LEGEND OF SWORD‐08
「人族の体じゃなく、モンスターの体で共鳴した状態……」
「自発的に動くアンデッドに死霊術を掛けて、ドラゴンの力を取り込ませた?」
「それだと、武器とバスターの関係の逆も可能って事か」
「持ち主のおかげで僕達が意識を保っていられるように、モンスターのおかげで、命なき術者が意識を保っていられる……」
相手は人なのか、それともモンスターなのか。
ふとそんな考えが浮かんでしまう。
「おぁ? ぬし、ボクおじゃべります。いちきあります。でもひとちまう、剣ますよ?」
「人とは何かなんて大げさな話をする気はねえけど、肉体と意識、どっちも本人の物であってこその人じゃないか? じゃなきゃ理屈ではグレイプニール達も人だぜ?」
「おっと、伝説の武器と呼ばれる僕達をヒトデアリ呼ばわりとは、失礼な話だね」
「あたしらは武器ばい。そしてあの穴の中におるのはモンスター。術が掛かっとるかどうかなんか関係なか。あれは人を食ったモンスターなんよ」
かつてギリングの管理所の所長がアンデッドにされた時、深く考えないようにしていた問題だ。
考え方次第で人の定義が変わるなんて、考えたくなかった。だけど、目を背けた結果が今の状況。
アンデッドドラゴンとなって、これから世界を滅茶苦茶にしようとしている。人の姿を捨てた奴が、やめろと言われて止めるだろうか。
止められなかったら、オレ達は誰に何て言って詫びたらいい。
「オレは、倒す」
「ぴゅい」
「あいつを止めなきゃ、罪なき人が悲しむ事になる」
「んじゃあ、やろうか、そのつもりで来たんだ」
「倒すのはおれだ! 足手まといになんなよ」
「その最後の一撃に合わせて、あたしがヒール撃って倒してあげる」
覚悟は出来ている。自分の立場を悪くしたくないからって、捕えるだけで済ませようなんて思える段階じゃない。
「よし!」
グレイプニールを構え、父さん達と言葉を交わさず頷き合う。
「俺とアゼスで、使えるモンスターの死骸をアンデッド化させる。俺達魔王教徒がいる事は、向こうも知らないはずだ」
「こんな時のために魔具を外して貰ったんだ。役に立てなかったら意味がない」
「俺達が操っているアンデッドかどうかにかかわらず、何でも倒して下さい」
全員一丸。ここに集めた魔王教徒達は、手足を拘束され動けない。口には縄を噛ませ、詠唱も封じた。アゼスとティートを信じて任せ、俺達は全員で向かう事になった。
「イース! 殴り込むぞ!」
「おう!」
「レイラさん、背中に!」
「オルター、てめーついてこれるか!」
「なめんな、足腰の強さじゃ負けない!」
オレはレイラさんを背負い、足場の悪いゴツゴツした地面を掛けていく。先陣を切っているのはジャビ。こればかりは仕方がない。
「フェザー! 少しは動きやすく……なった!?」
「うん! グレイプニール、暴れるぞ!」
援護は父さん達に任せる。伝説の5人と言われた父さん達は未だに強いとはいえ、第一線のバスターじゃない。後の世代に安心して任せられないなんて言わせない!
「ファイアーソード!」
「まいやそーど!」
「ちょ、あたしを背負ったま……きゃあっ!」
レイラさんを背負い片腕で抑えたまま、目の前で立ち上がるアンデッド達を焼き切っていく。レイラさんのヒールが後方へと流れていく中、前方のジャビはもう小屋に向かって気力を放つところだった。
「うおらぁー!」
ジャビの加減知らずな気力が殴打と共に放たれた。木造の小屋の壁と屋根が吹き飛び、中にいたであろう魔王教徒達が溶岩質のざらざらな地面に打ち付けられる。
「ジャビ! 死霊術に気を付けろ!」
「おう!」
返事はいいが、気を付ける前に全員を殴って黙らせるみたいだ。
魔王教徒を戦闘不能にするのはジャビに任せ、俺達は目障りなアンデッドの始末に取り掛かる。
「イース! あたしもう大丈夫、下ろして」
「分かりました! オルターが追いついたら、2人で援護お願いします!」
「ご心配なく、うしろにピッタリついて走ってるよ」
数メルテ離れた所からオルターの声がする。毎日50キロの荷物を背負って訓練していた足腰は流石だな。
「レイラさん! 治癒術でひきつけない程度に2人を見て下さい! 俺は回復薬もあるし、放っておいていいです!」
「ヒール! ええ、あたしもアンデッド相手なら攻撃術士のつもりでヒール撃っていくから!」
「ぬし! 小屋焼きまさい!」
「ファイアーソード! ああ、視界を遮るものは無い方がいいからな!」
ジャビが壊した小屋に重要そうなものがないと判断し、グレイプニールを振りかざした。小屋は勢いよく燃え始め、一時的に煙が視界を遮る。だけど邪魔にならない程焼け落ちたなら、水魔法で火と煙を消せばいい。
「魔王教徒の経典や拠点情報、他にヤバそうなもんがありゃ、俺達が回収しておく!
