映っていた。
「ぬし!」
「ふんっ……ぬ!」
アンデッドドラゴンがオレを翼で叩く力を、グレイプニールで切り裂く力で押さえつける。グレイプニールに触れた部分の腐肉が焦げるように収縮した後、溶けて消えていく。
「うおぉぉっ!」
ほんの一瞬、だけどこの一瞬に耐えないと有利に戦えない。もし飛ばれたなら、オレ達はもうどうしようもなくなる。
「イース!」
「ぬし!」
呼ばれたけれど、何がどうなっているのか分からない。オレの視界にあるのは赤黒い腐った翼だけ。振り返る余裕はない。
「ジャビ!」
「ぐっ……」
「もう一度来るぞ!」
何が起きているのか分からないけど、ジャビが何かをしてくれたんだと思う。クッソ、あと少し、あと少し力があれば翼の根元を斬り落とせそうなのに!
「イース! そのまま……やっちまえ!」
「右側がお留守だよ! 死体のぼくちゃん! ……魔槍!」
「じゃあ僕は首を……あーあ、君がヒールソードなんかやるから、僕まで癒し斬りなんてさせられるんだよ、イース」
何がどうなってるのは分からない。だけど、オレが翼での押さえつけに耐えている間、全員で総攻撃を仕掛けているのは分かる。
『隙ダラケナノハオマエダ!』
「バーカ! 俺様がそっくりそのまま返してやるってんだ!」
アルジュナの声が響いた後、ふと翼の力が弱まった。グレイプニールが湛える光の刃は、スッと根元を斬り落とした。
「わっ!?」
「おう……よごでぎしまた」
すぐに距離を取り、気力を溜め直す。ふと背後に気配を感じた時、そこにいたのは太く長い尻尾での攻撃に耐え、オレを守ってくれていたジャビとゼスタさんだった。
「い……イース、よくやった」
「さっさと斬ってくれねえから、キツかったぞ」
何度尻尾での足払いを防いでくれたんだろうか、2人の装備はボコボコだ。
「片翼じゃ飛べない! 次は邪魔な尻尾を斬り落と……」
そう鼓舞しようと声を続けた時、アンデッドドラゴンが急に地中へと消えていった。一瞬何が起こったのか分からなかったが、皆がハッと息をのむ。
「そうだった、ヤツは死霊術士なんだ! 毒沼を出せるのなら、影移動が出来ても不思議ではない」
「どこへ、どこへ行った! どっちを見ていた!」
至近距離にいたオレ達は、ヤツの顔まで見ていない。
「こっちを見ていた! 俺達との直線上からすぐに退避!」
クレスタさんの声が響く。慌てて場所を移動しようとするレイラさんとノーマさん。
……まずい、間に合わない!
「グレイプニール! 共鳴! 2人を抱えて……走る!」