イースはアンデッドドラゴンへ!」
「俺っちが行きたいところだが、一番『刃』は譲ってやらあ、グレイプニール!」
「ジャビ! 君も行ってくれ! 僕達が付いている、跳びたかったら僕がアレスで打ち上げるから!」
ゼスタさんとイヴァンさんも追いついた。よし、時間を掛ける必要はない、アンデッドドラゴン戦の幕開け……
「前衛! 全員で掛かってくれ! 皆の相手はモンスターだが、人の会話を理解していると思って慎重に!」
「俺様の矢で、まずは穴から引きずり出してやる! むやみに穴の中に入んなよ、シャルナク達の視界から消えるな!」
「アルジュナの言う通りだね。魔王教徒は僕達伝説の武器やシーク達と戦う事を想定しているはずだ。いいかい、最初から全力で」
「全員で力を溜めて、一斉攻撃。ただ、共鳴はまだ取っておくように」
「むう、僕の言葉を先に言わないでおくれよ、シーク」
アルジュナの矢がアンデッドドラゴンの潜む穴へと消えていく。地鳴りがするような叫び声が聞こえ、何かが穴の中の壁にぶつかった。
オルターとクレスタさんがアンデッドに警戒しつつ、小屋の中や付近に潜んでいた死霊術士に魔具を装着していく。
2人取り逃がしてしまい、足を撃たれても止まらない。
ジャビがその後を追ったんだけど……。
「くっそ! あいつら身投げしやがった!」
「……2人分、強くなる可能性がある、か」
「どうってことない、元々戦力になるような相手じゃない」
「イヴァン! 私を打ち上げて! アルジュナの矢だけじゃ陽動として不十分だわ!」
「分かった!」
背後でイヴァンさんがアレスを構え、ビアンカさんを天高くうち飛ばす。
「魔槍!」
「見えたばい! 壁をよじ登ろうとしとる!」
「みんな、構えて!」
レイラさんと母さんの障壁魔法が発動し、ノーマさんがダメ押しでヒールを撃つ。ヒールが余程嫌なのだろう、アンデッドドラゴンは耳をつんざく悲鳴を上げる。
「……来るぞ」
「もう死霊術士は残っていないはず」
「って事は、あいつ自身の意思で動いているってことだよな」
穴の淵に、人の体程もありそうな太い指がかけられた。
黒い爪に、肉が剝がれかけた前足、這い出るようによじ登って来たのは……
「口を開けたら警戒しろ! 何を吐くか分からな……」
「って、もう開いてる! 障壁!」
体全部は見えていない。しかし、アンデッドドラゴンは頭を穴から出した瞬間に俺達を狙ってきた。
「くっ……!」
耳鳴りで耳がキーンとなる。その瞬間、目の前が白く光った。
「ぬし!」
「伏せろ!」
誰の声か判断する前、全員が地面へと伏せた。オレの頭の僅か数十セルテ上を、何かが通り過ぎて行ったのが分かった。
「な、なんだ」
「……あたしの魔槍と一緒ばい、光と熱の波動を撃ってきた」
「次が来る前に体勢を!」
「互いを巻き込まないよう、全力で叩き込め!」
鱗が溶けた黒くドロドロの頭、骨だけの翼、内臓がむき出しの動体。
口の中だけが赤く、目は濁りきっている。
「で……かい」
サンドウォームの何倍あるだろうか。こんな奴を、斬れるだろうか。
『ククッ……ミナ殺ス』
「あ、あいつ……喋ったぞ」
「やっぱり、共鳴か」
アンデッドドラゴンが、喋った。やっぱり、中に死霊術士が取り込まれているんだ。
「……関係ねえ、行くぞ!」
ジャビが蹴りの動作で気力の球を生み出した。オレも光の刃を生み出す剣閃を、地面に水平ではなく垂直に繰り出す。
「いいね! 俺達も!」
「お嬢! 撃ち込むばい!」
「全員、かかれ!」